ベリーグッドマン 笑って泣いて繋が
って、ツアー『すごいかもしれん』を
完走

ベリーグッドマン“すごいかもしれん“TOUR 2022-2023

2023.1.21 TOKYO DOME CITY HALL
「『すごいかもしれん』というタイトルは面白いかもしれん」という発想から、アルバムも制作するという、コロナ禍の中でも走ることをやめず、コンスタントにリリースを重ねてきたベリーグッドマンが、同タイトルのアルバムを携えたツアー全13公演のファイナルをTOKYO DOME CITY HALLで完走した。
オペラハウスのように天井近くまで客席が囲むこの会場。ベリグとともに大人になってきた若い家族や20代、親子連れなど幅広い世代がツアーTシャツに身を包み、ペンライトを掲げる熱気が自然と伝播する。MOCAによるアナウンスでこの日は声出しOKになったことが告げられると、歓声が上がる。因みに背景にはバンド名と“凄偉化最的試練”という中国語風の当て字のネオン管。スカジャンに刺繍したくなる感じだ。場所が後楽園だからか、「INOKI BOM-BA-YE」をSEに流し、場内が暗転するとDJ MANA-Bがトラックをスタート。3人はDJブース上のエリアから登場した。のっけからアガるダンスチューン「Together」を投下し、ペンライトが揺れる。背景は3✕7のLEDパネルで構成され、自在に映像が組み合わされるのもテンションをあげていく。立て続けに「チョベリグ」「Future」「まずはそこから-Berry Mix-」と、ハンズクラップ、タオル回し、ジャンプと、参加せずにはいられない流れを作り出した。
MOCAがオフマイクで「元気ですかー? 楽しんでますかー? 平日に勉強、仕事を頑張って今日来た人たちに贈ります、『雑草』」とタイトルコールした後は怒涛のアルバム『すごいかもしれん』収録曲の流れの良さを体感させていくことになる。いくつもの応援歌を作り出してきた彼らだが、グループとしても人としても歳月を重ねてきたからこそ、あるがままを指す“雑草”という、比較的用いられやすいモチーフを自分たちのものにできたのだろう。《奇跡じゃなくて偶然でもない/置かれたこの場所で強くなれたんだから》という、天才や秀才とは違う自信が心を打つ。
一転、MCではRoverのMOCAいじりがシュールで可笑しい。開演前、物販に立っていたMANA-Bによると、どうやら初めて来たオーディエンスが多そうに見えたといい、初めて来た人に挙手を促すと、そこそこ多い。「今日来て、次はどうしようかなって人」というRoverの問いかけに正直なのか面白がっているのか挙手する人もいて、MOCAが「どうせVaundyくんとかヒゲダンとか行くんでしょ」と拗ねたかと思うと、唐突に「とどけー!」(Official髭男dismの「宿命」)を叫んだりして、下手なお笑いのコントより笑ってしまう。
ここからがさらにアルバム収録曲の中でも聴かせる楽曲を連投。HiDEXのイケメンボイス、Roverの誠実な印象の味わいのある声、MOCAのラガ寄りの強い声の個性もハーモニーも楽しめる「いい気分」、スローなピアノリフが心地よい「トリトマ」、HiDEXのせつな苦しいボーカルが堪能できる「君がいない帰り道は」と、ラブソングにも人生をともにしてきた人との心地よい距離や、存在のかけがえのなさがにじむ曲が増え、ツアーを行うことを念頭につけた『すごいかもしれん』の本質はハイテンションで盛り上がる曲を増やすというより、生活の様々な場面にフィットする曲の完成度だと思った。そこで最新のR&Bだったり、抜けのいいオーガニックな音像だったりをさりげなく研ぎ澄ませていくこと。ベリグのオケのセンスはこうしたミディアム~スローでより映えると認識したのだ。
再びMCではクールに見えるHiDEXのおっちょこちょいエピソードをいじったりしながら、改めて去年から続くツアーで各地に足を運んでくれたファンに対して謝辞を述べるRover。パートナーに向けた曲だが、この日はファンに向けて「花束」を歌う。背景に映し出される素の表情で花束を持ち、カメラに向かう3人がフォーカスされた演出もいい。さらにアルバムの中でも彼らの出発点や平坦ではなかった軌跡を歌うこと、ラップすることの象徴であるマイクをテーマにした「Mic」が披露される。淡々としたトラック、広いステージの中央にサイファーをするように集まってきた3人。前方の照明は落として、暗闇やアスファルトが投影される映像をメインにした演出など、全てが噛み合って、自分に向き合うリリックが自然と入ってくる。オケもシンプルながら静かにこれまでを肯定するような美しさがあり、中盤の白眉だったんじゃないだろうか。
そのままMOCAの「トーキョー、後半、盛り上がっていくぞー!」の一声から、EDMのビルドとラガマフィンが交互に登場するアゲアゲな「Amazing」に突入。スタイリッシュな曲でもあるのだが、MOCAの掛け声は“わっしょい! ソーラン!”で、曲が終わっても自分の前エリアのオーディエンスを盛り上げている。「あれ? 俺だけどっかにトリップしてたんじゃない?」という振りから「Trip」へ。ユーロビートを思わせるシンセサウンドと疾走するビートの上をラガマフィン調のフロウでラップを乗せていくMOCAの力技から、サビメロに突き抜けていく、まさに滑空するような痛快さ。ステージ上の3人以上に疲れ知らずのフロアの盛り上がりがステージにエネルギーを送る。「もう一段ぶち上がってくれますか? トーキョー!」とアジテートするMOCAの呼びかけからトロピカルハウス調の「GroovyでDancingなParty」で、歌メロに合わせてペンライトが揺れる。踊れる曲が連投されるだけじゃなく、とにかくライブの運びがスピーディーで飽きさせない。1曲1曲に旨味を凝縮して、サクサク進めていくのが小気味いい。
曲終わりにスポットライトの中に立つMOCA。「スポットライトを私物化するの、やめてもらえますか?」とRoverに突っ込まれて、「ちょっと焼酎のませてもらっていいかな」と、ペットボトルからステージドリンクを摂取。おそらく水なのだが、「ペットボトルに焼酎入れるようになったら終わりやで」というRoverの一言が少し素っぽかったのがツボに入ってしまった。
そして話はすでに発表されているが、改めて念願だった阪神甲子園球場でのライブ実現のくだりへ。高校球児だったMOCAはもちろん、全員が思い入れのあるライブなのだが、Roverがいきなりタイムスリップしたかのように「HiDEX、まさかピンクの衣装でくるとは」などなど、未来の話を始めてしまうのがシュールで可笑しい。ファンにはおなじみだが、MOCAが煽り、笑わせ、身体を張り、Roverがそれをいじり、シュールな笑いに転化し、HiDEXは眺めているうちに巻き込まれているという塩梅が、ベリグのライブを独自のエンタテイメントに格上げしている。と思う。と、当然、甲子園球場でのライブに向けた新曲「夢物語」を披露してくれたのだが、MOCAの球児ではグラウンドに立てなかったが、ミュージシャンとして立つという夢の実現であるとともに、曲の細部も気が利いている。感動的であると同時になかなかスタイリッシュなアレンジなのだ。
本編ラストは晴れてシンガロングできる日を切望したくなる「流レ星」。3人それぞれのボーカルも聴かせどころ満載で、進化するベリグのオーガニックでスケールの大きなナンバーが笑いも涙も包み込んで、明日に繋いでいくようなエンディングとなった。
本編中にアンコールがあることをMOCAが口走ってしまったので、どこか余裕?を感じさせる会場を一気に沸かせたのが、ニューアルバム『ピース』の発売とそれに伴う47都道府県ツアーの詳細発表。コロナ禍でも年1枚ペースでアルバムリリースを重ねる彼らの心情は常に新しいネタを持って、お客さんを沸かせたいという思いに尽きるだろう。Roverは自分たちの曲を狙いすましてヒットさせることなどできないと、以前話していた。逆に世に出てから時間が経過したとき、思わぬ評価を得たりもするのだと。この日のアンコールでもそんな証左である「ライオン」を歌っていた。さあ今年はベリグ結成10周年。何が飛び出すか、見守っていこうじゃないか。

取材・文=石角友香 撮影=Keiko Tanabe
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