SUIREN『Sui彩の景色』

SUIREN『Sui彩の景色』

2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い音を描くユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描くコラム連載。Suiを彩るエピソード、モノ、景色をフィルムカメラで切り取った写真に乗せてお届けします。

文・撮影:Sui

人物紹介

小堀…高校入学後に結成したバンドのベーシスト。かなりベースが巧い。

土田…同じ高校のドラマー。同じ中学出身だがドラムが叩ける事は当時知らなかった。
高校内でメンバーが見つからなかった為他校のバンドに加入し活動していたが江崎の構想する新バンド結成の為にSuiと江崎を引き合わせる。

江崎…他校のバンドマン。他校のバンドでメインギターのパートを担当していたが自らがやりたい音楽性のバンドを構想しSui達と共に新バンド結成。
僕の生まれ育った家は丘の上、車1台通るのがやっとの、細くて曲がりくねった坂道を登った先にあった。
そこからは町を一望できて、目線の先は空と山々が重なり合い、地平線とも水平線とも違う、なんとも歪な曲線が広がっていた。
丘の上には風を遮るものがなく、春夏は風が心地よく吹くのだが、秋冬となるとその風は容赦なく、一歩外に出れば肌を突き刺すような冷たさが痛みとなって顔中に広がるのだった。
暦の上ではもう春だというのに、何日か前に雪が降って、至る所にまだ積もった雪が残っていた。
季節はずれと言っても僕の地元ではそんなに珍しいことでもない。
車道や大通りに面した歩道の雪はすっかり無くなっていたが、田舎特有の無駄に広い敷地の庭は、まだ積雪がそのまま綺麗に残っている民家も多かった。
それは僕の家も例外ではなく、まるでその空間だけ時間という概念から取り残されてしまったように、足跡一つない小さな雪原がそこには存在していて、真っ白な汚れのないその景色を見るのが僕は好きだった。
春休みだというのに、バタバタと準備をして僕は玄関の扉を開けた。
ギターを背負って、歪みとブースターとチューナーの入った小さめのエフェクターボードを自転車の籠に入れ、寒空の下、あの曲がりくねった細い坂道を自転車で駆け下りていく。
手袋をしていなければ指が千切れてしまいそうな寒さだった。

新バンド結成から2週間程。
土田の進級のかかった不毛な課題を手伝いながら、僕達は急ピッチで曲を作り始めた。
初ライブでは全曲オリジナル楽曲でライブをしようと全員心に決めていたからだ。
ともすれば、少なくとも5〜6曲は作らなければならず僕等はこの時期、生活のほぼ全ての時間を楽曲制作に割いていたと思う。
長期休みなことを良いことに僕等は、ほぼ毎日江崎の家や小堀の家に集まって、各々持ち寄ったリフやメロディーのフレーズを広げていって一つの曲に仕上げていった。
それと並行して、僕は作詞をしなければならなかったので、メンバーで集まって制作をして、帰ってからは部屋に篭って夜遅くまで作詞、気づけば机に突っ伏して寝て、朝が来ればまた、集まるという日々を繰り返していた。

そうして出来た3〜4曲程の楽曲の原型を更にブラッシュアップするために、メンバー全員でスタジオに入って実際に合わせてみようということになった。
実際演奏できる環境の中でセッションすれば、更に新しい曲のアイデアが出てくるかもしれないという狙いもあった。
音楽は偶発的に生まれる瞬間がある。
僕らはそれを理解していた。

白い息を吐きながら自転車のペダルを踏み込んで。
僕は冷たい風を切って走った。
顔を突き刺すような痛みは気にならなかった。

地元唯一のバンド用のリハーサルスタジオが、商店街の楽器屋の一画に併設されていた。
初のマイギター、EpiphoneのSGもこの店で買った物だ。
店の前に自転車を止めて中に入ると、地元の高校生バンドマンは全員お世話になったであろう店員さんがいつもの優しい顔で挨拶してくれた。
時間ギリギリに到着したが、先に着いていたのは土田だけだ。
大抵この店に入って時間を持て余すと、エレキドラムの試奏コーナーで黙々とドラムを叩くのが常だった。
そして、高校生らしからずやたら上手いのですぐに分かった。
土田はこの店の常連でもあって、この楽器屋が地元の高校生バンド界隈の一つのコミュニティを形成する上で、小さくない役割を担っていた。
程なくして江崎と小堀も到着し、スタジオに入って4人で音を合わせた。
実際に4人でライブとほぼ同じ音圧の中で曲を鳴らしてみると、良くも悪くも曲の印象も少し変わって、想定外にかっこよく感じる曲もあれば、思いの外だなという曲も出てきたりして、様々な発見があった。

新バンドの特に初期の音楽性は江崎がその根幹を担っていた。
そもそも、江崎が自分のやりたい音楽がしたいという理由でメンバーを募った結果集まったバンドだからだ。
そのボーカルという最後のピースが僕だった訳だが、基本的に楽曲アレンジの方向性は江崎が監修することが多かった。
楽曲制作というのは勿論ルールも無いし、あくまで自由なのだが、それでもバンドとして活動して行く上では楽曲毎の統一感が必要となってくる。
江崎が持ってきたギターリフやイントロから広げていった曲が大半で、そのフレーズから連想されるジャンル感というのは、メタル、パンク、メロコア、ハードコア、エモ、スクリーモといった今の日本のバンドシーンではラウドロックと呼ばれる分類の音楽だった。

しかし、僕は「歌いたい」ボーカル。
やはりメロウな主旋律をそこに合わせて行くことになるので、土台は洋楽的なアプローチの歪んで重たいロックサウンドに対して、Jロック的な歌が乗っかって、良くも悪くも邦楽的な楽曲が形成されていった。
それが日本人の自分たちがやる音楽として、一つの形なのではないかという共通認識だった。
演奏力やクオリティーにはかなりの差があれど、初期のONE OK ROCKに近い音楽性だったように思う。

音楽理論などと言うものはこの時の僕には皆無だった。
全てが直感的な発想に基づいていて、荒削りで磨き切れていない、畑から掘り起こした土だらけの野菜を洗いもせず、そのまま市場に出荷するような。
もしかしたら、そんな、垢抜けない音楽だったかもしれない。

合わせてみてかっこいい曲はそのままに、思いの外だなという曲をどうするか、ディスカッションしながらスタジオの使用時間が許す限り試行錯誤を繰り返した。
BPMを変えてみたり、リズムの展開を作ってみたり、コードの進行を代えたり、様々なアプローチを試した。
そうすると、まるで違った曲のように聴こえてきて、頭の中で今までとは全く違うメロディが浮かんでくる。
そんなメロディをアドリブでマイクに乗せて歌うと、江崎が
「それ良いじゃん。」
と言って採用となる。
そうやって曲が変化しながら完成系に近付いていくのだった。

そんな風にして僕らはスタジオとメンバーの家とを行ったり来たりしながら過ごし、ある程度の曲数のオリジナル曲を完成させた。
こうして僕らの新バンドは本格的に活動を開始できる地盤を固めていったのだった。

春休みは矢のように通り過ぎて、久しぶりに高校に登校するとまるで現実に引き戻されてしまったかのような感覚だった。
気づけば高校生活最後の1年を迎えようとしていた。
周囲は進路に対して嫌でも本格的に考え準備を始めていた。
でも、僕達はバンドに、音楽に夢中だった。
その情熱は芽吹き、開花する花の蕾の様に、僕の10代における、最も濃密な一年が始まろうとしていた。

―――

P.S
そんな高校時代から時は過ぎ2023年
皆さんあけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

最近の『Sui彩の景色』はどうも書きすぎてるなと思うところがあって、少しばかり読みやすい文章量を意識してみました。
どうですか?
今年の抱負は色々ありますが、『Sui彩の景色』での抱負は「飽きのこない文章」をテーマに頑張ってみようと思います。
因みに個人の抱負は「読みたい本を読み尽くす」
SUIRENとしての俺の抱負は「ライブで俺たちの生の音楽を、生の想いを、沢山の人たちに届ける」
そんな1年に出来たら良いなと思っています。

それにしても、今回の#14 を書いていて、よくよく考えてみると僕の人生はここからずっと、この春休みのような日々を送ってきました。
曲を書いて詞を書いて練習して歌って...
その繰り返し。
高校生を子供と捉えるか判断は難しいですが、我が国の法律と照らしわせると、どうやら子供と定義出来そうなのであえて言わせて頂くと、子供の頃から大人になった今日に至るまで、幸運な事に、やってることがほぼ一緒という人生を送っている人間というのもなんだか珍しいのかなと、ふと思いました。

正月に地元に帰って数人の友人に会うと、結局僕が大人になっても変わっていない事に安堵されました。
良いんだか悪いんだか分かりませんが彼らのニュアンス的に褒め言葉っぽかったので、勝手にそう解釈しております。
でも、「SNS等を見ていると少し良い子過ぎじゃないか?」と指摘され、「小学生の頃、口から生まれた男って先生に言われてたぞ」と言われる始末で、確かに高学年になり合唱部での経験を経てすっかり自信をつけた僕は先生に減らず口ばかり吐いていた気もします。
思えば僕が10代の頃の方がより言葉のパンチ力があったようにさえ思えて、今の方が何倍も経験して何倍も説得力があるはずなのに、「良い子」になってるなんて言われるなんて。
心外です。
しかし、思い当たる節がございまして。
言葉を綺麗に吐き出し過ぎているのではないかと。
例えば相手を傷つけてしまうのではないか?誤解されてしまうのではないか?
そんな事をあの頃よりもずっと考えるようになったのは事実です。

だからこそ、読書をしようとか、読みやすい文章にしようとか、生の演奏、生身の俺の言葉で皆に伝えたいとか、そんな抱負を掲げた自分にふと合点がつきました。
「言葉」を大事にしよう。
そういう1年にしようと思っているんだと気づいたのです。
恐れずに。
俺の思いや願いを言葉にしていこうと。
そういう1年にしていこうと思います。
結局P.S部分が長くなっちゃったけど 笑
改めて2023年もよろしくお願いします。

写真は2月22日のライブに向けてちょっとした撮影風景。
配信シングル「バックライト」2022年12月14日(水)配信

【ライブ情報】

『SUIREN presents「Naked Note 01」〜合縁奇縁〜』
2月22日(水) 東京・GRIT at SHIBUYA
開場18:00 開演19:00
ゲスト:上野大樹/nano.RIPE/Bucket Banquet Bis(BIGMAMA)
※アコースティックライブ企画となります

<チケット>
¥5,500(税込)+Drink代
・プレイガイド先行受付
受付期間:2023年1月13日(金)12:00〜1月27日(金)23:59
https://eplus.jp/suiren-230222/

SUIREN プロフィール

スイレン:ヴォーカルのSuiと、キーボーディスト&アレンジャーのRenによる音楽ユニット。2020年7月、最初のオリジナル楽曲「景白-kesiki-」を動画投稿サイトにて公開すると同時に突如現れ、その後カバー楽曲を含む数々の作品を公開し続けている。ヴォーカルSuiの淡く儚い歌声と、キーボーディスト&アレンジャーのRenが生み出す、重厚なロックサウンドに繊細なピアノが絡み合うサウンドで、唯一無二の世界観を構築。22年3月に初のワンマンライヴを開催し5月にTVアニメ『キングダム』の第4シリーズ・オープニングテーマ「黎-ray-」を含む自身初のCDシングルを発売。7月に配信シングル「アオイナツ」を発表し、12月に⻑編作品『アンガージュマン』の主題歌「バックライト」をStreaming Singleとしてリリースした。SUIREN オフィシャルHP

【連載】SUIREN / 『Sui彩の景色』一覧ページ
https://bit.ly/3s4CFC3

OKMusic編集部

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