葉月

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【葉月 インタビュー】
最初に浮かんできたのが
「睡蓮」のコード進行と
メロディーだった

lynch.のヴォーカリストであると同時にソロアーティストとしても意欲的な活動を行なっている葉月。そんな彼がシングル「蓮華鏡」を完成させた。表現力に富んだヴォーカルとオーケストラを活かして美麗かつ重厚な世界を創出している「睡蓮」とlynch.のカバー2曲が収録された同作は、まさに唯一無二の魅力を湛えている。葉月の美学で染め上げられた最新作について語ってもらった。

楽屋でギターを手にすることが多くて
自然と曲を作っていた

今作の制作に入る前はどんなことを考えていましたか?

今年の1月から2月頭にかけて『奏艶』(クラシックスタイルを基調としたソロ公演)をやることが決まっていて、そのタイミングで何か作品を出したいと思っていたんです。あとは、前回の中野サンプラザ公演(2021年12月12日開催)の映像を撮っていたんですけど、世に出していなかったので、新しいシングルとライヴ映像を合体させた作品を出そうという話もしていました。僕は昨年からもう1個、別のソロプロジェクトを始めたんですね。『奏艶』とは異なるバンドスタイルで、“HAZUKI”という名義でやっているんですけれども、昨年の夏に全国ツアーを回っている中で、僕はギター&ヴォーカルもやったりしたんです。なので、グレッチを連れてツアーを回っていたから、楽屋とかで常に触りながら曲を作っていたんです。ツアーの最終日とかセミファイナルくらいで、新曲を発表できたらカッコ良いなとも思っていたんで。結局ファイナルで披露したんですが、それが1曲目に入っている「睡蓮」なんです。

HAZUKIプロジェクトはバンド形態なんですよね?

そうです。ゴリゴリのバンドスタイルですけど、『奏艶』に付随したリリースというのも見えていたし、自分の中に最初に浮かんできたのが「睡蓮」のコード進行とメロディーだったので、これをかたちにしようと思ったんです。ソロのバンドには鍵盤の方がメンバーでいて、リハの時に“イントロのフレーズはこういう感じで何か作ってください”とお願いしたり、僕がギターでコードを弾いて、それに合わせて鍵盤を弾いてもらったりしてかたちにしていました。だから、lynch.ではなかなかやらないスタイルの作り方ですね。口で説明したり、“せーの!”で合わせたりして、ある程度のところまで持っていって、ツアーファイナルのCLUB CITTA'で発表させてもらいました。その時はアンコールの1曲目で、僕とキーボードのhico(堀向彦輝)さんのふたりで出ていって、ピアノ1本で歌うかたちで演奏したんです。“このツアー中に作った曲なんですよ”と言って歌ったら、みんなすごく喜んでくれましたね。

お客さんは本当に嬉しかったと思います。それに、葉月さんはリリースが決まってからコンセプトなどを熟考して、それが決まってから曲を書かれることが多いので、ツアーを回りながら曲を書いたというのは新しいですね。

ステージでギターを持って弾くというのがすごく新鮮だというのがあったし、ヴォーカリストってライヴ本番日はあまりやることがなくて暇なんですよ。楽器の人たちは楽屋でギターとかベースを弾いたりしているから羨ましく思っていたんです。相方がいるみたいでいいなぁって(笑)。だから、楽屋でギターを手にすることが多くて、自然と曲を作っていましたね。

それは分かりますが、バンド形態でツアーに出ていて新曲を披露したいとなったら、ライヴ映えするストレートでアッパーな曲にいきがちな気がします。でも、「睡蓮」のようなしっとりとした曲を書かれたんですね。

そこは『奏艶』が控えていたというのもありますし、本当に自然と出てきたのがこういう曲だったんです。

「睡蓮」はメロディーがすごくきれいな憂いを帯びた曲で、どうしたらバンド形態のライヴを控えた楽屋でこういう曲を作れるんだろうと思います。

あははは! いやいや、それは作れますよ(笑)。そこはまったく直結しないんです、いつも。僕は本番3分前のギリギリまで曲を作っているような人なので、常にアドレナリンが出っぱなしとかではないんです。

そうなんですね。さらに、「睡蓮」は和が香っていることも印象的です。

和テイストに関してはアレンジャー氏のお仕事の部分がかなり出ているというか。デモはピアノと歌だけで、冒頭の…それこそ和を感じるような部分はなかったんですよ。そこにアレンジャーの方がああいう導入をつけてくれて、“いいですね”ということで、そのまま採用になりました。

アレンジャーのセンスや力量ももちろんあると思いますが、アレンジャーにそういうインスピレーションを湧かせる力を持った楽曲だったと言えますね。

あぁ、そうかもしれない。もともとメロディーがそういうテイストを含んでいて、それを自分でも感じていたからだと思うけど、仮タイトルから“睡蓮”だったんですよ。“睡蓮”という言葉とメロディーからアレンジャー氏も、そういう方向に持っていこうと思ったみたいです。

よく分かります。アレンジと言えば、『奏艶』スタイルの楽曲を作る時はストリングスアレンジの方向性なども伝えるのでしょうか?

「睡蓮」もそうですけど、ほぼゼロですね。アレンジをしてもらっている方は『奏艶』が立ち上がって、かなり初期の段階から携わってくれていて、いつも何も言わないです。出来上がってきたものに対して要望があれば言いますけど、最初から“こういうものにしたいです”ということは言わないですね。僕はストリングスのレコーディングに必ず同席するんですが、ひと言もしゃべらずに帰っていきます(笑)。“いいですね、いいですねぇ”しか言わない(笑)。

信頼関係が築けているんですね。実際、「睡蓮」のストリングスの音数やスケール感は絶妙です。さらに、喪失をテーマにしつつ、それでも自分は歌っていく…つまり、自分らしく生きていくということを歌っている前向きな歌詞も注目です。

歌詞は…難しいな。まぁ、ツアーを回っている中で感じたことが一番大きいんですけど、lynch.をずっとやってきて、その活動を止めて、ソロが始まって、ツアーを回って、いろいろ思うところもあったりしたんです。すごくいろいろなことが重なっている歌詞ではあるので、ひと言で“これはこういう曲なんですよ”とは言いにくい。かと言って、全部を説明することはしたくないんですよね。

それでいいと思います。ただ、ひとつだけお訊きしたいのですが、ここ数年の世界はパンデミックや戦争などがあって、喪失感と直面している人は多いですよね。「睡蓮」の歌詞にはそういうことも含まれているのでしょうか?

僕は結局いつも自分のことばかり歌っているので、他の方や世の中のことを気にかけて書くということはないんです。でも、やっぱり通ずるものですからね。生きていると誰しもいろいろなことがあって、それと向き合うことになるから。だから、「睡蓮」が大きなことを歌っていると解釈する方がいたとしても、僕はまったく構わない。むしろ、ありがたいです。

「睡蓮」は楽曲や歌詞、アレンジといったあらゆる面に葉月さんの“個”を打ち出した結果、逆に多くの人の心に響くものになったと言えますね。では、「睡蓮」のヴォーカルレコーディングはいかがでしたか?

歌録りはどうだったかな? もう今はいろいろやりすぎていて、グッチャグチャなんですよ(笑)。歌を録ったのは昨年の12月だったと思うけど…よく覚えていないです(笑)。

そ、そうですか(笑)。では、聴かせていただいて感じたことを言いますが、キャリアを重ねたシンガーが「睡蓮」のような曲を歌う場合、くどくなってしまう傾向があるような気がするんですね。ですが、葉月さんはそういうこともなく、楽曲にベストフィットと言える歌を歌われていて。

そう感じてもらえたなら良かったです。僕は自分に酔って歌うということはできないんですよ、いつまで経っても。いつも、“なんでここはうまくいかないのかな?”と思いながら歌っているので。自分に酔ったことはないですし、どうしたら楽曲にアジャストできるかということを一番考えている。だから、くどい歌にはならない気がしますね。
葉月
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シングル「蓮華鏡」【初回限定盤】(CD+Blu-ray+32P PHOTO BOOK+OUTER CASE)
シングル「蓮華鏡」【通常盤】(CD)

OKMusic編集部

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