LUNA SEAはなぜ、いま“LUNACY”名義
で『黒服限定GIG』を復活させたのか

LUNA SEA 黒服限定GIG 2022 LUNACY

2022.12.18 さいたまスーパーアリーナ
LUNA SEAが改名前のバンド名、“LUNACY”として12月17日、18日の2日間に渡って埼玉・さいたまスーパーアリーナにて『黒服限定 GIG 2022 LUNACY』を開催。ここでは2日目のライブを振り返りながら、改めて彼らがなぜこのタイミングでLUNACY名義で黒服限定GIGというものを復活させたのか。その意義を考察していきたいと思う。
1日目、2日目ともに今回会場に着いてまず驚いたのは、黒服の若い男性SLAVE(SLAVE=LUNA SEAファンの呼称)が急増していたことだ。そのおかげで会場の男女比は(見た感じとしては)ほぼ半々ぐらいにまでなっていて、客席は黒一色ながらも、フレッシュな雰囲気が感じられた。ファン層がこうして下の世代へと拡大していっているのは、LUNA SEAというバンドが若い音楽ファンのなかでレジェンドと呼ぶにふさわしい存在になっているからこそ。そんな彼らが、今回の2days公演では「ROSIER」、「I for You」といったどメジャーな代表曲をいっさいプレイせず、12年ぶりにLUNACY名義を纏い、結成初期のインディーズ時代の楽曲のみでライブを行なうという、初心者ファンには相当ハードル高めのコアな選曲ばかりのGIGを敢行した。当時を彷彿させる衣装やヘアメイクまで再現して、インディーズ時代のレア曲を次々と演奏する彼らは、まさに“Back to the past”。にも関わらず、2日間とも来場者たちに古さなど微塵も感じさせることなく、破壊力をたっぷり秘めた楽曲で心を震わせていき、過去から現在につながる様々な発見で人々をワクワク感動させていくLUNA SEAの説得力たるや。
RYUICHI
実は、今回ステージに立った彼ら自身も、いまの自分たちがBack to the pastしたら、その先の未来にどんな世界が待ち受けてるのか。それを、バンドとして確認するタイミングでもあったのだ。
これまでも、こうして未来を見据えて動き出す重要な瞬間、彼らは一度バンドを原点まで引き戻すという作業をやってきていたのである。
思い返せば2010年。REBOOT=再起動してLUNA SEAとしての活動を再開するというときも、彼らは東京ドームで完全無料ライブとして『LUNACY 黒服限定GIG~the Holy Night~』を行なった。そしてその翌年、2011年3月16日。REBOOT後のLUNA SEAが一番最初にリリースしたのは、まっさらな新曲ではなく、1991年にインディーズで唯一リリースした1stアルバム『LUNA SEA』収録曲すべてを再録して作ったセルフカバーアルバムだった。
そして2022年のLUNA SEAはというと、RYUICHIが声帯を手術するという大きなアクシデントに見舞われた年だった。リハビリを終え、まず8月に日本武道館で開催した『復活祭』では、2日間の公演を通して、LUNA SEAがこれまでリリースしてきた全アルバムから曲をピックアップしたセットリストを作り、RYUICHIの新しい声の感触を一つひとつ丁寧に確かめていった。ここで、声の準備が整ったことを確認した彼らは、未来に向かうこのタイミングで、そのもう一つ先のバンドの原点となる場所まで戻る必要があった。それが、今回の『黒服限定GIG 2022 LUNACY』だったのだ。
未来へ向かうためのBack to the past。2日目のMCで「今回、30年の時をリワインドして過去に戻ってみたんだけど。過去には鮮やかな未来がありました。ここ、さいたまスーパーアリーナは“現在・過去・未来”が一つになっている場所なんじゃないかな」と述べたRYUICHIの言葉は、まさに今回のライブの真意を言い表している言葉だったように思う。
2日目のライブはRYUICHIがアカペラで歌う「SEARCH FOR REASON」からスタート。リバーブがかかった声が、会場いっぱいに広がり、声の残像とともに場内がどんどん混沌としたカオスに包まれていくと曲がいきなり途切れ、真矢のドラムから「FATE」へ流れていく。このオープニング、彼らのライブに何度も足を運んでいるコアSLAVEは、この時点で「おっ、これは“SEARCH~”の残りを最後に歌うパターンだな」というのを想像してニンマリしたに違いない。「FATE」にしても「SLAVE」にしても、少ししゃがれ気味の声で繰り出すシャウトが冒頭から絶好調だったRYUICHIは、あたり一面真っ黒な会場を生中継のテレビ画面を通して観戦している視聴者に向けて「きっとお茶の間も真っ黒でしょう」と語りかけ“黒服限定”のライブであることを全国のお茶の間にもアピール。
初期の楽曲は5人全員が“俺が、俺が”とアピール強めなところが大きな特徴でもある。「MECHANICAL DANCE」は、イントロからフロントに出てきたJのベースがグイグイ存在感を発揮。2日目のみ演奏した「IMITATION」はRYUICHIとINORANが掛け合いでサビを歌い、「SANDY TIME」は現在のように有機的に5人が絡む前のバンドの原理をそのまま具現化したようなサウンドで、緊迫した質感の暗闇で場内を埋めつくしていく。そうして、1日目の第2部と同じスピードチューン「CHESS」、一人ひとりのプレイにスポットが当たる構成で、楽曲の魅力を最大限引き出していく「NIGHTMARE」で第1部は終了した。
J
初日の第2部では、《もう死んだふりさせない》と歌う「JUNK」のアクトでファンを驚愕させた彼ら。2日目の第2部も初日同様、音源化されていない曲が聴けるのではないかと、客席は換気タイムの間からすでにソワソワしながらスタンバイ。予感は見事的中。SUGIZOのメタルっぽいギターリフから始まったのは、1stデモテープのみに収録されている「KILL ME」だったのだ。SUGIZOとINORANが揃って歌う《KILL ME, KILL ME》のコーラスに、観客たちは激しく大興奮。アウトロから真矢がそのままバンバンバンバンとシンバルを叩いて「Dejavu」へと展開。サビで一斉にDejavuジャンプをきめる観客のエネルギーを受け止めるように、手を大きく広げて見せるJ。後半、「お前たちの心の声、聴かせてくれ」とRYUICHIが叫び、“ウォー”と歌えないかわりに腕をステージに向かって伸ばす観客たちがビジョン一面に映し出されると、Jはそれを見て手を叩き、SUGIZOは胸に手をあてて称賛を伝えた。
真矢
そうして前日に続いて「SEXUAL PERVERSION」、そこから2ndデモテープ収録の「SUSPCIOUS」は、ナイフで音をスパンとぶった切るように全員で音を止める瞬間、彼らは凶器となり、息をのむほどスリリングかつ、緊張感に包まれたアクトで観客の目と耳を瞬殺。ここで《震える光を》求めたあと、《日の光がオレ一人を邪魔している》と嘆くように歌う「VAMPIRE'S TALK」へ。悲壮感がじわじわ迫りくる前半からSUGIZOのギターがギュワンギュワン場内に響き渡り、悲鳴をあげたところからRYUICHIの歌はエモーショナルな歌唱からどんどん狂気が爆発していき、再び深い悲しみの底へと落ちていく世界観は、初期LUNA SEAの真骨頂。ここでステージに妖しく蠢くような狂気の大気を生みだしたあとは、その蠢く大気を切り裂くように「SHADE」を勢いよく投下。そして、ラストは期待通り「SEARCH FOR REASON」の後半パートを展開。RYUICHIの“ウォー”という壮絶な魂の叫びのような渾身のシャウトとともに、ステージには8本の炎が勢いよく燃えあがり、そこから何度も何度もRYUICHIがシャウトを連発してど迫力のステージングを作り上げ、客席を圧倒したままライブはフィニッシュを迎えた。
観客がかざすスマホライトが星のようにきらめくなか、アンコールは「MOON」で幕開け。天井に設置されたミラーボールと、地上からそこに向かってもう1機のミラーボールが近づいていき、最後は惑星直列のようにその2機が並んで光の洪水を降り注ぎ、客席のスマホライトと相まって、さいたまスーパーアリーナが星の夜空となって発光。この後、メンバー紹介のMCトークが始まると、真矢はまず「できることならここにみんなを上げて、さっきの景色を見せてあげたい」とスマホライトでファンが作った美しい光景を絶讃したあと「何年経っても、俺なんかコスプレみたいだけど(笑)、こうして真剣に遊べるって最高」と今回の公演の感想を伝えた。続いてJは挙手をして「提案があるんだど」と前置きしたあと「またやろうよ。(LUNA)CYじゃなくてもよくね? いろんなので黒服限定を」と述べた。CYでは喋らない当時のスタイルを貫くINORANは、RYUICHIの耳元で何かを告げると、RYUICHIがINORANのかわりに「“愛してる”だって」と代弁。SUGIZOは「漆黒の祭典、今日は闇の祭典だったんですよ。でも光の祭典になった気がします。過去が未来だってRYUがいってたけど、闇は光だったんだね。ここから光に向かって旅を続けましょう」と語りかけあと、元気に挙手をして「俺からも提案があります。CYでツアーしようか!」というと、それを受けてRYUICHIは「全国を真っ黒にして暗夜していくの? カッコいいね」と返答。そしてこの2日間を振り返り「本当に最狂の夜を過ごすことができました。みんなどうもありがとう」と感謝の気持ちを伝えたあと「提案があります」と挙手をして「来年はくすぶってないで特別なことやろうね。ともにトンネルを抜けていこうぜ!」と宣言。そのあと「全員でかかってこい!」と激しい口調で煽りを入れ、「WISH」が始まると、イントロで爆発音とともに銀✕黒のカラーテープが舞い降り、客電が全開に灯ると、まぶしいほどの光の空間が目の前に広がった。光に包まれた会場には瞬く間に歓喜が膨れ上がる。だが、その一方で客席にいる人々、視界に飛び込んでくる観客、スタッフ、通路にいる警備員まで、どこを見ても場内には黒服の人しかいない。そのギャップに唖然とする。こうして光と闇がクロスオーバーしていったあと、ラストはここにさらに「PRECIOUS...」をプレイ。この日最大級の光で闇をすべて覆い尽くし、観客全員をその光で包み込んでいったあと、ライブは終了した。
そうして、ライブ終演後、スクリーンを通して2023年、“声出し解禁”のライブをバンド結成日の直前となる5月27日、28日に東京・武蔵野の森 総合スポーツプラザ メインアリーナにて行なうことを伝えた彼ら。この会場でLUNA SEAがライブを開催するのはこれが初。
過去に戻り、彼らがそこで体感した未来、そこで見た光が2023年、LUNA SEAにどうフィードバックしていくのか――。その始まりとなる姿を、このライブでぜひ見届けてほしい。
取材・文=東條祥恵
撮影=田辺佳子、横山マサト、岡田裕介、清水義史

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