TAKURO

TAKURO

【TAKURO インタビュー】
大いなる世界のもたらした
一枚の絵から音楽を作っていく

自分たちも腹を括って、
自分たちの中でJ-POPを完成させたい

このインタビューの後半ですが、『The Sound Of Life』が今後のGLAYやTAKUROさん自身の音楽活動にどう繋がっていくのかというところを、ちょっと早急かもしれないですけど、訊いておきたいと思います。

今回のこのアルバムに関しては、何度も言うように、音楽的なことはすごく些細なことで、自分の人生における時間に対する概念とか、自然に対するある種の考察みたいなものに対してめちゃくちゃ影響する…例えば“みんなが本当に追い求めてる幸せっていうのは何なんだ?”っていうようなことも含めてね。だから、GLAYの音楽がどうこうというのは正直言って、この時点ではまだ分からないけれども、俺はこのアルバムを作ったことによって、“何をやりながら、何を思って生きていけばいいか?”みたいなものは明確になった。それはこの5年くらいのことでもあるんだけど、人々が今知り得る知識の中で一番謎めいたもの…それこそ死とかね。この齢になると“死というものは何か?”みたいなことを考えることも多くて。で、少なくともそういった作業を繰り返していった時、恐怖みたいなものは本当に減って、むしろ好奇心が湧くほどで。何度も言うけど、50年前も50年後もナイアガラの滝はこのままであって、それをギャアギャアと50年前にも50年後にも言ってるのは人間だけで、風も太陽の光も、リスもネズミもアリも、そんなことを考えないでただただそこにあって、そこで朽ちていく。今の人間社会のおいて、そういうような大きな立ち位置でいられないものだろうかと。すごいステレオタイプなイメージだけど、“政治家がおじいちゃんたちばっかりなのは何でだろう?”“社会の中で時間のない人たちに、ここまで未来を預けて何の意味があるんだろう?”とかね。あらゆる事象から時間というものを取り払った時に、何かもっと明確に見えるものがあって。それは俺の人生の中で、大切なものを順番づけることにとっても役立ったり、“今、自分が何をやらなければいけないのか?”が昔よりも間違えないで選択できるようになったり、この『The Sound Of Life』のセッションを通じて、自分がこれから生きていくことに対して“何をして生きて、そして朽ちていくか?”はすごく明確になった。

何と言うか、ひとつ方向が定まったということではなく、今後いろんな選択肢が出てきた場合、そこで迷うことなく進んで行ける感じなんですね。

そうなんですよ。これはもう感覚的なものでしかないし、俺にしか分からないことなんだけれども、言葉ってすっげぇ便利で、“どんなトラブルも僕を成長させる”と言ったら、それでもう相対化されちゃって無になるけれど、本来はそうじゃない。絶対的に自分のラストをイメージした時には選ぶべき道順があるんじゃないかと。今、この曲を世に出すということも含めて、自分がGLAYとしてデビューしてポップミュージックの末席に座っていろいろなことをやってきたけれども、それはやっぱり誰かのためになる音楽をより多く残すことであって。でも、それは10年前には分かっていなかった。もっと自分勝手だったし、独りよがりだったと思うし、それこそ今持ってるお金をどう使えばいいかってことすらも分からなかった。どれくらい残ってて、どれくらい人に分け与えることで、自分の人生が完結することも分からない。で、不安だからホールドする。だけど、時間軸の概念や人間社会と自然の境界線をもうちょっと曖昧にしていくと、そうでない生き方みたいなものがすごくよく見えるというか。

私なんかは単純だから、こういう音楽ができるとバンドにどう反映されるかというところを考えがちで。今回収録されたような新しい音楽要素は当然バンドにも反映されていくんだろうとわりと短絡的に結び付けてしまうし、それはそれで必ずしも間違ってないと思いますけど、そういうテクニカルなことじゃなくて、もっと大事なことは、TAKUROさんの心の中にある太い部分がガシッと確立されたということなんでしょうね。

例えば、GLAYが活動していく上でファンの人たちから預かったたくさんのお金があるとして、“じゃあ、俺たちはあと50年続くからそれを計画的に使おう”というのは物を知らなすぎるじゃない? もっとリアルに“バンドがどのくらいで終わりを迎えるのか?”を想像できたら、きっと気持ち良く、最後の最後に全員からもらったお金を世界に還元してバンドは美しく終われる。いろんなバンドがいるけれど、俺たちは少なくともバンドのあり方としては美しくありたいと思うんですよ。さっきも言ったように、おじいさんがすっげえ貯金してたって、墓まで持っていけないわけだから、“それをどう使うか?”…こういった考え方をひとつひとつ日々意識しながら生きていくと、本当に今やるべきことが迷いなくできる。“俺がやったことはあってんのかな? 間違ってんのかな?”という考えすら超越したところで生きることができたら、それは“俺が10代の頃なりたかった人だな”っていう。少しずつだけど、“自分はそういうふうに生きているのじゃないか?”と感じさせてくれるアルバムではありますね。

とにかく3rdソロアルバム『The Sound Of Life』はTAKUROさんにとってすごく大きいものですね。

ロシアのウクライナ侵攻が、それくらい大きな衝撃だったんですよ。一番はロシアの愚考だけど、この21世紀においてそれを止めるものがないし、機関もないというのは、ちょっとびっくりしましたよね。学べば学ぶほど、ひと筋縄じゃいかないことくらい分かってるけど、そんなのは家にミサイルが飛んできた人には関係ないよ。世界の仕組みとその一市民の人生をどう結びつけたら“仕方がない”という言葉に行き着くかと言ったら行かないもんね。不条理でしかない。世の中は不条理だらけであることは分かっている。でも、だからこそ…というね。そうそう、このアルバム作った時に思ったことがふたつあるんですよ。ひとつは“べきだ”という言葉で、もうひとつは“である”という言葉。このふたつは本当に切り離せないものであって、まさに表と裏。“戦争はなくすべきだ”と。俺もそう思ってるけれども、“でも、戦争は存在しているのである”ということも同時に理解している。人というものを知れば知るほど、強烈に理解してるというかね。何かそういうことを飲み込めるアルバムがいいな…なんて思ったよね。

完全にロックがカウンターカルチャーでなくなったということはひとつ言えますね。

俺はそれを30歳くらいで完全に理解したけどね。ロックから学べることはもう何もないって。ロックという小さな音楽ジャンルの中でのメッセージみたいなものに、30歳になっても40歳になっても、まだそこで涙を流しているようだったら、“お前の人生は何を学んだんだ?”っていう。もっと目を向けるべきものは他にあって、自分の心を踊らせるものはロックだけではないということを理解し始めないと、本当にヤバいおじさんになると思ってたんで。

求道的にロックを追い求めてる人たちもいて、それはそれでとても面白いというか、いいことではないかなと個人的には思います。

それはもちろんです。

でも、TAKUROさんもGLAYもそこにはいないという。

もともとロックをやりたくて音楽をやっていたわけじゃないですから。自分がなりたい理想の姿や、子供の頃に掴み切れなかった“幸せってなんだろう?”みたいなものを求めて音楽をやってきた。これは以前も言ったと思いますけど、GLAYは夕方5時以降は仕事しない。それはロックや仕事と家庭生活とで、どっちが良いとか悪いとか、大事とか大事じゃないとか、そういうレベルで生きていきたくないというところがあるからですよね。一生残る芸術を作ることと、この瞬間に家族と幸せに暮らすことは、俺の中でずっとイコールなんで、それはどっちが上とか、どっちがどっちを超えるものではない。そういう人間が作った音楽にも役割はあるんじゃないかと。だから、それこそザ・クロマニヨンズのインタビューを見ているとカッコ良いと思う。あと、The Birthdayとか。“こんなふうに殉じられたなら…”とは思う。彼らは本気じゃない? 俺はとうにロックの魔法みたいなものは解けてしまったという自負があるから、そっからどんなに掘り起こしてももう土しか出てこない。黄金は見つからなかった。

でも、黄金は出てこなかったけれど、そこには土があったわけで。

うん。土を掘って掘って、“黄金は見つからないけど、ここに種を巻こう”という話(笑)。

はい(笑)。その辺は今までと変わりなく…という感じかもしれません。先ほど“美しくありたい”とおっしゃいましたが、それは「BEAUTIFUL DREAMER」(2003年10月発表のシングル)の歌詞にもありましたし、その辺りはずっと変わっていないところなのでしょう。

何度も言うように、“俺自身がどう生きていくか?”という目標やゴール、目指す頂上は見えているので、残りの人生でそこまで最短で行こうとするわけで、そこではやっぱりGLAYも多大な影響を受けるんじゃないですかね? 今思ってることは、ずっとロスに住んでるからか、本当に今の日本の音楽って究極のドメスティックに向かってることがよく分かって。世界で鳴っている低音もないし、カッコ良いギターリフもない。だけど、歌声と歌詞が素晴らしい。ということは、今後の未来を司る若者たちがそっちに向かうのであれば、やっぱりそれを応援したいと思う。あと、自分たちもそのJ-POPの一旦を担っているとしたら、世界の音を真似た感じじゃなくて、究極のJ-POPをどこまでも掘り下げてみようかなとも思っていて。残りの人生の20年、30年、どのくらいGLAYが動けるか分からないけれども、今まで30年間やってきたGLAYなりのジャパニーズロックの未来形みたいなものにはめちゃめちゃ今、興味がある。

映画に例えると、それは黒澤明が『用心棒』と『椿三十郎』を作った時の感じに似た行為かもしれないですよね。あの2作は黒澤が徹底的にエンターテイメントを意識して作ったものだという話があります。

その話を聞いて、揺らいでいた自分の気持ちがすごく固まった(笑)。自分たちも腹を括って、少なくとも自分たちの中でJ-POPを完成させたいという。あちこちよそ見してる暇もないし。そういう気持ちにはなったのは本当に事実ですね。

『The Sound Of Life』のあとのJ-POPは、これまでのJ-POPとは別のものになるんでしょうね。フォルムは同じに見えても、中身はまったく違うものになるでしょう。これ間違いない。

あと、意識としては、海外戦略も含めてのことなんだけど、J-POPでやってきたTAKUROが作った『The Sound Of Life』は言葉がないぶん、国境を超えるから、そういう音楽的な野望や楽しみはありますよ。今回、新しい試みとして、リラクゼーションのサロンでかけてもらったり、プラネタリウムで流したり、音楽がただのBGMになっていたところでもうひとつ進化させることができたらとも思うし。例えば、アメリカのあらゆるヨガのクラスでこの音楽が流れた時、またひとつ、日本の音楽が進化する瞬間だし。そういうような自分なりの武器で世の中を見ていきたいというか。日本だ世界だってあんまり考えないで。それは、あくまでも商業的な音楽とはまったくかけ離れてるからこそ、意外な可能性を今回感じたりしていますね。

取材:帆苅智之

アルバム『The Sound Of Life』2022年12月14日発売 PONY CANYON
    • 【CD+Blu-ray】
    • PCCN-00052
    • ¥5,500(税込)
    • 【CD ONLY】
    • PCCN-00053
    • ¥2,750(税込)

『TAKURO「The Sound Of Life」発売記念プラネタリウム&トークショー』

[2023年]
1/06(金) コニカミノルタプラネタリウム天空 in 東京スカイツリータウン®
1/10(火) コニカミノルタプラネタリウム天空 in 東京スカイツリータウン®
1回目:開場18:00/開演18:30
2回目:開場20:00/開演20:30

TAKURO プロフィール

タクロウ:GLAYのリーダーにして、メインコンポーザーであるギタリスト。2016年12月に1stソロアルバム『Journey without a map』を、19年2月にはその続編となる2ndアルバム『Journey without a map II』をリリース。そして、前2作は地図なき旅をテーマにしたジャズ、ブルースであったが、全曲ピアノで作曲したヒーリングアルバムとなる『The Sound Of Life」』を22年12月に発表した。GLAY オフィシャルHP

「Red Sky」MV

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