TAKURO

TAKURO

【TAKURO インタビュー】
大いなる世界のもたらした
一枚の絵から音楽を作っていく

このアルバムを理解して
描いてくれるのはTERUしかいない

『The Sound Of Life』はヒーリングミュージックであって、ポップミュージックの公式とは離れた楽曲がほとんどだということを申し上げましたが、そうは言っても、しっかりとキャッチーなメロディーもあることが聴き逃せなくて。その辺は作曲家・TAKUROの外せないところかなとも思います。「Red Sky」がもっともキャッチーでしょうかね。

あの曲だけ、頭の中の絵がめっちゃ文明だったんですよね(笑)。例えば、スペインとかバルセロナとかフラメンコとか、あと赤く焼けたオーストラリアのレッドロックとか、何かあれだけ文明と自然がちょっとくっついちゃったというか。だから、音楽的なことで言えば、コード進行としてはまったくもって耳馴染みのある動きをするから、どこに音を置いてもキャッチーにならざるを得ない。

ところで、「Red Sky」のチェロは素晴らしいですね。

Eru Matsumotoさん、すごいですよ。やっぱりグラミー受賞者は違う(笑)。

激しく自己主張しているわけじゃないパートにおいても、弾き手の顔が見えるというか、ちゃんと人が弾いている感じがすごくしますよね。

この曲だけはわりと人の気持ちとつながることを意識していて。その他の曲が眠りに誘うものであって、立ち位置としてはその人たちの横に寄り添っているんだけど、「Red Sky」だけは正面を向いてるもんね。

アンサンブルも強調されている。チェロの背後でガットギターがリズムを刻んでいるところがありますが、あそこはめちゃめちゃカッコ良いですしね。

あれはジョンの提案でしたね。さっき言ったようにリズムを刻むようなことはなるべく止めようとはしたんだけど、どうしてもこの曲はそれを呼んでいると。そのスパニッシュな雰囲気も含めて。だから、もうジョンのアイディアをそのまま弾いたみたいな感じです。

また、あそこは何度も繰り返されないところがいいんですよね。繰り返されると展開が分かり切っちゃうというか、変に慣れちゃうというか。

そう! その根本にあるのも時間という概念の解体ですよね。自然の延長線上にある音楽。音楽は時間芸術で、どうしてもイントロから流れるんだけど、そういう今まで学んできたスキルみたいなものが邪魔になって、今年の2~3月はそれを感じたくない時期だったんですね。だから、自然と繰り返しがなくなったという。

繰り返しと言えば、ラストの「In the Twilight of Life (featuring Donna De Lory)」は歌がリフレインされておりますが、これもポップミュージックのそれとは印象が違ってます。ピアノに欧米人のヴォーカルが入った歌ものというとブルースやゴスペルをイメージするんですけど、それらとも違う。

これはこの楽曲全部の中で唯一、自分の頭の中の風景に人がいた絵だったからだと思う。もともと僕は歴史が好きで、歴史からいろいろと学んで、自分の人生やGLAYの活動に役立ててきたけれど、この時は昔、本で読んだ女性の話がモチーフになっていて。その人は愛する夫や子供を戦地に送り出して彼らの帰りを待っているんだけれども、死亡の知らせもないままに何十年も経ってしまって、“今日こそ帰ってくるんじゃないか”って思いながら、家の前の椅子に座っているという。“今日は帰ってくるだろう”“ 明日は帰ってくるだろう”と言っている間におばあちゃんになっちゃって、それでも“いつかは帰ってくるかもしれない”という希望を捨てない。そういう話を読んだ時の影響が色濃く出ていて。あとの曲では大きな川の流れだったり、せせらぎだったり、スペインやレッドロックと曲のモチーフはいろいろあるけれど、これだけはその絵に人物がいて、しかも圧倒的なノンフィクションを下敷にしてるんで、きっとそういうような印象を与えるだと思う。

だから、「In the Twilight of Life」では肉声を使ったほうがいいと判断したんですね。

音楽的なことでなく、今、ウクライナの戦場にいる人たちは、どっちも正義だと思って戦っているわけで、指導者たちは“戦地へ行け!”と言うだけでいいけれど、現場にいる兵士たちは自分の人生をあまり理解していないし、想像してないんじゃないかな? きっと人を殺めることのトラウマの深さを知らないままだと思う。軍隊というのは命令系統が完全じゃなきゃ機能しないわけだから、“やれ!”って言われたらやらなきゃいけない。そして、やってしまったことに対しては、その時は極度の興奮状態で何も感じないかもしれないけど、そこから5年後、10年後、彼らに与える影響みたいなものを思うと、本当に罪だと思うし、“こんな酷い罪があっていいのだろうか?”っていうようなところがこの歌詞にはちょっと入っているんですよ。

「In the Twilight of Life」のヴォーカリストはDonna De Loryさんですか。歌がうまいのは当然として、祈りを捧げるでも、情念を注ぐでもない、過去に他ではあまり聴いたことがないニュアンスで、そこもいいですよね。

年齢も自分より10歳くらい上なんじゃないかな? だから、さっき言ったような自分の頭の中の絵の話をして、理解するのも早かったですもんね。

冒頭でも申し上げましたが、この歌声もそうですし、メロディーにしても展開してもそうで、やはり『The Sound Of Life』は他では聴いたことがない楽曲が多い印象ではあります。メロディーに関して言えば、「A Man Has No Place」と「Bercy」が特にこれまでのTAKUROメロディーとはタイプが異なると思って聴いておりました。

それは拍子にも関係があって。音楽的に言うと、三拍子みたいなところですね。この手のタイプのメロディーで三拍子を意識したことはGLAYではまずない。

ともにクラシックのメロディーっていう感じなんですかね。ちょっとベートーヴェンを彷彿させられましたけど。

頭の中にあった絵をここで説明しても仕様がないですけど、例えばパリの森だったり、イタリアの片田舎の夏だったり、その夏の終わりの切なさだったり…で、そのモチーフからして今までのGLAYでは絶対にないものだったりするから。

“Bercy”とはパリの地名ですか?

パリのどこかの公園ですね。カフェかどこかで見たその写真を眺めててモチーフが浮かんだという(笑)。

「A Man Has No Place」「Bercy」からちょっと外れますが、あと「Sound of Rain」は雨が降っている風景から連想されたのでしょうし、「Red Sky」は夕焼けでしょうし、「Ice on the Trees」や「Early Summer」も同様で、タイトルからしてイメージした絵を連想させますよね。「Ice on the Trees」はやはり北海道のイメージだったでしょうか? こちらは逆に“TAKUROらしさ”を感じましたね。北海道の冬をイメージすると、メロディーはこういうかたちになるのでしょうか。

こういうかたちになります(笑)。しかもね、ジャケットを書いてもらう時、TERUに音源を送ったら、やっぱりこの曲に反応して、このジャケットになったという。

そうでしたか。アートワークについても伺いたかったところですが、このジャケットの絵画は、音源を聴いてからTERUさんが描いたものなんですね。

ちなみに音源を送って2日でできました(笑)。ソロアルバムのジャケットに関しては、本当に大切にしているというか、よりTAKUROを理解してもらう上で大事にしなきゃいけない場所で。今回は大自然をモチーフにしたアルバムですから、同じ原風景を見てる人がいいだろうと。なので、“これを理解して描いてくれるのはTERUしかいないだろう”と思ったんですよね。

「Ice on the Trees」だけを聴いてもらったんですか?

いや、全部全部。

で、その中から「Ice on the Trees」を選んでもらったんですか?

選んだとは聞いてないけど、「Ice on the Trees」の中にある風景は、もうこれだから(※と、ジャケットを指す)。とんでもないシンクロをしてるわけですよ。誰にも言ってない、誰にも話してない自分の頭の中の絵が具体化されたのがこれなので。TERUはエスパーなのかと思った(笑)。

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OKMusic編集部

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