TAKURO

TAKURO

【TAKURO インタビュー】
大いなる世界のもたらした
一枚の絵から音楽を作っていく

“1曲目で寝ちゃいました”
というのは最高の誉め言葉

そうですか。で、ピアノで作曲された楽曲が収録されたアルバムであって、ピアノの音色が中心ではあるとは思いますが、ただ、聴き進めていくと、決してピアノだけが中心にあるわけでもないことに気づきます。冒頭でも申し上げましたが、そこがとても面白いと思ったところなんですよ。アレンジ面を確認したいんですけど、TAKUROさんがピアノで作ったメロディーをジョンさんに持っていて…というやりとりだったんですか?

そう。俺がピアノで作ったものをジョンに弾いてもらって。本来ならそこまでで良かったんですよ。だけど、そこで、例えば“風の音が聴こえるよね”とか“鳥の声が欲しいよね”とか、そういう話になって、そこでジョンから“自分だったらここでチェロを入れるけど、どう?”って言われて、“それはいいね”って。で、最後の最後に“TAKUROも何か入れれば?”ってことで、出来上がったジョンのオケにポロンポロンとギターを弾いたという。その辺では、僕は誰かと組む時はいつもそうなんですけど、自分の中に方向はあるんだけど、その幅が広くて、パートナーが何かをやりたいって言った時はたいていOKなんですよ。あっ、今回ひとつだけ気をつけたことは、人工的にならないこと…カチカチしないこと、リズムを強調しないことで。「Red Sky」はちょっとだけフラメンコっぽくなるけれども、あとはもう“ダラーンとしてください”と。自然の中に正確なビートなんてひとつもないんだから。自分から依頼したことはそこくらいなもんで、あとはジョンが“こんな味つけはどう?”って言ったら、“あぁ、いいんじゃない”って。

“お任せ”と言っちゃうと極端かもしれないですけど、ジョンさんから“こんなふうにしました”と出来上がってきたものでOKというね。で、面白いと思ったのは、冒頭2曲「Sound of Rain」や「Letter from S」がわりと顕著だと思いますが、いろんな楽器がメロディーを分け合ってる感じがすることで。

そうそう。

ピアノが来て、次にギターが来て、フルート、ストリングス…と連なっていく。あそこはとても面白いですね。

今ちょっとライヴのことも考えてるんですけど、本来ピアノ1本だったり、ピアノとギターでできるはずの音楽なんですけど、何かやろうと思ったらいろいろと遊べるなと思っていて。

あと、もうひとつ発見があって。取材準備のためにヘッドフォンで聴いたら今言ったような印象だったんですが、あとからヘッドフォンなしでiPhoneで聴いてみたらまた印象が変わって。メロディーだけが1本ちゃんと真ん中にあることがはっきりと分かりました。それはそれで面白かったし、ステレオとモノラルでもまた聴こえ方が違うことを感じましたよ。

あぁ…僕はやっぱり音楽というものは共有する芸術だと思っていて。僕らが作る音楽は相手の協力あって初めて完成される音楽だと、GLAYを含めてTAKUROミュージックはそういうものだと思っているんで、それはたぶんね、聴きたい音を聴いただけだよ。

私が? なるほど。

iPhoneの波形を見たらそう(=ステレオとは異なる聴こえ方)なのかもしれないけど、やっぱり聴きたい音を、疲れてるにせよエネルギッシュにせよ、様々な状況の身体に必要な音を耳が取りに行くんじゃないかな? そのためには、ステレオはすごく便利で、音を散らせてる分だけそこから好きなものを取ればいいわけだけど、モノラルにもそれがあって。自分自身に今必要な栄養を自分から取りに行く芸術が音楽なんじゃないかな? だから、あんまりトゥマッチになったり、決めつけすぎないほうが俺は好きなんだけれど。

確かに。自分がヘッドフォンで音楽を聴く時は仕事ですから、その音から全力で情報を探りますからね。iPhoneからモノラルで聴こえてくる音とは受け取り方のモードが違っているという。

その考えでいくと、俺は今、日本の音楽をまったく聴けないです。全部が参考資料にしか聴こえないから、Official髭男dism、King Gnuを聴かされても、もう材料にしか感じないですもんね。“今の日本の音楽はこういう傾向で、今後こういう方向へ行くだろう”っていう。そこにある彼らの本当に純粋な想いを、もはや51歳の俺は真っ正面から受け取ることができないという職業的な悲しさもありながら。だからこそ、他の芸術にその興奮も求めるんだけれど。

アルバム同梱のBlu-rayに収録されたドキュメント映像の中で“今のトレンドとは関係のないところで音楽を作りたい”ともおっしゃっていましたね。その辺が今作でよりはっきりしたのかもしれませんね。

もともとの発想はロシアのウクライナ侵攻で憤ったり傷ついたりした自分の気持ちを一回癒すことで、それが大テーマだったから、世界の音楽のトレンドだのファッションだのはどうでもいいもんね(笑)。改めて気づいたのは、自分は本当に音楽の中だけで生きてないということ。自分にはちゃんと日常生活があり、遠い空の誰かのことを1日何分間でもいいから思う気持ちがあって、それを音楽にできるスキルがあって…という自分の人生…『The Sound Of Life』はこの2022年の人生そのものみたいなアルバムだから。まぁ、ドキュメント映像内のインタビューではトレンドという言い方をしたかもしれないけど、そこすらも考えてないんじゃないですか。“売れる/売れない”とか…もちろん、出来上がったあとには“どう売ろうか?”というビジネスマンとしての自分は出てくるけれども、作ってる時は本当に純粋にこの大いなる世界とただただつながって、その世界のもたらした1枚の絵から音楽を作っていく。それは本当に楽しくも不思議な作業でしたよ。

ドキュメント映像に映っていたのはジョンさんのスタジオですか?

いや、あれはスタジオじゃないですよね。もうリビングみたいなところ。

ああいう環境でレコーディングできたことも良かったんでしょうね。

あれがいいし、あれでいいし。このアルバムはどっかり自然に根づいてるから、何ならどこでもいいです(笑)。“鳥の声が入って何が悪いの?”だし、車の音が入ったって別に気にしないし、“そういった生活音も含めて音楽になりうるんじゃないか?”というところですからね。

だからこそ、“このアルバムを聴いて熟睡しろ!”というのも分からなくもない(笑)。

“1曲目で寝ちゃいました”というのは最高の誉め言葉で。聴いた人に何かしらの究極の心地良さを運んでくれて、眠りという、さらなる究極の癒しになるようなパスができたら、もう本当に十分ですもんね。

本来“音楽作品を聴いて寝てしまいました”というのは微妙な台詞ではありますが、今作に関してはそれでもいいんですよね。

そうそう。だから、今回は人間としてもう一個大きな転換があったんだと思います。その台詞を自分で言った時に、人生の中での場面転換があったと思いましたよ。

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