高泉淳子「ちょっとワインを飲みに来
る感覚で気軽に来て欲しい」~今年も
ア・ラ・カルト公認レストラン『僕の
フレンチ』が開店

1989年、青山円形劇場(2015年に閉館)で一つの作品が産声を上げた。『ア・ラ・カルト』というタイトルの付いたその作品は、クリスマス時期のレストランを舞台にしたショートショートのお芝居と生演奏で展開する音楽劇として、その後毎年上演を重ね、20年目に初演からのメンバーだった白井晃と陰山泰が卒業、25年目はずっとホームグラウンドとしてきた青山円形劇場での最後の公演、30年目を迎えた2018年には東京芸術劇場シアターイーストと近鉄アート館で上演、と様々な節目と変遷を乗り越えてきた。
そして2019年、『ア・ラ・カルト』の番外編として、よりライブショー色の濃い『僕のフレンチ』をeplus LIVING ROOM CAFE & DININGでスタートさせ、2020年はコロナ禍により無観客配信公演、2021年は有観客配信公演として上演を続けてきた。そして今年(2022年)もまたクリスマスの時期に『僕のフレンチ』が上演されることになった(12月19日~26日)。今年は昨年よりも公演数もゲストも増え、全8公演のうち6公演を配信とのハイブリッドでお届けする。
初演以来『ア・ラ・カルト』を牽引してきた高泉淳子は、34年目を迎えた今年の公演をどのような思いで上演するのか、話を聞いた。

■今回の6人のゲストは大きく3グループに分けられる
――今年も『僕のフレンチ』の時期が近づいてきました。今回もまだフルキャパではなく、80%くらいのお客様を入れての公演になるそうですが、昨年に比べて公演期間は伸びましたね。
昨年の倍にしてみましたが、今年もやはり油断ならない状況下で正直大丈夫かな、と思ってしまいますね。もうコロナ禍になって3年目で、やり続けなきゃいけないという思いもありますが、演劇にしろライブにしろこの3年でお客さんは減っているんですよ。一度行かなくなってしまうと足が遠のいてしまう、ということはステージに限らず何でもそうだと思います。その分配信を見てくれるかというと、配信も最近は売れなくなってきていることを感じます。ただ、『ア・ラ・カルト』や『僕のフレンチ』みたいにじっくり見るというよりかはもうちょっと気軽なスタンスで見られる演目は、配信に向いてる気はしています。今回は8ステージ中、春風亭昇太さんとレ・ロマネスクTOBIさんが2回出演してくれますが、配信は1出演者につき1回ずつということにしました。
――ゲストの方も昨年の4人から6人に増えました。昨年から引き続きの4名(春風亭昇太、ダイアモンド☆ユカイ、レ・ロマネスクTOBI、ROLLY)と、2019年以来の篠井英介さん、2018年以来の尾上菊之丞さんです。
今回のゲストは、菊之丞さんと英介さん、ユカイさんとROLLY、昇太さんとTOBIさん、と大きく3グループに分けられるかなと思っているんです。TOBIさんは実は落研出身で落語がうまいんですよ。なので、今回はゲスト出演パートの話の内容を3パターン作ってみる予定です。今はちょうど菊之丞さんと英介さんにはどんな話をやっていただこうか悩んでいるところです。
菊之丞さんは2018年に初めてご出演いただいてすごく素敵だったので、またご一緒したいなと思っていたのですが、劇場ではない場所での公演にお呼びするのはどうなんだろう、と思ってしまったんですね。でも聞くだけ聞いてみようかな、と思って「劇場じゃない場所でステージが狭いんですけど」とお話ししたら、「僕は立てて手が延ばせるだけのスペースがあればどこでも踊れます」って言ってくださったのです。
英介さんにも今回オファーするか悩んでいたんですけど、英介さんは「どうして早く言ってくれないの!」って今回もすぐ快く引き受けてくださって。英介さんには89年に『ア・ラ・カルト』が始まる1年前に、遊機械◎全自動シアターが番外公演のような形でやっていたシーズンオフシアターの『シアターライブ』という、『ア・ラ・カルト』の元になった作品に出ていただきました。そのときはまだ生演奏ではなかったのですが、クリスマスの時期に3週間上演して客席も満杯で、それを見に来ていた青山円形劇場のプロデューサーが「これをうちでやってみませんか?」と声をかけてくれて、次の年に『ア・ラ・カルト』が始まったんです。
――篠井さんは『ア・ラ・カルト』のことを黎明期からご存じなのですね。
英介さんは日芸出身で加納幸和事務所、後の花組芝居というところでお芝居をしていて、アリスフェスティバルで一緒になったときに「篠井英介っていうすごい人がいる」って噂で聞いて、向こうは向こうで「高泉っていうヘンなのがいる」って聞いていたみたいで(笑)。お互い同い年だし、劇団をやっているし、という共通点も多かったんです。今もこうしてお互いよく頑張ってるなぁ、なんて思います。
(筆者注:アリスフェスティバルとは1983年から2015年まで新宿にあった小劇場「タイニイアリス」で開催されていた演劇フェスティバルで、篠井と高泉は1986年と1987年にこのフェスティバルの参加者として顔を合わせている)

■34年続いてきた『ア・ラ・カルト』「辞めるときには理由が必ず出てくる」
――今回のサブタイトル「レストランは人なり」に込めた思いを教えてください。
先日「私はもう人生の最終章なので、あと10年何をすればいいか考えている」という相談を受けたことがあったのですが、私はそういうことではないと思っていて。誰だって明日なんて未知数でどうなるかわからないじゃないですか。だんだん歳もとっていくし、失っていくものも多いし、それでも自分ではいつ終わりが来るかわからない中で人生が続くわけですよね。そんな綺麗に線を引いたようなかっこいい終わり方なんてないと思うんですよ。そうすると例えば「もっと売れたい」とか「誰かに評価してもらいたい」とか、私たちの生きている時間はほんの限られたものなのにそんな微々たることを目標にしていたら生きていけないな、ということをものすごく感じるようになったんです。
例えばコーヒーを美味しく淹れたい、とこだわっている人がいて、その人はこだわることをつらいと思うことはなくて、逆にこだわらないでいることの方がつらい、自分がこだわりたいからやっているんですね。その人は「他人からの評価」には目を向けていなくて、あくまでも自分がこだわるということを中心にしていて、その視点を持っているか持っていないかによって、ものすごく人生って違うんだな、と感じます。自分もそういう人になりたいという気持ちもあるし、そういう人に出会いたいなという気持ちもあるし。だから「レストランは人なり」だし、「舞台も人なり」だし、「役者は人なり」だし、すべてのことがそこに行きつくと思います。
私自身が「お客さんに楽しんでもらわなきゃいけない」ということを一番中心に考えてきた人間だったんです。でも先日、今回の公演に向けての音楽リハーサルをやったときに、むしろ自分たちのためにやっているんだな、と思ったんです。以前はお客さんに「美味しい」って言ってもらうために何とかしなきゃ!って思っていたのが、自分たちが美味しい料理を作りたいから作って、それを提供すればいいんだな、というのはここにきてものすごく感じますね。
――お話しをうかがっていると、高泉さんはじめこの作品を作り上げている方々が「職人」のようだな、と思いました。
初演から34年続けてきて、人もどんどん変わって行って、初演からのメンバーは私と中西俊博さんと小道具のちばあけみさんしかいなくなりました。「ここで終わりなのかな」と思うタイミングは何度もありましたが、自分ではまだ終わりとは思えなかったんですよね。30年目の東京芸術劇場の公演で終わらせようか、ということになったけれども、中西さんと「今度は前から思っていた、ワインとかお料理とか食べながらもっと気軽に見られるものをやらない?」という話になって、それで『僕のフレンチ』をスタートさせました。この先あと何年やるかわかりませんが、昨年のインタビュー記事の中に書いてもらった<『ア・ラ・カルト』を「やらない」という選択が私の中にはない>という文章を読んでくれた人たちが「それってすごいことだね」って言ってくれたんです。多分、辞めるときには辞める理由が必ず出てくると思うんですよ。動けないとか、声が出ないとか、多分「やるか、やらないか」なんて悩まなくても「うん、無理だね」って思う時がいずれ来ると思うんです。それがない限り、「どうしようか」と悩むことに時間をかける必要はないと思っています。自然と来るその時を待てばいいんじゃないかな、って。

■見方や感じ方は人それぞれ 自由に見てもらって構わない
――『ア・ラ・カルト』も『僕のフレンチ』も、芝居のパートと演奏のパートがありますが、高泉さんの中ではそれぞれのすみ分けのようなものはあるのでしょうか。
単純に表現方法の違いだけで、私の中では分けているものはないですね。歌を聞くときって、最初から最後まで1音も聞き逃さないようにする、って人は多分ほとんどいなくて、ある人はサビのところを口ずさんだり、ある人は詩が心に残ったり、とそれぞれ聞き方や感じ方は違いますよね。芝居も同じスタンスで、自由に見てもらって構わないんです。私自身、子どものときから「こう見なさい」とか「こう読みなさい」とか言われるとすごく不自由を感じていたので、見方はどうぞご自由に、と思っています。
この作品の作り方は、レストランの食事のときにア・ラ・カルトで注文するのに似ているかな。料理の味わい方はご自由にどうぞ、でも仕掛け人としてはこのワインを飲ませたくて作った料理で、お客さんが自然とそのワインを飲んでくれたら「しめしめ」と内心喜ぶ、みたいな感じですかね。初めから「これを食べてください、これを飲んでください」って言われるよりも、自然とそっちに行くように仕掛けるというのが私は好きです。私がこうした表現に関わっている間は、そういう作り方をしていくのかな、と思います。
――今回の見どころを何か一つ挙げていただけますか。
菊之丞さんに「この曲で踊ってもらいたい」と思う曲があって、思い切って提案してみたら「ずっとそれで踊ってみたかったけど、僕にはその覚悟がなかったし、そういうタイミングがなかったので、ぜひ挑戦したい」と言ってくれたんです。私にとっても特別な思いのある曲なので、これをやれるだけでも今年開催したかいがあるな、と思っています。菊之丞さんがこの曲でどんな踊りを見せてくださるのか、本当に楽しみです。
――最後にお客様へのメッセージをお願いします。
なんだかんだ言って、今年も大変だったじゃないですか、いろんなことが起きて。そんな中でもこの作品は皆さんと一緒に楽しめる時間でありたいな、と思っています。何といっても様々なジャンルから素敵なゲストたちが出てくれますので、どんなもんかな、とのぞきに来て欲しいです。「ワインを一杯、会話を楽しむ、人生を楽しむ」がこの作品のテーマでもあります。だから本当に気軽に、ちょっとワインを飲みに来る感覚でぜひお越しください!
取材・文=久田絢子

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