「令和に『濱マイク』を佐藤流司とい
う人間が演じる意味を見つけたい」ー
ー2.5次元舞台で人気キャラを演じ続
ける葛藤も露に

映画監督、林海象によるハードボイルドムービー『私立探偵 濱マイク』三部作の第一弾、『我が人生最悪の時 THE MOST TERRIBLE TIME IN MY LIFE』の舞台化が決定。12月15日(木)〜18日(日)にサンシャイン劇場、12月29日(木)〜30日(金)に森ノ宮ピロティホールにて上演される。主人公の濱マイクを演じるのは、昨年朗読劇でも同役を演じ「当たり役」と言われた佐藤流司だ。映画、ドラマと長年に渡り多くのファンに愛されてきた主人公に新たな命を吹き込み、令和の濱マイクを誕生させるべく再び「名作」の世界へと挑むその心意気とは。
佐藤流司
──はじめに舞台化決定を聞いたときのお気持ちをお聞かせください。
前回朗読劇をやらせてもらった時に、自分自身「これは絶対舞台化したほうがいい」と熱望してたんですよ。「次もし『濱マイク』をやらせてもらえるとしたら絶対に舞台。台本を手から離してしっかりとアクションもやったほうがこの作品は映える」と思ってたので。だから決まった時は「びっくり!」とかじゃなく、「よっしゃ!そうでしょうね」と。もう成功が約束された、大船に乗ったような気持ちでしたね。
──ホームタウンの横浜、黄金町で映画館の二階に探偵事務所を構え、雑多な事件の数々に首を突っ込んでいく濱マイク。そのキャラクターの魅力というと?
とにかく男らしいし、男が憧れる男だなぁと。家族に弱くて、情に厚くて、周囲の人を心の底から大事にするところとか……。あとこのエピソードでは指が落ちるところがあるんですけど、「指、取れたー」って(笑)、ポップというか「そんな感じなんだ!?」というリアクションとかも、なーんか魅力がありますよね。楊(海平、ヤン・ハイピン)さんと知り合って以降何かにつけて「金はいい。金はいい」と突っぱねて返すあたりも、上っ面じゃない真の優しさがあって好きですね。それがまた自分の父親にも似ていたりして、朗読劇で一度演じてからさらに親近感を抱いているところです。ちなみにうちの父親は商売をしてるのですが、お客さんからあまりお金を取らなくていつも「儲けが出ない」と嘆いているから俺が「儲けは取れよ!」と言うんですけどね(笑)。そういう心意気みたいなところが似てるかなと思います。
──お父様に似ていると言うことは……。
自分もね、濱マイクとは中身が結構似てる。だから朗読劇でも彼の行動原理に全然疑問もなく、台本を読んだままにさっぱりとお芝居できました。その演じやすさが、自分に近かったと実感したポイントですかね。俺も基本的に先輩でも後輩でも普通にすぐ奢っちゃうし、頼まれたらお金とかも貸しちゃう。それで後々自分が大変になっちゃうことも多々あるんですけど(笑)、人の頼み事を断らないところはかなり似てる気がしますね。
佐藤流司
──今作でマイクに頼み事をするのは謎多き青年、楊海平。演じる寺西拓人さんとは今回が初共演だそうですね。
まだちゃんとお会いしてないんですけど、実は結構共通の友人が多くて。しかも俺が個人的に「ああこいつ好きだなぁ」と思える人たちと交流があるらしいので、なんとなく自分と気が合いそうな気はしていますね。楊さんは今作のキーマンですし、自分でも演じてみたい魅力的なキャラクター。今回の俺はもう楊推しですよ。
──演出の西田大輔さんとのタッグも楽しみです。
西田さんと言えばやっぱりアクション、でしょう。素手、拳銃、日本刀……色々新しいことができそうですし、あとはどれくらいオリジナルでいくのかも楽しみ。「モノクロのあの作品世界を色とりどりに彩っていく」みたいなお話しもされていたので、美しい舞台セットになりそうな気もしています。台本はまだこれからですが、内容はかなり分厚い家族愛や友情みたいなものがしっかり描かれているので、目にも楽しく、心にも優しい作品になるのかなぁと想像しています。
──朗読劇から舞台へ。佐藤さんの濱マイクもさらにブラッシュアップされていくかと。
前回は正直本を読みながらだったので、映画を観たりとか原作をあまり意識しないように作ったんです。自分らしく演じていこうと思って。でも今回は舞台化ですので、台本を読んで、自分でしっかり感じた初期衝動を大事に作っていきたい。令和に、佐藤流司という人間がやる濱マイクの意味を自分自身見つけていきたいなと。その上で原作を愛している方にも「あ、今のこの仕草濱マイクっぽいなぁ」と思ってもらえる立ち居振る舞いとか癖もちょっと盛り込めたらセクシーですよね。朗読も全力でやりましたけど、今回のようにアクションとか身体で見せるお芝居をすることによって、より臨場感の伝わる作品をお見せできますし、迫力あるナマモノのファイトシーンは、舞台ならではのもの。他にももしかしたら歌とか、より舞台らしい演出で「この舞台の濱マイク」をお届けできるんじゃないかと思います。
佐藤流司
──佐藤さんはこれまでも人気作の人気キャラクターを数多く演じています。原作を背負って舞台へと乗せていく経験を重ねる中で「今」感じていること、思っていることはありますか?
のっかかってくるプレッシャーは絶対にあるものです。そもそも「しょっぼい作品だなぁ」と思いながら演じる人はまずいないし(笑)、大前提としてどの作品もみんな誇りを持ってやってると思うんですけど。まあ……でも今年いろんな経験をさせてもらって、少しずつ「舞台を背負っていく意味」も自分の中で変わりつつある状態で。だから、こっちこそ「そこ、どうなんでしょうね?」という感じです(笑)。今までの自分はどのインタビューでも「佐藤流司という存在を消すことが演じるということだ」という言い方をしていたんですけど、例えば今、映画とか、ストレートのドラマや舞台に出演させてもらうことが増えてきたことで、「消す」行為がデメリットになる機会が多くなってきたなぁと感じてるんですよね。なので、最近は今までの考え方を少し変えていく必要があるという意識を持ち始めてもいる。やっぱり自分が「佐藤流司」という何者にも代えられない存在であり、佐藤流司にしかできないお芝居を見つけてやっていかないと若い子たちに埋もれていくなぁとも思ったし。考え方として「自分らしい、自分にしかできないお芝居を見つけていく」スタイルにしていかないと、と思っています。この濱マイクもやっぱりモノマネはしたくない、自分がやる意味をみなさまにお見せしたいですし、むしろもうお芝居は一生「そこ」でしか上手くならないというのをこの前思ったので……。
──意識変革をしていく具体的なキッカケがあった。
それは……言葉で伝えていくのは結構難しくもあって……うん、そうですね。これは2.5次元舞台をやっている役者はみんなそうなのかなと思うんですけど、評価されるところがたまにお芝居じゃない部分なことがあって。でも俺はそれってもう役者としては終わってるよなという気持ちになるんですよ。なので、だからこそ今後はちゃんと自分の中で説得力のあるお芝居をする力を増していく必要が、もっともっとあるよなぁと感じている。周りを見てても感じますけど、原作モノは演じること以外に重きを置いてしまう人が多い気がしていて……。やっぱり役者という仕事上、演じることをまず第一にしないといけないなぁ。そこじゃないところに集中しちゃうと役者としての本質から外れちゃうなぁ……と思うんです。もちろん、お客様のニーズにも応えて……と考えると、難しいところではあるんですけど。
──経験を積んできたからこそ表現のバランス感覚が敏感になり、次の高みが見えてきているのかも。
やっぱり2.5次元作品とそうじゃない作品の、両方できるに越したことはないですし、両方の大変さをわかっているだけでも出てくるお芝居は絶対違ってくる。そこに、向き合いたい。自分は今後もこの世界の新参者としていろいろ経験し続け、いろいろ悩まされ続ける俳優人生だといいなぁと思っています。
佐藤流司
──本作は2022年を締めくくる一作となります。今年はどんな年になりましたか?
みなさんからどう見られているかはわからないですけど、個人的には精神的にあまりよろしくない一年だったかな。落ち込むこととか悩むこととかも多かったなぁーという年でしたね。おみくじで言うと、「凶」(笑)。
──お、それはもう上がるしかないやつです。
そうそう。そう言った意味で、しっかりいろんなことに対して勉強させてもらえる年だったなぁとも思います。だからもう来年は上がる確信しか持ててないんで。
──良い予感! 本作でも弾みをつけていきたいですね。
ですね。老若男女みんな楽しく観られるタイプの作品だとは思うんですけど、失う悲しみに直面する物語でもあります。なので、例えば友達と喧嘩したとか、家族とぶつかっちゃったとか、人間付きあいがちょっと今大変だなぁみたいな人に観ていただけると、すごく「人を大事にしよう」と思い直せる舞台なんじゃないかな。この作品をキッカケに、蔑ろにしていた人との繋がりをもう一度大事にしてもらえたら。舞台はやればやるほどよくなっていくものですからね。大切にスタートし、東京から大阪へ、反省しながら改善しながら良い作品をお届けしてまいります。この年末、ぜひ劇場へ足をお運びいただいて、帰りにそばでも食って(笑)、あったかい気持ちで帰っていただけたらなによりです。
佐藤流司
取材・文=横澤由香

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