歴史的な建造物と自然の美しさ、京都
最大級の伽藍を誇る東福寺 初出品の
寺宝を含む大規模展覧会を開催 報道
発表会レポート

京都最大級の伽藍(寺院の建築物の総称)を持ち、古都を初夏の青もみじと秋の紅葉で彩る東福寺。境内の渓谷にかかる通天橋や、国の名勝にも指定された本坊庭園など、歴史的な建造物と自然の美しさが際立ち、国宝と重要文化財を計105件も所蔵する寺院であるが、意外にも今まで大規模な展覧会が開催されたことはなかった。
東京国立博物館 平成館にて、2023年3月7日(火)から5月7日(日)まで開催予定の特別展『東福寺』(京都国立博物館 平成知新館では、2023年10月7日(土)から12月3日(日)まで開催予定)は、14年の歳月をかけて修復した吉山明兆(きっさんみんちょう)の《五百羅漢図(ごひゃくらかんず)》などの東福寺の寺宝を公開する、満を持して行われる大規模展である。以下、特別展『東福寺』報道発表会の様子と、展覧会の見どころを紹介しよう。
初出品や初公開の作品多数! 東福寺の寺宝が盛りだくさん
報道発表会にて、大本山東福寺 寺務長・岡根方春氏は、「東福寺に伝わる門外不出・未公開の書画・文物を含めた禅宗文化財をあまねく出品・紹介するもの」と、本展について説明。東京国立博物館 副館長・富田淳氏は、東京国立博物館ではこれまでも禅宗寺院の展覧会を多く開催してきたが、東福寺の展覧会は念願であり「禅宗文化の全貌を幅広く紹介する、まさにオールアバウト東福寺な展示」と熱弁した。
大本山東福寺 寺務長 岡根方春氏
東京国立博物館 副館長 富田淳氏
京都国立博物館 副館長・栗原祐司氏は、東福寺が所蔵する鎌倉・室町時代の作品をまとめて紹介する機会であると述べ、本展にかける思いと開催の喜びを余すところなく語った。
京都国立博物館 副館長 栗原祐司氏
展示作品と見どころの紹介は、東京国立博物館 学芸企画部特別展室 研究員 高橋真作氏と、京都国立博物館 学芸部列品管理室 研究員 森道彦氏によって行われた。
左から:東京国立博物館 学芸企画部特別展室 研究員 高橋真作氏、京都国立博物館 学芸部列品管理室 研究員 森道彦氏
東福寺は、鎌倉時代に摂政・関白を務めた九条道家の発願で設立された寺院であり、その名は、奈良の東大寺と興福寺から一文字ずつ取っているのだそうだ。九条道家が開山(初代住職)に迎えたのは、中国(南宋)で修業し帰国していた禅僧・円爾(えんに)だった。本展では、円爾の直筆の書《遺偈(ゆいげ)》などのほか、円爾が師事した無準師範(ぶじゅんしばん)が自ら賛を書き、円爾へと贈った《無準師範像》なども展示される。
円爾は帰国してからも中国仏教界と交流を続けており、そういった国際交流への熱意は弟子たちにも受け継がれ、東福寺には禅宗文化の礎となる資料や美術品が集結している。本展では多くの優れた弟子を輩出した円爾とその影響について、強く実感することができるだろう。
また、円爾の孫弟子にあたり、東福寺第15代住職の虎関師錬(こかんしれん)の手による初出品の書《虎 一大字》も見逃せない。 詩文などに長け、学識豊かであったとされる虎関師錬が書いた、文字にも絵にも見えるこの書はミステリアスで魅力的な怪作だ。そのほか、日本の彫刻史上もっとも有名ともいえる運慶の作ではないかとされている、法堂本尊の釈迦如来を守護する《四天王立像のうち多聞天立像》も出品。会場では多聞天の堂々とした体躯と鋭い眼差しに圧倒されるだろう。
吉山明兆の名品、《五百羅漢図》の全貌が明らかに!
本展の目玉となる展示作品は、江戸時代までは雪舟と共に「画聖」と並び称された室町時代の画僧、吉山明兆の手による重要文化財《五百羅漢図》である。14年かけて修理された本作に関し、今回は、現存している47幅と、江戸時代に描かれた2幅、また平成になってから描かれた1幅の合計50幅が一挙に展示され(会期中、展示替えあり)、その全貌が初めて明かされるのだ。
水墨と極彩色が見事に調和した《五百羅漢図》は、明兆30代前半の作品で、登場人物が生き生きと息づき、画家の精緻な技術が遺憾なく発揮されている。全体的にコミカルで、細部に至るまで楽しめる要素が詰まっているため、絵の隅々まで見たくなるだろう。なお、本展のチラシやビジュアルは、《五百羅漢図》のビビッドさを存分に活かしたポップなデザインである。
報道発表会時のスライド。《五百羅漢図》を使ったメインビジュアルの一部が利用されている。
東京国立博物館の《五百羅漢図》の展示は3期に分かれており、1期あたり15幅程度展示され、展示替えに合わせて3回来ると全て鑑賞できるそうだ。また、《五百羅漢図》以外の明兆作品では、3メートルを超えるスケールと大胆な線に息を呑む《白衣観音図(びゃくえかんのんず)》や、明兆円熟期の伸びやかな線に魅了される《達磨・蝦蟇鉄拐図(だるま・がまてっかいず)》なども展示されるので、卓越した画力を存分に味わうことができる。
巨大な仏手や見ごたえある仏像など、目を見張るスケール感の展示
東福寺の建造物は巨大で圧倒的なスケールを誇り、「東福寺の伽藍面(がらんづら)」とも呼ばれてきた。また創建当初に巨大な仏像が安置されており、「新大仏寺」とも称されていたという。本展はそんな東福寺のスケール感を実感できる展示も多く、とりわけ東福寺旧本尊の2メートルを超える巨大な左手《仏手》には目を見張るだろう。
仏像本尊の脇侍であり、釈迦の十大弟子のうちの2人である《阿難立像》(あなんりゅうぞう)《迦葉立像》(かしょうりゅうぞう)も見ごたえがある。この二体の立像は、2メートル60センチの現本尊・釈迦如来像の隣に控える像で、中国の宋時代の仏像様式の影響が見うけられる。
その他、東福寺全体を詳細に描いた《東福寺伽藍図》は、室町時代を代表する禅僧である了庵桂悟(りょうあんけいご)が賛を記したもので、東福寺の建築物の方位や配置、スケール感を示しつつ、境内の通天橋や木々なども詳細に描かれている。
東福寺初の大規模展となる特別展『東福寺』は、14年の歳月をかけて修復された《五百羅漢図》がお披露目される記念すべき展示であり、展覧会初出品や修理後初公開の寺宝を多数鑑賞できる、非常に貴重な機会である。また東京会場では、境内の一部を再現した巨大伽藍も体感可能だ。東福寺の知られざる重要文化財や国宝に圧倒される本展、東京国立博物館での春の公開を楽しみに待ちたい。

文・撮影=中野昭子

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