KIRINJI、ミツメ、Bialystocksが月光
の下で奏でる極上の音楽ーー秋の夜長
の『SONO SONO in the moonlight』か
ら神戸の新フェス『KOBE SONO SONO』

『SONO SONO in the moonlight』2022.10.21(FRI)大阪城音楽堂
10月21日(金)、大阪城音楽堂で『SONO SONO in the moonlight』が開催された。「秋の夜長、月光の下で心地良い空間を。そんな園苑(SONO SONO)でゆったりと音楽を堪能」というテーマの本イベントは今回が初開催となるイベントで、来年春4月8日(土)に行われる新フェス『KOBE SONO SONO ’ 23』に向けたキックオフ的な位置付けのもの。出演者はKIRINJIとミツメ、オープニングアクトにBialystocksというラインナップ。まさに秋の夜長にぴったりで、金木犀の香りも相まってこれ以上ないような贅沢な空間となった。今回はそんな一夜の模様をレポートする。
『SONO SONO in the moonlight』
日中は過ごしやすく、夕方は少し肌寒いかな?と思うほどの気温。秋らしく、気持ちの良い金曜の夜。すっかり暗くなった18時前、続々と入場するオーディエンスたち。仕事帰りとおぼしき人々も、ドリンク片手にゆったりと開演の時を待っていた。気のせいかもしれないが、いつもより会場内の照明が落とされているような気がした。月光の下で、というコンセプトに沿った演出なのだろうか。夜の闇をほどよく体感できる環境で、とても心地が良かった。
ステージ右側には人気カフェ・ASAKARA GOOD STOREのキッチンカーが出店。ホットコーヒーやクラムチャウダー、「アウトドアスパイス・ほりにし」をかけたポテトフライなど、心も体も温まるメニューが用意されていた。キッチンカーは優しく灯るライトで装飾され、大阪城公園の木々に囲まれた、まるで森の中のフードショップのよう。
FM802 DJ 土井コマキ
開演時間5分前になるとFM802 DJの土井コマキがステージに登場。本イベントの説明を行い、「今日は本当に素晴らしいアーティストが登場してくれます。奇跡的だと思いませんか、この組み合わせ」と興奮したように話していた(筆者も超絶同感した)。そして、来年の春に行われる『KOBE SONO SONO ’ 23』の開催を発表。「SONO SONO」とは「園苑」からきている言葉で、「園」は果樹・花・野菜などが植えられた庭園、「苑」には芸術の集まるところという意味があるそう。会場となる兵庫県・道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢には、果樹園や花畑、遊園地、広大な芝生、温泉、ドッグランなどの施設があり、大人も子どもも楽しむことができる。土井は「今日のラインナップを見ていただければわかると思うんですけど、次も気持ち良いラインナップになることと思います。次は神戸でお会いしたいと思いますのでよろしくお願いします」と挨拶。そして「春に想いを馳せる前に、まずは秋の夜長、じっくりとお楽しみください!」と投げかけ、Bialystocksを呼び込んだ。
Bialystocks
Bialystocks
オープニングアクトとして登場したのは、Bialystocks。映画作家でもある甫木元空(Vo.Gt)と、数々のアーティストサポートやジャズの分野で主に活動する菊池剛(Key)からなる2人組バンドで、2019年、甫木元空監督作品の映画「はるねこ」の生演奏上映をキッカケに結成した。この日はサポートメンバーに西田修大(Gt)、Yuki Atori(Ba)、 小山田和正(Dr)を迎えた5人編成だ。
菊池のピアノがしっとりと会場に満ち、甫木元の歌声が響き渡る。1曲目は2人だけで「日々の手触り」を披露。あまりの美しい歌声に客席は釘付けに。風に乗って香る金木犀の匂いが、この季節だから味わえるシチュエーションをさらに彩った。続く「Winter」ではサポートメンバーもジョイン。どこまでも伸びていきそうな透明感のある歌声で高らかに歌われる冬の曲。終盤はゴリゴリのバンドサウンドで圧倒し、野音全体を魅了した。
Bialystocks
さらに<I don’ t wanna love you,my baby>と繰り返される歌い出しから「Nevermore」へ。サポートメンバーも実力者揃いであることもあると思うが、音が喜んで鳴っているようだ、と感じた。どこまでも曇りなく伸びる歌声にうっとりする。後半は徐々に加速し、疾走感のあるベースリフとドラムのビートに乗せ、ものすごい声量の歌声を堂々と放つ。
甫木元のボーカルと低音コーラスが印象的な「I Don’ t Have a Pen」では、コーヒーの香りが鼻腔をかすめた。菊池のピアノと西田のギターがうなり、最高としか言いようのない空間が作られてゆく。MCでは甫木元が「ゆるゆると楽しんでいただければと思います」と一言。ラストは「Over Now」。菊池のピアノが様々な表情を見せ、西田のギターソロが高らかにわななく。情景の浮かぶ歌詞と耳に残るメロディ。美しいだけでなく底力を感じさせる甫木元の歌声は、きっと見る者の心に残ったに違いない。20分のステージながら、語彙力がなくなるほどの素晴らしいステージングで圧倒したBialystocks。オープニングアクトとは思えない存在感を印象づけた。
Bialystocks
ミツメ
ミツメ
続いては東京発の4人組バンド・ミツメ。SEが流れると、それだけで早くもミツメワールドに連れていかれる気分になる。川辺素(Vo.Gt)が挨拶し、1曲目の「スペア」へ。浮遊感のあるサウンドに川辺の素朴ながらも芯のある歌声が重なる。大竹雅生(Gt)が奏でる、丁寧かつノイジーなギターが秋の空気と心をゆったりと震わせた。
ループするリフが最高に心地良い「なめらかな日々」では、メンバーも気持ち良さそうに体を揺らす。nakayaan(Ba)のグルーヴィなベースも印象的で、川辺は客席をじっと見つめながら歌声を響かせ、アウトロの大竹のギターリフがまた楽曲を引き立てる。とにかく最高だ。そして須田洋次郎(Dr)のビートから夜にぴったりの「トニック・ラブ」をプレイ。力強いのにふんわりとした抜け感もある、これはミツメにしか出せない境地だなとしみじみ感じた。バンドも結成14年目を迎え、チャレンジも欠かすことなく、確実にパワーアップしているのだということが伝わってきた。
ミツメ
チューニングともセッションともつかないイントロから始まった「shadow」は、今年2月に大手町三井ホールで開催されたレコーディングライブの音源「mitsume Live “Recording”(今年8月リリース)」に収録された楽曲。作品自体が実験的な試みのため、演奏からもそんな側面を感じられる。4人のアンサンブルが没入空間を作り出し、nakayaanと大竹は高まるように大きく体を動かして演奏する。赤いライトがどこか野生的で、夜の野外に似合っていた。
MCでは「本当に今日は良い天気で気候も良くて、ちょっと肌寒いですが、野外で演奏できてとても嬉しいです。そしてひとつイメージが違ったのは、青空の下でやるつもりだったので、完全に日没の時間をイメージしていなくて。よくよく見るとフライヤーも夜という感じだったんですけど、思い思いの感じでお楽しみいただけたらと思います。よろしくお願いしまーす」とマイペースなトークをする川辺。どうやら明るい時間の野音を想定していたようだが、夜にもしっかりハマっていた。
ミツメ
続いてDisney+で配信中のオリジナルドラマシリーズ 『すべて忘れてしまうから』のエンディング楽曲にもなっている新曲「メビウス」を披露。どこか切ないメロディとギターリフが響き渡る。「気まぐれ女」ではドリーミンな照明とスモークの演出も手伝って、気持ち良く音が空に伸びてゆく。
そして須田のスティックカウントから、こちらも新曲の「忘れたい」を披露。軽快なインディロックに、シューゲイザー要素も感じられる大竹の轟音ギターが空間に広がりを与える。ループする歌詞やリフが本当にクセになる。ノイジーとクリアの融合が至高の時を生み出した。続く「リピート」では川辺の裏声を使った高音ボーカル、nakayaanと大竹のコーラスワークが美しく、客席はただただ聞き入っていた。
ミツメ
年内も大阪でライブがあるという嬉しいアナウンスを経て、ラストは「エスパー」。軽やかなギターポップにイントロから客席も体を揺らす。ゆらぐギターや甘酸っぱく共感度の高い歌詞。個人的にミツメのライブを見るのは数年振りだが、確実にサウンドが逞しくなった彼らの堂々とした姿は非常にエモーショナルだった。新旧織り交ぜたセットリストで、極上のライブを見せてくれた4人だった。
KIRINJI
KIRINJI
この日のトリはKIRINJI。待ってましたと言わんばかりの拍手に迎えられるメンバー。堀込高樹(Vo.Gt)が「今日は『SONO SONOという素敵なイベントでイケてる人たちと対バンできてとても嬉しいです!」挨拶。サポートは千ヶ崎学(Ba)、シンリズム(Gt)、宮川純(Key)、小田朋美(Syn.Vo)、So Kanno(Dr/ex.BREIMEN)という豪華な面々だ。
1曲目は「非ゼロ和ゲーム」。So Kannoのスティックによるカウントを合図に、ものすごいシンセサウンドの圧が迫ってくる。堀込のクリアな歌声が野音の空を突き抜け、声量の大きさに圧倒される。小田のコーラスも美しく際立ち、1曲目からプロの実力を提示した。続き、冒頭の<ハハッハハッハ>というコーラスが世界観を作り上げた「薄明」では、堀込と小田のハーモニーはさることながら、周りを固めるサポートメンバーのハイレベルな演奏のオンパレードで目も耳も釘付けになる。
KIRINJI
続いては「タンデム・ラナウェイ」。宮川と小田のダブルシンセと情緒的かつタイトに支えるSo Kannoと千ヶ崎のリズム隊が秋の夜空に溶けていく。木琴のような転がる音色が宮川の指先から繰り出される。パワフルな歌声とムーディーな雰囲気満載のアンサンブル、シンリズムのギターソロにはあまりの心地良さにトリップしそうになった。コーラスも素晴らしく余韻が堪らない。
MCでは堀込が「新旧織り交ぜてやっているんですけども」と、これまで披露した曲の説明を行いつつ、メンバー紹介。「割と長いことやってて毎回曲を選ぶの大変なんですけど、今日は懐かしい曲をやろうかなと思ってるんですけど、その前に1番新しい曲をやります」と、6月に配信リリースされた新曲「Rainy Runway」を披露。小田&シンリズム&堀込の3人によるハーモニーには思わず鳥肌が立った。メロディアスでソウルフルなプレイで客席を魅了し、結成26年目という長いキャリアを積み重ねつつ、最新の現在地をも提示した。
KIRINJI
ここで2000年の楽曲「悪玉」を投下。軽快なリズムに客席からはクラップが自然発生。気持ち良さそうに体を揺らし、KIRINJI節とも言えるメロディーを享受できる幸せを噛みしめる。「killer tune kills me」では小田がメインの歌唱を担う。グルーヴィなリズム隊に重なる小田の伸びやかな高音ボーカルにのめり込んでいると、そこに投下された堀込のラップ的なボーカルのカッコ良さにノックアウト。大人の魅力たっぷりのパフォーマンスで会場を虜にした。
KIRINJI
そして「「あの娘は誰?」とか言わせたい」を披露。ソウルフルな演奏には立ち上がって踊るオーディエンスの姿も。堀込が「大阪でも来年ワンマンができるように」と述べ、ラストソング「時間がない」へ。シンセサウンドがダンサブルに会場を盛り上げる。エンディングにふさわしく、徐々に高まる壮大なサウンド。最後は堀込と小田の張り上げる力強いハーモニーが大きく響き、夜空を突き抜けた。あっという間の45分。さすがの貫禄と実力に圧倒される。純粋にもう少しこの時間を浴びていたいと思わされたライブだった。
KIRINJI
『SONO SONO in the moonlight』はこうして幕を閉じた。あの日あの場所に居れたことが幸福だったと言い切れるほど、とにかく3組とも素晴らしくハイクオリティなステージを見せてくれた。
この続きは来年4月8日(土)、道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢にて開催される「おいしい・楽しい」が溢れる『kobe Sono Sono’ 23』にて。北神戸から始まる新たなフェスはどんな出会いと感動をもたらしてくれるだろうか。詳細は続報を待とう。
取材・文=ERI KUBOTA 写真=オフィシャル提供(撮影:ヨシモリユウナ)

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