特別対談 / D.Y.T × lo-key design
D.Y.Tとlo-key design、シンパシー
を感じた2組の共作と、4年間の集大成
的なアルバムに込められた想い

千田耀太と菅野陽太によるR&Bボーカル・ユニット、D.Y.Tが初のアルバム『MULTIVERSE』をリリースした。KMやYonYonなど、実に11組のプロデューサー、アーティストらが参加したバラエティ豊かなアルバムで、多彩な客演が音楽的な華やかさに繋がっている。そして何より、本作はD.Y.Tのアイデンティティを示すアルバムでもある。コロナ禍においても積極的なシングル・リリースを続け、昨年からは作詞・作曲にも関わっていくなど、自身らの音楽性を確固たるものにしてきたふたりは、今回のアルバムで“D.Y.Tの軸”を詰め込めたという。まさに4年の活動における、集大成的な一作である。
『MULTIVERSE』の2曲目「Spinning」には、シンガー・Saltoとプロデューサー・marsh willowによるR&Bデュオ、lo-key designが参加。R&Bという広義のジャンルにおける共通性はありつつも、音楽的にはそれぞれ異なる個性を持った2組と言える。だが、年齢が近く共にデュオとして活動してきた両者には、どこか通ずるところがあるのだろう。今回の取材では、前半はZOOMで繋いだlo-key designと対談を行い、後半はD.Y.Tのふたりに『MULTIVERSE』について語ってもらった。
Interview & Text by Ryutaro Kuroda(https://twitter.com/KURODARyutaro)
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/)
「友だち同士で作ったような感覚」――両者の出会いとコラボの背景
――lo-key designにオファーした経緯から聞かせていただけますか。
千田:D.Y.Tを結成する前から聴いていて、ファンだったんです。今年リリースされた「Outsider」も凄く好きです。
菅野:僕も「BLOOM」が好きで、自分のインスタのストーリーでシェアしたり、本当によく聴いていました。
千田:そうしたらご縁があってラジオでご一緒する機会があって、その時アルバムの話も進んでいたこともあり、おふたりに相談させていただきました。ファンで聴いていたところからこうやって一緒にやることができて、人生不思議だなって思います。
――lo-keyのおふたりは、D.Y.Tにどんな印象を持っていましたか?
Salto:実は昔出ていたオーディションで名前を聞いていたので、僕は個人的に菅野さんのことを知っていました。
――それはボーカルのオーディションですか?
菅野:そうです。D.Y.Tを結成する前なんですけど、当時メディアにも取り上げてもらっていて。それを見てくれていたみたいですね。
Salto:なのでひとりでめっちゃテンションが上がっていたんですけど、それを表に出すのが恥ずかしくて。
菅野:それでこそっと教えてくれたんですけど(笑)。
marsh willow:僕は「torico」だったと思うんですけど、Shin Sakiuraさんのプロデュース・ワークを通して初めて聴きました。なのでお会いするのはラジオの時が初めてだったんですけど、曲はイケイケな感じじゃないですか? なのでSaltoと一緒に緊張してたんです(笑)。でも、おふたりとも気さくな方で安心しました。
――そして制作がスタートしたわけですが、全てリモートでやり取りしていたんですか?
千田:そうですね。リモートと、あとはLINEです。もし会えるのであれば、直接会うことで伝わる体感もあると思うんですけど。ZOOMでできるのはいいなって思いました。顔を見て話せるだけでコミュニケーションが変わってきますし、お互いの熱量も伝わりやすいんですよね。
――一緒に仕事をしてみて、共通言語になるような音楽はありましたか?
千田:お互いが聴いている音楽を教え合ったんですけど、大体めっちゃいいですね!ってなってました(笑)。結構前にHYBSを聴いてもらった時も、Saltoくんがいい感じって言ってくれたり。
marsh willow:あと、Disclosure
菅野:確かに! リファレンスの話をした時、Disclosureの話になってましたね。
marsh willow:DisclosureはD.Y.Tのふたりもlo-keyのふたりも好きだったので、そこで一気に目標が定まったというか。そういう感じですね! ってなりました。女性シンガーをフィーチャーした「Douha(Mali Mali)」を聴いてから、僕の中で第二次Disclosureブームがきていたところなので、そのタイミングで制作できてテンションが上がりました。
――D.Y.Tのおふたりは、Disclosureのどんなところに惹かれていますか?
千田:彼らの音楽には常にキャッチーさがありますし、早いですよね。
――早い?
千田:(トレンドになる)2年くらい前から次に流行る音を使っていたりするので、そういうところは意識して聴いていました。Disclosureが出した音源の中にある、他の人がやっていないサウンドをやりたいと思ったりもします。
――それから制作はどのように進んでいきましたか。
千田:4人でどういうものを作りたいかを話し合って、それから僕らがイメージする全体像をlo-keyのおふたりに伝えました。作業としては、まずビートをmarshくんに詰めてもらったところからですね。
――どんなイメージを伝えたんですか?
千田:自分たちの強みとして、ダンサブルなサウンドが僕らには映えると思っているので、lo-keyを招いてそういう曲をやりたいと思いました。
――なるほど。
marsh willow:なのでリズム・パターンと、キックは四つ打ちというのを最初に決めて、そこは揺るがなかったです。あとは漠然とベースがカッコいい曲にしたいとは思っていました。
――太いベースが冒頭から入ってきますし、足腰がしっかりした曲になっています。
marsh willow:四つ打ちの曲って、クラブでかかった時にカッコいいものがいいなと思っていて。キックとベースで支えて、あとはちょっとしたフィル。最悪それだけでカッコいい曲を作れたらと普段から思っていて、「Spinning」ではそういうことを意識しました。
――シンセの音も気持ちいいですね。これもmarshさんのアイデアですか?
marsh willow:そうです。ビートに関しては僕が勝手にやっていて、それを許してもらっているというか(笑)。
千田:送られてきたものを聴いて、最高っす!という感じでした。
marsh willow:ありがとうございます(笑)。
――次は歌ですか?
菅野:曲のテーマを決めましたね。そこで歌詞の世界観が固まってきたので、僕らでトップラインを作らせていただいて。
千田:歌詞はそれぞれ自分が書いたパートを歌っています。
――自由になることや、しがらみから解放されるような歌になっているように思いました。
千田:この時期は在宅ワークの方も多かったと思うんですけど、詰め過ぎてない? と感じていました。僕自身気晴らししたいと思っていた時期でしたし、たまには休んじゃっていいんじゃない? って思うんですよね。やるべきことはあるんですけど、たまには世の中から解放されて、自分の好きなように生きる時間があってもいいんじゃないかなと。「Spinning」では、そうした気持ちを歌詞に落とし込んでみました。
――lo-keyの曲にも、開放感を促すような曲がありますよね。
Salto:それこそ「Outsider」もそうですし、自分を見つめ直すようなリリックは僕も好きですね。なので今話されたような、日本人特有の気質は僕も感じていたので、同じようにリリックに落とし込みたいと思いました。実際書いてみると、テーマが事前に決まっていて、そこに後から自分で付け加えていくような書き方はしたことがなかったのですごく新鮮でした。
菅野:僕らも男性の方とフィーチャリングするのは初めてだったので、同性同士の気分の上がり方はありました(笑)。Saltoくんの声が入ったことで、自分たちだけで作るのとは違う世界観が生まれたので、テンションも上がりました。
Salto:3人ボーカルというのも、珍しいですよね。
――ボーカルを分ける作業は、すんなり進んだんですか?
千田:そうですね。ただ、ふたりで作る時は菅野からどういうものがくるか想像つくんですけど、Saltoくんからはどんなメロディやリリックがくるのかわからないので、いい意味でドキドキしていました。
Salto:味変じゃないですけど、僕の声で違う展開を作ることを意識しましたね。
――ボーカルに関してはmarshさんが一番客観的に見ているかと思いますが、ビートに歌が入った時、どんな手応えを感じましたか。
marsh willow:男性ボーカル3人で曲を作ると聞いたら、カオスな感じを想像すると思うんですけど。3人ともフロウや声の癖が全然違っていて、最後までごちゃごちゃになることがなかったです。僕としては3人分のボーカルが乗ることを想定して、いつもより引き算したビートを投げていたんですけど、最終的には足していく感じになったので、それは3人がバランスを考えてくれたからなのかなと思います。
――どこを足したんですか?
marsh willow:もうひと盛り上がり欲しいと思って、最後の部分を足しています。あんまり地で鳴っているようなものではなく、FXやちょっとベースを暴れさせた感じですね。
千田:そう言えば、元々のキーも最初に作ったものとは変わっていますね。当初のものからもう1個上げてみたらどうなるかな、と思い試してみたら、曲が少し明るくなってキャッチーさがプラスされた気がします。それを聴いてこれですね! って感じになって、今の形で完成しました。D.Y.Tもlo-key designも、お互いツインで年齢も近かったので、久々に友だち同士で作ったような感覚があって楽しかったです。
多彩なコラボレーションが詰まった『MULTIVERSE』
――ここからはD.Y.Tのおふたりに、アルバム『MULTIVERSE』について伺いたいと思います。まず、D.Y.Tにとって初のアルバムに対し、今どんな手応えを持っていますか。
千田:R&Bやダンス・ミュージックを普段聴いている人への、自分たちなりに挑発をする作品になったと思います。いろんなアーティストの方と共演しているので、ここに参加してくださったアーティストを好きな方が聴いてくれることもあると思うんですけど、そういう人たちを驚かせたいですね。
――まさに客演の多さは今作の特徴のひとつですね。
菅野:11組のアーティストやプロデューサーが参加してくださって、自分たちの音楽に色を足していただきました。ただ、同時に1曲1曲にしっかりとD.Y.Tらしさが存在している。そういう今の僕らを象徴する作品になったと思うので、これから新しいところに飛び込んでいくための、決意表明の一作でもあります。
――実際1曲目の「Elevate」は、ふたりがこれからどんな生き方をしたいかという、決意表明的なリリックなのかなと思いました。
千田:4年間の集大成的なアルバムでもあるので、「自分たちはこう思ってこのアルバムを出します」ということを、一発目に感じてもらいたかったんです。「Elevate」はuinくんにプロデュースしていただいているんですけど、全面的に派手さを出すよりも、静かなものの中にある熱いものを表現したくて。張った感じの声ではないんですけど、その中に芯があるような歌い方を意識して、リリックにもそういうイメージを込めています。
――続く2曲目がlo-key designとの「Spinning」で、3曲目の「Be Free」にはYonYonさんがボーカルで参加しています。lo-keyとの曲とは反対に、埋め尽くすような音像と、どこかトライバルな雰囲気のパーカッションが印象的です。
菅野:プロデューサーのGimgigamさんに僕たちからお声掛けして、フィーチャリングにYonYonさんを招いた曲ですね。Gimgigamさんは民族音楽やファンク、ロックなどいろんなジャンルを詰め込む楽曲を作る方です。僕たちにはそういうサウンドの曲がなかったので、新しい自分たちをみせたいと思い実現しました。
――ちなみに今作を作る上で核になった曲や、新しい一面を出せたと思った曲はありますか?
千田:「24」かな。最後の方にできた曲で、パーティ調のものを作りたいと思ってできた曲なんですけど。この曲はMATZさんとやらせていただいて、今までとは違った作り方になりました。
ーというのは?
千田:どちらかがフックの部分をずっと歌うのではなく、重ねる歌い方をしているんです。ボーカルがふたり以上いる曲でも、日本では「こっからここまではあなたです」、というような歌い分けをすることが多い印象がありますが、「24」では海外の方がやっているような掛け合いができました。自分たち的には上手くハマった実感があるので、もしかしたらこれがD.Y.Tのスタイルになるかも、という気持ちがあります。
――ボーカルにKAHOHさんが参加していて、男性と女性の声の掛け合いでストーリーが進んでいくラブソングというのも特徴ですね。
菅野:今までも男女の恋愛を歌った曲はありますが、女性の声が入ることで、より恋の掛け合いが引き立った曲になりました。
千田:たぶんKAHOHちゃんのスタイル的にも、恋愛の曲を歌うのが強みだと思うんですよね。彼女のリリックにはリアリティがあって、KAHOHちゃんの歌が刺さる女の子はいっぱいいると思うし、「24」では僕らもそういう強みと共に曲を作ろうという気持ちが強くて。抽象的な表現ではなく、自分たちにとってもリアリティのある内容を落とし込めた曲になりました。
洗練と大衆性の同居――D.Y.Tが目指すもの
――先ほど『MULTIVERSE』には、「今のD.Y.Tらしさが詰まっている」と言われていました。どんなところに感じますか?
菅野:去年から作詞作曲にも参加するようになり、少しずつ自分たちの軸が明確になってきたんですけど。僕らはR&Bの中でコアにいきすぎたくはなくて、多くの人にわかりやすいサウンドだったり、メロディ・ラインだったり、そういうポップな部分もしっかり落とし込んだ作品を作りたいと思っています。
――そのポップさというのは、おふたりのルーツが表れたものですか?
千田:最近は韓国のR&Bやヒップホップを意識して聴いているんです。たとえばUSの音楽で考えると、どうしても日本人の文化的には受けづらいメロディ・ラインやスタイルがあると思うんですけど、そこで韓国のアーティストに注目してみると、メロディ・ラインもわかりやすい。でも、ただわかりやすいだけではなく、すごく洗練されたサウンドでメロディやフロウもヒップホップやR&Bの要素を残している。僕らもそこを目指していきたいねって話しています。なので『MULTIVERSE』を最初から最後まで聴いてもらうと、どこか懐かしさを感じたり、受け入れやすいメロディ・ラインがあることに気づくと思います。
――韓国のアーティストは今やワールドワイドな存在になりました。おふたりにもそういうヴィジョンはありますか?
千田:まずは日本で自分たちの名前を広めることだと思いますが、今はタイやフィリピンの音楽も凄いですよね。なのでアジアに知られたい気持ちはあります。サブスクやSNSの時代でもあるので、そうやって海外にも広めていけたらいいですね。
――そして最後の「Leave me alone」です。この曲はまさに最初に言われていたような、身体が反応する踊れる楽曲です。
千田:自分は元々ダンサーだったこともあり、その部分は大事にしたいですね。D.Y.Tのスタイルを確立していく中で、改めて自分たちの根っこの部分は何なんだろうって考えたら、やっぱりこういうダンサブル・サウンドなのかなって思います。
菅野:僕らのライブでは、フロアにいる人には自由に踊ってほしいです。今までは自分たちが魅せる、という意識が強かったんですけど、最近はステージにいる僕らとフロアのみんながひとつになるような、その空間を共有するライブにしたい気持ちが強くなっていて。そこの意識は変わったなと思います。
――なるほど。
菅野:コロナ禍ということもあり、ライブはあまりできていなかったんですけど。最近は自分たちのライブ力が上がってきた実感があるので、来年はファンの方や新しいリスナーとの交流ができる機会を作りたいと思っていて、自分たち主催のライブをコンスタントにやっていきたいですね。
――多数のゲストを招いた作品になりましたが、ライブでもlo-key designと共演する予定はありますか?
千田:11月19日(土)に『BLOOM & BLOOM』という主催イベントをやります。『MULTIVERSE』で共演したアーティスト全員に出演していただくことになっているので、ぜひ来てほしいです。
Salto:僕らもめっちゃ楽しみです。
――アルバムに参加したアーティストは、比較的世代が近い方が多いかなと思います。皆さんはR&Bを軸としながらも、これまでそれぞれ独立した動きを見せてきてると思いますが、今後緩やかな連帯だったり、繋がってシーンを見せていきたいというような考えはありますか?
marsh willow:もちろんあります。例えばJojiの新譜などが出たとき、彼の作品は世界中でトップの方に上がってくるけど、日本だけ変わらず島国的な聴かれ方になってしまっていますよね。日本でもR&Bがもっと聴かれるようになってほしいし、R&Bに限らず、いろんなジャンルの音楽を好きな人が増えてくれたらいいなって思います。僕も微力ながらできることがあればやっていきたいですし、そういう話は普段からSaltoと話しています。
菅野:今作でR&Bのシーンを引っ張っている方ともご一緒できて、その繋がりを持てたのはD.Y.Tとしてすごく大きいことでしたので、客演の方と盛り上げていきたい気持ちは強いですね。まだ新参者ですけど、その思いは強く持って活動していきたいです。
【リリース情報】
【イベント情報】
・チケット
一般発売:11月5日(土)10:00〜 e+(https://eplus.jp/bab/) / ローチケ(https://l-tike.com/bloombloom/) / ぴあ(https://w.pia.jp/t/bloombloom-t/)
■ D.Y.T オフィシャル・サイト(https://dyt-y.com/)
千田耀太と菅野陽太によるR&Bボーカル・ユニット、D.Y.Tが初のアルバム『MULTIVERSE』をリリースした。KMやYonYonなど、実に11組のプロデューサー、アーティストらが参加したバラエティ豊かなアルバムで、多彩な客演が音楽的な華やかさに繋がっている。そして何より、本作はD.Y.Tのアイデンティティを示すアルバムでもある。コロナ禍においても積極的なシングル・リリースを続け、昨年からは作詞・作曲にも関わっていくなど、自身らの音楽性を確固たるものにしてきたふたりは、今回のアルバムで“D.Y.Tの軸”を詰め込めたという。まさに4年の活動における、集大成的な一作である。
『MULTIVERSE』の2曲目「Spinning」には、シンガー・Saltoとプロデューサー・marsh willowによるR&Bデュオ、lo-key designが参加。R&Bという広義のジャンルにおける共通性はありつつも、音楽的にはそれぞれ異なる個性を持った2組と言える。だが、年齢が近く共にデュオとして活動してきた両者には、どこか通ずるところがあるのだろう。今回の取材では、前半はZOOMで繋いだlo-key designと対談を行い、後半はD.Y.Tのふたりに『MULTIVERSE』について語ってもらった。
Interview & Text by Ryutaro Kuroda(https://twitter.com/KURODARyutaro)
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/)
「友だち同士で作ったような感覚」――両者の出会いとコラボの背景
――lo-key designにオファーした経緯から聞かせていただけますか。
千田:D.Y.Tを結成する前から聴いていて、ファンだったんです。今年リリースされた「Outsider」も凄く好きです。
菅野:僕も「BLOOM」が好きで、自分のインスタのストーリーでシェアしたり、本当によく聴いていました。
千田:そうしたらご縁があってラジオでご一緒する機会があって、その時アルバムの話も進んでいたこともあり、おふたりに相談させていただきました。ファンで聴いていたところからこうやって一緒にやることができて、人生不思議だなって思います。
――lo-keyのおふたりは、D.Y.Tにどんな印象を持っていましたか?
Salto:実は昔出ていたオーディションで名前を聞いていたので、僕は個人的に菅野さんのことを知っていました。
――それはボーカルのオーディションですか?
菅野:そうです。D.Y.Tを結成する前なんですけど、当時メディアにも取り上げてもらっていて。それを見てくれていたみたいですね。
Salto:なのでひとりでめっちゃテンションが上がっていたんですけど、それを表に出すのが恥ずかしくて。
菅野:それでこそっと教えてくれたんですけど(笑)。
marsh willow:僕は「torico」だったと思うんですけど、Shin Sakiuraさんのプロデュース・ワークを通して初めて聴きました。なのでお会いするのはラジオの時が初めてだったんですけど、曲はイケイケな感じじゃないですか? なのでSaltoと一緒に緊張してたんです(笑)。でも、おふたりとも気さくな方で安心しました。
――そして制作がスタートしたわけですが、全てリモートでやり取りしていたんですか?
千田:そうですね。リモートと、あとはLINEです。もし会えるのであれば、直接会うことで伝わる体感もあると思うんですけど。ZOOMでできるのはいいなって思いました。顔を見て話せるだけでコミュニケーションが変わってきますし、お互いの熱量も伝わりやすいんですよね。
――一緒に仕事をしてみて、共通言語になるような音楽はありましたか?
千田:お互いが聴いている音楽を教え合ったんですけど、大体めっちゃいいですね!ってなってました(笑)。結構前にHYBSを聴いてもらった時も、Saltoくんがいい感じって言ってくれたり。
marsh willow:あと、Disclosure。
菅野:確かに! リファレンスの話をした時、Disclosureの話になってましたね。
marsh willow:DisclosureはD.Y.Tのふたりもlo-keyのふたりも好きだったので、そこで一気に目標が定まったというか。そういう感じですね! ってなりました。女性シンガーをフィーチャーした「Douha(Mali Mali)」を聴いてから、僕の中で第二次Disclosureブームがきていたところなので、そのタイミングで制作できてテンションが上がりました。
――D.Y.Tのおふたりは、Disclosureのどんなところに惹かれていますか?
千田:彼らの音楽には常にキャッチーさがありますし、早いですよね。
――早い?
千田:(トレンドになる)2年くらい前から次に流行る音を使っていたりするので、そういうところは意識して聴いていました。Disclosureが出した音源の中にある、他の人がやっていないサウンドをやりたいと思ったりもします。
――それから制作はどのように進んでいきましたか。
千田:4人でどういうものを作りたいかを話し合って、それから僕らがイメージする全体像をlo-keyのおふたりに伝えました。作業としては、まずビートをmarshくんに詰めてもらったところからですね。
――どんなイメージを伝えたんですか?
千田:自分たちの強みとして、ダンサブルなサウンドが僕らには映えると思っているので、lo-keyを招いてそういう曲をやりたいと思いました。
――なるほど。
marsh willow:なのでリズム・パターンと、キックは四つ打ちというのを最初に決めて、そこは揺るがなかったです。あとは漠然とベースがカッコいい曲にしたいとは思っていました。
――太いベースが冒頭から入ってきますし、足腰がしっかりした曲になっています。
marsh willow:四つ打ちの曲って、クラブでかかった時にカッコいいものがいいなと思っていて。キックとベースで支えて、あとはちょっとしたフィル。最悪それだけでカッコいい曲を作れたらと普段から思っていて、「Spinning」ではそういうことを意識しました。
――シンセの音も気持ちいいですね。これもmarshさんのアイデアですか?
marsh willow:そうです。ビートに関しては僕が勝手にやっていて、それを許してもらっているというか(笑)。
千田:送られてきたものを聴いて、最高っす!という感じでした。
marsh willow:ありがとうございます(笑)。
――次は歌ですか?
菅野:曲のテーマを決めましたね。そこで歌詞の世界観が固まってきたので、僕らでトップラインを作らせていただいて。
千田:歌詞はそれぞれ自分が書いたパートを歌っています。
――自由になることや、しがらみから解放されるような歌になっているように思いました。
千田:この時期は在宅ワークの方も多かったと思うんですけど、詰め過ぎてない? と感じていました。僕自身気晴らししたいと思っていた時期でしたし、たまには休んじゃっていいんじゃない? って思うんですよね。やるべきことはあるんですけど、たまには世の中から解放されて、自分の好きなように生きる時間があってもいいんじゃないかなと。「Spinning」では、そうした気持ちを歌詞に落とし込んでみました。
――lo-keyの曲にも、開放感を促すような曲がありますよね。
Salto:それこそ「Outsider」もそうですし、自分を見つめ直すようなリリックは僕も好きですね。なので今話されたような、日本人特有の気質は僕も感じていたので、同じようにリリックに落とし込みたいと思いました。実際書いてみると、テーマが事前に決まっていて、そこに後から自分で付け加えていくような書き方はしたことがなかったのですごく新鮮でした。
菅野:僕らも男性の方とフィーチャリングするのは初めてだったので、同性同士の気分の上がり方はありました(笑)。Saltoくんの声が入ったことで、自分たちだけで作るのとは違う世界観が生まれたので、テンションも上がりました。
Salto:3人ボーカルというのも、珍しいですよね。
――ボーカルを分ける作業は、すんなり進んだんですか?
千田:そうですね。ただ、ふたりで作る時は菅野からどういうものがくるか想像つくんですけど、Saltoくんからはどんなメロディやリリックがくるのかわからないので、いい意味でドキドキしていました。
Salto:味変じゃないですけど、僕の声で違う展開を作ることを意識しましたね。
――ボーカルに関してはmarshさんが一番客観的に見ているかと思いますが、ビートに歌が入った時、どんな手応えを感じましたか。
marsh willow:男性ボーカル3人で曲を作ると聞いたら、カオスな感じを想像すると思うんですけど。3人ともフロウや声の癖が全然違っていて、最後までごちゃごちゃになることがなかったです。僕としては3人分のボーカルが乗ることを想定して、いつもより引き算したビートを投げていたんですけど、最終的には足していく感じになったので、それは3人がバランスを考えてくれたからなのかなと思います。
――どこを足したんですか?
marsh willow:もうひと盛り上がり欲しいと思って、最後の部分を足しています。あんまり地で鳴っているようなものではなく、FXやちょっとベースを暴れさせた感じですね。
千田:そう言えば、元々のキーも最初に作ったものとは変わっていますね。当初のものからもう1個上げてみたらどうなるかな、と思い試してみたら、曲が少し明るくなってキャッチーさがプラスされた気がします。それを聴いてこれですね! って感じになって、今の形で完成しました。D.Y.Tもlo-key designも、お互いツインで年齢も近かったので、久々に友だち同士で作ったような感覚があって楽しかったです。
多彩なコラボレーションが詰まった『MULTIVERSE』
――ここからはD.Y.Tのおふたりに、アルバム『MULTIVERSE』について伺いたいと思います。まず、D.Y.Tにとって初のアルバムに対し、今どんな手応えを持っていますか。
千田:R&Bやダンス・ミュージックを普段聴いている人への、自分たちなりに挑発をする作品になったと思います。いろんなアーティストの方と共演しているので、ここに参加してくださったアーティストを好きな方が聴いてくれることもあると思うんですけど、そういう人たちを驚かせたいですね。
――まさに客演の多さは今作の特徴のひとつですね。
菅野:11組のアーティストやプロデューサーが参加してくださって、自分たちの音楽に色を足していただきました。ただ、同時に1曲1曲にしっかりとD.Y.Tらしさが存在している。そういう今の僕らを象徴する作品になったと思うので、これから新しいところに飛び込んでいくための、決意表明の一作でもあります。
――実際1曲目の「Elevate」は、ふたりがこれからどんな生き方をしたいかという、決意表明的なリリックなのかなと思いました。
千田:4年間の集大成的なアルバムでもあるので、「自分たちはこう思ってこのアルバムを出します」ということを、一発目に感じてもらいたかったんです。「Elevate」はuinくんにプロデュースしていただいているんですけど、全面的に派手さを出すよりも、静かなものの中にある熱いものを表現したくて。張った感じの声ではないんですけど、その中に芯があるような歌い方を意識して、リリックにもそういうイメージを込めています。
――続く2曲目がlo-key designとの「Spinning」で、3曲目の「Be Free」にはYonYonさんがボーカルで参加しています。lo-keyとの曲とは反対に、埋め尽くすような音像と、どこかトライバルな雰囲気のパーカッションが印象的です。
菅野:プロデューサーのGimgigamさんに僕たちからお声掛けして、フィーチャリングにYonYonさんを招いた曲ですね。Gimgigamさんは民族音楽やファンク、ロックなどいろんなジャンルを詰め込む楽曲を作る方です。僕たちにはそういうサウンドの曲がなかったので、新しい自分たちをみせたいと思い実現しました。
――ちなみに今作を作る上で核になった曲や、新しい一面を出せたと思った曲はありますか?
千田:「24」かな。最後の方にできた曲で、パーティ調のものを作りたいと思ってできた曲なんですけど。この曲はMATZさんとやらせていただいて、今までとは違った作り方になりました。
ーというのは?
千田:どちらかがフックの部分をずっと歌うのではなく、重ねる歌い方をしているんです。ボーカルがふたり以上いる曲でも、日本では「こっからここまではあなたです」、というような歌い分けをすることが多い印象がありますが、「24」では海外の方がやっているような掛け合いができました。自分たち的には上手くハマった実感があるので、もしかしたらこれがD.Y.Tのスタイルになるかも、という気持ちがあります。
――ボーカルにKAHOHさんが参加していて、男性と女性の声の掛け合いでストーリーが進んでいくラブソングというのも特徴ですね。
菅野:今までも男女の恋愛を歌った曲はありますが、女性の声が入ることで、より恋の掛け合いが引き立った曲になりました。
千田:たぶんKAHOHちゃんのスタイル的にも、恋愛の曲を歌うのが強みだと思うんですよね。彼女のリリックにはリアリティがあって、KAHOHちゃんの歌が刺さる女の子はいっぱいいると思うし、「24」では僕らもそういう強みと共に曲を作ろうという気持ちが強くて。抽象的な表現ではなく、自分たちにとってもリアリティのある内容を落とし込めた曲になりました。
洗練と大衆性の同居――D.Y.Tが目指すもの
――先ほど『MULTIVERSE』には、「今のD.Y.Tらしさが詰まっている」と言われていました。どんなところに感じますか?
菅野:去年から作詞作曲にも参加するようになり、少しずつ自分たちの軸が明確になってきたんですけど。僕らはR&Bの中でコアにいきすぎたくはなくて、多くの人にわかりやすいサウンドだったり、メロディ・ラインだったり、そういうポップな部分もしっかり落とし込んだ作品を作りたいと思っています。
――そのポップさというのは、おふたりのルーツが表れたものですか?
千田:最近は韓国のR&Bやヒップホップを意識して聴いているんです。たとえばUSの音楽で考えると、どうしても日本人の文化的には受けづらいメロディ・ラインやスタイルがあると思うんですけど、そこで韓国のアーティストに注目してみると、メロディ・ラインもわかりやすい。でも、ただわかりやすいだけではなく、すごく洗練されたサウンドでメロディやフロウもヒップホップやR&Bの要素を残している。僕らもそこを目指していきたいねって話しています。なので『MULTIVERSE』を最初から最後まで聴いてもらうと、どこか懐かしさを感じたり、受け入れやすいメロディ・ラインがあることに気づくと思います。
――韓国のアーティストは今やワールドワイドな存在になりました。おふたりにもそういうヴィジョンはありますか?
千田:まずは日本で自分たちの名前を広めることだと思いますが、今はタイやフィリピンの音楽も凄いですよね。なのでアジアに知られたい気持ちはあります。サブスクやSNSの時代でもあるので、そうやって海外にも広めていけたらいいですね。
――そして最後の「Leave me alone」です。この曲はまさに最初に言われていたような、身体が反応する踊れる楽曲です。
千田:自分は元々ダンサーだったこともあり、その部分は大事にしたいですね。D.Y.Tのスタイルを確立していく中で、改めて自分たちの根っこの部分は何なんだろうって考えたら、やっぱりこういうダンサブル・サウンドなのかなって思います。
菅野:僕らのライブでは、フロアにいる人には自由に踊ってほしいです。今までは自分たちが魅せる、という意識が強かったんですけど、最近はステージにいる僕らとフロアのみんながひとつになるような、その空間を共有するライブにしたい気持ちが強くなっていて。そこの意識は変わったなと思います。
――なるほど。
菅野:コロナ禍ということもあり、ライブはあまりできていなかったんですけど。最近は自分たちのライブ力が上がってきた実感があるので、来年はファンの方や新しいリスナーとの交流ができる機会を作りたいと思っていて、自分たち主催のライブをコンスタントにやっていきたいですね。
――多数のゲストを招いた作品になりましたが、ライブでもlo-key designと共演する予定はありますか?
千田:11月19日(土)に『BLOOM & BLOOM』という主催イベントをやります。『MULTIVERSE』で共演したアーティスト全員に出演していただくことになっているので、ぜひ来てほしいです。
Salto:僕らもめっちゃ楽しみです。
――アルバムに参加したアーティストは、比較的世代が近い方が多いかなと思います。皆さんはR&Bを軸としながらも、これまでそれぞれ独立した動きを見せてきてると思いますが、今後緩やかな連帯だったり、繋がってシーンを見せていきたいというような考えはありますか?
marsh willow:もちろんあります。例えばJojiの新譜などが出たとき、彼の作品は世界中でトップの方に上がってくるけど、日本だけ変わらず島国的な聴かれ方になってしまっていますよね。日本でもR&Bがもっと聴かれるようになってほしいし、R&Bに限らず、いろんなジャンルの音楽を好きな人が増えてくれたらいいなって思います。僕も微力ながらできることがあればやっていきたいですし、そういう話は普段からSaltoと話しています。
菅野:今作でR&Bのシーンを引っ張っている方ともご一緒できて、その繋がりを持てたのはD.Y.Tとしてすごく大きいことでしたので、客演の方と盛り上げていきたい気持ちは強いですね。まだ新参者ですけど、その思いは強く持って活動していきたいです。
【リリース情報】
【イベント情報】
・チケット
一般発売:11月5日(土)10:00〜 e+(https://eplus.jp/bab/) / ローチケ(https://l-tike.com/bloombloom/) / ぴあ(https://w.pia.jp/t/bloombloom-t/)
■ D.Y.T オフィシャル・サイト(https://dyt-y.com/)

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