「歌に覚悟が乗っている」Ms.OOJAが
語る、昭和のアーティストのすごさー
ー歌謡曲のカバーアルバム『流しのO
OJA2』に込めた想い

数多のミュージシャンたちからその歌声が絶賛されている、Ms.OOJA。2020年に歌謡の名曲を収録したカバーアルバムをリリースしたが、9月21日(水)にその第2弾『流しのOOJA2〜VINTAGE SONG COVERS〜』を発表。同作には、世界的に大ヒットした「プラスティック・ラブ」(原曲:竹内まりや)など12曲が収録されている。昭和のカルチャーがふたたび脚光をあつめるなか、Ms.OOJAは当時の時代性や楽曲をどのようにとらえているのか、話を訊いた。
Ms.OOJA
昭和のラブソングの良さ「不自由だからこそ恋が燃え上がるのかも」
――Ms.OOJAさんのこの秋のトピックスのひとつに、プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの明石健志選手の引退セレモニーに出演された出来事がありますよね。明石選手は、Ms.OOJAが2012年にリリース曲「Be…」を打席に向かう際の登場曲に使用されていました。
長い間、ずっと使ってくださっていたんです。もともと、私のファンの方から「明石選手が「Be…」を使用している」とうかがい、そのご縁でミュージックビデオにも出演していただいて。すごく嬉しかったことを覚えています。引退セレモニーでは楽曲も歌わせていただきましたが、スケジュール的に奇跡的なタイミングだったんです。というのも9月23日(金)に明石選手が引退発表をされて、24日(土)にセレモニーを行うということだったのですが、私は23日(金)が三重県の四日市、25日(日)は大阪でライブが入っていて。だけどちょうど、24日(土)はお休みだったんです。そこで「駆けつけたいです!」と急遽、球団の方にご連絡をさせていただきました。
――そんなに急に決まったお話だったんですね。
試合も観戦していましたが、チームのみなさんの「最後に明石選手を打席を立たせたい」という気持ちや、代打で登場したときのスタンドのどよめき。そこで「Be…」が流れ、最後にヒットを打って。もう、涙が止まりませんでした。ホークス一筋19年の明石選手のスタイルは本当に格好良いですよね。セレモニーで花束をお渡しするとき、お互い「ありがとうございました」と言葉をかわしました。

Ms.OOJA

――明石選手もそうですが、プロ野球界から昭和生まれの現役選手が少しずつ減ってきています。Ms.OOJAさんは『流しのOOJA2』で昭和の歌謡曲をカバーしていらっしゃいますが、今、テレビ番組などでも昭和という時代にあらためてクローズアップする企画が多いですよね。
私もぎりぎり幼少期、昭和の文化などを体験しているのですが、不便だからこそ良かったところもありましたよね。現在はいろんなものが進化して便利になった。当時は電話も固定だったし、振り返ってみると、よく待ち合わせとかできたなって。私は当時、友だちと待ち合わせの際、駅の伝言掲示板に「この時間にここで待っている」と書いたことがありました。
――収録曲の歌詞を読んでも、昭和ならではのアイテムが随所に出てきますね。
たとえば、不倫関係をテーマにした収録曲「恋に落ちて−Fall in love–」(原曲:小林明子)に出てくる<ダイヤル回して>という歌詞。まさに固定電話の時代ならではの表現ですが、女性側の目線で考えると、電話をかけて、不倫相手の男性の妻が出たらどうしようという不安、そしてその声を聞くつらさがうかがえます。一方で、連絡手段が限られているなど、不便さゆえに恋が燃え上がるのかもしれない。<ダイヤル回して>という歌詞のなかにいろんな物語を想像することができるんです。昭和の曲は、そうやっていろんな想像が膨らむから、良い歌に聞こえるんだと思います。
――不自由さがドラマを演出するということですね。
便利な方にみんな流れていくのは、当たり前のこと。ただ、選択肢が限られていたからこそ、そのなかで生まれる工夫もあるはず。それに人間って、1日のなかでできることって限られているじゃないですか。ただ便利になるとその時間の隙間ができる。だからほかのことを詰め込もうとするけど、そこでパンクすることもある。だから、気持ちがいっぱいいっぱいになる人が多い気がするんです。
音楽が最優先ではない場所での演奏「反骨心でやっていました」
Ms.OOJA
――『流しのOOJA』シリーズはもともと、バーなどファンと近い距離でのパフォーマンスをおこなってきた「流し」というライブ活動から着想を得て、ファンからリクエストを募って昭和歌謡をカバーするようになったんですよね。
新型コロナの直前にやりはじめて「楽しいな」と思った矢先、できなくなってしまって。でも、「流し」はいろんな意味の緊張感がありました。キーボーディストの方とその日に会って、一度も歌ったことのない曲をいきなりその場で歌うということもあったりして。そういうセッション的な緊張感にワクワクしました。その場でしか生まれない音楽ばかりでしたし。誰かのためにやるのではなく、自分のためのライブという感じで。
――昭和の時代には、酒場などに現れる「流し」と呼ばれるミュージシャンも数多くいました。そこで客のリクエスト曲を演奏したりして。でも、客との距離が近い分、野次も飛ばされたりして。
私の「流し」のライブ活動ではそこまでのことはなかったのですが、でも若手時代、クラブで演奏していたときはそういう雰囲気を何度も味わいました。お酒を飲んだり、誰かとコミュニケーションをとったりすることも目的なので、歌に耳を傾けてもらえなかったこともありました。音楽が最優先ではない場所で「どうしたら自分に振り向いてもらえるか」と模索ばかりしていました。反骨心でやっていましたね。悔しい経験もたくさんしたけど、でも気持ちが燃え上がったりして。私は好きでやっていましたね。
――当時の経験は現在に生きていますか。
何にも代え難い経験です。そこで現場主義というか、叩き上げというか、いくら練習しても1回の本番にはかなわないということを学びました。もちろん練習も大事。だけど演奏回数を重ねること、場数を踏む大切さは練習に勝るものがある。どんな状況でもまず打席に立つことが大事ですね。
「現在の私には表現することが難しい曲がある」
Ms.OOJA
――Ms.OOJAが「この曲は歌うことが難しい」と思う昭和歌謡はありますか。
あります。毎回、カバーアルバムの選曲候補に挙がるけど、客観的に聴いて「まだだな」という曲があるんです。その曲って、ご本人は当時、年齢がすごくお若くて。でも、歌に覚悟が乗っているというか。「自分の歌で家族を支えていくんだ」という気持ちだったり、いろんな背景がその覚悟につながっているように聴こえるんです。それこそ選択肢が少ない時代のなかで、「自分には歌しかない」となっていたんだと思います。その覚悟は、現在の私にはまだ表現することが難しいです。
――改めて、『流しのOOJA2』にはどんな想いを込めていますか。
前作と比べて歌謡ポップスの色が強く、当時のアイドル曲も多く収録されています。荻野目洋子さん、小泉今日子さんなど、幼少期の自分の記憶をたどりながら歌いました。昭和の曲ですが、でもどこか新鮮さも感じられるはず。まさに今の自分が表現したいものが詰まっています。
――10月28日(金)には神奈川・KT Zepp Yokohamaで、11月2日(水)には大阪・Zepp Nambaで『TADAIMA&Birthday Live Tour 2022』が開催されますが、今回の収録曲ももちろん披露されますよね。
すべて演奏したいと考えています。『流しのOOJA』の世界観をみなさんに楽しんでもらえるはずです。
Ms.OOJA
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

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