京都公演開幕! 舞台『閃光ばなし』
黒木華×片桐仁インタビュー「力を抜
いて観に来てほしい」

福原充則演出・安田章大(関ジャニ∞)主演の舞台『閃光ばなし』が2022年9月26日(月)、京都・ロームシアターにて開幕した。本作は、2017年に『俺節』、2019年に『忘れてもらえないの歌』で、昭和の時代を生き抜く人々の姿を描いてきた福原と安田のタッグによる3作目。
稽古場にて、安田演じる佐竹是政の妹・政子を演じる黒木華、政子の夫・柳を演じる片桐仁に話を聞いた。
這い上がっていくパワーを感じる作品
――開幕まであと10日ほどというタイミングですが(※取材は9月中旬に行われた)、本番を目前にした今、どんなお気持ちでいらっしゃいますか?
片桐:本番目前ですって。
黒木:そんな感じがあまりしないです(笑)。
片桐:あと3週間くらい稽古があるといいなと思うんですけどね(笑)。2週間かな!
――本番前はいつもそんな気持ちですか?
片桐:今回はいつもよりですね。今までで一番と言っておきましょうか(笑)。
黒木:私も、まだまだやらなきゃいけないことが多い舞台は初めてです。
――やらなきゃいけないことが多いというのは?
片桐:この作品は出演者が28人いて、そのうち8人がメインキャストになっているのですが、ひとつのシーンで多いと25~26人で動いているんですね。25~26人が舞台上にいて、ワアワア言っている。アクションもありますしね。なので、演出の福原(充則)さんもその交通整理が大変で。そこで立てなきゃいけない人は立てなきゃいけないっていうこの緩急というかね、これがなかなか。「自分の台詞があって、相手がいて」という関係がワーッっといくんだけど、流れちゃいけないし、ニュアンスを大事にしなきゃいけないし。
黒木:おっしゃる通りです。昨日初めて部分通しをしたんですが、起きている一つひとつのことに、ちゃんと自分たちで引っかかりをつくっていかないと、スラスラッと流れてしまうんです。そうなってしまうと、観ている人にとってはただワアワア騒いでいるだけの芝居になってしまうと改めて思ったので、28人全員で引っかかりをつくっていかないといけません。
片桐:自分の主張と立場があるからね。
黒木:それをちゃんとやらなきゃいけないと思っています。もちろんガヤも重要ですが、28人一人ひとりが自分を持っていないと、すぐに破綻しちゃうと思うんです。
片桐:うん。みんなで積み上げていくって感じだよね。なのにコロナ禍だから、(稽古には)バラバラに集まらなきゃいけないし、飲みに行ったりもできないので、意見交換があまりできないんですよ。そういうジレンマもありますね。
黒木:だからあと2週間欲しい(笑)。
――いま、どんな作品になりつつありますか?
片桐:大騒ぎです。このコロナの時代に珍しい、静かじゃない、うるさい演劇というか。みんながみんなエネルギーを持って、やりあって、そんな中でいい読後感みたいなものがあると思います。
黒木:福原さんは「観に来た人が希望を持てるお芝居」とおっしゃっていました。暗くなりがちな今だからこそ、こんなふうに這い上がっていくぞってパワーを感じてもらえるような。ほんと、パワーがすごいですもんね。
片桐:そうだね。「演劇ってこういう楽しさもあるんだよ」っていうのを知ってもらうきっかけになったらなと思っています。演劇でしかできない表現だしね。
政子はプラスでもマイナスでもいいから何か起こしたい人
――黒木さんはご自身が演じる佐竹政子(安田章大演じる佐竹是政の妹)という人物像をどんなふうに受け止めていらっしゃいますか?
黒木:この作品に登場する女性はみんな強いんですが、その中でも政子は、より前のめりに生きているといいますか。悲しいことや辛いことを飲み込んで、そこから離れようとしている人かなと思います。でも、過去やいま起きていることからは離れられないんですけどね。それでもなんとかして振り払いたい、みんながやれないならじゃあ私ががんばってやるよ!みたいな人なのかなと思いながら演じています。ハチャメチャですけど。
片桐:妙な説得力がありますよね。乱暴だし、むちゃくちゃなんですけど、高潔さみたいなものがある。ジャンヌ・ダルク的な。
黒木:政子は兄ちゃん(是政)と対になっているので、政子にないものを兄ちゃんが持っていて、兄ちゃんにないものを政子が持っている。そこに「兄妹」ってことの意味があるのかなと思いながらやっています。あと、旦那さん(片桐演じる柳英起)が意外と政子のことをちゃんと想ってくれているんだなって。
片桐:ね!
黒木:政子は、旦那さんもちゃんと大事に……はできていないですが(笑)、好きは好きなんだろうなと、今はそういう細かい繋がりをちょっとずつ繋いでいっているところです。
――片桐さんは、その柳をどんな人物だと思われますか?
片桐:是政の台詞にもあるんですけど、こんな現状嫌だって思いつつも、まあこれはこれでって楽しめちゃう人。現状に不満はあるけどそれを変えたいっていうほどのエネルギーはない、あと矢面に立ちたくない、責任を取りたくないっていうようなね。僕もそういうとこあるんでね、はい。
黒木:(笑)
――政子のことはどう思っているのでしょう?
片桐:最近になって気付いたんですけど、柳と政子は結婚してるんだけど、正式に入籍はしていないのかもしれないんですよ。役名が「柳政子」になっていないので。結婚するっていって一緒に暮らして夫婦になってはいるんだけど、「佐竹政子」なんですよね。事実婚なのか、戦後のどさくさで戸籍がないのか、わからないですけど。その、自分のものになってほしいんだけど、やっぱこう手が出せない感じ。是政に対する嫉妬もあるけど、尊敬みたいなものもあるし。「なんとかしてほしい」とか図々しいことを思っているし。でも政子は、そこ(兄)に加担することによって、ここから抜けようとしてくれている。やっぱりジャンヌ・ダルクですよね。柳は、その環境に、歯がゆいとは思いつつもなあなあにする。日本人の美徳“なあなあ”がやっぱね、柳にはありますよ(笑)。波風立てまいとして、結果プラスでもマイナスでもない人。政子はプラスでもマイナスでもいいからとにかく何かを起こしたいって人だから。
黒木:そうですね。
――脚本・演出の福原さんとは黒木さんは初めてですが、脚本や演出に実際に触れていかがですか?
黒木:ロマンチストな人なのかなというのは脚本を読んで感じました。言葉もそうですし、音楽も。台詞の語感をすごく大事にしていらっしゃいますし。演出面では、ニュアンス含め、本当に細やかに見てくださっているように感じています。安田さんと二人のシーンでは、心情をとても大事にされています。
――片桐さんは、福原さんとは舞台では『豆之坂書店 〜読みたがりたちの読書会〜』(’ 11年)ぶりですね。
片桐:はい。あとはドラマ『あなたの番です』の脚本でお世話になりました。ドラマは完全に僕、当て書きでしたね(笑)。
――今回も当て書きですか?
片桐:当て書きだと思います。福原さんは僕のラジオとかも聴いてくださっているので、僕のこずるいところというか。僕は、自分を棚に上げる力がなかなかすごい、卓越したものがあるので。そこは(役に)あるんじゃないかな(笑)。でも演出をうけるのは11年ぶりですから。福原さんの舞台を観に行くと「お願いします」って言ってたんですけど、とにかくタイミングがあわなくて。
――じゃあ片桐さんにとっては念願の福原演出なんですね。
片桐:そうです。
――実際に演出をうけていかがですか?
片桐:ご本人が「最近は昭和30年代の芝居ばっかりやってる」って言ってたけど、あの世代に対する憧れみたいなものを感じます。みんなが中流社会になる前だから、まだ貧しいんですよね。でもなんかキラキラ輝くものがある。あの、なにかに対してワッと向かって行くエネルギーみたいなもの。今ってみんなが自分のやりたいことを発表できるけど、コミュニティがこまごましていますよね。それはそれでいいんですけど、でもこの作品の時代はそうじゃなくて。そういうなんか、現状を打破するエネルギーみたいなところが魅力ですね。演じるのがこんなに大変だとは思わなかったんですけどね。
黒木:(笑)。ですよね。
片桐:いや~大変です、はい(笑)。
安田章大さんは”ファミリーの座長”
『閃光ばなし』
――是政役の安田章大さんはどんな方ですか?
黒木:とってもやさしい方です。
片桐:やさしいですね~。
黒木:みなさんのことを見ていらっしゃいますよね。
片桐:ほんとそう。自分の出番じゃないときとかもね。でもこの作品は安田くんありきの企画だなと思いますよ、稽古していても。
――どういうところでそう思われますか?
片桐:是政っていう人の懐の深さとか、面倒見の良さみたいなものがね。(安田が演じることで)そこが乗っかるから、是政は勝手なことも言うんだけど、まあしょうがない、という風になる感じもあるし。
黒木:歌もすごいですよね。
――黒木さんは一緒に歌うシーンがありますね。
片桐:歌は得意だからね!
黒木:!?!? なんでそんなこと言うんですか(笑)。そんなことないです。舞台で歌うの初めてなんです。
片桐:ええ!?
黒木:初めてです。
片桐:高校演劇でも?
黒木:ないです。この作品は初体験がすごく多いから、とても緊張します。
片桐:まあ、緊張しているようには見えないですけどね。
黒木:政子だからですかね(笑)。でもそういうときも安田さんは「全然大丈夫やで」みたいな感じでドンといてくださるんです。
片桐:お芝居でも、「これどうですか?」っていくと全部受けてくれますからね。
――お芝居のチャレンジもできる相手なんですね。
黒木:そうですね。なにかやってみると必ず返してくださるし、その状況を楽しんでくださっています。私は福原さんと初めてなので「大丈夫ですかね?」と聞いたら、「全然、自分の思うとおりにやったらいいんやで」と言ってださって。本当にやさしい方です。
片桐:福原さんと3作目ですし、ファミリーの座長!って感じですよ。
黒木:是政の「みんなを背負って連れてってやるよ」というシーンがあるんですが、まさにそれを体現しているような感じです。お客さんも一緒に引き連れていってくれるような芝居をされています。
片桐:だけどさ、妹との二人のシーンはすごく小さな自分なんだよね。そのギャップもいいと思います。
黒木:たしかに。トーンが違いますよね。
片桐:うん。とにかく自信がなかったりとか、気を使いすぎて変なふうになっちゃったりね。
――余談ですが、黒木さんは踊りも踊られるんですよね。
片桐:踊りも得意だもんね!
黒木:なんでそんなこと言うんですか!(笑)
片桐:(笑)。でも踊りはやってたでしょ?
黒木:やってないです。
片桐:いやいや、高校演劇でやってたでしょ?
黒木:なんでそんな……高校演劇でやってないです。
片桐:はははは!
黒木:なんなんでしょう、自分だけ楽しくなっちゃって(笑)。
片桐:今回は「ダンス」じゃなくて「踊り」だね。
黒木:はい、中林舞さんが振り付けをしてくださっています。
片桐:台本で見ても、こんな踊りだと思わないよね?
黒木:思いませんでした(笑)。「右が東京音頭、左が炭坑節」と書いてあって、蓋をあけたらそのどっちでもなかったです。
――では最後に、楽しみにしているお客様に一言いただければ。
黒木:ご覧になった方がパワーをもらって帰っていただけるお芝居になっているので、コロナ禍で心配なこともたくさんあると思いますが、力を抜いて観ていただき、楽しんで帰ってくださったらいいなと思います。がんばります。
片桐:この作品を観て「演劇っていいな」「また観たい」「演劇をいろいろ観よう」と思ってほしいです。僕らも演劇がないとしんどいですから。演劇はめんどくさくて毎日大変なんですけど、それでもやっぱり、稽古があって、コミュニケーションがあって、毎日毎日同じことを積み上げていく意義みたいなものは、他にないものなので。俳優のためにも(笑)、お客様のためにも、これをきっかけに「お芝居っていいな」と思ってもらえたらすごくいいなと思います。
取材・文=中川實穗

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