SUIREN『Sui彩の景色』

SUIREN『Sui彩の景色』

2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い音を描くユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描くコラム連載。Suiを彩るエピソード、モノ、景色をフィルムカメラで切り取った写真に乗せてお届けします。

文・撮影:Sui

入学早々に先輩バンドのライブを観て打ちのめされながらも、部活動紹介のレクリエーションの次の日には軽音楽部に入部届けを出しに行った。
入部届けを出しに行く道中、同じ中学校から入学した土田に会った。どうやら僕と同じく軽音楽部に入部希望らしい。
中学校時代は何度か話した事はあったが、クラスも部活動も違ったので顔見知り程度の間柄だ。
土田が軽音楽部に入部希望だというのは正直意外だった。
「今年の入部希望者は凄く多いらしいぞ。Suiはボーカル志望だよな?文化祭のライブは良かった。俺とバンド組もうよ。」

早速誘ってくれて嬉しい反面、土田が何の楽器を担当していて、どこまでやれるのかも全く未知数だったので、「うん」とも「いや」とも言えず、
「お、おう…」と何とも言えない返事をしてしまった。
そんなこんなで2人で軽音楽部の顧問の先生に入部届けを出しに行くと、今度は同じ中学校出身だった榊原と廊下ですれ違った。
榊原と土田は中学校時代にクラスメイトだったはずだが、2人は目も合わせずそそくさと通り過ぎてしまった。
「榊原も入部希望なのかな?」
と僕が言うと
「あぁ、そうだと思うよ。というか間違いなくそう。あいつギターめちゃくちゃ上手いらしい。」
と土田は言った。
「土田は楽器何やるの?」
と、僕が聴くと
「ドラム。Suiは文化祭で丸山と一緒にやってたけど、絶対に俺の方が叩ける。」
と自信満々に言ってみせた。

同じ中学に大野達以外にも楽器経験者がいるなんて全く知らなかった僕には驚きだった。
しかも、口ぶりからすると榊原も土田も相当上手いらしい。
今年は入部希望者が多いというし、楽器経験者も意外と多いのかもしれない。
僕は楽器を弾けないボーカルという事になる。
自分よりも歌が上手い生徒もいるかもしれない。
そんな事が頭をよぎった。
自分の現在地はどこなのだろうか。
期待と不安を抱きながら部活動の初日を迎えた。
各部活には最初の2週間程仮入部期間というものが設けられており、実際の部活動を体験してから入部するかどうか決められるようになっている。

初日は新入部員の為に部員全員が集まってミーティングをするという事になった。
集合場所の視聴覚室に行くとかなりの数の新入部員がいた。少なくとも30人は居たと思う。
そして、明らかに先輩であろう方々は髪の毛の色も服装も様々だ。
恐らく各バンド毎に固まっているようで、
如何にも下北沢にいそうな出立ちでガールズバンドなのかな?という女子のグループや、
髪色も服装も派手で、耳の軟骨や鼻や口にピアスを空けているV系っぽいファッションのグループ。
細めのスキニーを履いて重たい前髪で目が見えない人が多めのグループ等々、今思えばなんとなくどんな音楽をやっているのかファッションから想像出来る。
そして、黒板の前に部活紹介のレクリエーションで演奏したバンドの先輩達が居た。
1番カジュアルで素朴なファッションだが、1番オーラがあった。
全員集まったタイミングでそのバンドのボーカルが喋り出した。
「えー部長の原田です。前回の部活動紹介の時に演奏したので知ってくれてる人も多いと思うけど。〇〇〇〇ボーイズってバンドやってます!」
ハキハキとした口調で原田部長は話し始めた。

「うちの軽音楽部は、形式的に『部』という形を取ってるけども、正直言ってしまうと特に『部』としての活動はありません!つまり、合同練習とか発表会とかもないです!」
新入生は全員ポカーンとしていた。

「練習とか技術の向上は各自でやるとして、じゃあ、この軽音部に入って何をするのかというと、とにかくまずバンドメンバーを見つけてバンドを組む。そしたら、練習室兼部室のプレハブに大部屋と小部屋の2部屋あるので、そこの練習日をバンド毎で決める。1年生は3年が引退するまで小部屋しか使えないけど。まぁ、タダで使えるリハスタだと思ってくれればよくて、この軽音部はほぼその為にあるようなものだと思って下さい。自分のバンドの練習日だけ守ってくれれば後は特にルールとかもないです。因みに高文連(高校文化連盟)にも加盟にしてないから高校単位のバンド大会とかもうちの高校の軽音部としては出れません。」

そんな大会がある事自体知らなかったが、それに出れないというのも滅茶苦茶な話だ。
そもそも、〇〇〇〇ボーイズは高校生バンドとして県内1のバンドとの噂だが大会も出れないのに、どうしてそう呼ばれているのか不思議でならなかった。

新入生の誰かが手を挙げて
「じゃあ、何を目標に活動したら良いんですか?」
と質問した。

すると部長は困ったように笑いながら
「目標は各々決めたら良くて、先輩や顧問の先生に決めて貰う必要はないと思う。一応文化祭で部員全員がライブ出来るように毎年体育館を抑えてるから、まぁ、それを目標にする人達もいる。
例えば俺達は沢山ライブして、より多くの人に観て知って貰う事が今の目標かなー。」
と答えた。

「でも、大会とかがなければライブする機会もなくないですか?文化祭は年に一回ですし。」
とさっき質問した新入生が食い下がる。

すると、原田部長は
「ライブハウスでやるのさ。高校生バンド限定のイベントに出て他校のバンドと対バンしても良いし、大人とやっても良いし、ライブハウスのスタッフに気に入られれば東京とかから来るツアーバンドの前座で演奏させて貰える事もある。俺達は卒業したら東京で本格的にバンド活動するつもりだし、その為にも沢山ライブして力をつけたい。そんな感じ。まぁ、とにかく目標とか目的ってのは自由で良いんだよ。うちの校風もそうじゃない?」

なるほど。
さすが自由な校風が売りの高校だ。
その自由な校風の中でもこの軽音楽部は恐らくダントツで自由だ。
要するに各々勝手にやれということだ。

そして、何よりこの話を聞いて気付いた事があった。
それは、考え方の次元が違うということだ。
軽音部の先輩全員がそうだったかは定かではないが、少なくとも原田部長とそのバンドメンバーは既にバンドマンとして、或いはミュージシャンとしての自覚を持って行動しているのだと思った。
部活動とかそういうレベルで考えている訳ではないのだ。
だから、部活動という枠に収まらないように、
あえて『部』としての活動もせずルールも作らない。
先輩達にとっては、あくまで自分達のバンド活動の為のツール(練習場所)として、軽音楽部が存在しているだけなのだ。

「まぁ、説明はそんな所です。因みに顧問の先生はバンド経験の無い、ただの監視役です。」
と部長が言うと2.3年生は皆笑っていた。
顧問の先生も異論はないようだった。

「じゃあ、最後に1年は俺に着いてきて。部室の見学に行こう。2.3年はもう解散で。」
そう言って部長が部屋を出ると1年生はゾロゾロと後に続いて部屋を出た。
校舎から少し離れた体育館と校庭の脇にプレハブ小屋が建っていた。
思っていたよりも大きくて大部屋はそれなりの広さがあった。
ドラムセットとベースアンプとギターアンプが2台。
それに物置があってよく分からない機材が沢山置いてあったり、奥のスペースには先輩達のギターやベースがケースに入った状態で何本か立てかけてあった。
そして、台の上には謎の機械が敷き詰められたボードが置いてあった。
これはなんなんだろうと見ていると榊原が近付いてきて、
「これはエフェクターって言って、踏むと色んな効果があって音が変わったりする。」
と教えてくれた。

「榊原もさ。こういうの持ってるの?」
と聞くと
「今度見せてあげるよ。」
と榊原は言ってくれた。

そんな会話をしていると、土田が近づいてきた。
それに気がついた榊原はサッと僕から離れてしまった。
「結構しっかり練習出来そうだな。」

と土田は言った。

「榊原と土田ってさ。何かあったの?」
と僕が聞くと
「多分合わないんだよ。色々。」
とだけ土田は答えた。

「小部屋も案内するからこっち来てー。」
と原田部長が声をかけると、大部屋とは打って変わってかなり狭い部屋に小さいサイズのドラムセットとギターアンプ2台とベースアンプが一台置いてあった。

「小部屋のアンプはショボいのしかないんだけど、その中でもこのギターアンプはかなりショボいから気をつけて。」
と部長が教えてくれた。
確かにそのギターアンプはツマミが何個か取れてしまっていた。

「3年は文化祭が終わるタイミングで軽音部員としては引退する形になる。まぁ、バンド活動を続けるかどうかはそれぞれの判断だけど。とにかく軽音部員としてこの練習室は使えなくなる。なので、1年はそれまでの間はこの小部屋で練習する事になるからよろしく。とりあえず最初の2週間はこの小部屋フリーにしとくから1年生は楽器持ち寄って適当にセッションするなりして、バンドメンバー見つけて。バンド組んだら報告して。それから練習日決めていくので。じゃあ、今日は解散で!」
かくして僕の高校生活はこの狭い練習室から
本格的に始まるのだった。


P.S
そんな高校時代から時は過ぎ2022年。

気付けば夏の終わりが近づいてますが、あっという間すぎだろ2022年。
もう、今年も4分の3を終えようとしています。
ついこないだキングダムの初回放送があって、初のワンマンライブがあったような気がするのに…。
ライブといえば先日お伝えした通り、なんとSUIREN史上2回目のライブが決まりました。
どこで?
そんなの決まってんじゃん。

日比谷野外音楽堂だよ(震え声)

いや、なんで?
2回目のライブで野音っておかしくない?
そう思った貴方。
まともです。
拍手してあげる。
まぁ、でもそんな奇跡が起きてしまうのもまた人生なのです。
今年はTVアニメ「キングダム」のOPテーマを担当させて頂くのに始まり、色んな奇跡を起こしてきてるのでそんなに驚きはないです。
嘘です。正直驚きました。
嬉しかったけどね。凄く。
ということでこれは先日気持ちを高める為に現地に偵察に行った際に見つけた噴水が噴き出る瞬間。
観に来て下さい。
SUIREN初の野音。
初の野音って言えるの今回だけだからね。
詳細はこちら。
『HIGHWAY STAR PARTY2022』
DAY1:GRANRODEO VS LIVE Ramble Scramble
9/17(土) 東京・日比谷野外音楽堂
開場16:00 開演17:00
act:GRANRODEO/BLUE ENCOUNT
OP Act:SUIREN

・チケット発売中
特設サイト:https://www.highwaystarparty.com/
SUIREN プロフィール

スイレン:ヴォーカルのSuiと、キーボーディスト&アレンジャーのRenによる音楽ユニット。2020年7月、最初のオリジナル楽曲「景白-kesiki-」を動画投稿サイトにて公開すると同時に突如現れ、その後カバー楽曲を含む数々の作品を公開し続けている。ヴォーカルSuiの淡く儚い歌声と、キーボーディスト&アレンジャーのRenが生み出す、重厚なロックサウンドに繊細なピアノが絡み合うサウンドで、唯一無二の世界観を構築。22年3月に初のワンマンライヴを開催し5月にTVアニメ『キングダム』の第4シリーズ・オープニングテーマ「黎-ray-」を含む自身初のCDシングルを発売。7月に配信シングル「アオイナツ」を発表し、12月に⻑編作品『アンガージュマン』の主題歌「バックライト」をStreaming Singleとしてリリースした。SUIREN オフィシャルHP

【連載】SUIREN / 『Sui彩の景色』一覧ページ
https://bit.ly/3s4CFC3

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」