817日ぶりのライジングサンは、この
国にとって大事な宝となるーー音楽史
に刻まれた『RISING SUN ROCK FESTI
VAL 2022 in EZO』現地レポート

『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』2022.8.12(FRI)〜2022.8.14(SUN)北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
8月12日(金)、13日(土)に北海道の石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージで『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』(以下、『RSR』)が開催された。言わずもがな、2020年・2021年はコロナ禍の中で止む無く中止に……。個人的にも3年ぶりの来場ではあったが、入場ゲートをくぐり、目の前の広大な大地を観た瞬間、「遂に帰って来た」という強烈な想いでいっぱいになった。テントサイトには既にたくさんのテントが設置されていて、バーベキューを楽しむ姿も多く見受けられる。もちろん、それぞれが守らなければいけないルールの上で楽しんでいるのも伝わってきた。バカ騒ぎでは決して無くて、胸騒ぎな僕らの特別な日が本当に帰って来たのだ。

『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』 撮影=編集部

例年の約10ステージあった状況を考えると、今年はSUN STAGE、EARTH STAGE、Hygge STAGEという3つのステージで会場の規模も縮小されているが、それでも全体を歩き回れば、その尋常じゃない広さには驚くしかない。縮小されてもこの広さかと、北海道だからこそのスケール感である。
ZION (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗
そしていよいよ、12時30分。EARTH STAGEにて、公募で選ばれたいわゆる若手・新人アーティストが登場する「RISING★STAR」枠で、ZIONのライブによりスタート。元NICO Touches the Wallsの光村龍哉が新たに始動させたというある意味、規格外のバンドである。それも北海道の十勝にスタジオを作って拠点を置いている『RSR』に出るべくして出た彼ら。緩やかで壮大なサウンドは、まさしく北海道を感じさせる。
13時30分定刻になると、『RSR』の立ち上げから関わってきたひとりであり、主催のWESS・若林良三氏が開催挨拶をするためにステージに現れた。個人的には、この方の挨拶を心待ちにしていた。ただ、名を名乗るわけでも無いので、観客の中には誰なのかわからない人もいただろうが、その誠実な挨拶を聞けば、何かしら感じたはずである。どうしてもチケットも高くしないといけなくなるコロナ禍の中で来場してくれた感謝を述べた上で、「817日お待たせして本当にごめんなさい……」と深く頭を下げる姿には堪らないものがあった。
3年という長い期間が空いてしまったことは受け止めていたが、改めて日数換算されると、どれだけの長い期間、開催されなかったかがリアルにわかる。世の中は戦争といがみ合いの真っ只中だが、この場が音楽と愛に満ち溢れるように力を貸して下さいと言った後、「泣いちゃうよね……」と言ったようにも聞こえ、その後の「もう言わなくてもわかるよね」の言葉も響いた。主催者とはいえ、あくまで裏方なので、そこまで気にする必要も無いかもしれないが、観客が楽しめる場所を作るために一生懸命動いてくれている人がいることを少しでも知ってくれたらうれしい。そして若林氏の「『RISING SUN ROCK FESTIVAL』というくらいなので、このロックバンドから!」と言って紹介されたSUPER BEAVER。若林氏からバトンを渡されたボーカルの渋谷龍太は登場するやすぐに、817日ぶりであることを強調して、1曲目「美しい日」へ。渋谷も若林氏と同じく本当に誠実な人なのだと改めて想えた。
SUPER BEAVER (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
3年前のライブレポートでも書いたが、どうしても地元・北海道出身者に注目してしまう。2018年に「RISING★STAR」として出場するも、その後は2019年初日の台風による中止と本格的出場を阻まれていたズーカラデル。ボーカルの吉田崇展は「みなさんの代わりに我々がでっかい声で歌います!」と宣言していたが、今回のリベンジ出演で故郷に錦を飾った感もあり、喜びが感じられたライブであった。Hygge STAGEのワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)とNOT WONK・加藤修平のソロ名義であるSADFRANKもそうだが、彼らの様な若き北海道出身ミュージシャンが『RSR』の将来を引っ張っていって欲しい。特に加藤は、今年1月に札幌 PENNY LANE 24にて開催された『BABY Q in EZO』にも出演しており、このイベント自体が『RSR』3年ぶり開催に向けてのキックオフ的イベントにも感じただけに、ラインナップに名を連ねてくれているのは嬉しい。
ズーカラデル (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
移り変わりが激しい音楽シーンにおいて、メインステージのSUN STAGEに3年前と変わらず出場し続けているミュージシャンは本当に頼もしい。その代表格でもあるクリープハイプ。ボーカルの尾崎世界観は登場しても、すぐに歌わずハンドマイクで、ゆっくりじっくり観客に話しかけた。Twitterのエゴサーチでお馴染みの尾崎だが、前回出場した時につぶやかれた言葉を引用して、「久しぶりの『ライジング』ですが、相変わらずやれることをやりたいと思います」と静かに語り掛ける。去年リリースのアルバム収録曲「ナイトオンザプラネット」から始めるあたりも、今の自分たちに自信を持っている現れでかっこよかった。
クリープハイプ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
夏に聴きたくなる人気曲「ラブホテル」なども歌う中で、「ナイトオンザプラネット」と同じくアルバム収録曲「一生に一度愛してるよ」も歌う。多くの人が集まるフェスなどでは人気曲を並べる方が喜ばれることもあるが、尾崎はそれを安全牌と捉えて、いかに飽きられることなくドキドキさせられるかに重点を置く。何よりも忘れられるのが怖いと素直に話して、先人たちみたいに20年経とうと覚えられたいと切に願う。「クソ暑い中でバラードをやりやがってという記憶でもいいから覚えといて欲しいです」という言葉からのバラード曲「exダーリン」は、彼らしい真っ直ぐさで信頼できた。
OAU (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
3年前のライブレポートで、細美武士と共に「今年最大のキーマン」と書いたのがTOSHI-LOWだった。詳しくは3年前のレポートを読んでもらうのが一番だが、音楽シーンを、フェスシーンを盛り上げようとする意識と気遣いがとてもある人だと思う。EARTH STAGEにOAUとして登場する彼だが、サウンドチェックからCMソングを歌ったり、本番ではSUPER BEAVERの渋谷にステージを横切らせたりと、とにかく楽しいことを仕掛けてくる。ボーカルのMARTINが英語で話した上で、すぐに日本語でも「待ってた? ウチらも待ってたんだよ! やばいよ! 言葉に出来ない……ありがとう」と気持ちを込めて話しかける。ズーカラデル同様、彼らも2019年初日に出場するはずが中止になったリベンジ出演組。だからこそ、想いが溢れ返っている。また、TOSHI-LOWはユーモア交じりに他のフェスをイジリながらも、「いっぱいフェスあっていいじゃん。世界見たら大変な事がいっぱいあるけど、俺らは選択肢の中で、戦いに行くんじゃなくて、フェスに行くんだよ、音楽を聴くんだよ。それが世界を変えるんだよ」と訴えかけて、今年頭にリリースされたばかりの新曲「世界は変わる」を歌った。
TENDRE (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子
リベンジ出演組などと書いてはいるが、もっと言うと2020年も2021年も出演者は発表されることすら無く中止になっているわけで、想いが溢れ返って当たり前である。そして、想いは今年のステージで爆発するわけで。Hygge STAGEのTENDREも穏やかな音楽性ながら、その音楽への気合いは凄まじく、ステージから少し離れた場所にいてもビシバシと音が届きまくっていた。想いだけでなく、人が溢れ返っていたのも納得である。同じくリベンジ出演組であるEARTH STAGEの中村佳穂も念願の初出場の喜びから「絶対いつもやらない歌をやろう!」と言って、本人が主演声優を務めた映画『竜とそばかすの姫』の劇中歌「Swarms of Song」を歌うサービスも! この3年で取り巻く環境がガラッと変わった彼女だが、とてつもなく大きな成長を肌で感じさせてくれた。
中村佳穂 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗
岸田繁くるり) (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影=山下恭子
早いもので気付くと時計の針は夕刻18時30分を指しており、初日終盤を迎えている。Hygge STAGEは岸田繁の登場だが、観客たちははやる気持ちを抑えられず、早くから立って彼を待ちわびている。登場するやいなや、「座っててええで。座っとき座っとき」と観客たちの逸る気持ちを制する。これ何気ないシーンだが、とても大好きなシーンであった。フェスは朝から夜までの長丁場であり、それも野外だと疲れはたまるし、その上で2日目はオールナイトである。
HyggeSTAGE 撮影=編集部
だからこそ、まったりくつろいで落ち着ける場所も重要になってくる。そういう意味では、色鮮やかなデコレーションやアートが楽しめて、夜になるとライトアップが美しいチルアウトスペースがあるのも『RSR』の良いところ。3年前に訪れた時に誠に気に入って、心身ともに落ち着けた3つのスペースがある。札幌で音楽、アート、スパイス料理を発信するショップ・PROVOのオーナー吉田龍太プロデュースによるPROVO、Candle JUNEが森をコンセプトに、たくさんのキャンドルで飾ったTAIRA-CREW、また、飲食や雑貨の販売、シーソーなどの遊具もあるRAIN TOPEというスペース。今年新設されたHygge STAGEには、その3つのスペースの居心地良さや快適さを想い出していた。

HyggeSTAGE

ちなみに「Hygge」は、デンマーク語で「居心地が良い空間」や「楽しい時間」といった意味。北欧は1年の半分以上が雪に閉ざされているので、だからこそシンプルかつ少しの工夫で質が良いものを楽しむという考え方があり、北海道にも通じるところから作られたステージである。このように座って落ち着いて楽しめる空間は、私のような40歳過ぎの大人には非常に有難かった。
ASIAN KUNG-FU GENERATION (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
フードエリアからは、ちょうどSUN STAGEの真上に見えた満月が美しい夜。初日のSUN STAGEのラストを飾るのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION。見渡すと会場後方まで観客でみっちり埋まっている。肩車された女性観客も見受けられ、なにがなんでもどうしても観たいという想いがくみ取れた。それに応えるかの様に、ゆったり落ち着き払って歌っていく威風堂々な姿には、もはや貫禄すら感じる。歌っている最中にも、どんどん観客が増えていくのがわかった。事前のインタビューで主催のWESS若林氏は、ステージ最後の出順だけがハイライトでは無いので、ヘッドライナーという概念は『RSR』に適用しにくいと話している。まさしくそうではあるのだが、これだけ待ち望まれている様を目の当たりにすると、流石にヘッドライナーと称されても全く異論が無いほどの風格を感じざるをえない。ちょっとした会場の空気の変化にユーモア交えて返すゆとりある佇まいから、ラストナンバー「君という花」での激烈な待ち望まれ感まで、とにかく印象に残る出番だった。
YOASOBI (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
EARTH STAGEラストのCreepy Nutsでは、SUN STAGEで出番を終えていたYOASOBIがコラボで登場したり、クリーピーの直前には、ずっと真夜中でいいのに。が登場するなど、いま若者に大人気のアーティストがしっかりとブッキングされていることにも目を見張るものがあった。幅広い層の音楽ファン、全ての世代の観客の期待に応えられるのは、メインステージからコンパクトなステージまでを擁する広大な『RSR』だからこそである。
Creepy Nuts (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫

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■『RSR』の歴史とルーツをたどる、2日目レポート
​ーーNUMBER GIRLの解散発表。急遽出演のフジ、レキシ、藤井風がみせた絆。BEGINが届けた平和と音楽への想い
■『RSR』の歴史とルーツをたどる、2日目レポート
ーーNUMBER GIRLの解散発表。急遽出演のフジ、レキシ、藤井風がみせた絆。BEGINが届けた平和と音楽への想い

『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』

2日目は11時に、EARTH STAGEの「RISING★STAR」として鈴木実貴子ズからスタート。入場ゲートをくぐった瞬間から、その爆発するエネルギーにより音は鳴り響ていた。会場ではお米を再利用して作ったゴミ袋を配布したり、SUN STAGEの開演前にはゴミの13種分別などに尽力するNPO法人からの挨拶もあった。その女性スタッフは、1999年初回に母親のお腹の中で『RSR』に来ていたという。歴史を感じるエピソードだが、今年も赤ちゃんを始めとして、3年前以上にたくさんの子供たちを見かけた。子供にとっては過酷な日程かも知れないが、大人が耳など体に気をかけてやりながら、音の楽しさを知ってもらい、大人になっても来て欲しいなと切に思う。
鈴木実貴子ズ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
さて、2日目も若林氏の挨拶がどうしても気になってしまうが、初日同様、開催を待たせてしまった事を丁寧に謝罪した上で、「愛しあってるかい!?」と大きな声で観客に問いかけた。『RSR』常連でもあった忌野清志郎の名言であるものの、若い世代にはもしかするとピンとはこない言葉かもしれない。これをきっかけにして、こういった音楽のルーツを知ってくれたら最高である。この時は、それくらいしか思わなかったが、この日は最後まで「忌野清志郎」という人物が個人的にはキーパーソンとなっていく。
東京スカパラダイスオーケストラ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
「もう常連だよね! 色んなステージに色んなスタイルで、無茶ぶりも含めて出てくれています! ミスターライジングサン!」と若林氏に紹介されて、東京スカパラダイスオーケストラがトップバッターで登場。まずはドラムの茂木欣一が現れる。早速、石狩が生んだスーパードラマーとして弱冠12歳のYOYOKAが呼び込まれた。2018年には最年少で出場している彼女だが、茂木とのドラムセッションから始まる。そして、途中でメンバーも入ってくる。茂木登場からある意味気づいてはいたが、全員が黄色のスーツ。約30年前の活動初期を思い出す姿に、当時を知る者としては熱くなるし、気合いを感じる。「DOWN BEAT STOMP」も最近の曲のつもりでいたが、よく考えると約20年前の楽曲。それでも当時を知らないはずの若い観客たちもスカダンスやモンキーダンスで踊っている姿を見ると、良い音楽は時代を超えるということが体感できた。コラボはYOYOKAのみで、約55年前のスタンダードナンバー「Can't Take My Eyes Off You」を演奏したり、楽器やタオルやスケボーや映像を使ってユーモラスに魅せてみたりと、ありとあらゆる技を駆使して楽しませようとする姿は、ド直球のストロングスタイルでとにかくかっこいい。
この日のスカパラの個人的ハイライトは、茂木によって歌われたフィッシュマンズ「いかれたBaby」。元々フィッシュマンズのドラマーである彼は、1999年の『RSR』初回にフィッシュマンズもスカパラも出場していないのは、共に大切なメンバーが亡くなったからだと話す。フィッシュマンズのボーカル・佐藤伸治、スカパラのドラマー・青木達之が亡くなった年だ。なので、茂木はスカパラに加入したわけだし、そこから『RSR』には20回も出場している。フィッシュマンズがライブ活動を復活させた2005年も『RSR』から出場している。知らない人も多い歴史であろうし、それを知らずに楽しく過ごすこともなにも悪くない。ただ、知っていて損はない。この日は忌野清志郎しかり、いつの間にか歴史やルーツを知る事がポイントになったように感じた。いつ知ろうと、そこからみんなのスタンダードになれば、それは素敵なことだ。今日は絶対に良い日になると確信できたSUNSTAGEトップバッターであった。
マカロニえんぴつ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
ヤングバンドがいつの日かメインステージへ行く姿を見届けるのもフェスのひとつの楽しみ。3年前、海外の有名ロックバンドたちも初ライブはガレージからスタートしたということから名付けられたテント型ステージ・def gargeで初出場したマカロニえんぴつ。今年は2回目の出場にも関わらずSUN STAGE。サウンドチェックの段階で、観客たちはSUN STAGEへと移動する道のりから大盛り上がりだった。ボーカル・はっとりが敬愛するオアシスのようなスケールを感じる歌声が遠く遠くへと届く光景は爽快でしかなかった。
映秀。 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子
Hygge STAGEに初登場の映秀。も今後が楽しみでならない若手。本人も40分の持ち時間を最初は長いかなと感じていたと話していたが、風も吹く気持ちいい時間でもあり、もう終わりなのかと感じたぐらいにあっという間に終わった。後方の観客からも手が振られ、それに手を振り返す余裕もあり、ますますステージが1年ごとに大きくなっていく模様を見届けたいと思った。

怒髪天 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫

この日も北海道出身組はもちろん出場。EARTH STAGEでは、昼過ぎに怒髪天・the pillowsと連続して観ることができた。怒髪天は登場SEから凄い手拍子が起きて、今までどこにいたのだろうと不思議に思うほどの大人の観客たちが一斉に詰めかける。増子直純の「よく来た~! 3年ぶりの乾杯タイム! 乾杯~!」という歓喜の声を聞くと、改めて『RSR』に来たのだと深く深く実感できた。3年前の2日目、初日台風中止の悲しみをSUN STAGEトップバッターとして吹き飛ばしてくれたのも怒髪天だった。「ロックフェスに来て、ロックバンドを見ないでどうする?! あなたたちは正しい!」という言葉も、ロックバカの自分を肯定してもらえたようで、とんでもなくテンションが上がる。
the pillows (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗
そんな怒髪天との地元同世代コラボも披露したthe pillowsの山中さわお。「凄い普通に一生懸命やっているのに、怒髪天の後だと地味に感じる!」という冗談にもニコニコしてしまう。また、あくまで自分自身の話としてコロナ禍対応への考えを述べた上で、今の世の中にマスク無しで過ごせるフェスが無いことを心から憂いた。「凄い居心地が悪いんだよ。ロックファンに謝りたい気持ち……。でも、音楽は全力でやるだけだから」と、この言葉には胸が締め付けられた。冗談交じりで言っていた言葉だが、この人は本当に一生懸命音楽を届けてくれてると感動しかなかった。人間が生きていくことの難しさ切なさ儚さ憤り哀しみを歌った「ニンゲンドモ」も突き刺さりまくったし、大名曲「ハイブリッド レインボウ」は『RSR』の国歌級の歌だと心から想う。<Can you feel?>という歌詞の問いかけには、未だに胸騒ぎが止まらない。
LOSALIOS (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子
1999年に『RSR』が初開催された時の衝撃を未だに覚えている。当時、大学4回生の私は北海道まで行けず、指をくわえて観るだけだったが、今のネットSNS社会とは全く違うので、音楽専門チャンネルで鑑賞するのと、音楽雑誌の特集で読むしか情報源はなかった。なので、23年経っても、当時はBLANKEY JET CITYで出演していた中村達也が、今年もLOSALIOSとしてステージに立ち続ける姿は何だか誇らしい。インストバンドであり、ただただ硬派でソリッドでロックなステージング。ギターの加藤隆志が参加している事もあり、スカパラのメンバーたちが観に来ているのも素敵な光景だった。
NUMBER GIRL (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
そして当時、メジャーデビューしたばかりの新人バンドで強烈なインパクトを与えたのがNUMBER GIRLだった。この時の「透明少女」の映像は何度観たかわからない。2019年再結成を発表した時に、一番最初にライブの場として告知されたのも『RSR』だった。ただし、先程から書いている様に初日は台風中止、翌年がコロナ禍で中止となり、他の場所でライブを観る事はあったが、『RSR』で観なければ何の意味もないくらいにまで思っていた。この日、サウンドチェックから向井秀徳は上機嫌で、ライブ中も冗談を飛ばしたりしていた。夕焼けで白い雲が薄紅色に染まった頃、7曲目で、何度も何度もブラウン管や液晶画面で観てきたあの「透明少女」が「あなたに捧げます! 君は透明少女だ!」と言い放たれ、轟音で鳴らされる。あの蝦夷の「透明少女」を遂に自分は生で観ることができたという不思議な気持ち……。余韻に浸ろうと思っていた矢先、状況が変わった。
「みなさん、お話が御座います。2019年我々NUMBER GIRLは再結成しまして、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』に出演する事が再結成の目標でありました。しかしながら、開催中止が続きましてわなかったわけよ。今日はこの落とし前をつける為にやってきました。お待たせしました、お待たせしすぎたかも知れません。そして、WESS若林さんに感謝の気持ちを伝えます。この決着をつけまして、我々NUMBER GIRLは再び解散します」
この後、12月の横浜でのライブが最終公演である事も発表されたが、とんでもない現場を目撃してしまったと完全に動揺していた。決してうれしい楽しいニュースではないが、この日、立ち会った全ての人が、ロックの歴史における重大な証人となった。「これで俺らはバラけます。聞いて欲しい。諸行は無常である」……まさしくこれこそが諸行は無常である。ここからの演奏は、それまで以上の緊張感と気迫が増し、一気に空気が変わった。ラストナンバー「IGGY POP FANCLUB」の終盤で、向井は演奏しながらメンバー3人に耳打ちをしにいく。この後、何が起きるのかと期待していたら、そのままラモーンズのカバー「I wanna be your boyfriend」が鳴らされた。彼らが特別な時にだけ演奏する楽曲。最後、向井は「やったぜ! ベイビー! イェイイェイイェー!」と明るく言い放って去っていったが、こちらは感情の整理整頓ができず、長い間、呆然としてしまった。でも、この目を撃つ様な歴史的目撃は、一生語り継がれるだろう。
SATURDAY MIDNIGHT SESSION (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
スカパラにしてもNUMBER GIRLにしても、やはり、この日は歴史やルーツがポイントである。元々『RSR』では、ルーツミュージックをベースに置いて、たくさんのミュージシャンでひとつのショーを作っていく企画「FRIDAY NIGHT SESSION」を行なっており、今年は、その名も「SATURDAY MIDNIGHT SESSION~明日に架ける歌~菌滅の音楽会」がSUNSTAGEで披露された。これは音楽監督を斎藤有太(Piano)が務めて、菌滅音楽隊としてマレー飛鳥(Violin)、清水明(Violin)、志賀恵子(Viola)、西谷牧人(Cello)、山木秀夫(Drum)、伊吹文裕(Drum)が携わり、奥田民生、岸田繁(くるり)、甲本ヒロトザ・クロマニヨンズ)、渋谷龍太(SUPER BEAVER)、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)、中村佳穂 が歌い、上原ひろみもピアノで参加した超が付くほどの豪華セッション。
民生や岸田は自分たちの歌を真正面から歌いきった。その姿は潔くて、粋だった。ヒロトや中村は時には楽しみながら、上原とのフリーキーなセッションをぶちかましていく。ヒロトのいつ何時も自分のペースで歌う姿は安心できたし、「シェー!」のポーズも物凄くキュートだった。中村の大御所の前にも後にも出さないでよという素直な即興歌も楽しめた。また、渋谷が若林氏のリクエストでオフコースの「生まれ来る子供たちのために」を、TOSHI-LOWが仲井戸"CHABO"麗市の「ガルシアの風」を歌った。
特に「ガルシアの風」が歌われる前に、TOSHI-LOWは、先人たちの時代からミュージシャンが愛と平和を言い出すと「歌に何の価値がある」と言われてきた事を踏まえて、ジョン・レノン、ボブ・マーリー、忌野清志郎がいなかったら、もっと世の中は悲惨になっていた事などを話した。ブルーハーツとユニコーンがいなかったら音楽は楽しめなかった事、上原ひろみや中村佳穂がいなくなったら全てが無くなるとも話した。そして、「今から歌う歌は本人が来年歌うと思う。本人は、この歌を歌う前にこう言ってる。21世紀に生きてる子供たちに贈りたい。先人たちは、ずっと歌を贈っている。受け取るのは誰だ!」と語りかける。後ろのスクリーンには仲井戸の直筆と思われる歌詞が映し出され、最後には「仲井戸"CHABO"麗市 2022年夏」という文字も見えた。
ラストはTOSHI-LOWを中心に、奥田と岸田と渋谷が、共に井上陽水「最後のニュース」を歌った。これらを、どう若い世代の観客は受け止めたのだろうか? 彼ら彼女らが受け止めなければ意味が無いと思っているし、ただただお祭りやキャンプとして楽しみに来てる人がいても何も悪くない。どこまで受け止めれたかは正直わからないし、気になるところだ。本来、音楽は「音が楽しい」ものであるし、TOSHI-LOWもかなり創意工夫して重くならないように楽しく明るく伝えてくれていた。とにかく歌に込められたメッセージが少しでも多くの観客に届いていますように。
レキシ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
今年、BiSH、King GnuVaundyの出演を楽しみにしていた人々は多かったに違いない。共にコロナによる体調不良で急遽欠場となり、その代わりをフジファブリック、レキシ、藤井風がそれぞれ急遽務めた。フジファブリックの山内総一郎は陽が照る中で、「BiSHのみなさんの代わりに3人で来ました。BiSHのみなさんのためにも最高の夏を作ります!」と宣誓のように言ったのも素敵だった。そして、レキシは2日前に話があり、2時間後には受けて、当日も昼間に札幌のライブハウスでリハーサルを重ねていたという。観客も急遽決まったにも関わらず、レキシの人気グッズ・稲穂を持って来たり、現地で購入したり、中にはどう見てもどこかで拾ってきた本物の稲穂を持ってたりと万全の状態で臨んでいた。レキシは明らかに、この日の為のセットであり、北海道出身ミュージシャンのメドレーを歌ったり。King Gnuへの想いを込めて「白日」をユーモラスに歌ったりと、全身全霊で楽しませようとする気概を感じた。そして、彼いわく『RSR』ではなく、略して「ラサロ」を本気で盛り上げてくれた。
全員が代打としての全力野球を必死にプレイする。私の眼には、そう映った。そういう点では、ピアノ一台と共に登場した藤井風のステージも圧巻だった。なんせ、最初の4曲全てVaundyの楽曲。こんなニクイ演出があるだろうか! そして、自身の「何なんw」「帰ろう」2曲を挟み、King GnuとBiSHの楽曲もカバーして、初日欠場のカネコアヤノのカバーまでしてしまう。レキシと同じく準備時間は無かったはずなのに、ここまで想いを込めた構成演出を用意できるとは天晴れとしか言いようがない。この日、彼のライブはYouTubeで生配信された。私が現地にいる事をわかっている知り合いからも「今、観てる!」という連絡が実際に来たし、後から聞くところによると約20万人が視聴していたという。その人気、その影響力の凄みを再認識できた。YouTubeを観た人の中から「来年は久しぶりに『RSR』に行きたい!」「来年こそは初めて『RSR』に行きたい!」と願う人たちが出てきてくれたら何より喜ばしい。現地へ来るキッカケになって頂きたい。ラストナンバー「まつり」というのも、もうこれしかないでしょうという選曲で心が弾んだ。
いよいよ時刻は深夜帯。SUNSTAGEクロージングアクト前のROTH BART BARONも、一緒にユニットを組むBiSHのアイナ・ジ・エンドに捧げるようにして、CMソングにもなった共作曲「BLUE SOULS」を歌ったり、King Gnuの前身バンド時代に一緒に北海道へライブに来ていたことがあるからこそ、今回同じステージでお互いの成長を見せ合いたかったと「白日」を歌ったりした。フジファブリック、レキシ、藤井と同様に、彼も欠場した者の事を想っていて、再び全員野球的な絆を感じる。

ROTH BART BARON (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹

逆に同じ真夜中でもEARTH STAGEの坂本慎太郎は、ただただ良い音楽を浴びせるという事に徹していたというか、聴き手の我々も何も考えずに、ただただ良い音を浴びるということに徹していて、それはそれで美しいフェスの存在意義を示せていた。LOSALIOSで受けた感覚にも似ていたが、時間帯が真夜中であるのと、音も浮遊感が強く、それはそれで独特であったし、広い観客エリアで自由にゆらゆら踊る人の姿が目立っている。自由で多幸感溢れる……、まさしく追い求めていた理想の空間であった。
BEGIN (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子
明け方4時15分。いよいよクロージングアクトのBEGIN。既に空は明るくなろうとしている。ボーカルの比嘉栄昇は、「ここまでありがとうございました! 一緒に朝日を迎えに行きましょう!」と声高らかに呼びかける。若い世代の観客は、どんな感じで楽しむのだろうと興味を持っていたが、物の見事にBEGINが楽しく巻き込んでいくのは流石としか言いようがなかった。音楽の強みであり、彼らでいう島唄の強みを感じた。単なる手拍子ではなく、上に上げる様に手拍子する上げ拍子をレクチャーすると、観客たちはすぐに楽しそうに上げ拍子をする。まるでワンマンライブのような一体感が、そこにはあった。「かりゆしの夜」では、沖縄民謡に合わせるテンポの速い踊りであるカチャーシーもレクチャーにより、すぐマスターして一緒に踊る。かりゆしとは「めでたい」という意味だが、その通り、めでたい夜、そして、めでたい朝へとなっていく。
北海道石狩のマスコットキャラクターであるさけ太郎とさけ子、BEGINのマスコットキャラクターであるマルシャちゃんも登場して、一緒に踊ったりと楽しく時間は過ぎていく。ラストナンバー手前にして、比嘉は「最後だけ喋る。俺も言いたいことがある」とそれまでとは違う真剣な表情を浮かべる。忌野清志郎への敬意も述べた上で、ミュージシャンが社会や政治について語ることについての自分の想いをとてもとても丁寧に打ち明けた。100年後、200年後に法律や教科書は変わるかもしれないが、良い歌は100年後も200年後も変わらないと話していく。
「『RISING SUN ROCK FESTIVAL』が開催されたことは、この国にとって大事なことをしています。自信を持って、音楽が好きだぜ、歌が好きだぜと言っていきましょうよ」
この言葉は見事に腑に落ちた。さまざまな歴史の経験を積み重ねてきた、沖縄で生まれ育った比嘉だからこその説得力があり、心から素直に納得できる言葉。音楽などの文化で平和を求めるのでは無くて、平和だからこそ音楽などの文化が楽しめるという、当たり前の幸せな日常を噛み締めることができた。ラストナンバーは「島人ぬ宝」。ロックフェスで歴史やルーツを感じながら踊って楽しめることは、私たちにとってかけがえのない宝だということにも気付けた今年の2日間。
最後に「家に帰るまでがフェスティバルです!」という若林氏のフェスティバル教訓も聞けたところで、スクリーンには「2023年8月11日・12日の『RISING SUN ROCK FESTIVAL』開催決定」の文字が躍った。
3年前のライブレポートで、「来年は2日間やりきった清々しい状態で、立派な日の出を拝みたい。その時まで、「あけましておめでとうございます!」という『RSR』独特の最高にハッピーな言葉は取っておきたい」と書いたものの、この日は曇りがちなこともあり、はっきりとした形で日の出を拝めなかったとぼんやり振り返りながら、退場ゲート近くのクロークで荷物を受け取っていた時、東の空に眩いくらいに輝いている太陽を拝む事ができた。『RSR』の公式Twitterで8月14日昼12時42分にある言葉がつぶやかれているが、同じ言葉を遂に、満を持して3年越しに言ってみる。
「遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!」
来年はマスク無しで逢える事を心から何よりも祈っています。
(c)️RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:n-foto RSR team
取材・文=鈴木淳史 ライブ写真=オフィシャル提供 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL
会場写真=編集部(大西健斗)

■『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』PHOTO GALLERY
次のページにてレポート内では掲載しきれなかったライブ写真など掲載中!
『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』PHOTO GALLERY

sumika (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
羊文学 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗
ワタナベシンゴ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子

長岡亮介 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子

SADFRANK (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子
My Hair is Bad (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹
フジファブリック (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:原田直樹

緑黄色社会 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗
milet (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫

SaucyDog (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下聡一朗

ハルカミライ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
フレデリック (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:千葉薫
秋山黄色 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子

田島貴男<ひとりソウルショウ> (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子

スガシカオ (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子
奇妙礼太郎 (c)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:山下恭子

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