Creepy Nutsインタビュー 「よふか
しのうた」に、巡り巡ってアンサーを
返した新曲「堕天」

バトルMCの日本一を決める『ULTIMATE MC BATTLE』にて3年連続GRAND CHAMPIONとなったラッパー・R-指定。そして世界一のDJを決める『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019』のバトル部門で優勝の栄冠を手にしたDJ松永。この二人によって結成されたのが今をときめくヒップホップユニットCreepy Nuts。そんな彼らが2018年に配信リリースした楽曲「よふかしのうた」にインスパイアを受け、コトヤマによって描かれたコミック『よふかしのうた』が2022年7月7日よりテレビアニメとして放映されることとなった。
インスパイアの元楽曲を担当したCreepy Nutsがアニメ『よふかしのうた』のオープニング・エンディング両主題歌を担当。エンディング・テーマは2018年にリリースとなった「よふかしのうた」、そしてオープニング・テーマは本作のために新たに書き下ろされた「堕天」だ。
果たして二人がアニメ『よふかしのうた』に対して感じているものとは。そして「堕天」はいかなるコンセプトで制作されたのか。話は広がり、本インタビューはアニメソングDJに対してのDJ松永の想いにも至っている。是非とも二人のバイブス、受け取ってほしい。

■『よふかしのうた』という物語があんなにアウトドアなものになるなんて
――まず最初にお二人の楽曲「よふかしのうた」にインスパイアを受けて制作されたマンガ『よふかしのうた』についてお話を聞きければと思います。マンガ『よふかしのうた』を読まれた時の印象はどうでしたか?
DJ松永:本当にありがたいし、意外な展開が過ぎましたよね。自分達が作った曲にインスパイアを受けた物語が作られて、そのタイトルに曲名を使ってもらえるなんて想像もしていなかったですから。それも内容がボーイミーツガールになるなんて全く予想したいなかったといういか。
R-指定:もともと「よふかしのうた」って楽曲は、俺らが影響を受けてきた、例えば深夜ラジオなんかをモチーフに作った楽曲なんですよ。そこにインスパイアをされた物語が、まさかあんなアウトドアな物語になるなんてね。読んだ時は「そうきたか!」って思いました。
――確かに、もともとは『オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアー』のテーマソングとして制作された曲ですからね。
R-指定:そうなんですよ。でも、よく読んでみると吸血鬼とか、思春期の男子とか、俺らの好きなモチーフも作品内の随所に散りばめられている。すごいですよね、俺らの曲が回り回って、俺らの好きな要素を詰め込んだ物語になるなんて、本当に光栄です。
――コトヤマ先生自身からのお二人へのリスペクトがあってこそ生まれた作品、ということでしょうね。因みに『よふかしのうた』の連載が始まるまでにコトヤマ先生と接点はあったのでしょうか?
R-指定:俺、一回電話で話してますね。
――それはどういったことからお話をされたんですか?
R-指定:コトヤマ先生の友達が俺の出ているイベントに遊びに来てくれてたんですよ。それで会場で話しかけてくれて、「コトヤマって漫画家知ってます? あなたのファンらしくて!」って言ってもらったんです。それで電話繋いでもらって挨拶した、みたいな(笑)。
DJ松永:えっ? それって何話したの?
R-指定:まあ、軽くご挨拶したぐらい(笑)。お互いに「存じ上げてます」程度の話して。
一同:(爆笑)
DJ松永:そりゃそうなるわな、初対面同士だもんね。
R-指定:だから、やっと今回のタイアップが決まってちゃんと話ができた感じ。
DJ松永:むしろ初対面の人と電話越しで話が弾んだら、それちょっとこわいよ。
■コウくんとナズナちゃん、二人の恋愛模様を俯瞰して見ながら書いた歌詞
――そんな『よふかしのうた』のアニメ化が決定、オープニング・テーマをCreepy Nutsのお二人が新たに書き下ろしたわけですが。
R-指定:流石に俺らの曲がアニメのどこかでは使ってもらえるんだろうな、という期待はしてたんですよ。それがまさか、オープニング・テーマを書き下ろさせていただけることになるとは! 光栄ではあったんですけど……テーマが“夜”の曲を、って言われた時はちょっと……。
――“夜”というテーマは書きづらいんですか?
R-指定:書きづらいわけじゃないんですけど、既に「よふかしのうた」で“夜”をテーマに歌詞を書いているわけですから被らない内容にするのが難しいというか……。それに俺らの曲ってもともと“夜”をテーマしした曲多いんですよ。その上でまた“夜”をテーマに、ってなるともう流石に歌うネタが出てこなくて。
DJ松永:いや、そりゃ出てこないよ。もう結構“夜”テーマの曲これまでも作ってるもん。出し尽くしてる。
R-指定:ちょうどこの直前に客演で月や星をテーマに曲作ったりしてたって言うのもあって、ちょっと視点変えるぐらいじゃ何も浮かばなくて……。
――すると、夜というテーマを避けて、その上でアニメ『よふかしのうた』のオープニング・テーマを考えよう、というところから制作がスタートしている、と。
R-指定:リリックを書くにあたっては、まさにそんな感じでしたね。
――とはいえ、聴かせていただいた限り、かなり“夜”の雰囲気を持った曲だと感じました。
R-指定:結果的にそうですね、“夜”を感じさせる方向には持っていけたんかな。やはり完全に“夜”から切り離した歌詞にはできないですから。直接、夜を描くのは避けて歌詞を書いていった感じです。
――するとこれまでの“夜”の描き方とは違った一工夫が入っている、ということですね。
R-指定:そうですね、ヒップホップって基本的には自分のことを歌う音楽で。俺らの曲も大体が自分の目から見た、一人称視点で歌詞ができているんです。でも、「堕天」はその視点を外して、第三者視点から歌詞を書いている。フィクショナルな、アニメ『よふかしのうた』に出てくる主人公のコウくんとナズナちゃんの恋愛模様なんかを俯瞰して、自分なりに解釈して書いている感じですね。
――なるほど。その結果、“夜”の曲であると同時にラブソング的な要素も入ってきている。
R-指定:『よふかしのうた』について書こうと思ったら、やっぱり外せない要素ですからね。特に描きたかったのはコウくんの年齢ぐらいの男の子が落ちる恋愛と、その結果知っていく汚れ。やっぱりあの年頃の子の恋愛ってそういう汚れとは切っても切り離せないものだ、って感覚が僕の中にありましたから。
――人生を狂わせた「初恋」というやつですね。
R-指定:そうですね。男女の恋愛に限らず、何かを好きになるってことは、イコール何かに狂うっていうことですから。そういう意味では「よふかしのうた」で描いている、夜というものに恋している俺を第三者目線から捉えている曲、そういう読み解きもできますよね。
TVアニメ『よふかしのうた』
■サビでバーンと景色が開ける曲にしたい、そのビジョンは最初から出来上がっていた
――トラックについても伺いたいのですが、松永さんはどういったイメージで制作をスタートされたのでしょうか?
DJ松永:なんか言葉で表現するのが難しいんですが、ジャズっぽくてファンキーでラテン感もあって、いわゆるブーンバップとも違うヒップホップをイメージしてましたね。ただそれが何のジャンルかはわかりませんでしたが。
――もう頭の中には出来上がっているけど、それを曲に落とし込むのに苦労した、と。
DJ松永:いろんな人に話聞いて、どうやら俺が思い描いている曲はブーガルーっていうジャンルに近いらしい、と。それでブーガルーの曲聴きまくったんですけど確かに近いものはありましたね。
――結果的に着地になかなか行き着けない、という感じですね。そうすると、制作も決して滞りなく進んだわけではなかったと。
DJ松永:そうですね。なかなか理想に辿り着けない。右往左往しながら作ってましたね。
――「堕天」の特徴として、構成面でもこれまでとは違ったアプローチが見られます。
DJ松永:そうなんですよ、特にラップ始まりの曲って初めて作ったかもしれない。ずっとやってみたいと思いつつやれてなかったですからね。ついに挑戦した感じです。
――そこはやはりアニメのオープニングということで、いきなりラップを聴かせたかった?
DJ松永:いえ、全くそんなことなくて(笑)。もう本当に俺がただやってみたかったものが、たまたまこのタイミングで作られたっていう感じです。正直これ、映像をつける人が大変だろな、申し訳ないな、とは思いつつ……申し訳なさにクリエイティブ欲が勝ったというか……。
――ずっと温めていた欲望が、たまたまこタイミングで爆発した、ということですね。
DJ松永:そういうことになってしまいますね。僕らは曲を作るプロであって、映像を作るプロじゃないので、なんて自分に言い訳をしつつ……(笑)。
――今回そんなクリエイティブ欲が爆発した理由は何かあったのでしょうか?
DJ松永:ラップ始まりより良いイントロが思いつかなかったっていうのもありますね。俺がトラックを作る時って、悩んで悩んで悩んだ結果、いいものができるっていうことはないんですよ。いいものができる時は最初からパッといいものができる。だから、煮詰まっている時はもう思い切った決断をしてしまった方がいいことが多いんです。本当に映像作るみなさんには申し訳ないんですけど……。
R-指定:まあ映像のこともそうやし、これライブでやるときどうすんのかな、っていうのはな。
DJ松永:そうね、どうしようね……。何か手を考えます……。
■アニメを見てもらって、初めて曲を覚えてもらえる権利を得られる
――Creepy Nutsとして、アニメ作品に向けて楽曲を書き下ろしたのは今回が初めてですね。
DJ松永:あ、そういえばそうなりますね。
――アニメタイアップだ! という感覚はあまりない?
DJ松永:言われてみれば、あまりないかもしれない。
――R-指定さんはいかがですか? 以前ラジオで「アニメソングは名曲揃いだから」なんて話もしていましたが。
R-指定:俺もあんまりそういう感覚はないですね。アニメソングってめっちゃいい曲が多いな、という感覚はあるんですけど、そこに自分の曲が並んだっていう感じはないですし。
DJ松永:アニメの主題歌って感覚はないんですけど、主題歌を作ったっていう感覚はあります。CMや映画の主題歌を作った時と同じように、というか。
R-指定:でもあれか、普段俺らの曲を聴かない、アニメ好きな人たちにこの曲は届くことになるんか。
DJ松永:確かにそうね。それはすごくありがたいことかもしれない。
R-指定:俺もよく考えたらアニメにハマってる時とか、その主題歌口ずさんだりするしな。そこから普段聴かないジャンルの音楽を聴き出したりもするわ。
DJ松永:俺にとっての『相棒』シリーズと同じようなことになるのか。俺、ドラマ『相棒』にめちゃくちゃハマっていた時があって、いまだにテーマ曲を聴くだけで反応しちゃうんですよ。でも、あの曲がもし『相棒』のテーマじゃなかったら普通に聴き流しているだろうし。
――そうすると、今後アニメ『よふかしのうた』を見た人たちが「堕天」を口ずさむ姿を目にするかもしれない。
DJ松永:いや、でもさすがにそれは、そんなに甘くないというか……。今や何かの主題歌になっている曲ってこの世界に山ほどある。そのうちの何曲が見ている人の記憶に残ったか、って思ったらね、なかなか……。
R-指定:主題歌になったから覚えてもらえる、って感じはあんまりないというか。アニメ『よふかしのうた』を見てもらえて、やっと俺らの曲が覚えてもらえる権利が得られた、ぐらいの感覚ですね。そこから覚えてもらうにはまだ道のりは遠い感じがしてます。
■アニメソングDJカルチャーに感じた、昔のヒッポホップ文化のあり方
――とはいえ、アニメソングを追いかけている身としては今回の「堕天」はかなり注目度が高いアニメソングになっていると思っています。
DJ松永:それはありがたいですね。
――アニメ『よふかしのうた』のティザーPVで使用されたCreepy Nuts「よふかしのうた」、アニメ放映前からアニメソングDJで使っている方を何度も目にしましたから。
DJ松永:マジすか! 既にアニメソング扱いになっているんだ! アニメソングDJの世界って不思議ですね。独自のルールで「ここから先はアニメソングとして扱う」みたいなのがあるってことですもんね。
――ありますね、そういう意味では「よふかしのうた」はティザーPVが出た時から、アニメソングDJはアニメソングとして把握しているかと。
DJ松永:詳しいですね。もしかして、アニメソングDJやられているんですか?
――はい、多少……。
DJ松永:マジすか! じゃあ秋葉原mograとかでDJも?
――何度か……。
DJ松永:俺、秋葉原mograで昔DJしたことあるんすよ! あの時Rも遊びに来てたよな?
R-指定:あれやろ、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの曲かけまくった時やろ?
DJ松永:そうそう。
R-指定:こいつNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのメンバーのソロ曲を順にかけて、最後「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」で締めるっていうDJしたんすよ。それでフロアバッキバキに上げてたんです。でも、その時XBSさんの曲だけかけ忘れてて。
DJ松永:あったね! 完全に忘れてたやつ! 帰りの電車でそれをRに指摘されるまで全然気付かなかったからね。
R-指定:ほんまあれな、怒られんで。
DJ松永:でもあれですよね、アニメソングDJの話に戻りますけど、アニメソングDJの方って、常にアニメで使われる曲に対してアンテナを張っているっていうことですよね。
――そうですね。それこそ「よふかしのうた」に関しても、誰かがティザーPVで使われたのを察知してDJで使う、結果みんながアニメソングとして再認識する、という流れだったと思います。
DJ松永:いいなー! なんか昔のヒッポホップみたい!
――昔のヒップホップ、ですか?
DJ松永:そう。だって俺らの「よふかしのうた」がアニメソングとして再解釈されて、DJがかけて、その結果流行ったっていうことですもんね。昔はDJがリスナーへ新譜の紹介役として大きな役目を果たしていましたから、それと似てるなって。
――今のヒップホップの世界だとあまり見られないことなんですね。
DJ松永:少なくなりましたよね。今はサブスク等のサービスで新譜の紹介役だったDJとリスナーに時差なく音楽が届いちゃいますからね。
――「よふかしのうた」に関してはレアケースでしたけどね(笑)。でもアニメソングDJに興味を持っていただけたのは光栄です。もしかしたら、今後、松永さんがアニメソングでDJプレイをするところを見れる日が来るかもしれませんね。
DJ松永:いや、俺はもうCreepy Nutsの活動の開始と同時にクラブDJ業を辞めてしまっているので……(笑)。でもカルチャーとしてはすごく面白い、興味が湧きました!
インタビュー・文=一野大悟

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