鈴木康博

鈴木康博

【鈴木康博 インタビュー】
カッコ悪くてもいいから、
その時の自分を
そのまま歌っていきたい

客層がちょっと若くなって、
さらにお客さんが増えている

もうひとつ本公演で印象的だったのが、鈴木さんと同世代の方が大勢来場されていたことで、日本もリスナーがライヴを卒業しない時代になったことを実感しました。

それは私もすごく感じています。このライヴの時もそうでしたけど、今は『十里の九里』(2021年10月発表のアルバム)のツアーで各地を回っていて、客層がちょっと若くなって、さらにお客さんが増えている感じがするんですよ。ライヴに参加することに親しんでいて、もっとお客さんが増えるんじゃないかという気がしています。

鈴木さんの音楽はコロナや戦争などが終わったあとの時代感にフィットすることを感じますし、ずっと精力的にライヴをされていることも強みになっていると思います。

やっぱり常に人前で歌っていないとブランク感が出てしまうんですよね。コロナ禍で一年くらい何もできずに、久しぶりにライヴをした時、なんか自分が爺くさくて(笑)。もうライヴをするのも疲れてしまう感じで、“ダメだ、こりゃ”と思った(笑)。間に配信ライヴをやっていたんですけど、お客さんからのエネルギーがもらえないので、こっちもアドレナリンが違うところから出ている感じなんですよ。やっぱり人前でライヴをしないとダメなんだなとつくづく思いましたね。

鈴木さんが各地を細やかに回って、いろいろな環境で歌われていることは本当に尊敬します。中でも男性のファンの方がとても多いことも印象的でした。

男性の方が増えたのは、ここ10年くらいじゃないかな? 私が60歳を過ぎたあたりだと思います。それは、やっぱり恋愛の歌が少ないからじゃないですかね。

そうですね。歌詞が共感を呼んでいることを感じます。

エゴサーチをしているわけではないんですけど、何かの拍子にライヴ寸評みたいなものを個人的に書いてくれているのを見たことがあって。そうしたら、“オフコースに在籍していた小田和正さんが大ヒットして、オフコースを陰で支えていた男はオフコースを辞めてひとりになり、要は中間管理職からリストラされた”と。そして、“先を見るともう自分は萎むかもしれないけど、それでも自分のやってきたことを大事にしてやっていくという意思を持った男が歌っている”と書いてあるわけ。そういう人物像を作り上げているんですよ。そういう人生を歩んできた男が歌っていて、それを自分に照らし合わせて、そういう男の歌を聴きに行こうという気持ちになってくれている。側から見ていたらそうとらえるとは思うけど、それは自分ではまったく意識していないところで、とにかく自分が思っていることを言葉にして、“感じるところがあったら感じてください。俺は俺の人生を歩んでいるから”という感覚なんです。でも、それでいいと思う。自分ではみんなが思っているような人生とはちょっと違うところで音楽をやっているような感じがしているけど、そこはもう受け取り側の自由ですからね。

僕も鈴木さんは強い美意識を持たれていて、ひとりでビシッと生きていらっしゃる方という印象があります。“男が惚れる男”と言いますか。

どうなんでしょうね? それは自分では分からない(笑)。

ダンディズムのようなものを感じます。さて、半世紀という長きにわたる活動を経ても鈴木さんは今なお意欲的で、今後の活動も本当に楽しみです。

活動のかたちはもうそんなに広がるわけがないので、地道に全国のライヴハウスを回り続けて、定期的に大きな会場でライヴができればいいなと思っています。ただ、音楽的にはまた新しいところに行きたいという気持ちがある。今の私は“70年代サウンド”と謳っていますけど、音楽にはそれよりも前があるんですよね。1930年代や40年代に流れていた音楽というのがあって、例えばミュージカルだったり、映画音楽だったりで、ちょっとストリングスが入っているようなものにすごく惹かれる。そういうサウンドをやるんじゃなくて、あの時代の楽曲のコード進行やらを活かした音楽をやりたいんです。当時の音楽というのはちょっと小難しいけど、そんなに難しくはなくて、大人が楽しめるような雰囲気やメロディーになっていて本当に魅力的なのに、もうなくなってしまいそうな気配がある。なので、聴いてくださるみなさんに分かってもらえるなら、そのへんもちゃんとやりたいと思っています。実は『十里の九里』もそういうことを考えながら作ったんですよ。そういう楽曲にストリングスを入れてしまうと昔のサウンドになってしまうので、エレキギターとかアコースティックギターの弾き語りでかたちにできればいいなと思っています。

昔の音楽を再現するのではなく、当時の匂いがある音楽を自分なりのアプローチで作るというのは最高です。

模倣しても意味がないですからね。あと、70歳を超えてから自分が感じていることをそのまま歌詞にしている人がなかなかいないじゃないですか。私は等身大というか、その時その時の自分をそのまま歌っていきたいと思っています。いかにリアリティーを感じてもらえるかというところで、本当に思っていることを題材にして、普段の私生活が感じられるような伝え方をしていかないといけない。それがカッコ良くできたらいいなと思う…いや、カッコ悪くてもいいから、それは大事にしたいですね。

鈴木さんは美意識を持たれていますので、カッコ悪いものにはならないと思います。そして、現在は『十里の九里』をフォローするツアーをされているんですね?

昨年からずっと地方をちょこちょこ回っていて、その中で1月の50周年ライヴがあったという流れになっています。それが今も続いていて、10月15日に渋谷の大和田さくらホールでバンドライヴをする予定なんですよ。1月のライヴとはまた違った特別なライヴになるので、ぜひみなさんに集まってもらいたいです。

取材:村上孝之

DVD『鈴木康博LIVE2022 おかげさまで50年+2』2022年5月25日発売 BIG PINK RECORDS
    • BPR-1011
    • ¥5,000(税込)

ライヴ情報

『鈴木康博 LIVE2022 〜十里の道も九里が半ば〜』
6/18(土) 静岡・LIVEHOUSE UHU
6/25(土) 神奈川・平塚 KANAFU
7/02(土) 福島・ミュージックBAR 時代屋シーズンII
7/03(日) 栃木・宇都宮 かぼちゃ亭
7/23(土) 宮城・仙台 FOLK SONG BAR 海風
7/24(日) 岩手・盛岡 すぺいん倶楽部
8/07(日) 茨城・水戸 GIRL TALK
9/10(土) 広島・ライヴ楽座
9/11(日) 山口・周南 LIVE HOUSE Gumbo
9/17(土) 福岡・小倉 フォークビレッジ
9/18(日) 福岡・music bar S.O.Ra. Fukuoka
9/23(金) 北海道・旭川 アーリータイムズ
9/24(土) 北海道・札幌 くう

『鈴木康博 LIVE 2022~十里の道も九里が半ば~
@東京, 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール』
10/15(土) 東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホール

鈴木康博 プロフィール

スズキヤスヒロ:1948年、静岡生まれ横浜育ち。中学生でアメリカンポップスに影響されてギターを弾き始め、高校在学中に友人の小田和正らとオフコースを結成。70年にシングル「群衆の中で」でデビューし、コンサート動員、レコードセールス等、音楽史に大きな足跡を残す。82年に全盛期のオフコースを離れ、83年にアルバム『Sincerely』でソロデビュー。自身はもとより、映像作品の音楽制作、他アーティストへの楽曲提供、プロデュースなど幅広く活動を展開。数多くの作品を発表し、ソロ、バンド、他アーティストのとのコラボ、ライヴ活動も積極的に継続中。その音楽性はもちろん、ますます磨きのかかったギターテクニックは多くのミュージシャンに影響を与え続けている。22年1月に東京・かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホールにて活動50周年を記念した『鈴木康博LIVE 2022 ~おかげさまで50年+2~』を開催し、その模様を収めたDVDが5月にリリースされる。鈴木康博 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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