猫田ねたこ

猫田ねたこ

【猫田ねたこ インタビュー】
どんなお花でも、どんな人でも、
光の当たり方で見え方は違う

いつも生まれ変わるような気持ちで
人や物事と接していきたい

『Strange bouquet』は統一感がありつつ表情の異なる楽曲が並んでいて、例えば「Minimize」はどんどん展開していく「Strange bouquet」とは真逆とも言えるループ感を活かした作りになっていますね。

この曲はタイトルが“Minimize=最小化”ではあるんですけど、実は歌詞に出てくる“aftermath”という単語が題材になっているんです。“aftermath”は“余波”という意味で、戦争とか大きな災害、困難といったことを乗り越えたあとの波というか、残る波を表しているんですね。その波はいくつもあって、人によって名前もつけられないくらい小さかったり、逆に背負いきれないくらい大きかったりして残ると思うけど、その波と向き合っていくという曲です。それが題材としてありつつ、その余波を小さくしていくことを諦めないでほしいというメッセージのほうが強かったので、タイトルは“Minimize”にしました。

大きなメッセージを英語の少ない言葉だけで伝える辺りにもセンスの良さを感じます。この曲の音楽的な面についてはいかがでしょう?

さっきループ感とおっしゃいましたけど、この曲はピアノの♪タタンタ・タタンタ〜というフレーズがずっと続いているじゃないですか。それは波が来る様子を表現しているんです。あとは、わりとシンプルに始まってきて油断させておいて最後に向けてどんどん緻密になっていくという演出をした曲なので、ぜひ最後まで聴いてもらいたいです。

えっ!? みなさん、ちゃんと聴かれると思いますが…。

どうでしょうかね…。最初のほうだけを聴いてシンプルな曲だと思って、“よし、分かった”みたいな感じで、そこでやめて次の曲にいっちゃったりしないかと思って(笑)。

「Minimize」は聴いているとグングン引き込まれてくので大丈夫だと思いますが。さらに、この曲はアイスランドっぽさや宗教的な雰囲気がありますね。

私はアイスランドの音楽が大好きで、ビョークの『メダラ』という声だけで構成されたアルバムに影響されて、いつか自分も声が幾重にも重なる音源を作りたいと思っていたので、声で遊んだり、最後に向けて声をどんどん重ねていったりしました。なので、アイスランドっぽさを感じ取ってもらえて嬉しいです。それに、声を効果的に活かすという手法は他の曲でも結構活かしました。

ヴォーカリゼーションも本作の聴きどころになっていますね。抒情的な「入道雲」や静謐かつウォームな世界観の「月になる」などについても話していただけますか。

「入道雲」は音楽的な部分で言うとかなり引き算をして、このアルバムの中でもかなりシンプルになっています。ピアノとメロディオンと声だけですね。

すみません、メロディオンというのは?

鍵盤ハーモニカのことで、みなさん“ピアニカ”とおっしゃるんですけど、それはYAMAHAさんの商標なので、鈴木楽器さんのものは“メロディオン”になるんです。

それは知らなかったです!? メロディオンのアコーディオンとハーモニカの中間のような音色が、この曲の世界を深めていますね。

曲を作り始めた時から、この曲にはメロディオンの音が合うと思っていました。歌詞に関しては、コロナ禍になった最初の夏の時の気持ちを歌っています。コロナ禍に入っていろんなことが制限されて苦しい時が私にもたくさんあったし、みなさんにもあったと思うし。苦しみがみんなに一気に、平等に来たから、いろんな考えがSNSにあがったり、意見交換したりしていて、怒っている人がいたり、憶測の情報が流れて混乱したりしていましたよね。そんな中で私は大変は大変だったけど、それまでの生活にもある程度不満はあったし、それはみんなも同じだったと思うんですよ。前の日々が完璧だったわけじゃない。だから、今も大変だけど、前みたいに小さなことを少しずつ重ねて大きな変化にするということを諦めないで一緒に頑張ろうって。いろんなことが積み重なってモリモリしている感じを表すために、“入道雲”というタイトルにしたんです。

コロナ禍が起こってからは毎年“透明な夏”という印象があって、この曲もそういう雰囲気がありますね。

そういうふうに感じていただけたなら良かったです。もう一曲の「月になる」はアコギが入っていますけど、アコギを弾ける人がいなかったので、最初はPC上の音源で演出しようと思っていたんですね。でも、ベースでサポートしてくれた佐藤智明さんはもしかしたらベースが弾けるからギターも弾けるかなと思い、突然お願いしたんです(笑)。レコーディングエンジニアの美濃隆章さんと私が持っていったギターを弾き比べて、“どっちがいいかな?”と言いながら“佐藤さん、ギターも弾ける?”みたいな(笑)。無理やり弾いてもらったんですけど、生音で録ることができて、より臨場感のある音源にできたので良かったです。あとは、この曲は浮遊感があるというかコズミックな感じにしたくて、エレピの音源も使いました。私の曲って太陽みたいに背中をパーン!と押すような感じではなくて、月のように見守る曲でありたいと思っているので、“月”という言葉はよく使っていて、それをテーマにした曲になります。

「月になる」の“寄り添って見守る、導く”ということを描いた歌詞には母性のようなものを感じました。

そうですね。手をつないで宇宙に出て、穏やかに大きいものを一緒に見ようという歌詞なので、母性という言葉が近いかもしれない。同時に《地球の影/何かを分かったように/<経験>で輪郭付け/“知っている”と言う》とか、2番のAメロの《誰かのこと/何かを分かったように/<経験>で輪郭付け/“知っている”と言う》という部分はちょっと「Strange bouquet」とつながるところでもあるんですけど、生きてきた経験で“あの人はこういう人だから”みたいに思ってしまうことがあると思うんですよ。でも、それが本当かは分からないわけだから、そんな自分の中の先入観に対する戒めの曲でもあるんです。私はいつも生まれ変わるような気持ちで人や物事と接していきたくて、こういう曲を作っています。

OKMusic編集部

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