SUIREN『Sui彩の景色』

SUIREN『Sui彩の景色』

2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い音を描くユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描くコラム連載。Suiを彩るエピソード、モノ、景色をフィルムカメラで切り取った写真に乗せてお届けします。

文・撮影:Sui

コミュニケーションとは本当に難しいものだ。
人の感情を読み取る事は勿論だが、こちらの感情を読み取って貰う事もまた難しい。
例えば僕が悲しい時、他人にはそうは見えないらしい。
例えば僕が怒ってる時も喜んでる時もまた、やはり他人にはそうは見えないらしい。


これは、小学校の入学式の話である。
僕はいきなり同級生に因縁をつけられてしまった。
理由はよく覚えていないが、僕も黙っていなかった。
そうして、口喧嘩になって、先生だったか、母親だったか定かでないが、とにかくお互いが怒られた。



これから学校生活を共にするクラスの記念すべき最初の集合写真の撮影中、ずっとやり合ってカメラの方を向こうともしないのだから怒られるのも仕方がない。


その時の相手の言葉で、今でも強烈に覚えていることがある。
「この豚ブルトンカツ味が!」である。
「なんだそれ?」と言うと、
「お前豚ブルトンカツ味も知らねーのかよ」と馬鹿にされた。
意味不明である。
子供の口喧嘩なんてそんな物なのだろう。


だが、それを知らない事がまるでこの口喧嘩の敗北を意味するかの様な、そんな空気だった。
彼のあの勝ち誇った顔を忘れる事は今でも出来ない。


何故そんな空気になったのか。
それは彼が既に友達を何人も作っていたからだ。
というよりも、彼が元々通っていた保育園の友達の多くがそのまま一緒に入学していた。
そして、僕が通っていた幼稚園の子の多くは近くの別の小学校に入学した。
つまり僕は少数派だったのだ。
今ならこう言語化出来る。
「理不尽だ」と。
登校初日。
僕は憂鬱だった。
幼稚園の頃も入園当初は憂鬱であったが、初めは全く心を開かなかった僕も、三年間という月日の中で、卒園する頃にはそれなりに友達も出来ていた。
でも、また殆ど知らない他人ばかりの場所で1日を過ごさなくてはならなくなった。
そんな状況が、子供なりに不安だったのだろう。


この時もまだ。
僕は生きているというよりも、この世界に生かされているだけのような。
そんな感覚だった。
そもそも幼稚園に行くのも、学校に行くのも、そこに僕の意思は介在していない。
しかし、それが決まりきった事なのだと言うように、当たり前に僕もそこに行かなければならない事も「理不尽」な事の様に思えてならなかった。




下駄箱で靴を脱いで
おろしたての真っ白な上履きを履く。
そうして廊下を歩き教室に向かう。
教室に入ると、そこには昨日口喧嘩したあいつやその友達がいる。
僕の幼稚園出身の人間も少し、居るには居るが喋った事がない奴しかいない。
だから、僕は昨日教えてもらった自分のロッカーにランドセルを突っ込んで、
同じく昨日教えてもらった自分の席に黙って座るしかなかった。
幼稚園とは違う。
綺麗に並べられた同じ机に同じイス。
目の前の黒板を眺めながら、
ただただ居心地が悪かった。


あいうえお順に座席は決められていて、
たまたま隣には可愛らしい女の子が座っていた。
見知らぬ子だったので、多数派保育園から来た子である事はすぐに分かった。
ボーッと教室を眺めていると、その子と目が合って、話しかけてくれた。
二言三言話した。
内容は覚えていない。
でも、下らない事を僕が言ったのだと思う。
馬鹿と言われた。
しかし、僕は話せた事が嬉しかったしホッとしていた。
だから、そのまま馬鹿な事を言っていたのだと思う。
そして、頭を叩かれた。軽くポンというような感じだったと思う。
まぁ、そういうコミニュケーションみたいな物だと僕は認識していたと思う。
ボケとツッコミみたいな。
戯れ合いみたいな物だ。
そういう雰囲気だった。
相手の女の子には少なくとも悪意が無かったことがわかったし
勿論叩かれた怒りもなかった。
だからただ、自分も同じ事をやってみたかったのだと思う。
反射的に僕も相手の女の子の頭をポンと叩いてみたのだ。


すると、その子が突然泣き出した。
「青天の霹靂」という言葉はこういう時の為の比喩だろう。
蟻も死なない程度のポンだったし、ましてや先にやられたのは僕の方だ。
だが、彼女は多数派だ。
そして、女の子で、泣いているのだ。
その光景を見たら、どう考えても僕が悪モノで。
多数派の連中は黙ってなかった。
ほぼクラスの全員から
泣かせたー!と言われたと思う。
昨日口喧嘩したあいつや、その仲間達も、やんややんやと騒ぎ立てた。


僕は悪くないと言いたいのではない。
迂闊だったのだ。
僕は理解していなかったのだ。
社会という物を。
もっと、大人しく振る舞うべきだったのだ。
入学式で因縁をつけられても言い返さない。
ポンと叩かれても叩き返さない。
少数派らしく。


いや、そういう事ではない気もするが。
少なくとも立ち回りが下手だったのだ。
もうちょっと関係性を深めてから、戯れ合うべきだった。
今思うと小学校は社会の縮図だった。
社会とは「理不尽」の連続なのだ。
そして、これが僕にとっての最初の社会との出会いだった。


そして、僕が歌を歌う理由となる原体験は
もう少し先のお話。


P.S
そんな幼少期から、時は過ぎ...2022年。
皆さんあけましておめでとうございます。
年末年始は少しゆっくりすることが出来たので、初詣にも行くことが出来ました。
おみくじで引けたのは大吉。
今年は良い年になりそうです。
SUIREN初ライブに向けて。
トレーニングの為に買ったランニングシューズ。
軽くて、柔くて、地面を蹴る感触が心地いい。
走り出して最初の20分は苦しい。
でもそこを超えると頭の中がスッキリしてくる。
無心で走る。心拍数が上がる。呼吸が荒くなって汗ばんでくる。
そうして走り続けているとまた苦しい時間帯が訪れる。
もう走るのを止めてしまいたいと思えてくる。
そんな時はSUIRENのライブのことを考える。
ステージから見る景色を想像する。
そうするとまた身体が軽くなって足が前に進む。
どこまでも行ける気がする。


今年はSUIREN飛躍の年に。
1/26にNew digital single「Arcle」リリース。
そして、3/21はSUIREN 1st ONE-MAN LIVE「Replica0」が開催。
お楽しみに。
SUIREN プロフィール

スイレン:ヴォーカルのSuiと、キーボーディスト&アレンジャーのRenによる音楽ユニット。2020年7月、最初のオリジナル楽曲「景白-kesiki-」を動画投稿サイトにて公開すると同時に突如現れ、その後カバー楽曲を含む数々の作品を公開し続けている。ヴォーカルSuiの淡く儚い歌声と、キーボーディスト&アレンジャーのRenが生み出す、重厚なロックサウンドに繊細なピアノが絡み合うサウンドで、唯一無二の世界観を構築。22年3月に初のワンマンライヴを開催し5月にTVアニメ『キングダム』の第4シリーズ・オープニングテーマ「黎-ray-」を含む自身初のCDシングルを発売。7月に配信シングル「アオイナツ」を発表し、12月に⻑編作品『アンガージュマン』の主題歌「バックライト」をStreaming Singleとしてリリースした。SUIREN オフィシャルHP

【連載】SUIREN / 『Sui彩の景色』一覧ページ
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