INTERVIEW / Ryu Matsuyama 新作EP『
And look back』制作背景と『インタ
ーステラー』、『ルックバック』から
の影響。チームで成長し続けるRyu M
atsuyamaの現在地

「俺たち農家は毎年雨の降らない空を見て言う。“来年がある”と。だが、次の年も雨は降らない。その次の年も」
2014年に上映されたクリストファー・ノーラン監督の映画『インターステラー』の劇中、主演のマシュー・マコノヒー演じる農父クーパーが宇宙飛行士として宇宙に出ることを決めた夜、父親に漏らした台詞だ。この台詞が、2014年当時よりも増して身近な言葉として響いてしまうのは、パンデミックによって色んなものを失った後の今だからこそなのかもしれない。いつかそういう時代が来るだろう。そんな風に妄想していたSFの世界が、今、目の前の世界に広がっている……? もっとも、『インターステラー』の中で、時間という概念は相対的であり、場所と同じく空間として捉える故、この様な一般的な感覚での“今”という言葉を安易に当てはめることなど出来ないわけだが。
イタリアで生まれ育ったRyu率いるピアノ・スリーピース・バンド、Ryu Matsuyamaのおよそ1年5か月ぶりとなる新作『And look back』は、そんな『インターステラー』に代表されるSFのムードを内包した全7曲入りのEPだ。私たちは何処から来て、何処にいて、これから何処に向かうのか。こんな異様な世界で、私たちは何を考え、何をすべきか。そんなことを思わされると同時に、音楽を奏でる最上の喜び、力強い生命力を感じさせる。
今回は、Ryu Matsuyamaメンバー3人に、新作『And look back』について、コロナ禍での環境の変化や、客演、印象的なリリック・ビデオについてなどの話も含め、様々な質問をぶつけてみた。
Interview & Text by Si_Aerts(https://twitter.com/ahoatsushi)
Photo by Official
「僕らも『ルックバック』から新しい法則を作っていこうかなと」
――前作『Borederland』からおよそ1年5ヶ月ぶりの新作となります。パンデミック下での制作という過程を実際に経て、どう感じましたか? バンドにとっては特に苦しい期間だったと思います。
Ryu:たぶん、3人それぞれに違う意見があるので、僕も2人に聞きたいなっていう部分ではありますけど、個人的にはコロナ禍だったからこそできたっていうポジティブな面も見えたのかなと思っています。タイのMax Jenmanaさんだったり、遠く離れた人ともリモートで一緒に制作できるっていう感覚があったので、それはコロナ禍で培われた経験が大きかったと思います。設備に関しても3人ともリモートで楽曲のやり取りができるようになったので、前よりもスムーズになったなっていう点はポジティブに捉えたいです。むしろ、こういう状況だったからこそ新しい曲を意欲的に書いていけるっていう気持ちになりましたしね。
――なるほど。Jacksonさんはどうでしょう。
Jackson:ライブの機会が減ってしまったので、それを中心に活動してきたミュージシャンは特に苦しいと思うんですけど、僕に限って言うと、作品に100%力を注げたのでよかったのかなって前向きに考えています。ライブやツアーがあると、リハーサルも並行してやったり、どうしても時間が限られたりするので。
――うんうん。Tsuruさんはどうですか?
Tsuru:コロナになって最初の1年目とかは本当にまっさらになったので……もちろん色んな意見があると思うんですけど、例えば、今までだと知ってる曲とか好きな曲をただ1曲聴くっていうことが性格的にも多かったんですが、コロナで時間が空いたことで、「この人のアルバムを全部しっかり聴いてみよう」とか、今まで時間がなかったで済ませていたようなことに改めて時間をかけられる期間でもあったので、そう考えるとバンドにはいい機会になったんじゃないかなって考えてます。
――厳しい状況の中で、新しい発見もあったと。
3人:うんうん。
――では、早速ではありますが、そんな状況下で制作された今作、『And look back』について聞かせてください。まず個人的な印象として、オープニングの曲「Debris」であったり、先行リリースされているリリック・ビデオのイメージであったり、クリストファー・ノーランの映画の様なSFのイメージが頭に浮かんだのですが、その辺りにコンセプトなどが明確にあったらで構いません、教えてください。
Ryu:いやいや、全くその通りです。今作に関しては、曲があって流れがあってこういう作品にしようっていうよりは、昔の曲や新しい曲を交互に入れたりして寄せ集めた感じだったので、僕なりにストーリーを付けて統一感を出しました。タイトルもそうで、ストーリーを付けることで繋がる感じを出そうと。リリック・ビデオに関しても、“宇宙に出よう”っていうテーマを付けて作りました。“ひとりの主人公が宇宙に出てどうなっていくのか”っていうのを考えてストーリーを構成してみて、こういう曲順だったらいいよね、みたいなことをゆっくり考えて作りました。オープニングの「Debris」っていうのは完全に“宇宙に出た瞬間の宇宙のゴミ”のことです。“Space Debris”とまでは言ってないんですけど。
――ちょうど今年、Legendary Pictures(『インターステラー』などを制作)が発表したSFドラマシリーズ『DEBRIS/デブリ』の配信が開始されましたが、そのイメージは何かしら関係しているんですかね?
Ryu:そこは直接は意識していなかったですね。ただ、リリック・ビデオが3部作になっていて、1作目が「Under the Sea feat.Max Jenmana」っていう曲で、海の中のスペース・シップ、2作目が「Snail feat.Daichi Yamamoto」で、崩れていく街の中を去って行くのかいるのかっていう感じ。そして、3作目は地球に残るのか残らないのかっていう選択肢に狭まれた主人公が、地球を出て新しい惑星を見つけるのか見つけられないのか……という感じで終わろうかなって思っていたので、おっしゃる通り『インターステラー』はかなり意識していますね。
――なるほど。最近でいうと、日常を描いた映画やアニメよりもむしろSFの方にアクチュアリティを感じてしまうというか、それこそ『AKIRA』であったり『風の谷のナウシカ』であったり、『インターステラー』であったり、そういうSF作品が今まで描いて来たディストピアみたいなものが、いよいよ現実を帯びてきてしまったんじゃないかっていう感覚というか。恐いことでもあるんですけど、パンデミックでよりその感覚が強まった。その意味でも、今回の作品のSF的なムードには個人的にもすごく納得感があります。
Ryu:「Debris」と「Fragments」っていう、最初と最後の流れだけは決まっていたんです。「Fragments」に関してはCDオンリーなんですけど、この“散らばった何か”っていうのを最初と最後に配置したいという意図があって。
――アルバム名の『And look back』というタイトルについてなんですけど、漫画家の藤本タツキさんの『ルックバック』の影響があるとポッドキャストでお話されているのを聞きました。それがすごく興味深い話だなと思ったんですけど。
Ryu:かなり影響していますね。元々は別のタイトルを付けていたんですけど、ミックスダウンの日に藤本タツキ先生の『ルックバック』の読み切りが公開されて。それを朝、電車の中で読んで、ミックス・エンジニアさんと「すごい漫画だったよね」っていう話をしていたら、「タイトル、『ルックバック』にします?」みたいな流れになって。さらっと感情のままに変更した感じです。ただ、『look back』だけだと僕らのいつもの法則がなくなってしまうなと。僕らの作品タイトルにはいつも“B”と“AND”が付いてるっていう法則があるんです。繋げると“BAND”という言葉になるんですけど、“look back”には元々“B”が付いているから、最初に“And”を付けて、『And look back』にしちゃえばいいんじゃない? みたいな。
――なるほど。いくつかの意味が含まれているんですね。ただ、あそこまでSNSで反響があった作品からの引用となると、逆にちょっと使いづらいというか、そういう意識もあったりしませんでしたか?
Ryu:それは全然なかったですね。むしろそこを攻めていこうかなって思いましたし、感化されていたからこそすごくいいと思いました。あと、通ずるもので言うと、(『ルックバック』には)Oasisの「Don’t Look Back in Anger」という曲の含みもあるので、音楽の題名からその『ルックバック』が本歌取りされたタイトルであったとするなら、僕らも『ルックバック』から新しい法則を作っていこうかなと。何も恥じることなく、恐れることなく付けてやりました(笑)。
――(笑)。もしかしたらスポイラー案件になるかもしれませんが、『ルックバック』のワン・シーンである“ドアを隔てたやり取り”というのは、それこそ『インターステラー』にも繋がるような表現だったと個人的にも感じているのですが、そういう部分でも何か共通のフィーリングがあった?
Ryu:それに関してはすごく感じていて、4コマ漫画のひとつの切れ端がドアの下に入り込むっていう、それが亜空間なのか、SFなのかどうかっていうのは明確には描かれていないんですけど、僕的にはSFな作品だなって思っているんです。あの主人公が妄想しているのかどうかは置いておいて。
――同感です。
Ryu:そうですよね。僕的にはSFに捉えようとしました。それがやっぱり『インターステラー』の主人公が本棚の裏から本を押している、別の空間から信号を送っているっていうシーンにすごく繋がったので、そこでドキッとして、これはもうタイトルこれにしないといけないんじゃないかなっていうぐらいの使命感を感じてしまって(笑)。
――『ルック・バック』が『インターステラー』と繋がった瞬間、今回の作品のテーマとも繋がった感じがしたということですね。
Ryu:しかも、元々、藤本タツキ先生が大好きなんですよ。
――藤本タツキ先生というと、『チェンソーマン』の作家さんですよね。
Ryu:そうですそうです。『チェンソーマン』から『ファイアパンチ』、その前作からそうですけど、ずっと読んでいて。
――大ファンなんですね。
Ryu:はい。藤本タツキ先生は、僕の中で、“いき過ぎた漫画”を書く人っていうイメージだったんですよ。でも、『ルックバック』では読み切りというか、すごく起承転結を書かれていて。僕らの『And look back』に関しても、EPという踏ん切りのいい曲数のタイトルになるので、ちゃんと起承転結を作って、タツキ先生の『ルックバック』のようにちゃんと終わってくれればいいなっていう、そんな思いも込めました。
「それなら自分ひとりで考えさせてくれっていう」
――今回先行でリリースしていた2本のリリック・ビデオもすごいクオリティだなと思いました。Ray Wakuiさんという映像作家さんの作品と聞いております。
Ryu:そうですね。RayさんはTHE SIXTH LIEというバンドもやっていて、ドラマーなのに映像制作もやってしまうっていう、凄腕の方を見つけてしまいました。もうリリック・ビデオの域は超えてます。確実に。
――間違いないですね。あんなに観ていて楽しいリリックビデオは中々ない。
Ryu:僕もRayさんの作品を初めて観たときに、「いやいや、これをやりたかったんだよ」っていう感じで。
――以前、「最近のMVに思うことがある」といったような少し含みのあるお話をされていましたが、その辺りをもし差し支えなければ教えていただけますか?
Ryu:個人的にMVの在り方が難しくなってきているというか。昔はやっぱり特別感があったと思うんです。ストーリーとか演奏シーンって貴重なものだったわけじゃないですか。でも、今はいつでもYouTubeで観られる。そうすると、MVの価値観って僕らが演奏してるとか、カッコよく映っているとかそういことではなくて、(違うかたちで)表せられるような新しいアイデアをどんどん出していく場だなって思い始めて。だから、それこそ昔の90年代のJ-POPで流行った、最初の2分は映画みたいな感じで、そこから曲に入ったり……今はもうそういうMV少ないですけど、今こそそういことをやった方がおもしろいと思うんですよ。5話くらい連続ドラマを発表して、最後にようやく曲が流れるとか、そういうアイデアの方が曲も生きるし、観る価値も出てくるんじゃないかなと思ったり。
最近のMVがおもしろくないとかではないんです。ただ、テクニックが伸び過ぎているというか、今は技術とテクノロジーが提供されているので、素人の方でもある程度の作品はすぐに作れますよね。だからこそ、そういう部分ではなく、アイデアで勝負していきたいなっていう気持ちがあって。それが今回の3部作に表れていると思います。
――今回のリリック・ビデオはアイデア満載ですね。個人的にいくつか印象に残るシーンがあって、まず、「Under the Sea feat.Max Jenmana」のリリック・ビデオで初めと終わりに出てくる“メッセージ・イン・ア・ボトル”のモチーフがRyu Matsuyamaというバンドのイメージにぴったりだなと。その辺何か意識はされていますか?
Ryu:いや、そこに関して明確には伝えていなかったです。Rayさんが自分の発想として作ってくれていたものなので、僕は細かい内容までは関与していないです。すごく曖昧にイメージをお伝えした上で、あとはお任せしました! っていう感じでやっていたので(笑)。Rayさんの才能ですね。
――「Snail feat.Daichi Yamamoto」のビデオもリリックの出し方とかもすごくおもしろいですよね。
Ryu:それは明確に意識しましたね。むしろ、難しくしようと。読むのを難しくすればするほど、何回も観てもらえるんじゃないかなと。リリックを見たければSpotifyとかApple Musicとかに載ってますから。リリックを載せるだけで終了してしまったら悲しいので、リリック・ビデオだったらギミックをどんどん楽しむっていう方がいいかなって思って。「この歌詞こう出るんだー!」みたいな感じを楽しんでもらえたらいいなと。
――その辺りもどこか“メッセージ・イン・ア・ボトル”の精神性に近いなと思ったりもして。
Ryu:うんうん。
――情報過多な世の中で、聴き手もそうですけど、人が主体的にモノを探していく作業であったりとか、見つけた作品一つ一つと向き合う時間の尊さとか、そういうニュアンスをこのモチーフから感じたりします。
Ryu:すごい深く語ってしますと、実は、「Under the Sea feat.Max Jenmana」の歌詞の中ではそのことを語っていて。今って、情報とかを自分たちの欲のために取りに行っていて、その結果、そういうものしかなくなってきていると思うんです。それなら自分ひとりで考えさせてくれっていう。そんなメッセージをこの曲では伝えているので、そこから“メッセージ・イン・ア・ボトル”に繋がるのは僕もビビっときましたし、「あぁ、そうそう。こういうことを言いたかったんだよ」っていう。それをRayさんがちゃんと掬い取ってくれたっていう部分でもあります。「Snail feat.Daichi Yamamoto」の電光掲示板なんかもそうですね。
3部作目の「From the Ground」に関しては、それを、完結みたいなところにちゃんと持っていけたら、僕がやろうとしてたクリストファー・ノーラン節が、リリックでも映像でも出せるんじゃないかなと思っています。楽しみです。
――「Snail feat.Daichi Yamamoto」のビデオでこれまた最高だったポイントは、主人公の宇宙飛行士が進んで行った先、終盤の焼け野原になった街で、《今日は笑える気がする》っていうリリックが乗るところ。あそこの映像と歌詞のハマり具合はすごかったです。デヴィッド・フィンチャーの名作『ファイト・クラブ』のラスト・シーンに近いフィーリングというか。実に両義的というか。
Ryu:ハハハハ、懐かしいですね(笑)。ただ、そこは僕が意識したところではないですね。焼け野原になっていくっていうのは最初に話していたんですけど、どこでどうするかっていうのは決めてはいなかったので。ただ、Rayさんは細かいところまで気にして描いてくれていましたね。例えば、去っていくものたちのスピードとか、歩き方とか。あそこまでリリックのギミックを作り込める人としては、やっぱりそういった細かい描写も徹底していますよね。最後の《今日は笑える気がする》の部分は、彼が意識してやってくれた部分なんじゃないかなって思います。
――関口シンゴさんプロデュースの「Under the Sea feat. MaxJenmana」についてもう少し聞かせていただきたいんですけど、Max Jenmanaさんは聞いたところタイではすごく有名なアーティストだそうですね。どういった経緯で参加することになったのですか?
Ryu:僕らタイのフェスに2回ほど出演させてもらっていて。タイで一緒にできる方がいないかなと探していたら、スーパー・スターのMax Jenmanaさんの名前が挙がって。実は2020年にMaxさんの日本ツアーにも呼ばれたのですが、コロナでなくなってしまったという経緯もあったんです。今回、楽曲を送ったら「この曲は自分が参加したい」っていう感じで、すごくいい反応をもらえて。
――ばっちりハマってますよね。また、関口シンゴさんは相変わらず最高のギターを弾いていますが、実際に2曲、編曲プロデューサーとして迎え入れてみていかがでしたか? 前作のmabanuaさんに続き、〈origami PRODUCTION〉、Ovallから迎え入れることとなりましたね。
Tsuru:mabanuaさんもシンゴさんもそうなんですけど、本当に人柄が温和な方々なので、アレンジも包み込んでくれる感じというか、楽曲の根本を損なわずに、優しくアレンジしてくれているなっていう印象がとてもありますね。人柄がすごく出ていると思います。
Jackson:前回のmabanuaさんはドラマー目線で色々アドバイスを頂きましたけど、今回の関口シンゴさんはギタリストで、僕らの編成にはない楽器なので、すごく新鮮でした。これまでギターの音を入れるのはバランスが非常に難しかったんですけど、「From the Ground」や「Under the Sea feat.Max Jenmana」では、3〜4本くらいふんだんにギターを入れているんですけど、「お? Ryu Matsuyamaってギター入ってもいいんじゃない?」と思わせるようなアレンジになっていると思います。新しい発見をさせてくれた人で、尊敬しています。
Ryu:関口シンゴさんにお願いするとき、せっかくなのでギターをふんだんに入れてくださいという風にお伝えしていて。それがいい方向に向かって、僕らだけでは到達できないところまで連れて行ってもらえましたね。mabanuaさんとはまたタイプが違う方で、新しい発見がありましたし。こうして楽曲をプロデュースしてくれる人が増えていくことが嬉しいなって感じます。
――信頼していたのですね。
Ryu:mabanuaさんとやらせて頂いたときも、今回に関しても、アレンジして頂いたものに対してできるだけ自分たちの我を入れないように意識はしました。やっぱりその人の考えがありきでアレンジして頂いているので、そこはできるだけ意見に沿っていった方がいいんじゃないかって。一方で、ラップ曲(「Snail feat. Daichi Yamamoto」)に関しては僕らでアレンジしたのと、あまりにもサラッとできてしまったが故に、今後もアプローチが変化していくかもしれません。ライブ毎に変わっていくというか、成長させていきたいなって思っています。
――ライブでどう変わっていくのかがとても楽しみです。
Ryu:僕らも楽しみです。ラップってその日によってどういうアプローチでくるかわからないので、こちらもそれに合わせるっていうのも楽しそうだなと。この曲は、僕らでDaichi君を支えるくらいの気持ちでやっていきたいなって思っています。
Ryu
「ラップ界全体をすごく尊敬しました。すごい人たちだなと」
――では、改めて、Daichi Yamotoさんをフィーチャーした理由というのを教えていただけますか?
Ryu:そうですね。「Snail feat.Daichi Yamamoto」はアイデンティティをテーマにした曲で。さっき言った宇宙飛行士の中で、長い旅をしているときに自分の中でクライシスが起こるというか。惑星でひとりにされたときに、自分の人格だったりを色々と問うことになる。そういった点から、アイデンティティのテーマを宇宙飛行士というモチーフの中に入れたかったんです。僕はそもそもみんなと違う国で育ったということで、アイデンティティについて考えることも多かったですし。
このテーマで書こうってなったときに、じゃあラッパーは誰を誘おうかなと考えたんですけど、やっぱりこういったアイデンティティに対して近しい感覚を持っている人とやりたかったんですよね。Daichi Yamamoto君の曲を聴いたときに、自分のことを問う曲が多いと感じた。そういう人がぴったりなんじゃないかなって思っていましたし、僕と似たような境遇を経てきたんじゃないかなっていう、勝手な想像もありました。いざお声掛けしたら、一発で素晴らしいリリックをくれて。修正なしでそのまま入れることになりました。
――まぁ凄まじいパンチラインの連続で。
Ryu:そうですね。ラッパーって自分の過去曲から引用してそこにアンサーしたりすることとかもあって、それが今回のリリックの中にも結構入っていて。そういう手法で1曲書けるなんて本当にすごいなって、ラッパーを改めて尊敬してしまいました。もちろんDaichi君も尊敬しましたし、ラップ界全体をすごく尊敬しました。すごい人たちだなと。 僕らはなるべく言葉数少なめにしてファンタジーを想起させるようにしていますから。あんな言葉数が多い中で、ちゃんと核を作るっていうのはすごく難しいので、僕は絶対できないです。大大大尊敬です。
――《偽らないlove letter マティスみたいに色彩放つbaby》とか、こんな言葉どうしたら出てくるんでしょう(笑)。
Ryu:いや、出てこないですよね(笑)。ちゃんと読んでみるとテーマに沿っていて。すごい才能だなって思いましたね。
――Ryu Matsuyamaさんのサウンドの特徴として、Ásgeir、Bon Iver、Sigur Rósを彷彿とさせる壮大なサウンド・スケープ、心地良い和声、Ryuさんの美しいメロディ、そういった要素がまず初めに思い浮かぶと思うんですけど、和声のフレーズにはどこか日本固有の親しみやすさみたいなものも感じます。そこは何か意識しているポイントはありますか?
Ryu:最近は意識しないようにしていますね。壮大な感じとか、「〜〜ぽさ」とか、そういうことはできるだけ意識せずに書いてます。やっぱり自然にインプットしていくものって、日本のものでしかないんですよね。海外に住んでいるわけではないので。メロディとか和声に関しても、自ずと日本っぽくなっていくのではないかなと。それはこれからもそうだと思いますし、そんな中で自分で血肉化したものをアウトプットできればいいかなって勝手に思っています。あまり意識せずに、今はおもしろいと思ったものならなんでもトライしてみます。
――なるほど。そこに繋がるかはわかりませんが、以前、ポッドキャストでRyuさんが、今はどんどんフィーチャーしたい、フィーチャーされたいモードだと話していました。その辺り、具体的に誰と共演したいと思っているのか、希望でも構いません。単純にファン心としてお聞きしてもいいですか?(笑)
Ryu:ハハハ(笑)。たぶん3人それぞれ違うとは思います。僕は本気でBon Iverに依頼したいなって思ってますよ。「ぜひ!」って送ってみたら、もしかしたらOKしてくれんじゃないかなって思ったりしていて。いつかは絶対実現させたいと思っています。すごい悲しいことを言うと、できれば色々な方にフィーチャリングで呼んで欲しいんですけど、呼ばれないので、自分たちからオファーするしかないんですよね(笑)。
――バンドをフィーチャーするという考えがあまり一般的ではないというか……(笑)。
Tsuru:僕は(渡辺)シュンスケさんとやりたいですね。
Ryu:僕は自分をピアニストとして捉えているわけではないので、シュンスケさんにピアノを弾いてもらえるなら最高ですね。
Jackson:あとは、坂本龍一さんとか。
Ryu:すげえデカいところ出たな(笑)。
Jackson:上原ひろみさんも。
Ryu:いいね。僕は特定の人ということではないですけれども、今回のアルバム制作の段階で考えていたのは、GLIM SPANKYさんですね。昔から知っていますし、(松尾)レミさんと僕の声のケミストリーを考えていました。一緒にやってみたい人はまだまだいっぱいいますね。
――実現楽しみにしています!
Tsuru
Jackson
「違うからこそ、それを認め合って分かち合うっていうことが第一歩なのかなって」
――「Roots,trunk,crown」が使われている『生々流転』も観させて頂きました。Ryuさんがコメントされている中で“無力感を感じた”という言葉に共感覚える人は少なくないと思うのですが、この「Roots,trunk,crown」というタイトルに込められた意味を教えて頂けますか?
Ryu:今回、西表島を訪問させてもらったときに感じたのが、言葉で言い表すのが難しいんですけど……改めて、僕らは外部の人なんだっていうことで。どうしたって、何をしたって外部の人で、外部の考え方でしかないんです。やっぱり、そこで生きている人は生きている人で、違う考え方をいっぱい持っている。今、このままでいいっていう人もいれば、どんどんツーリズムに溢れてきて欲しいっていう人もいる。そういった異なる意見を持っている人たちが手を組んで、自然を豊かにさせるっていうのは難しいことで。その相まっているものを見てきて、やっぱり僕らは全員違うんだっていうことをすごく感じたんです。
Ryu:自然の部分をピックアップされがちですけど、僕は西表島ですごく人間的なものを見てきたなと感じていて。今回、この「Roots,trunk,crown」では、それぞれが根っこに持っているものが違えば、幹や葉っぱも絶対違うものになるっていうことを表現したくて。でも、違うからこそ、それを認め合って分かち合うっていうことが第一歩なのかなと。それが、西表島の自然に繋がってくれればいいっていうだけなので。『生成流転』というドキュメンタリーを通して、西表島にこういう事実があるんだっていうことを認識してもらえただけでも、変わることが多いのかなと思って、このタイトルにしました。
それぞれの根、幹、葉っぱ、そうやって育ったものを、みんなが大事にしていけば、未来は変わるんじゃないかなって勝手に思ったんです。どちらかと言うと、僕らが自然を目の前にすると、どうしても無力感を感じてしまいますよね。だから、あとはもう人間次第だっていうことをこのタイトルで言いたかったんです。つまり、「Roots,trunk,crown」っていうのは木でもあり、一人ひとりの人間っていう意味も含んでいるんです。
――お話を聞いていて、アイデンティティがテーマだったという「Snail feat.Daichi Yamamoto」でRyuさんが歌われている、《Seems like I’m different,peculiar》というフレーズがここでも何か繋がった感じがします。
Ryu:あのラインでは2つの言葉を使い分けています。“peculiar”っていうストレンジの方向の言葉と、“different”っていう完全に違うという認識の言葉。「Snail feat.Daichi Yamamoto」ではどちらかと言うと、相手の目から見た“変な感じ”っていう意味ですね。
――なるほど。ところで、今作のリード曲に「From the Ground」を選んだ理由は?
Ryu:一番明るかったから……ですかね?(笑) ただそれだけです。僕は全曲リード曲でもいいくらいのEPだと思っているので。
――確かに。ホーン・セクション、マーチング・ドラムだったり、疾走感、音楽を奏でることの喜びや力強さ、生命力を感じます。こんな状況であっても、自分たちにやれることをやってやるんだっていう、そんな心を奮い立たせてくれるような曲だと思います。
Ryu:嬉しいです。どこまで話していいかわかりませんけど、この曲は元々別のプロジェクトに起用される予定だったんです。そのプロジェクトについてはあまり詳しくは言えないんですけど、当初からメッセージは変わっていなくて。色んなことを振り返ったときに、奮起してほしいというか、鼓舞するような曲。やっぱり今、このコロナ禍で生活が内向きになってきているので、意識だけでも外へっていう。まだまだできるんだぞ、自分の中には色々あるんだぞって、自分へのメッセージだと思いながら書いた曲です。
――パンデミック以降、何が正しくて、何が正しくないことなのかっていうのが本当に誰もわからなくてなってしまいました。そういう状況というのはコロナが収束するしないに関わらず続いていくと思うのですが、そんな中でRyu Matsuyamaはバンドとしてどういう意識で活動をしていきたいですか?
Ryu:難しいですよね。答えなんてないと思いますし。前までは、ここでアルバムを作って、ツアーをして〜という感じで、来年の話を常にしているのが音楽業界でしたけど、今は目の前のことを意識して、これは本当にやるべきなのかとか、今はちょっとステイしておこうとか、直近の物事に関してシビアに判断しなければいけない。対応力を高めていくしかないのかなって思っていますし、代わりに家でできることはどんどんやっていきたいなって思っています。自宅でもできるような形をどんどん作り上げていきながら、なおかつ3人という形は大事にしたい。コロナ禍で色々考えたんですけど、最終的には3人とも健康でいられることが一番かなと。健康であることを大前提に、ライブができたら一番嬉しいなと思います。
――Jacksonさんはどうでしょう。
Jackson:今まであまり意識していなかったのですが、お客さんの前でライブをするってことは本当に非日常的でかけがえのない行為なんだなって改めて痛感して。特に、感動をすぐ伝えられること……例えば、コーヒーは3分かけて淹れますし、映画は1〜2時間かけて感動させますよね。でも、音楽って音を出したら1秒で感動させられるじゃないですか。これってすごいことだなと。だから、今は目の前にあるライブ、10月のワンマン・ライブ、そのあとの大阪と名古屋でのライブで100%出していこうと思いますし、Ryu君と同じく家でできることはもちろんやっていこうと思っています。結論としてはRyu君と同じ意見になっちゃいますね。未来よりも今を大事にしていこうと思っています。
――Tsuruさんはどうですか?
Tsuru:去年は本当に考えさせられた年でした。スケジュールが全部白紙になって、音楽を続けていけるのかっていうところに立たされるわけじゃないですか。自分が変わらないといけないだろうということで、去年は本当に試行錯誤していたんですけど、今年に入ってからはバンドも少しずつ動き始めて。このまま音楽を取り巻く環境があと5年は大変かもしれないけど、数十年生きる中のたった5年だと思うようにして、あまり考え過ぎないようにしました。重く受け止め過ぎないというか。結局、逃れられないことなので、受け入れて生きていこうと。
――難しい状況はこれからも続いていくかもしれませんが、3人の制作に関わる方々は、今回リリック・ビデオを制作したRay Wakuiさんにしても、プロデューサーの関口シンゴさんにしても、フィーチャーされているDaichi Yamamotoさんにしても、たくさんの才能に囲まれているなと感じます。今回のアートワークも、メジャー・デビュー前から手がけてくれている佐々木香菜子さんですよね。
Ryu:そうですね。僕がソロでライブをやったときに香菜子さんが観てくれて。「私、イラストレーターでこういう絵を描いているんです」っていう会話がきっかけで、『Grow from the ground』(2015年)、『Leave, slowly』(2017年)のジャケットを描いてもらいました。メジャー・デビュー作『Between night and Day』はデザインに凝った作品で、2枚目の『Borderland』では親父の絵を使ったので、3枚目はインディーズ時代からお世話になっていた香菜子さんにお願いしたいなと。親父の絵の次に、インパクトのある香菜子さんの絵という流れもすごくいいなと。
香菜子さんは今回も曲を聴いてくれた上で描いてくれて。100%ではないかもしれないですけど、僕らが描こうとしている音楽を理解してくれているというか、すごく近い視点で見てくれている方のひとりなので、もうRyu Matsuyamaのメンバー、チームのひとりと言っても過言ではないですね。
――チームっていいですね。
Ryu:アレンジの部分やフィーチャリングではこれからも色々な人に参加してもらいたいなと思います。ただ、今あるRyu Matsuyamaっていうチームは昔から変わっていないんです。徐々に増やして、固めてきたので。ミックス・エンジニアの西川さんにも初期からずっとお世話になっているのですが、共に成長しているような感覚もあります。今の僕らと西川さんで作った最高の作品が今回EPなので、これからもそれを更新していきたいですね。今後もいいチームで作品を作り上げていきたいと思います。
【リリース情報】

Ryu Matsuyama 『And look back』

Release Date:2021.10.06 (Wed.)
Label:VAP INC.
Cat.No.:VPCP-86385
Price:¥1,900 (Tax Included)
Tracklist:
1. Debris
2. From the Ground
3. Snail feat. Daichi Yamamoto
4. Roots, trunk, crown
5. Under the Sea feat. Max Jenmana
6. Deep, blue
7. Fragments(CD only)
・タワーレコード限定 CD購入者特典
タワーレコード・オリジナル特典:アナザー・スリーブ・ケース(Ryu Matsuyamaメンバー直筆サイン入)
タワーレコード特典
・HMV限定 CD購入者特典
缶バッジ
HMV特典
※特典の有無につきましては、各CDショップまでお問い合わせください。
【イベント情報】
『”Roots, trunk, crown” Tour』

日時:2021年10月3日(日) OPEN 17:30 / START 18:00

会場:東京・渋谷WWWX
料金:¥4,000 (1D代別途)
出演:
Ryu Matsuyama

[Guest]

塩塚モエカ羊文学
Daichi Yamamoto
*新作EP『And look back』先行販売
*会場限定EP購入者特典:And look back A2ポスター(Ryu Matsuyamaメンバー直筆サイン入)
==

日時:2021年11月4日(木) OPEN 17:30 / START 18:00

会場:大阪・心斎橋 Music Club JANUS
料金:¥4,000 (1D代別途)
出演:
Ryu Matsuyama
==

『GROW TILL TALL』

日程:2021年11月5日(金)
会場:愛知・名古屋 JAMMIN’
料金:ADV. ¥3,000 / DOOR ¥3,500 (各1D代別途)
出演:
Ryu Matsuyama
K:ream
*高校生以下 ¥1,000 OFF
*チケット(e+)9月26日(日)より販売開始
各公演チケット: チケットぴあ(http://w.pia.jp/t/ryumatsuyama-w/) / e+(https://eplus.jp/rtc/) / ローチケ(https://l-tike.com/ryumatsuyama/)
■ Ryu Matsuyama オフィシャル・サイト(http://ryumatsuyama.com/)

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