TRUEが自身の言葉でニューアルバム『
コトバアソビ』を解説 「言葉を綴ら
ないと生きていけない」 1万字イン
タビュー

TRUEが3年ぶり、4枚目のアルバムとなる『コトバアソビ』をリリースした。様々なアニメタイアップを担当している彼女のアルバムが3年間も出ていなかったことに驚きもしたが、本作はTRUEがこの時代に思うことが詰まりきった一枚となっている。感情を言葉に変えて音と共に届けようとしてくるTRUEにこのアルバムに付いて深堀りして聞いてみた。1万字を超える彼女の思いを受け止めてもらいたい。

――約3年ぶりのアルバム『コトバアソビ』を拝聴させていただきました。今回はアルバム収録曲の話を中心に聞いていければと思っております。まず1曲目の「MUSIC」は、いきなりクライマックスから始まった感がありますね。
3年ぶりのアルバムのリード曲を作ろうと思って作り始めたこともあって、この3年間で私自身が感じたこと、皆さんからいただいたもの、今私が皆さんに伝えたいこと、それらすべてを込められるような楽曲にしたいなと。実はけっこう前から声を楽器みたいにして使ってみたいなと思っていたので、このコーラスワーク自体も狙って楽曲制作をお願いしました。
――「MUSIC」っていうタイトルも、けっこう勇気あるタイトルと言うか。
はい、潔いですよね。でも何か、私らしくないですか?
――“らしい”です。
「MUSIC」というタイトルの潔さとかわかりやすさとかは、すごく私らしいなと思っているし、きっと受け取ってくださる皆さんもそう思ってくれるんじゃないかなって。この「MUSIC」というタイトルは元々作家のトミタカズキさん(作編曲)から上がってきたデモにつけられていた仮タイトルだったんです。すごく潔いタイトルの曲がきたなぁと思って聴き始めたら、これほど音の楽しさみたいなものを詰め込んだトラックに出会うのは久しぶりって感じで、私の中でほかのタイトルが考えられなくなってしまって。
――歌詞のポイント的には、どういうところがありますか?
そもそも楽曲制作をお願いした段階で、音楽とか言葉と向き合ってきた私が持っている愛情だったり憎しみだったりを詰め込みたいとお伝えしていたんです。それで、仮タイトルとデモから“MUSIC”を基に歌詞を書いた感じです。私のすべてと言うか、本当に、言葉と向き合いながら、愛おしみながら、憎しみながら歩んできたこの10年間ぐらいかな。作家として始動してから、今までの想いを込めた感じです。
――喜びや悲しみといった感情のひとつひとつに絞るのではなく、喜怒哀楽を全部詰め込んでいるのを感じたんです。そういう意味でも、強い曲というかTRUEさんの中のキメ曲になりそうだなという印象が。
「MUSIC」をリード曲に決めたときに、ただ独りよがりに想いを語るだけの曲を作るのではなくて、ちゃんと私と聴き手でお互いのぬくもりを感じられるような曲を作りたいという考えも同時にありました。そういったものも、私の音楽への向き合い方みたいなものだと思うんです。
■「「空に読む物語」は今まで皆さんが聴いたことのないようなボーカルに」
――この潔く、強い1曲目から始まって、「Blast!」、「Another colony」とタイアップものが続きます。“アニメ作品✕TRUE”の、面白さ・強さがしっかり詰まった2曲を持ってくる感じの流れが気持ち良くて。そういう後にくる「空に読む物語」、「inorganic」の2曲にすごくグッときました。
ありがとうございます!私、個人的に「空に読む物語」がとても気に入っていて。
――これ、すごいですよね。
これも作編曲がトミタさんなんですよ。才能豊かで、新しい刺激をあたえてくださる方で、楽曲制作を通して一緒に成長しているような実感がすごくあって。あまり名前を出すのも贔屓するみたいで良くないなって思いながらも(笑)。 今回のアルバムはトミタさんとの出逢いが本当に大きかったですね。
――僕はここまでの5曲を聴いたときに、パビリオン的なアルバムだと思ったんです。TRUEさんも歌い方をしっかり変えていて、世界が移り変わっていくというか。そういうチャレンジがあるように感じていて。
実は、元々作家として所属しているSCOOP Musicに、4月からアーティストのマネジメントも統合することになったんです。それで、今回のアルバムは完全にSCOOP Musicのディレクターがディレクションをしていて。なので、ボーカルミックスからディレクションを私も一緒にやったり、楽器のレコーディングやトラックダウンもすべて立ち会わせていただいています。そういった意味でも、サウンドの作り方とかの音楽的な側面が以前より私に寄り添ったものになっているんじゃないかなって思います。
――新しい面を引き出しているような楽曲が多いと感じたのはそういう理由があったんですね。やっぱり、TRUEさんはメチャクチャ歌がうまいお姉さんで、ライブでもハイトーンの突き抜け感、爽快感が印象に残っていたんですが、今回は低音の面白さ、良さみたいなところを全体的にすごく生かそうとしているように感じました。
とても意識しています。「空に読む物語」に関してはいつもよりキーを2つぐらい低く設定していて、今まで皆さんが聴いたことのないようなボーカルになっています。
――やっぱり意図的に作っていたんですね。この曲が4曲目に入ってくることにすごく意味があるなと思っていて。「このアルバムは突き抜ける感じでいくのかな?」と思ったところでこういうバラードが入ってくると、聴いててグッと心が持っていかれました。ここで作詞のお話も聞ければ。
「空に読む物語」は、デモをいただいてすぐに……車の中で1、2回聴いたときに「空を読む 君を待つ 星が流れる 名残るように時が 綴られていく」という2行が浮かんだんです。鼻歌じゃないんですけど、適当に歌詞をはめて歌いながら曲を覚えたりするんですけど、そのときにここの歌詞はもうできていて。トミタさんの楽曲は、私の思いをそのままメロディに変えているような……すごく不思議なシンパシーって言うんですかね?フィット感みたいなものがあるんです。それで、「この曲はたぶん早く完成するだろうな」という予感がすごくあったんですよね。たぶん、生涯の中でもそんなに巡り会えない作家さんだろうと思っていて。
――そこに関しては今回、トミタさんとは、先にセッションがあって「こういう曲やりましょう」というのがあったわけではなくて?
まったくなかったですね。今回関わってくださったどの作家さんもすごく素晴らしいんだけど、そういう優劣ではなく、私の言葉をそのままメロディにして提示してくれるというか。すごく素直になれるんです、トミタさんの曲の前だと。
――それは、「出逢い」かもしれませんね。
そうなんだと思います。もし機会があれば今後も積極的にご一緒したいと思っています。本当に、すごく貴重な出逢いの場をいただいたなって感じですね。
■「正しい感情もよくない感情も全部、1回自分で肯定してみよう」
――続いて5曲目の「inorganic」。言葉の意味としては「無機質」とか「無生物」みたいな意味ですかね。この並びが良いですよね。ちょっと対になってるというか。
両方ともバラードなんだけど、エモーショナルですからね。
――そうそう。補完し合ってるような感じもあって。「inorganic」の印象もお聞かせください。
実は、この曲がアルバムを通して最初に決まった曲なんですよ。アルバム用にたくさんの楽曲を提供いただいて、そのなかで最初に歌詞を書き上げたのがこの曲でした。以前、「memento」という楽曲で、Jazzin'parkさんに楽曲をお願いしたんですけど、今回もアルバムを作るので、ぜひ!とお願いして。いただいた曲を聴いて最初に思い浮かんだのが、ドライフラワーみたいな枯れても残り続けるみたいなイメージだったんですね。すごく無機質な、そういったイメージのまま歌詞を書いていきました。
――この曲には、どこか乾いた印象があります。
トラックダウンでは、意識的にリバーブを使わずにAメロやBメロにドライでソリッドな感じを出しています。ただ、サビでは感情が爆発するようなエモーショナルさを出して、バランスのいい曲に仕上がったなという感じです。より感情に音が寄り添えるようにできたんじゃないかなと思っています。
――潤いを感じる曲の後に「inorganic」がくる並びがすごく良いんですよね。都会の表と闇じゃないですが。
まさに今回のアルバムは、正しい感情もよくない感情も全部、1回自分で肯定してみようというのが自分の中にコンセプトとしてあって。なので、あまり人が出したがらない悪い感情、たぶん皆さんが私にあまり抱いていないようなイメージの、そういう負の部分や、間違った部分を、きちんと肯定して言葉に残そうかなって。特に今、こういうご時世もあるので、そういったものが誰かの心に残り続けるってこともあるんじゃないかなと思って、怖がらずに表現してみました。
――確かに歌詞では、あまりTRUEさんが自分の楽曲で表現されてこなかった部分が書かれているなと思っていて。そういうところでもひとつ扉を開けている感じはしました。これまでなかったとは言わないけど、けっこう負の感情を見せてる曲じゃないですか。
そうですね、特にデビューから最初の数年間は「こんな風に見られたい」「こういうアーティストだと思ってほしい」という自分を音楽で表現してたんです。でも、皆さんも同じだと思うけど、清廉潔白な人間なんていないし。私にもみんなに見せたくない部分やドロドロしたものは、人によって大きさは違えどやっぱり抱えていて。今回のアルバムは、そういったものも怖がらずに表現するのに相応しいん機会なんじゃないかなって。
――確かに一側面だけ見せ続けても……というのはありますよね。続いて「Acceleration」は「加速度」などの意味ですね。ここで雰囲気もバッと変わります。神田ジョンさんが作曲ですが、かなりパワフルですよね。
そうですね。皆さんにもすごく愛していただいてライブの定番にもなっている「分身」という曲(3rdアルバム『Lonely Queen’ s Liberation Party』収録、作編曲:神田ジョン)があるんです。最初は「分身」を超えた曲を作りたい、なおかつ「分身」への導入に入れるような曲という漠然としたイメージがあって。ライブって、起承転結があるじゃないですか。ワンマンライブのなかで場面転換になるような、ここからエモーショナルなことが始まるぞ! みたいな導入になる曲を作りたいと思い、ジョンさんに制作していただきました。ジョンさんとは、「これ歌えないだろう、TRUEさん!」「いえいえ、ぜんぜん歌えますけど、何か?」みたいな(笑)、何かお互いに戦っているような感覚で。
――バトルですね(笑)。
本当に!毎回球の投げ合いがすごくて。この曲が来たときは、ジョンさん、私に洋楽を歌わせようとしてるのかな!?みたいな(笑)。 無理無理無理!と思ったけど、それを伝えるのも負けた感じがするので(笑)、これは、サラッと歌いこなしてみようかな、みたいな。
――歌い方もしゃくり上げるようなところもありますね。
敢えて雑に歌うというか、正しく歌わない。歌詞も正しくはめない。きちんと聞こえなくてもいいから、韻の踏み方とか、音の当て方を優先して書いていったので。まさに“コトバアソビ”をテーマにしました。音って楽しいな、言葉遊びって楽しいな、みたいな。とにかく考えないで感じる、皆さんにも感覚で楽しんでもらえたらいいなって。
――僕の最初の印象は「アメリカンロック!」でした(笑)。これまでに激しい曲も歌われていますけど、ここまで振り切った感じはなかったですよね?
そうですね。これまではどちらかというとJ-POP寄りの曲を作ってきたので、ここまで洋楽っぽいものって歌う機会はなかなか無かったかもしれません。11月にワンマンライブがあるんですけど、そのタイトルにもそのまま「Acceleration」と付けています。これからライブの定番曲に成長していくといいなって。
――なりそうですよね。“「Acceleration」待ち”が出そうな曲ですよ(笑)。
確かに!
■「こんなに自由に歌詞書いていいんだ!」
――そして、「リブート!」です。
作曲のsijiさんは、今回初めてご一緒させていただいたんですが、メロの構成の仕方とかがすごく面白いんです。それで、ぜひ歌ってみたいなと。そこから曲としてのクオリティを一段上げるために、アレンジは渡辺(和紀)さんにお願いしました。渡辺さんの底力と、sijiさんのフレッシュで何にも囚われない自由さが見事に融合した、すごくかっこいいサウンドに仕上がったと思ってます。
――けっこうテクニカルな感じの曲ですよね。ここの2曲はすごく新しい扉を開いてる感がありました。歌詞を書いて、歌ってみていかがでした?
すごく楽しかったです。こんなに自由に歌詞書いていいんだ!って。音楽って楽しいなって、改めて感じることができましたね。
――お話をここまで伺っていて、今回のアルバム制作中に「音楽の楽しさ、再発見」みたいなところがあったのかなと。
そうですね、音楽の楽しさ、言葉の楽しさと難しさみたいなところを、逐一、確認しながら作っていった感じはありますね。
――やっぱりそうなんですね。「リブート!」はアルバムに入っていることに意味があると思ったんです。タイアップとかじゃなくてアルバムに入っているっていうのは、自分の名刺のような曲として出したのかなと。
そうですね、シングル曲に関して、私はいただいたアニメのタイアップのことを誰よりもリスペクトして、理解する努力をして……勿論そうするのが当たり前だと思うんですけど、そのうえで自分自身の楽曲を作っていて。特に「DREAM SOLISTER」との出逢いから、ずっとそうやって音楽制作をしているので、どの曲を切り取っても私自身だなとは思うんですけど、やっぱりアルバム曲はその成分がより濃く出ている気はしますね。
■「なかなか超えられないハードルを自分で作ってしまった」
――そういう意味では「TRUEこれもやれますよ」という部分を嫌味じゃなくアピールしているのが、聴いていて気持ちいいですね。次は「叙情詩とロマンス」。山下洋介さんが作編曲の一曲です。
この曲は今回のアルバムを通して、いちばん完成度に満足しているというか……。ここまでの曲って、もうできないかもというぐらい、素晴らしい楽曲が完成したと思っていて。山下さんは同じSCOOP Musicの作家さんなんですけど、最初に「こういう楽曲を作りたい」というイメージをお伝えして、デモを1コーラス上げていただいたんです。本当に、生まれて初めて「曲に歌詞を書かされた」ような印象というか。最初の1コーラスを30分で書き上げたんですけど。
――ええ、すごい!
それからまた山下さんとお会いして、歌ってみて。後の構成を一本の映画みたいな、よりドラマチックな展開にしたくなったんです。2コーラス目からは3拍子に変化していくんですけど、小一時間ぐらいでフルの歌詞が書けて。コーラスも含めて仕上がったものを聴いて「私が書いたんじゃないな」と改めて思ったんですよね。
――曲が歌詞を生んだという感じですかね。
山下さんのメロに書かされた感覚というか。私、長く音楽に携わっているんですけど、こういった感じって生まれて初めてでした。今後もなかなか出会えないんじゃないかなという意味でも、すごくクオリティの高さに満足してます。
――音と音、言葉と言葉の余白がすごく気持ちいい曲ですよね。やっぱり、この並びがいいと思うんです。「Acceleration」「リブート!」とエネルギーを高めた後に、「叙情詩とロマンス」がスッと入って。しかも「吐く息が溶ける」っていう、すごく大人っぽいワードから入っているのも効いている。
何か、私よりも私のボーカルの持ち味を理解してくださっているというか。本当に衝撃的でした。
――改めて完成度が高いアルバムだと思います。
なかなか超えられないのでは、みたいなハードルを自分で作ってしまっているなって思ってますね(笑)。
――それを毎回超えていくのがTRUEさんですから!
そうですね!(笑)
■「そのときの私をそのまま切り取って良いベクトルに持っていってくれる良いチーム」
――続いて「ステラ」。これはTVアニメ『可愛ければ変態でも好きになってくれますか?』の特殊エンディングで流れた曲です。この曲、僕は凄く好きなんです。
「ステラ」はすごくたくさんの方が好きだとおっしゃってくれる曲なんです。私はバラードを制作するときに、h-wonderさんとタッグを組むことがとても多いんですね。h-wonderさんのメロディはフィット感が強いというか、いつも無理せず歌詞を書けて、歌えるというか。「ステラ」は自分で「私ってこんなにかわいい一面があるんだ!」「恋や愛をこんなに素直に捉えられるんだ!」と感じた楽曲なんです。
――その後で「僕の中の君へ」が入ってきます。この言い方で良いかわかりませんが、正統派のTRUEバラードと言うか(笑)。
正統派ですね!
――ここでこの曲が入ってくると「さあクライマックスに向かってますよ!」という感じがあって。
「僕の中の君へ」は、TVアニメ『転生したらスライムだった件』第1期の終わりのまとめ回で、それまでのストーリーを回想しながら流れる楽曲だったので、リムルとシズさんの出会いから、これまでリムルが歩んできた道みたいなもの、それからリムルと出会った人が帰る場所。そういった道しるべになるような曲になればいいなと思って作りました。
――なるほど。確かに一期ラストを回想するのにはぴったりの楽曲でした。
すごく優しいメロで、いつ聴いてもホッとするような楽曲が完成したなと思っていて。これは初めて言うんですけど、実はこのレコーディングのときに、後半から立っていられないぐらい体調が悪くて。いつもだったらわりと体幹でふんばってパーン!って声出しちゃうんですけど、踏ん張れないぶん、すごく儚く切ない……今聴き返してもこのときだけの表現ができているんです。そんなチャンスって滅多に無いじゃないですか。
――体調の悪さをチャンスとして捉えるのは、なかなか無いと思いますね(笑)。
これはこれで、とてもいいなあと思っていて。だから、ライブで再現するのが難しいなぁというところはあるんですけど(笑)。
――ライブのときは勿論元気ですもんね(笑)。
平然と歌い上げてしまうんですよ(笑)。このときは、手に入らないものを思う切なさみたいなものがすごく上手に表現出来たなと思っていて。声を出すことに必死で、届けることに必死だったあの数時間、とても良かったな、って(笑)。
――体調が悪くて弱っていてもポジティブなのは変わらない(笑)。でも、届かない何かへの憧憬って、確かに良いですよね。
曲ができあがってトラックダウンまでいったときに、すごく勉強になったんですよ。「こんな私もいるんだ」って。そのときの私をそのまま切り取って良いベクトルに持っていってくれる、本当に良いチームで制作させてもらっているんだなと思いました。
■「まだまだこのアルバムは通過点」
――ここから「Storyteller」「WILL」「Sincerely (English version)」とラストに向かって一気に畳み掛けるような流れになります。
アルバム制作の最初から「ヴァイオレット・エヴァーガーデンの曲を最後にする」という構成を考えていて、「WILL」は必ず入れようと思っていたんです。それプラス、ボーナストラック的な役割で「Sincerely (English version)」を入れさせていただいたという形ですね。コロナ禍で海外に出向くことが叶わなくなってしまったんですけど、たくさんの国で歌わせていただいて、日本語が浸透していない国でも、皆さん「Sincerely」をすごく心で受け止めてくださっていたんです。ヨーロッパでも日本語で口ずさんでくださっていたり、涙を流しながら聴いてくださっていたりして。私たちも洋楽の楽曲聴いて涙することも沢山あるし、音楽で伝わるものってあると思うんです。
――あると思います。
でも、日本語があまり日常的に使われていない圏内の方々に、より真っすぐに明確に、鮮明に、彩度を持って受け取って欲しいと思って、今回English versionを作らせていただきました。
――本質は変わらないのに、言語が違うと歌い方や質感も変わっていくような気がします。それで、受け取り方も変わってくるというか。
とても良いですよね? 私、最近このEnglish versionを自分でもめちゃくちゃ聴いてるんですけど、英語ってすごく感情を当てやすいなって歌っていて思いました。
――ずっと日本語詞で歌われていて、英詞になっても歌の意味はほとんど変わらない。それでも、英語になったことで伝わる感情は違ったということですかね。
日本語って、絵画で例えると水彩画だと思うんです。主語を明確に語らずに表現することが多いというか。でも、英語になると「私」「あなた」って、主語がしっかりするから油絵みたいに言葉がしっかりしている印象があって。そういったことも相まって、日本語の「Sincerely」とはまた違った趣きのある楽曲になったと思います。トラックダウンはやり直していますけど、同じ音源の演奏に合わせて歌っているにも関わらず、英語バージョンはエモーショナルだなって思いましたね。
――歌詞でいうと、サビのラストの「I long to see you once again」って、すごくシンプルじゃないですか。「I mean it Sincerely」も言葉としては直球だし。
そう!直球です。直球なんだけど、日本語詞と同じような控えめなところもきちんと表現してくださっていて。Lynne(Hobday)さんの英訳に感謝!という感じですね。
――お話を伺っていて、自分が開けてなかった扉を開けていこうとしている印象が強かったんです。その挑戦が『コトバアソビ』というタイトルにも入ってきているのかなと思いました。
まだまだこのアルバムは通過点、ここで完成度を高めて終わりではないとは思っています。次につながるアルバムを作ろうという意識はすごくありますね。前回のアルバム『Lonely Queen's Liberation Party』でも「解放」がテーマでしたけど、今回は「解放」の先にあるものをきちんと自分自身で落とし込んでいこうみたいな作業だったと思います。
■「アーティストの音楽って、生ものだから」
――今回、初回限定盤は『TRUE Live Sound! vol.4 ~Progress~』のライブ映像が全て入っています。大盤振る舞いだと思いました。
ライブ映像を製品化したいという気持ちはずっとあったんです。そのときどきで、ライブってまったく違うじゃないですか。そこに来ていただいたお客さんの心に残るものがすべてだとは思うんですが、『vol.4』に関しては、コロナ禍で客席の半分しか入れられなかったから、来られなかったお客さまもたくさんいるわけで……。何度も映像で観られたら良いなという思いから収録しました。事前に決めていたわけではなく、私の強い希望から急遽特典として入れていただくようにお願いしたんですよ。
――いいライブでしたもんね。TRUEさんに良くないライブなんて無いんですが(笑)。
先日ANIMAXさんで、『Sound! vol.1~3』の一挙放送がOAされたんですけど、1年間でこんなに成長するんだ!って、自分でも驚いたんです。私は1年間ライブをやることに必死で、あまり客観視する余裕はなかったんですけど、改めて1、2年前のライブ映像を観て自分でビックリしたと言うか。
――それは僕も拝見して感じましたね。
アーティストってこうやって成長していくんだなって改めて感じたし、それは多分私だけの力じゃなくて、周りの環境だったりとか、いろんなものが整ってるからこそだと思うので、そういった感謝を忘れずにいないといけないですね。
――11月の『TRUE Live Sound! vol.5 ~Acceleration~』もすごく楽しみですね。やっぱりたくさんのファンに会いたいですよね。
会いたいし、やっぱりアーティストの音楽って、生ものだから。ライブ映像を振り返って観ると、今年の歌って今年しか歌えないなって改めて感じるんですよね。なので、この1~2年、止まってしまった時間を加速させて、早送りさせていきたいなって思います。
――「DREAM SOLISTER」とか「Sincerely」は、そのときそのときで色が違うのは感じますね。ライブは観ると言うより体験だと思いますし。そのライブにつなげるためにも、まずはアルバムを聴いたファンの皆さんの感想が僕も気になりますね(笑)。
いい意味で裏切られたと思ってくれるんじゃないですかね。
――新しいTRUEの魅力が詰まってると思います。3年ぶりで気合も入ってると思いましたし。
めちゃくちゃ気合入ってます!
■「直感で生きてる。直感と真っすぐさ」
――アルバムの話題から少し離れてしまうんですが、せっかくだからお聞きしたいことがあって、TRUEさんは作家・唐沢美帆としてもすごい数の作詞をされているじゃないですか。作詞家を目指したい、TRUEさんみたいに詞を書きたいと思っている人に何かアドバイスを送るとしたら、どんなものがあるのかな、というのを伺いたくて。
そうですね……具体的なことでいうと、まずは作家さんと出会うことではないでしょうか。作家さんと出逢って、デモの仮歌詞を書かせてもらったら良いかと思いますね。
――出会いですか。
私はSCOOP Musicに所属したときに、まだきちんと作家として歌詞が書ける状態ではなかったんです。スタートは、当時からずっと私のマネージャーをやってくれている方に、曲が無い状態でひたすら書いた詞を提出して添削してもらいました。何度も「もっとこうした方がいい」とか、「これはここが良かった」というディスカッションをしたんです。その次のステップが、作家さんに付いて仮歌詞を書かせていただいて、それを自分で歌って仮歌にするみたいな作業で。その先で、やっとコンペに参加できたんですよ。
――ちゃんと段階があるんですね。
ただ、私は生涯一緒に仕事したいなって思う人がいたので事務所に所属しましたけど、今の人たちはどこかに所属する必要ってあまり無いのかもしれないとも思っていて。私が自分の道を模索していた当時よりも、自分たちでできることが今ははるかに多いから、まずは作曲家とかの友達を見つけて、とにかくどんどん書いてみて、歌ってみて。自分で歌ってみて良いと思わなかったら、ブラッシュアップしていく。そうやっていくしかないんじゃないですかね。
――先ほどは「叙情詩とロマンス」について曲から言葉が生まれてきたとおっしゃっていましたよね。ワードチョイスの感覚を磨いたり、ボキャブラリーを増やしたり、もしくは新しいことを体験してみたり、普段からアンテナを張り続けているんでしょうか?
そうですね。色々なものを観たり、色んな人と触れ合いつつ「誰かとものを作る」ということを意識すると、自然と良いものが生まれるんじゃないかなと思います。良い作品は作曲家との信頼関係がなければ生まれないと思うんです。「叙情詩とロマンス」もそうだったし、そういったことの積み重ねだと思います。
――作品との出会いもそうですけど、TRUEさんって一個一個の出逢いをすごく大事にされている印象があります。
とても大事にしています。でも、ずっと同じ方と仕事できるとは限らないじゃないですか。スタッフも、お客さんもそうです。音楽シーンも音楽自体も移り変わっていきますし。ただ、どれだけ環境が変化しても、自分自身の”本質”みたいなものがブレなければ、自然と周りに同じ方向を見つめてくれる人が集まってくるのではと思うので。感謝の気持ちを忘れずに、自分に真っすぐいれたらいいなって思ってます。
――その”本質”はTRUEさんで言うと何なのでしょう?
「直感」。直感で生きていますね。直感と真っすぐさかな。
――真っすぐさは感じます。ライブを観ても、楽曲を聴いてもTRUEさんの真っすぐな思いがいろいろなものを惹きつけてる気がします。
そうでしか生きられないんですよね、私(笑)。音楽性というより、私の場合は生き方の問題だと思う。職業作家として、自分に本当にテクニックがあるかというのはわからない部分もあるけど、自分自身で、アーティストとして言葉を綴ることに関しては、やり続けないとたぶん生きていけないと思っているんですよ。
――凄く腑に落ちました。
今回もアルバムを通して、新しい感情とか、悪い感情とか、そういったものをすべて吐き出そうと思って制作しました。これを読んでくれている皆さんの中にも、色んな感情が渦巻いていると思うけど、それを自分で認識できるようになったり、誰かに話そうって思えるきっかけになればいいなと思っていますね。これからも、音楽とか言葉を通して、皆さんともっと会話ができれば嬉しいですね。
インタビュー・文=加東岳史 撮影=大塚正明

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