INTERVIEW / マーライオン 東京イン
ディ・シーンで異彩を放つマルチ・ア
ーティスト、マーライオン。コロナ禍
での音楽活動から最新曲「味方になる
」制作背景を訊いた

横浜出身、東京を拠点に活動するSSW・マーライオンが『味方になる』を7月28日(水)にリリースした。
高校生より音楽活動を始め、今年で活動12周年を迎えるマーライオンは、活動初期から一貫して“ソロ”でのスタンスにこだわり、独自の個性を模索し磨きをかけてきた。ジャンルや時代感を自在に泳ぐスタイルとストレートな歌詞、時に情熱的であり時にシニカルで繊細な楽曲たち、そしてエンターテイメント性溢れるパフォーマンスで自身の思いを表現。その独特な音楽性で、サニーデイ・サービス曽我部恵一口ロロ(クチロロ)の三浦康嗣など、先輩ミュージシャンからの支持も得てきた。
また、レーベル運営、イベント主催、プロデュース、俳優と劇伴、文筆業、そしてポッドキャスト番組のパーソナリティーと自身の活動も多岐にわたり、その交流の幅も広い。昨年から続くコロナ禍では音楽活動の中で彼が最も大切にしていたライブ活動が行えなくなった一方で、元々一人で行っていたポッドキャストに注力。また、InstagramやYouTubeでのライブ配信など、オンラインを通じて交流し、パフォーマンスを届けた。
制作面ではバンド編成でのミニ・アルバム発表やラップ・ユニットのDreamcastとのコラボなど、これまで以上に仲間との共同作業の機会が増えた。その経験を経てリリースされた近作は、これまでのロック・マインド溢れる作品とは雰囲気を異にしたハートウォーミングなポップ・ソングとなっている。コロナ禍で孤独に陥りやすい現在、人々を癒す音楽となりそうだ。
今回はそんなマーライオンにインタビューを敢行。コロナ禍での活動と心境の変化について掘り下げていったほか、新曲「味方になる」制作背景について、そして今後の展望についても語ってもらった。
Interview & Text by Izumi(BUZZYROOTS)
自分にないものを自分の中に求めず、他人に頼ってみる
――昨年はコロナ禍で色々と活動環境に変化があったと思いますが、どのような1年でしたか?
マーライオン:誰とも会えない環境になり、変化する社会状況に戸惑いもありましたが、制作中心の生活に変えようと行動した1年でした。昨年夏頃に宅録を始めて、ミックスや録音もちゃんと自宅で行えるようになりました。マーライオンとしての活動ではミニ・アルバム『マーライオンバンド』『北北西に飛んでいった』をリリースして。制作にきちんと向き合い、アイデアを色々と取り入れてみたことで、楽曲自体の雰囲気が引き締まり、2020年の作品と胸を張って言えるものになったと思います。
マーライオン:あと、昨年の音楽活動の中でも、サニーデイ・サービスのリミックス・アルバム『もっといいね!』に参加出来たのは特別な出来事でしたね。録音は自室のマイクで録り、共同でリミックスを手がけたDreamcastとはリモートで制作しました。これをきっかけに作詞と作曲の制作ペースが掴むことができて、今振り返るとかなり大きな出来事だったなと思います。
音楽制作以外の出来事では、初めてアニメーションMVに挑戦しました。依頼したイラストレーター/アニメーション作家のささきえりさんとは制作の過程でとても波長が合ったので、この映像が『映像作家100人2021』に選出されたと連絡を受けた時は嬉しかったです。
マーライオン:また、元々一人でやっていたポッドキャスト番組を昨年の3月からゲスト制にし、遠隔で収録を行っていました。遠隔でも友達と話せたことは心の支えになっていましたね。
――では、今伺った昨年の活動についてさらに掘り下げていきたいと思います。まずはミニ・アルバム2作の制作背景について詳しく聞かせていただけますか?
マーライオン:『マーライオンバンド』は、バンド・アレンジの作品を初めてセルフ・プロデュースした挑戦作で、試行錯誤しました。ドラムで参加してくれている石川浩輝さんにアレンジをお任せしつつ、僕は作詞作曲の楽曲制作に集中して。2018年から長い時間をかけて制作していましたが、コロナ禍でリリースのタイミングを決めかねていて、結果5月にリリースとなりました。ベースに厚海義朗さん、トランペットに荒谷響さん、フルートに池田若菜さん、サックスに大谷能生さんという豪華なメンバーを迎えて制作しました。
マーライオン:『北北西に飛んでいった』はここ1〜2年サポートでライブに参加している、フルートの新山志保さんと制作した作品です。2人編成の録音作品というのも以前から興味があったので、新山さんとライブで重ねてきた演奏を録音でまとめたい気持ちで作りました。歌への意識や考えが少しずつ変化していった作品でもあります。
――既発曲のバンド・アレンジ、リミックスなど、これまでと比べて仲間で作っていく機会が多かったと思いますが、自身への影響や心境の変化などはありましたか?
マーライオン:ありましたね。自分にはないアイデアが許せない時期が10代の時はあったんですけど、今は全然嬉しくて、良くするために意見してもらう瞬間はたまらないものがあります。自分にないものを自分の中に求めるのではなくて、他の人に頼ってみるというのを20代中盤から覚えてきたように思います。社会人になって色んな仕事をしながら音楽制作を継続していく中で、昔よりも人と協力しながら進められるようになりました。友達7人と共同主催で毎月開催しているイベント『p/am』(パム)も大きいです。
マーライオン:音楽を作る以上は色んな人に聴いてほしいと思っているので、たくさんの知恵を貸してもらうことで広がっていくのが純粋に楽しいです。そして人と一緒にやることで広まっていく道筋が見えたのは、今の演奏メンバーや周りの友人たちのおかげです。どんなアイデアでも1回試しにやるか! という思考になれたのは大きな変化でした。あと単純に自分の笑顔が増えました。今もこれからも生き生きした顔で生活したいです。
――“特別な出来事”だというサニーデイ・サービスのリミックス・アルバム参加の経緯というのは?
マーライオン:曽我部さんから突然夜中にLINEが届き、「誰か良いトラックメイカーはいない?」という相談を受けたんです。そこで、『p/am』を一緒にやっているDreamcastを推薦したついでに、「せっかくなので僕も参加していいですか?」とLINEしたら、「いいね!」と返信が届き、快く了承いただきました。
――ちなみに、曽我部さんとはどのように出会ったのでしょうか?
マーライオン:THEラブ人間のA&Rをやっていた渡邊文武さんに紹介してもらった記憶があります。2010年頃よくライブを観に行っていて、渡邊さんは長くサニーデイ・サービスも担当されていることもあり、紹介してくださったんだと思います。その後、定期的にお会いする機会が多くなり、回数を重ねるごとに少しずつ会話が増えていった感じです。特に、曽我部さんが運営するレコード・ショップ & カフェバーの 「CITY COUNTRY CITY」(http://city-country-city.com/) で偶然お会いすることが多かったですね。曽我部さんに声を掛けて頂いたことで、2019年に『ばらアイス』のLP版を〈ROSE RECORDS〉からリリースさせてもらって。併せて曽我部さんとの共同企画のレコ発イベントも開催することができました。
――今年リリースされた「プレゼント」「ゴッホと花束」の制作背景についてもお聞きしたいです。これまでの楽曲はロックと形容できるような、ストレートで攻めるような印象でしたが、今作ではそういった要素が鳴りを潜め、包み込むような優しさが込められたポップ・ソングに仕上がっています。
マーライオン:以前、京都nanoでライブをした時、終演後に「コミック要素がある岡崎体育になるか、歌の力がすごい曽我部恵一になるか決めた方がいい」と店長さんに言われたのが大きかったですね。それで僕は歌と曲で勝負したいと思ったんです。その後音楽のレッスンに通うようになりました。今まで独学でやってきたことを一旦紐解きたい気持ちが募ったからなのですが、改めて自分の良いところを伸ばしたいと思ったのと、良い演奏をもっとしたいと思うようになりました。
「プレゼント」は子ども向けの音楽ワークショップ・イベントに講師として呼ばれた時に制作しました。日頃親しくさせていただいている、口ロロ(クチロロ)の三浦康嗣さんの影響もあり、ワークショップで音楽制作することに挑戦してみたかったので、素敵な体験だったなと思います。
マーライオン:「ゴッホと花束」は、最近の作品が人と一緒に制作することが多い反動で、自分だけで完結させたいと考えて作った曲です。一昨年からライブ演奏はアコースティック・ギターで演奏をしているので、その集大成的な楽曲にしようと思っていました。シリアスになりすぎず、ポップ・ソングとして成り立たせることを意識しました。自分の作品では滅多に弾かないギター・ソロが気に入ってます。
「沢山喋るなら方法を考えなさい」
――2019年より始動したポッドキャスト番組『マーライオンのにやにやRadio』を始めた経緯について教えてください。当時はアーティストが1人で企画進行するポッドキャストは決して多くはなかったですよね。
マーライオン:曽我部さんと共同企画を開催したとき、終演後に「MCをもっと考えた方が良い、沢山喋るなら方法を考えなさい」とアドバイスを頂いたんです。それで僕は喋るコーナーと演奏するコーナーを分けようと考えました。また、当時インドで爆発的にポッドキャストが普及し始めているということを耳にしたのも理由のひとつです。
――ポッドキャストは自身の活動においてどういった存在だと考えていますか?
マーライオン:最初はMCを減らすためのツールとして、なんとなく活動記録のためにやろうと思っていたのですが、2年ほど更新を続けてきた今では、気分転換と生きがいのような存在になってきました。とにかく自分に向いていたんだと思います。また、「ゲスト出演してくれませんか?」というきっかけがあることで、会いたい人や話を聞きたい人に連絡しやすくなったのは本当によかったです。
マーライオン Photo by 小山侑紀奈
――これまで様々な方をゲストに迎えていますが、中でも印象的だったゲストやエピソードについて教えてください。
マーライオン:ゲスト回は全部が印象的なのですが、GOING UNDER GROUND松本素生さんとじっくり2時間近く話せた回は本当に嬉しかったですね。中学生の時から聴いていたバンドの方とお話できたことで感化されて、収録の30分後に完成した曲もありました。昨年夏に演劇の劇伴制作に参加したのですが、この曲が使用されました。
マーライオン:South Penguinのアカツカくんも出てくれましたが、ポッドキャストを1時間ほど収録した後に5、6時間ほどお喋りして朝になっていたのも思い出のひとつです。その日は合計で7時間ほど楽しくお喋りしていたような気がします。
マーライオン:漫画家の小山ゆうじろうさんの回は、僕が大好きな『とんかつDJアゲ太朗』を描いているときの話や漫画家になるまでの経緯をたっぷり聴けて鳥肌が立ちました。他には、普段から僕の音楽活動に関わっていただいている写真家のともまつりかさん、イラストレーターのぺ子さんに改まってたくさん質問することができて楽しかったです。ポッドキャストの良いところは、元々知っている友達にも普段聞けないことを改まって聞けるというとことだと思うのですが、それが2人の回にはありました。
マーライオン:また、番組の中でゲストの方々のおすすめの曲を聞くコーナーがあるのですが、新しい音楽を知るきっかけのひとつになっています。僕の番組に出演してもらったことがきっかけで、友人がポッドキャストを始めたのも印象深い出来事です。友達の声を聴けるってなんかやっぱり楽しいんですよね。みんな始めたらいいのになと思っていたら、この1年で予想以上に番組が増えました。会話の中でいろんなアイデアが転がっていくと僕は考えているのですが、最新作「味方になる」もポッドキャストで&mkzさんとお話したのをきっかけに制作することになりましたし、お喋りが好きな自分とすごく相性が良いなと思っています。
午前0時の夜想曲「味方になる」
――最新作「味方になる」についてお聞きしたいです。この曲にはどのようなメッセージが込められているのでしょうか?
マーライオン:家にひとりでいる時間が増えたのもあって、友達や周囲の人間、遠征で会える地方のお客さんとか元気かなって思いを馳せたりすることが時々あって。もしその人たちがキッチンやリビングでひとり鼻歌を歌っていたとしたら、その鼻歌もあなたの味方だよって伝えたかったんです。夜道と相性がいい楽曲だと思います。
――打ち込みがメインのスローテンポな楽曲でありながら、サックスなど所々に意外性を感じるサウンドの使い方をされていて、ドラマチックな印象を受けました。それと同時に、曲が進むにつれて時間が移ろいでいくイメージも浮かびました。共同制作の&mkzさんとはどのように作り上げていったのでしょうか?
マーライオン:初めての共同制作だったので、基本は&mkzさんにお任せでお願いし、イメージを共有しながら進めていきました。間奏のサックスは「横浜港のイメージで」とお願いしました。完成した時はイメージ通りだったのでテンションが上がりましたね。年上の大先輩なのですが、元々親しい間柄だったことや、ライブを定期的に観て頂いていたこともありスムーズに進行しました。すごく気に入っています。
今、24時間をテーマにしたアルバムを作っています。午前0時から午後11時まで、各時間をイメージした曲を1曲ずつ制作しているのですが、「味方になる」は午前0時の楽曲として収録するつもりで制作した曲なんです。春夏秋冬と朝から夜明けまでを描いたアルバム作品になるので、楽しみにしていてほしいです。
――カバー・アートワークを 坂内拓(https://twitter.com/TakuBannai) さんと 大澤悠大(https://twitter.com/OsawaYudai) さんに依頼された経緯について教えてください。
マーライオン:坂内さんとは中目黒で開催されていた展示に伺った時に初めてお会いしました。作品も人柄も素敵だなあと思っていて、いつかジャケット・イラストをお願いしたいと思っていたんです。「味方になる」のサビができた時、坂内さんの作品が頭に浮かんできてご連絡しました。恐縮ながら坂内さんとはなんとなく波長が合うなあと思っていたので、こうして一緒に作品制作ができて本当に嬉しいです。
マーライオン:大澤さんとはよく行くギャラリーでお会いすることが多くありました。人柄が好きだったのと、大澤さんが手がけるデザインがどれも素晴らしくカッコいいので新作が出るとこまめにチェックしていて。坂内さんのジャケット・イラストが届いた時に、大澤さんの顔がパッと浮かんできてお願いしたいなと思ったんです。坂内さんと大澤さんの組み合わせは今回が初ですが、きっと相性がいいだろうなと確信してご依頼しました。
「生き生きした顔のミュージシャンへ」
――今年はどのような活動を予定されているのでしょうか?
マーライオン:曲をとにかく作っていきます。アルバムのコンセプトが固まっているので、まずはそのアルバムを完成させる予定です。状況を見つつ順次ライブ活動も再開していく予定で、バンド編成に重きを置きつつ、ソロや2人編成のライブ演奏も行えたらと思っています。出演を予定しているライブ・イベントに向けて、制作も進めながら準備したいと思います。
――多方面で活躍されているマーライオンさんですが、最終的にどういったミュージシャンになりたいと考えていますか? 今後の展望を教えてください。
マーライオン:まずは生き生きした顔のミュージシャンになりたいですね! 良い曲を書いて、良い歌を歌って楽しく活動したいと思います。フェスやライブハウスや喫茶店などライブ中心に色んなことに挑戦しつつ、お笑い芸人さんとのイベントや劇伴制作など、さまざまな人を紹介したり繋ぎながら、活動を継続していけたらと思っています。分かりやすく伝えると、いとうせいこうさんのSSW版みたいなイメージですかね。オファーなどのご連絡も気軽にいただけたら嬉しいです。
マーライオン Photo by 小山侑紀奈
【リリース情報】

マーライオン 『味方になる』

Release Date:2021.07.28 (Wed.)
Label:NIYANIYA RECORDS
Tracklist:
1.味方になる
■ マーライオン オフィシャル・サイト(https://maaraion.niyaniyarecords.com/)

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