ヤユヨ、アルバム『THE ORDINARY LI
FE』で切り取る、楽しいことや悲しい
ことがありふれた「なんともない日常

あたりまえで、平凡で、退屈。「日常」という言葉にかかる形容詞には、取るに足らないものを表すことが多い。実際、そういうものだと思う。だが、ヤユヨが6月16日(水)にリリースする2ndミニアルバム『THE ORDINARY LIFE』の音楽にかかれば、どんなに普通に見える日常でも、心がワクワクする瞬間がきっとあることを気づかせてくれる。6月16日(水)にリリースする2ndミニアルバム『THE ORDINARY LIFE』はそういう作品だ。4月に初の東名阪ワンマンツアー『ヤユヨ初めましてのワンマンツアー2021 〜eggman40周年と共に〜』を成功させたタイミングで、かねてからサポートドラムだったすーちゃんが正式メンバーに加わり、新体制初のなる今作。眠れぬ夜とロックスター、君の隣で思うこと、おとぎ話のような空想や旅立ちの春。日常の様々なシーンの切り取った歌たちを、遊び心あふれるバンドサウンドが彩る。ますます自由に、ユニークに広がるヤユヨの世界について、リコ(Vo.Gt)とぺっぺ(Gt .Cho)に話を訊いた。
――コロナ禍はバンド活動をするのも難しい時代だと思いますが、どんなことを考えながら、バンドを動かされてますか?
リコ:(コロナが)なかったら、やれたのにという悔しい気持ちはありますけど……。それはみんな同じですよね。こういう状況でも、できることからやっていけたらいいなと思います。逆にサブスクとかMVとかで知ってもらえる時代なのは良かったですね。
ぺっぺ:まだ結成して2年目なので、コロナで損してるとか、得してるとかの感覚はそんなにないんですよ。少しでもみんなに見てもらえる状況を作れるかな? というのを考えながら活動するようにはしていますね。そんなにネガティブな感情を持たずに、今できることをやって、「ヤユヨの音楽を知ってもらおう」という意識で活動はしてます。
――今年の3月から4月にかけては、初となる東名阪ワンマンツアーを無事に開催することができました。やってみてどうでしたか?
リコ:楽しかったです。めっちゃ緊張してたんですけど、ワンマンということは、お客さんが全員ヤユヨを見にきてくれた人なんですよ。そう考えると、「やった!」と嬉しくなる。舞台裏では緊張してたんですけど、ステージに出たときは、そんなことは忘れてましたね。
ぺっぺ:私も始まる前までは緊張しまくってて。ヤユヨのファンだけの前でライブをするのは初めてだったから、その期待に応えたい気持ちもあったなかで揉まれた東名阪だったなと思っています。終わった瞬間に、もっといろいろなところに行きたいと思いました。
――地方によって、お客さんの反応が違うなとかは感じましたか?
リコ:あんまりなかったよね?
ぺっぺ:うん……やっぱりこのご時世なので、あんまり表情が見えないんですよね。でも、マスク越しでも笑顔になってくれてるのは伝わってくるんですよ。あと、初めて知ったんですけど、ヤユヨのライブには女の子が多いなと思いました。
――同性のお客さんが多いのは嬉しいですよね。
ぺっぺ:嬉しかったです。誰が来てくれても嬉しいですけどね(笑)。
――初めてツアーをまわったことで、メンバーの新たな部分を発見したなどありましたか?
リコ:うーん、あんまり覚えてないかも。周りに目を配れる余裕がなくて、みんなもめちゃくちゃ緊張してたし。ぺっぺ、すごい緊張してたもんね?
ぺっぺ:緊張とかいうレベルじゃないぐらいでした(笑)。でも、ステージの上でメンバーを見る余裕はあったんですよ。緊張してるからこそみんなの顔を見て、安心したかったんですよね。(立ち位置が)一番遠いはな(Ba)を途中で見ると、緊張してたのが伝わってきたら、逆に安心しました。
リコ:ふふふ(笑)。
ぺっぺ:私だけじゃないんだなと落ち着いたんです。
――バンドで良かったですね(笑)。結成から2年で、東名阪ワンマンまで辿り着いたわけですが、ここまでバンドが進んできたことに対しては、どう受け止めていますか?
リコ:こんなに早くツアーをまわれるとは思ってなかったので、嬉しいですけど、「大丈夫かしら?」みたいな不安もありますね。でも、もっといろいろなところでも、やっていきたいという気持ちになってきたので、楽しみのほうが大きいですね。
――聴いてくれる人が増えることで、やれることも増えますからね。
ぺっぺ:周りからはすごく順調なバンドと言われることも多いし、けっこう早く進んでるように見えてると思うんですよ。でも、ちゃんと一歩ずつやれてる感覚があるんですよね。(所属事務所の)エッグマンやレーベルのTALTOのみなさんから、いろいろな言葉をもらったり、怒られたり、注意されたり。反省も、失敗もするけど、この間の東名阪を完結したことも含めて、流されずに段階を踏めてるなと思ってます。このまま少しずつ高みを目指していきたいです。
――ちゃんと地に足が着いていますね。先日のツアーでは、サポートドラムだったすーちゃんが正式メンバーになりました。そもそも同級生で組んだバンドなのに、どうしてすーちゃんだけサポートだったんですか?
リコ:最初は正式メンバーとして活動してたんです。でも、大学との両立の問題があって、なかなかすーちゃんの気持ち的に難しくて。
ぺっぺ:将来的な不安もあるし。
リコ:ずっとバンドを続けていけるのかという不安もあったと思うんですよね。それで学校に集中しつつ、ゆっくり加入を決める期間として、サポートをやってもらってました。
――改めて正式メンバーとして加入する話は、いつ頃から出てきたんですか?
リコ:自粛期間に入って……去年の夏ぐらいかなあ?
ぺっぺ:コロナがはじまったぐらいじゃない?
リコ:そっか、そんなに早かったんや。
ぺっぺ:コロナの自粛期間に入ってスタジオ練習もやめていたし、考える時間が増えたことで、すーちゃんのなかでも折り合いがついたみたいで、会ってない期間に声をかけてくれたんです。
――すーちゃんから言ってくれたんですね。
ぺっぺ:そうです。自分たちから強要するようなことはしたくなかったんですよね。声をかけてくれた時に「将来、やっぱりみんなで音楽をしたいと思った」と話してくれて、「良かったな」と安心したので「じゃあ、みんなで集まって話そう」と言いました。
――嬉しかったでしょう?
ぺっぺ:そうですね。(加入してくれると)期待してた自分もいたので、それで逆のことを言われたら、悲しすぎたので、本当に嬉しかったですね。
――リコさんは、正式加入してくれると聞いて、どんな気持ちでしたか?
リコ:もちろん嬉しかったです。やっぱり、サポートの期間は「どっちなんだろう?」と、不安やったんですよね。どうにか、すーちゃんに楽しんでもらいたいと思ってたから、すごく嬉しかったし、もっとがんばろうと思いました。これからは、すーちゃんも正式メンバーとして見てもらえると思うから、ちゃんと新しいヤユヨのことを知ってもらいたいなと。
――すーちゃんが正式メンバーに加入したことで変わったことはありましたか?例えば、今までちょっと遠慮してたのが、意見を言うことが増えたとか。
ぺっぺ:すーちゃんは変わらないですね(笑)。私からすると、サポートという名目上、同じ活動をしてても、ちょっと気を遣って遠慮してた部分はあるんですよね。すーちゃん以外の3人でしっかりまわしていかなな、みたいな感じでやってたので。今はすーちゃんが正式メンバーになったことで、全員平等に求められるようにはなりましたね。
――なるほど。そんな4人の新体制初となる作品が『THE ORDINARY LIFE』になります。直訳すると、「普通の生活」ですけど、これはまさにヤユヨの音楽の在り方そのものを表してますね。
ぺっぺ:この作品に収録された楽曲たちが、コロナ期間に入ってから作ったので、皮肉さも込めて私がタイトルを付けたんです。
――ああ、たしかに。今は普通の生活が崩壊してしまってるわけだから。
ぺっぺ:はい。NORMALも同じ「普通」という意味ではあるんですけど、ORDINARYにすることで、「たいしたことない」という意味も込めたかったんです。今までとは違うかたちの日常であっても、楽しいこともあるし、悲しいこと、退屈なこと、嫌なこともあると思うし、その全部が自分たちの日常だよねということを強く感じられた1年だったから、『THE ORDINARY LIFE』がいいんじゃないかと、みんなに提案しました。
――メインソングライターであるリコさんは、どう受け止めましたか?
リコ:いいなと思いました。コロナに入ってから、今まであった日常を恋しく思うようなことがいっぱいあったんですよ。今の状況を普通の日常として、なかなか受け入れられない気持ちがずっとあったから、このタイトルは今の自分たちに重なるなと思いましたね。
――リコさんが曲を作るときに、日常を意識するんですか?
リコ:あんまり作るときは意識しないですね。
――そのせいか、リコさんの作る日常はすごくさりげないですよね。たとえば、「君の隣」の歌い出しで、<飲み差しの缶ジュース>が置いてあったり、「Yellow wave」に出てくる、<made in China>とか<made in France>が出てきたり。
リコ:そこは言ってみたいなと思ったんです(笑)。
――この歌の主人公の女の子にとっては、たぶん<made in Franceの口紅>は背伸びして買ったものですよね。全部は歌ってないけど、それを選んだときの覚悟とか、塗ってるときのドキドキとかを想像できる言い回しだなと思ったんです。
リコ:そうですね。<made in Franceの口紅>というのは、がんばって買ったから、すごく大事なのに似合ってないと否定されて、すごく腹立つなという気持ちなんです。
――リコさんのルーツにはaikoの影響があるそうですけど、歌詞に関しても、やっぱりaikoの存在が大きいですか? もしくは、言葉で影響を受けた小説とか、漫画とかはありますか?
リコ:aikoさんの歌詞は、読んでても楽しいなと思うんですよね。その他となると……この人の言葉が好きとかは、あんまり意識したことないかも。小説は読みますがヤユヨで書いているような、ほっこりした日常みたいな内容じゃなくて、サスペンスが好きなんですよ。あとは、ちょっと変態的なやつとか……。
――湊かなえさんみたいなドロドロとした感じとか?
リコ:あ、そうです、そうです。漫画は日常系のものも好きですけどね。
――ぺっぺさんは、リコさんの歌詞についてどう思っていますか?
ぺっぺ:こんな感じの表現をする人はあんまりいないかなと思います。自分たちと同じ目線というのが伝わってくるんですよ。あと、みんな言葉に出さんけど、その表現あるよね、みたいなところをついてくる。さっきの<飲み差しの缶ジュース>も、よくある光景だけど、言わない。それを日本語にするのが上手いなと思いますね。
――わかります。今回のアルバムを作るうえで、最初にメンバーのなかで「これはやろう」と決めていたことはありますか?
リコ:決めてたというのとは違うかもしれないんですけど、1stミニアルバム『ヤユヨ』は、バンドで初めて作った曲も入ってて、バンドの名刺になるようなアルバムだったんです。だから、荒々しさとか、初々しさがあったと思うんですけど、2年目になり、もうその時期は抜けて「ちょっと慣れてきたぞ」みたいなのを出したかったんです。前作よりも、遊びや挑戦も入れたかったから、「君の隣」にはコーラスをがんばって入れたり、大人っぽい「おとぎばなし」を作ってみたり。1枚目ではできなかったアイディアを盛り込んだ感じがありますね。
――遊び心と言うと今回、「星に願いを」とか「Yellow wave」とか、間奏が長い曲がおもしろかったんですよ。普通だったらここで終わるところから、さらにもうひと山、展開がくる。
リコ:ハハハ、そうなんですよね(笑)。「星に願いを」は曲のテーマとして、眠れなくて寂しい夜に、自分の好きな誰かに縋る気持ちを書いたんです。この曲では、ロックスターが自分にとってそういう存在だから、ぺっぺをロックスターにたとえる感じで、ギターソロを長めにというつもりで作ったんですね。「Yellow wave」は……回想シーンみたいな感じやねんな?
ぺっぺ:うん。思い出の波が押し寄せてくる感じですね。短いと、その浸ってる時間がそっけない感じになるので。長くすることで、いろいろ思い出す感じが出るかなと。
――ぺっぺさんは、リコさんのキーワードをヒントにギターのフレーズを考えていくんですか?
ぺっぺ:「星に願いを」に関しては、リコから「ここ、ギターソロは長くとってほしいねんなあ」みたいな要望が珍しくあったんですけど、あんまり普段はないんです。リコからもらったデモと歌詞を聴いて、自己解釈する。リコの答えを聞かないで、自分なりの解釈をリコに投げ返して、それをリコがどう思うか。嫌と言われることは、ほとんどないけど。そこらへんは信頼関係でいけてるのかな。
――「星に願いを」は、まさにザ・ロックギタリストという感じですけど、「Yellow wave」のほうは、シティポップっぽいアプローチで、まったく違うギターなのも印象的でした。
ぺっぺ:仰るとおり、私はシティポップも好きなので、お客さんがノリやすい曲がヤユヨにあってもいいのかなと思い、勝手にギターソロを長くしました。レコーディング終わった段階で、カットする話もあったんですけど。
リコ:私はどっちでもありやなとは思ったんですよ。短いほうがしっくりくるし、聴く側も受け入れやすいと思いつつ。アウトロかな? と思うぐらい長いギターソロのあとに、またAメロがくるのも面白いなというのもあったので。
ぺっぺ:いろんな意見が、バンド内と(マネージャーの)江森さんからもあったんですけど。「そうですよね……」みたいな感じで言ってたら、そのまま残してもらえました(笑)。
――さっき「大人っぽい曲」と言ってた「おとぎはなし」は、作詞にベースのはなさんも関わってますね。これは、どういう経緯でできた曲なんですか?
リコ:最初、サビの<君が唯一私の白馬のなんとやらで ねぇ、そうだとすれば これ以上傍にいたら死んでしまうわ>の部分をを、はなが持ってきてくれて。いいじゃん! となったんです。
――そこが、この曲の根幹ですよね。
リコ:それだけで、いい歌になりそうだと思いました。私だったら、そういう表現はできないんですよ。「白馬」は絶対に使わんし、「おとぎばなし」というタイトルの曲なんて作れない。だからこそ、これを捨てるのはもったいないなと思ったんです。そこから、私が歌詞を足して、切なくて暗いような、ハッピーエンドじゃない、寂しいおとぎ話を想像して作ってみました。
――サウンドもタイトルのとおり、不思議な世界に迷い込んでしまった感じですよね。ギターがループする感じとか。
ぺっぺ:異空間というか、いつもとは違うヤユヨにしたかったんですよね。イントロはベースからはじまるんですけど、そこにビリビリになるくらい歪ませたギターを重ねて。自分的には、このアルバムのなかでは、いちばん好きなギターに仕上がってるんです。
――「おとぎばなし」と言うと、メルヘンチックなイメージも湧くけど、思いっきり歪ませてるところがこの曲のおもしろさですよね。
リコ:そこは逆を突いてますね。
――アルバムを締めくくる「春の街で」は、<私、今日も生きている>というサビのフレーズが本当に力強いです。これは、どんな想いで作ったんですか?
リコ:この曲は制服のオーディションのタイアップ曲で、新しい生活がはじまる学生の背中を押すみたいな、コンセプトがあったんです。それに沿って作るときに、「もう私は制服を着てないから、その目線の曲は書かれへん、全然思いつかへん」となってしまって。そしたら、ぺっぺから「別に高校生の目線じゃなくて、今の自分の目線から、高校生やったときのことを振り返って書けば」と言われて。今の目線で思い直していくうちに、高校生時代を過ごしたから、「今生きれてる」という気持ちになったんです。
――なるほど。あのときも日々悩みながら生きていたけど、同じように、今日も生きていると。
リコ:そう。あとはやっぱりコロナで自粛してやりたいことはできへんし、学校にも行かれへんし、ライブも思うようにできへん状況下やと、生きてる心地がしいへんから、あえて私ちゃんと生きてますよという確認の意味も込めて作りました。
――ぺっぺさんのナイスアシストがあって広げられたんですね。
リコ:それがなかったら無理でしたね。
――軽快なリズムが刻みながら、コーラスも巻き込んで展開していくロックンロール調の曲ですけど、サウンドのほうも初めからイメージを持って作ってたんですか?
ぺっぺ:リコからきた弾き語りのデモのイメージのまま反映させましたね。
リコ:背中を押すということだったので、やっぱり爽やで温かみのあるイメージはあったんです。そこから、レコーディングのときに思いつきでいろいろ詰め込んでいって。くるりの「東京」みたいな感じで、何か余韻が残る、ラスト感のある、壮大なものにしたかったんです。最終的に、桜が散っていくような、春らしいアレンジになったと思います。
――アルバムのなかには、悲しい曲、切ない曲もありますけど、「春の街で」で終わらせることで、前向きな余韻が残りますよね。
リコ:終わったことを悲しいままにするのは、私はあんまり好きじゃないんですよね。歌のなかでは、できるだけ楽しく表現したほうがいいし、それに共感してもらえたらいいなと思うので。歌うことで前を向く気持ちなが出たのかなと思います。
――だから、私はこの作品を聞いて、「あ、がんばろ」と、すごく自然に思ったんですよ。「よっしゃ!がんばろう!!」じゃなくてね。
リコ:そうですね、「よーし!」じゃなくて、「よし……」ですよね(笑)。作品の受け取り方はそれぞれの自由でいいと思うんですけど。ヤユヨの音楽は、日常のなかに、別になくてもいいかもしれないけど、あったほうが落ち着くし、楽しい感じだと思うんですよね。
ぺっぺ:ヤユヨは、先頭に立っていくよりは、誰かが一歩足を踏み出すときに、背中を押すようなものなんですよね。私も下から持ち上げられる人になりたいと思ってるから、そこは繋がってるんです。結局、最初の一歩って、その人自身にしか踏み出せないものだと思うんですよ。ヤユヨはその一歩を後押しするから、それを踏み出せたら、そこからは一緒に、音楽でも聴きながらがんばろう、みたいな気持ちになってもらいたいなと思います。
ヤユヨ
取材・文=秦理絵 

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