the quiet roomのツアーファイナルで
感じた、バンドの変化と確固たる礎

[You e.p.] Release Tour 2021 2021.5.22 TSUTAYA O-EAST
the quiet roomのワンマンツアー「[You e.p.] Release Tour 2021」のファイナル公演が、5月22日に東京・TSUTAYA O-EASTにて行われた。
緊急事態宣言中ではあったが、この日のライブは見事ソールドアウト。徹底した感染対策が取られた会場内は、彼らの登場を待ち望む多くの人の期待と高揚感で満ちていた。そんな良い雰囲気の中、SEに乗って斉藤弦(Gt)、前田翔平(Ba)、菊池遼(Vo/Gt)、サポートメンバーの2人がステージに登場すると、早速「Fressy」をプレイ! こちらが抱いていた期待値をゆうに超えるハッピーな幕開けに、心も身体も動かずにはいられない!といった様子で、フロアからはクラップが沸き起こり、楽曲をさらに盛り上げていく。
「Fressy」の<困難だって/想像だって/そう/越えていこうよ/光差す方へ/行こう>という歌詞が私たちの手を取り、最新曲「キャロラインの花束を」のロマンチックなラブストーリーの中へと誘ったかと思えば、「平成ナイトコウル」では疾走感たっぷりに走り出す。その姿は無邪気な少年そのもので、「表情豊かに生きる」というバンドコンセプトが彼らの中にしっかりと根付いているということの何よりの証明だと思えたし、楽しそうにプレイするメンバーの笑顔につられて、オーディエンスの幸福感もみるみる上昇していったのが分かった。
そうした前半のセットリストで、彼らのポップメロディーメイカーとしての基盤の強さをひしと感じつつも、切なさと前向きな想いが共存するバラード「恋を終わらせよう」での、歌詞の世界観に没頭するかのように歌う菊池の表現力の高さに驚いたし、ミラーボールの下でプレイされたアダルトな雰囲気を纏う「グレイトエスケイプ」や、ドラマティックに展開していく「Roll」では、the quiet roomの新たな息吹を感じた。彼らは「とにかく新しいことをしたい」とただ単に大風呂敷を広げるのではなく、自分たちのやってきたこと/やりたいことを丁寧に擦り合わせながら、着実にバンドを更新している。そうした未来へ向けた強い意志と、「夢で会えたら」やキラーチューン「Instant Girl」と共に今まで築いてきた自信が、この日のライブに明確に表れていた。
また、変化した部分がある一方で、変わらない部分もある。「アイロニー」の中で、菊池がオーディエンスのハンズアップを促した時に「力を貸してくれない?」と呼びかけたことからも伝わるように、彼らの音楽の前提には、いつだって「あなた」がいる、ということだ。彼らの楽曲は、ライブで演奏し、目の前のオーディエンスとの共鳴を起こすことで完成し、その繰り返しを経て育っていく。どの曲にもそうした「バンドとあなた」という対のイメージがあるからこそ、ライブで鳴らされた時の感動がより強いものになるのだろう。
本編のラストに「みんなが一歩踏み出すことを肯定しようと思って作った曲をやります。みんなの背中を押せるように」とプレイされた「You」は、そのイメージの結晶のような楽曲だ。時代のうねりの中で、バンドとしてもメンバー個人としても、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまう瞬間や、様々な葛藤、不安があっただろう。そんな中でも、彼らの頭の中には「You=あなた」の存在があったからこそ、この作品が生まれ、今、全国ツアーという形で、自らの足で音楽を届けにいくことを決意できたのだと思う。とても誠実なバンドだと心から思えたし、本編を終えて、フロアに向かってお辞儀をした時の彼らの清々しい表情を見たら、ぐっと込み上げるものがあった。
鳴り止まない拍手に呼ばれて迎えたアンコールでは、「本当に久々の曲をやります」と「Humming Life」が届けられたが、ライブに来た人へのご褒美のようなその粋な選曲は、この日、オーディエンスに向けて何度も伝えられた「ありがとう」の集大成のように思えた。そして、「今日みたいな大切な日が終わってしまっても、これから先のみんなの生活が、少しでもより良いものでありますように」という言葉と共に贈られた「パレードは終わりさ」は、ライブハウスでの再会を願う彼らの祈りのように、明るく、高らかに響き渡った。ライブが終わったらいつも通りの生活が待っているが、生活の中には音楽があるし、生活の先にはライブがある。その美しき循環を慈しみ、大切にする彼らからのエールだと思える、素晴らしい幕引きだった。
この日のMCの中で、今回のツアー中にはしゃいでしまった、という斉藤の話を踏まえつつ、菊池が「今、バンドがすごく良い空気で、いっぱい曲を作りたいし、いっぱいライブをしたいと思えているんです。こういうご時世に負けないで、前向きにバンドができています」と、現在のバンドのモードを伝えていた。そうした良好な状態であるthe quiet roomが、今年、遂に1stフルアルバムをリリースするとのこと。この日のライブや『You e.p.』から感じ取れた変化が、どのような進化を遂げて、ひとつの作品になるのか? 今から楽しみだ。

取材・文=峯岸利恵 撮影=中山優司

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