宝塚歌劇初演から25周年『エリザベー
ト』で元宙組トップスター・朝夏まな
と、元花組トップスター・明日海りお
が新たな伝説を刻む

宝塚歌劇団での初演から25周年を記念し、歴代出演者が2014年花組、2016年宙組のバージョンを演じる『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』が、大阪・梅田芸術劇場メインホールで開催された。今回は4月6日から10日までコンサート形式で開催されたフルコスチュームバージョンの模様をレポートする。
■『エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』<構成・演出・訳詞/小池修一郎 演出/小柳菜穂子>
『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』撮影:Studio Elenish
●黄泉の帝王とハプスブルク帝国最後の皇后の禁じられた愛
1992年にウィーンで初演された『エリザベート』。1996年に雪組が初上演して以来、宝塚歌劇の代表作のひとつとして各公演が語り継がれてきた。
19世紀末を舞台に、黄泉の帝王・トートとハプスブルク帝国最後の皇后・エリザベートの禁じられた愛を綴った物語。自由奔放なバイエルン王女のエリザベートは、ウィーンの皇帝フランツ・ヨーゼフと結婚。ところが皇太后・ゾフィーによる厳しい皇后教育に窮屈さを感じ始め、さらに子どもたちまで取り上げられるなど理不尽な生活を強いられることに。
やがてフランツとの間にも溝が生まれるなど、次第に居場所を失っていく。そこにトートが手を差し伸べる。トートは、少女時代のエリザベートが意識不明の状態に陥り冥界へと迷い込んだ際、生命を返してやったことがあった。そしてそのとき、彼女に惹きつけられ…。
●元宙組トップスター・朝夏まなとが放つ強烈な力感

『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』撮影:Studio Elenish

『16’ 宙組ver.』でトート役をつとめたのは、2017年11月に宝塚歌劇を退団した元宙組トップスター・朝夏まなと。黄泉の帝王らしい威風堂々とした佇まいは朝夏にしか出せないもの。声、歩く姿、いずれも迫力がみなぎっており、何よりも目力がすさまじい。ミュージカルシーンでの拳を突き上げる仕草は必見だ。強烈な力感を放ちながら、愛するエリザベートを死の道へと引っ張っていく。その豪胆さが朝夏によるトートの持ち味。
エリザベート役には、宝塚歌劇を2017年4月に退団した元宙組トップ娘役の実咲凜音。少女時代の場面では朗らかでおてんばな様子を好演。活発な人物像をあらわした。そんな明るいエリザベートのメンタリティが、ゾフィーによって落とされていく。そういった感情の移り変わりが見事。『16’ 宙組ver.』は朝夏をはじめとするパワフルさが作品全体を形づくっている。だからこそ、それぞれが転落を味わう点がよりショッキングに映る。
●元花組トップスター・明日海りおの妖艶な魅力
『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』撮影:Studio Elenish
一方、『14’ 花組ver.』はまったく違った印象を与えた。2019年11月まで宝塚歌劇に在籍した元花組トップスターの明日海りおがトート役。『16’ 宙組ver.』の朝夏まなとが剛のイメージなら、明日海は柔。銀髪の明日海は妖艶で色気がたっぷり。エリザベートら登場人物たちを死へといざなう展開も、黄泉の世界へソッと手を引くような、そんな表し得ぬ魔力を漂わせる。明日海の美しくも危険な目線の芝居、伸びやかな歌声も健在だ。
エリザベート役をつとめたのは元花組トップ娘役の蘭乃はな。2014年11月、明日海の大劇場トップお披露目となった『エリザベート』東京千秋楽で宝塚歌劇を退団した蘭乃。少女時代のエリザベートをつぶらな印象で演じ、フランツとの結婚後、気持ちが追い詰められるなかで信念を固めていく姿を力演。明日海とのコンビネーションにも心が揺さぶられる。
2014年の専科時代、花組による『エリザベート』でフランツ・ヨーゼフに扮した元星組トップスター・北翔海莉は、4月6日、7日『16’ 宙組ver.』、9日『14’ 花組ver.』で同役を担当。皇帝らしい責任感や風格を漂わせており、だからこそゾフィーの前ではその威厳が脆くなる落差が感じとれた。10日『14’ 花組ver.』でフランツを演じたのは、元花組男役の鳳真由。こちらは、フランツの母親・ゾフィーへの深いのめり込みを体現。母親に対する盲目的な忠誠心をいだかせる演技だった。
●多彩なバリエーションですべての回が新鮮な印象に
『16’ 宙組ver.』『14’ 花組ver.』で元雪組娘役・純矢ちとせが演じたゾフィーは、エリザベート、フランツらの人生をかき乱すなど憎らしさいっぱい。元月組男役・宇月颯はストーリーテラーのルイジ・ルキーニを軽妙に演じた。
同じ物語内容ではあっても配役などバリエーションが多彩なため、すべての回に変化があって見応え十分。四半世紀にわたる数々の想い出を観る者に浮かび上がらせながら、宝塚歌劇に『エリザベート』の新しい伝説を刻んだ。
『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』は4月17日から5月5日まで東京・東急シアターオーブで開催予定であったが、緊急事態宣言発令に伴い4月28日~5月5日までの公演は中止となり、無観客配信で当初予定の映画館生中継とライブ配信、そしてライブ配信については新たに2公演が追加となった。
取材・文=田辺ユウキ

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