【仲村瞳の歌謡界偉人名言集】#196
作詞家・阿久悠の言葉

作詞家、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、バンドマン、振付師、……そして、歌手。きらびやかな日本の歌謡界を支えてきた偉人たちを紹介するとともに、その方々が発したエネルギー溢れる言葉を伝えます。常軌を逸した言動の裏に、時代を牽引したパワーが隠されているのです! このコラムで、皆様の生活に少しでも艶と潤いが生まれることを願います。

恋愛というのは、うまく行かないことを
前提に置いて考えるもので、翻弄され、
手酷くふられることにすら恍惚感を覚え
られるようでなくては、やってはならな

『歌謡曲の時代 −歌もよう人もよう−』(著・阿久悠/新潮社/平成16年9月16日発行)より

この本は、阿久悠が手掛けた曲のタイトルを題材にしたエッセーを99編収録。作品への想いをはじめ、歌手や作曲家とのエピソード、平成の世相などを、阿久独自の視点で綴っている。今回紹介する名言は、その中の『気絶するほど悩ましい 「恋愛」すら死語になった』というエッセーからの抜粋。「気絶するほど悩ましい」は、1977年に大ヒットしたCharの2枚目のシングル。「♪うまく行く恋なんて 恋じゃない うまく行く恋なんて 恋じゃない」というリフレインが印象的で、年上の女性に翻弄される青年の心情を表した名曲である。阿久は、この歌詞を例にあげ、今回の名言によって「勝手な思い込みを拒否されただけで憎み、殺す時代に『恋愛』はありえない」と主張する。阿久は続けて、「僕の青年期までは、恋愛は免許制だった」「免許とは何かというと、教養講座としての文学を読むことか、文学を読まない人は、人を思いやり、自分を制御することを知る人間講座の実地を学ぶか、どちらか」と語る。阿久の恋愛観は、どんな時代にも通じるのではないだろうか。ちなみに「気絶するほど悩ましい」 は、5000曲以上を作詞した阿久が、〝趣味的にはぼくの大好きな歌〟なのだとか。好きな自作の歌ベスト10では、必ず上位に入るという話も興味深い。
阿久悠(あくゆう) 
1937年2月7日生まれ、兵庫県淡路島出身。作詞家、詩人、小説家、エッセイスト。1966年、広告代理店でのサラリーマン生活にピリオドを打ち、放送作家と作詞家の仕事を本格化させる。処女作は、1965年のザ・スパイダースのデビュー曲『フリフリ』のB面「モンキーダンス」。広く名を知られるようになったのは、1967年の「朝まで待てない」(ザ・モップス)。1971年の「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)、1976年の「北の宿から」(都はるみ)をはじめ、レコード大賞を5曲で受賞(作詞家としては最多)している。日本テレビのオーディション番組 『スター誕生!』(1971年~1983年)に番組企画と審査員として参加し、広い世代に知られる存在となる。生涯の作詞数は5000曲以上。2007年8月1日、尿管癌のため死去。享年70。2019年8月1日に13回忌を迎えた。2007年3月に行われた石川さゆりの『デビュー35周年 感謝の宴』に出席したのが公の場に出た最後の姿。第2回横溝正史ミステリ大賞、第45回菊池寛賞受賞。紫綬褒章、旭日小綬章受章。明治大学アカデミーコモン地階1階に『阿久悠記念館』がある。
仲村 瞳(なかむらひとみ)
編集者・ライター。2003年、『週刊SPA!』(扶桑社)でライターデビュー後、『TOKYO1週間』(講談社)、『Hot-Dog PRESS』(講談社)などの情報誌で雑誌制作に従事する。2009年、『のせすぎ! 中野ブロードウェイ』(辰巳出版)の制作をきっかけに中野ブロードウェイ研究家として活動を開始。ゾンビ漫画『ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ~童貞SOS~』(著・すぎむらしんいち/講談社)の単行本巻末記事を担当。2012年から絵馬研究本『えまにあん』(自主制作)を発行し、絵馬研究家としても活動を続ける。2014年にライフワークでもある昭和歌謡研究をテーマとした『昭和歌謡文化継承委員会』を発足し会長として活動中。

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