SHISHAMO 2年ぶりに実現した恒例の日
比谷野音ワンマンが伝える不変と進化

SHISHAMO NO YAON!!! 2021 EAST 2021.4.11 日比谷野外大音楽堂
彩り鮮やかな音楽と一緒に春の息吹が伝わってくるようなライブだった。SHISHAMOの2年ぶりとなる野音公演、『SHISHAMO NO YAON!!! 2021 EAST』の日比谷野外大音楽堂。この日のステージは特別な空間となった。まずSHISHAMOにとって2021年初のワンマンライブであること。春の野音らしい演出が施されていたこと。新曲が何曲か演奏されたこと。さらに新型コロナウイルス感染症の予防対策を講じて開催されたコンサートであり、1席ごとに空席が設けられ、声を出せないなどのルールがあったこと。だがコンサートが始まった瞬間からSHISHAMOの生のライブの楽しさ、気持ち良さ、そしてかけがえのなさを満喫した。
ステージの上も春満開だった。あちこちに春の花々が飾られていたのだ。ステージの上だけではない。2015年の野音初公演からずっと使われているバックドロップの右上にも花があしらわれていた。頭上には青空が広がり、左右の木々の緑が鮮やかだ。オープニングの演出も春らしいものだった。宮崎朝子(Gt/Vo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)の3人が下手から自転車に乗って登場したのだ。自転車のカゴには色とりどりの花束。“自転車に乗って公園まで散歩にきました”というような軽やかな雰囲気がいい。自転車と花がモチーフとして使われている公演イラストと連動した演出だろう。
SHISHAMO・宮崎朝子
オープニングナンバーは2月リリースの新曲「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」。宮崎の歌とキーボードという意表を突いた始まり方から一気に歌の世界に引きこまれていく。松岡のベースと吉川のドラムスが入り、さらに宮崎のギターが加わって、疾走感あふれるバンドサウンドが展開されていく。SHISHAMOのバンドサウンドの魅力が凝縮された曲。恋のときめきと久々のワンマンのドキドキ感がシンクロしていくようだ。松岡のシャープでありながらニュアンス豊かなベースで始まったのは「フェイバリットボーイ」。観客がハンドクラップで加わっていく。ソリッドでタイトであることとスイートであることが共存する歌と演奏がいい。感情のメーターを一気に振り切っていくような宮崎のボーカルが印象的だったのは「君の大事にしてるもの」。歌と一体となったファンキーなグルーヴに体が揺れる。ギターサウンドも全開。松岡のハモリも効果的だ。
SHISHAMO・松岡彩
「久しぶりのワンマンで、ちょっとドキドキしています。私はライブで初長ズボンで、足を隠させていただきました。“おみあし”を楽しみにして来てくれた人にはその部分だけは払い戻しします(笑)」(宮崎)
「リハーサルで自転車全然うまくいかなくて、最初の出てくるところで転んだりしたけど、切り抜けられて良かったです」(吉川)
「自転車、ぐらぐらでした。3人とも無事で良かったです」(松岡)
今年初ワンマン、初ロングパンツ、初めての自転車での登場など、初めてがたくさんあるステージ。新曲も何曲か演奏された。2020年12月にリリースされた新曲「明日の夜は何が食べたい?」もこの日のステージが初披露となった。躍動感とふくよかさを兼ね備えたグルーヴとニュアンス豊かな演奏がいい。歌もギターもベースもドラムスも春の日射しのようなぬくもりがある。「すれちがいのデート」「デートプラン」などのおなじみの曲も緩急自在のグルーヴとふくよかなサウンドが魅力的だ。春の空気をまとったような歌と演奏が楽しい。
SHISHAMO・吉川美冴貴
花があしらわれた春の野音のステージがぴったりだったのは『SHISHAMO 2』収録の初期のナンバー「花」。この曲はこの日のステージのテーマ曲とも言えるかもしれない。失恋を花が枯れることにたとえた歌だが、春の空気がたっぷり染みこんでいるカラフルなスキャットでのイントロ、弾むリズム、みずみずしいアンサンブルが気持ち良かった。ギターもエモーショナル。軽快な演奏でありながら、せつなさがじわりとにじむ。息のあったアンサンブルにより繊細かつ微妙な感情を見事に表現。
中盤はおなじみの曲が並ぶ展開。声は出せないものの、ハンドクラップも交えて、ステージと客席との一体感あふれる空気が伝わってきたのは「中庭の少女たち」だった。観客が手をあげる中での「きっとあの漫画のせい」、アコースティックギターをフィーチャーした「笑顔のとなり」など、生のライブならではのエネルギッシュな演奏が気持ちいい。客席が歌えない分だけ、宮崎、松岡、吉川のコーラスワークも目立っていた。演奏の熱がダイレクトに伝わってきたのは「またね」。広がりと奥行きを備えた吉川のドラムスに体が揺れる。思いがほとばしるような3人のアンサンブルに胸が熱くなっていく。
SHISHAMO
アカペラのハーモニーで始まった「人間」は2020年12月にリリースされた新曲。切迫感の漂う歌とコーラス、ヒリヒリしたギター、エモーショナルなベース、タフなドラムス。人間の内面に切り込んでいくようなシャープかつディープな感触を備えた演奏と自在な構成が魅力的だ。リズムの切れ味が抜群な「ひっちゃかめっちゃか」、春風が吹き抜けていくような「ねぇ、」と、曲と曲が連携して高揚感や爽快感をもたらしていく。
本編ラストの2曲が始まる頃には青空はいつのまにか夜空へと変わっていた。「明日も」での光の花が咲くような色とりどりの光の粒の照明が鮮やかだった。この曲の持っているヒューマンなパワーによって会場内に熱気があふれ、大団円的な空気が漂っていく。しかし「明日も」で終わるのではなくて、その後に「明日はない」が並んでいるところがポイントだ。「明日も」で明日へと向かっていくエネルギーをチャージし、「明日はない」で今という瞬間に向かっていく気合いを注入といったところだろうか。今という瞬間を完全燃焼するような演奏がガツンガツンと入ってくる。3人の奏でる音が止んだ瞬間に強烈なエネルギーが渦巻いていると感じた。
SHISHAMO
アンコールはMCなしで始まり、未発表の新曲から。宮崎がアコースティックギター、松岡がグロッケンとピアニカ、吉川がカホンというアコースティック編成での演奏だ。コーラスを効果的に交えながらのフォーキーな演奏のさりげなさ、身近さがいい。日常的な歌の内容と手作り感のあるアコースティック編成の演奏との相性も抜群。未発表の新曲に続いては初期の名曲「あの子のバラード」。歌の主人公のせつなく苦しい気持ちに寄り添っていくような温かな歌と演奏にグッと来てしまった。音楽はソーシャルディスタンスを超えて、人の内面まで、ギュッと抱きしめることができる。
「声を出せる状況だったら、きっとみんな“彩ちゃんかわいい!”って言ってるんだよ。今、みんなの心の声が聞こえてきた」(吉川)
「その点ではみんながマスクしていて良かったよね。私たち二人がみんなの声に気を悪くするから。演奏に響くから(笑)」(宮崎)
予防対策をポジティブに捉えたMCをはさんで、アコースティック編成での3曲目は「BYE BYE」だった。オリジナルはギターサウンド全開のロックナンバーだが、実はアコースティック映えする曲でもある。アコースティックでありながらファンキーでソリッドでワイルド。松岡のピアニカ、グロッケン、タンバリンもいい味を出している。音楽的な遊び心あふれる演奏はライブならではだ。
SHISHAMO
「みなさんの前で演奏できたことがうれしいです。こういう状況のなかですが、いろいろなルールを守って、ここに集まってくれたことに感謝しています。ありがとうございました」(松岡)
「今までもライブは大切なものだったんですが、ライブって本当に大切なものなんですね。今日、大好きな野音で無事にライブができて良かったです。毎日大変な思いをしている人もいると思うのですが、今日のライブで少しでもまた明日から頑張ろうかなと思ってくださっていたらうれしいです」(吉川)
「みんなの前で演奏できるのが当たり前じゃなくなったなかで、今日が来るのを楽しみにしていました。みんなが温かく迎えてくれて、私たちも温かい気持ちで演奏することができました。来れなかった人の分まで、みんなが楽しんでくれていたらいいなと思っています」(宮崎)
SHISHAMO・宮崎朝子
3人のMCに続いてアンコールラストは通常のバンド編成で、この日発表された6月30日リリースのアルバム『SHISHAMO 7』からの新曲「中毒」が演奏された。一歩一歩大地を踏みしめて進んでいくような強靱なグルーヴを備えた曲だ。歌もアンサンブルも新鮮。SHISHAMOの新しい世界の幕開けを予感させるような曲といえるのではないだろうか。
この日演奏されたのはアンコールも含めて20曲。花のように生活を彩ってくれるカラフルな音楽がたくさん演奏された。春らしいみずみずしさ、フレッシュさを備えた歌が目立っていた。新境地の開拓と演奏のさらなる充実。土の中にあった種が土の上に芽を出し、茎や葉が伸びて、やがてつぼみができて、花が咲くように、SHISHAMOが進み続けていることが伝わってくるステージでもあった。新作のリリース、そしてその後の展開がさらに楽しみになってきた。

取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之

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