創設3年目を迎えた京都の小劇場「TH
EATRE E9 KYOTO」2021年度のラインア
ップを発表

クラウドファンディングなどで調達した資金によって、2019年6月にオープンし、すっかり京都の小劇場シーンを代表する劇場として定着した[THEATRE E9 KYOTO(以下E9)]。昨年は、全国の民間小劇場と同じく、新型コロナウイルスによる自粛の嵐に襲われたが、すかさず仮想空間劇場[THEATRE E9 Air]を開設するなど、柔軟かつしたたかにこの難局を乗り切ろうとしている。そんなE9の、2021年度の年間プログラムの会見が、4月6日に行われた。
会見冒頭で挨拶を行った、E9副館長のやなぎみわ。
会見はE9副館長で、現代美術アーティストのやなぎみわの挨拶から開始。「大波小波の困難を乗り越えて、やっと昨年オープンしましたが、それから一年も経たないうちに、新型コロナウイルスの大きな波に襲われてしまいました。そんな状況の中でも、お客さんが(劇場に)来ないまま参加できる無人劇をしたり、(来場する)人数制限などの様々な感染対策をして、できることを模索しながらの一年でした」と、昨年の状況を振り返る。
2020年度の報告を行う蔭山陽太支配人。
また自らのホームグラウンドである、現代アートの現状とも重ねて「地域から生まれたアートの中で、パブリックに残って選ばれるものは、華やかで万人が飲み込みやすい、ある意味手堅いエンターテインメントであるのも事実です。しかしそういったものを享受する場ではなく、アーティストが一人で表現に挑める場所を提供することが、文化の未来につながることは間違いない。
2020年度に中止・延期となった公演一覧。
東ドイツの劇作家のハイナー・ミュラーは『作り手は、観客が作品を観て思考し、議論する機会を決して奪ってはいけない』と言ったんですけど、私たちはその言葉を何度も肝に命じなければいけないし、今はそういう時代になったと思っています」と、劇場の決意表明とも言える挨拶となった。
E9芸術監督のあごうさとし。『E9 2030』や「E9アートカレッジ」公演で構成・演出を行う他、2月には自らの新作も発表する予定。
続いてはE9支配人の蔭山陽太より、ネーミングライツを持つ[寺田倉庫]からのメッセージを読み上げるとともに、2020年度の活動についての説明がなされた。2020年度は新型コロナウイルスの影響で、予定されていた公演の一部が中止・延期となったこともあり、1年目の総動員数が1万人を超えたのに対して、2年目は劇場+オンラインを合わせて約6,000人にとどまったそう。しかしサポーターズクラブの入会や、地元企業の変わらぬ支援のおかげもあって、運営を持続できたことの報告と感謝が述べられた。
『CABARET E9 2021』を主宰するMECAV(左)とEliana(右)「子どもが観ても大丈夫なレベルのお色気に、軽演劇や音楽を楽しめるキャバレーショー。お酒は持ち込めないので、一杯引っ掛けてから来ていただきたいです」。
そしてE9芸術監督・あごうさとしが、2021年度のラインナップを発表。主催公演の8本は、妖艶なキャバレー、アナウンサーの実験演劇、中学生のギターデュオによる劇場初の音楽ライブ、現代アートの一日限りの展覧会シリーズなど、何とも多彩な顔ぶれだ。
ショーケース企画『Continue』に参加する「鳥公園」の演出を務める和田ながら。他にも「NPO法人大阪現代舞台芸術協会(DIVE)」「正直者の会」「ドキドキぼーいず」が短編作品を上演する。
その中でも、E9のある東九条エリアの10年後について語る『E9 2030』や、E9と同じ建物の中にあるコワーキングスペースを利用するビジネスパーソンたちの演劇「E9アートカレッジ」の公演は、シンポジウムやセミナーを演劇と融合させた、実にユニークな試み。アートや娯楽としての舞台芸術とは、一味違う感触の世界が見られることは間違いない。
『E9アートカレッジ第1期公演』は、京都最大級の会員数を誇るコワーキングスペース[コラボアースE9]を利用するビジネスパーソンたちの、実際のエピソードや心境を芝居仕立てで見せる作品。
現役中学生のクラシックギターデュオ「Duo chouchous」の岩瀬玉青(左)と宇山心奈(右)。「クラシックから映画音楽まで、様々な曲を演奏します。クラシックギターの良さを伝えられられるようにがんばります」。
共催公演は、劇場のアソシエイトアーティストに選ばれた「neji&co.」「新聞家」の公演や、E9開館以来毎年ソロ舞踊を披露している田中泯などに加えて、毎年京都で開催される舞台フェスティバル「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭(KEX)」のプラットフォームとなることを発表。KEXとE9で実験的な試みを行うアーティストを公募して、2年間に渡って創作&上演をサポートするという。E9にもKEXにも大きな刺激を与えそうな試みだけに、今後に注目だ。
『音の気持とオドリの気持』出演者の一人の、ピアニストの森本ゆり。ダンサーの田中泯、尺八奏者の寄田真見乃とのコラボは「現代音楽から伝統的な秘曲まで、バラエティに富んだ音楽に泯さんが身一つで挑む」とのこと。
そして提携/貸館公演は、現時点で30団体以上の公演が確定。すっかりE9がホームグラウンドと言えるような地元劇団から、初めて市外に飛び出す市民劇団や伝統芸の集団まで、非常にバラエティに富んだ顔ぶれ。以前あごうは、E9の理想として「一般市民の皆様に、現代演劇の幅広さと間口の深さが見えるようなラインアップにしたい」と述べていたが、まさにそのとおりの内容だと言えるだろう。各プログラムの詳細は、下記データ欄を参照していただきたい。
あごうさとし×能政夕介『フリー/アナウンサー』のテキスト・出演を務める、フリーアナウンサーの能政夕介(左)。「約100年の歴史を持つアナウンサーという職業の変成を『言葉の演劇』という変わったスタイルでお見せしたい」。
そして相変わらず、新型コロナの脅威が継続されている現在。E9は他の劇場と同じく、徹底した消毒やソーシャルディスタンスの対策に加えて、あごう曰く「最近空調(のパワー)が、法律の倍あることに気づきまして、無駄に換気能力がございます」と、安心して滞在できる環境であることが強調された。
『Sensory Media Laboratory(仮)』は、現代美術家の山城大督(左)と八木良太(右)が、1日限りの合同展覧会を、9年間連続で開催するプロジェクトの第2弾。「いろんな知覚を総動員して“モノ”を体験できる展示ができれば」。
そして蔭山からは、このような言葉が。
「昨年募集している段階では、劇場利用が半分になっても止むを得ないと思ってましたし、そうなったらどうやって劇場を運営していけば? と真剣に話しあいました。でも結果的には、毎週のように公演があるという状況です。皆さんが考えて考えて(使用を)決めていただいたということで、“一緒に創造活動を続けていこう”という思いを、私たちも強く感じています。
「京都学生演劇祭2020」で「E9賞」を受賞し、5日間の劇場無料使用権を獲得した「劇団FAX」代表で作・演出の玉井秀和。「四畳半に一人暮らしの青年と、言葉を持たない女の子が、押入れの中を旅するエンターテインメント作品です」。
去年(観客を入れて)上演ができない状況になった時も、アーティストの皆さんは本当に創造性が豊かで、オンラインで(無観客の)舞台を中継するだけではない、いろんなアイディアを出して、それを次のクリエーションにつなげていく作品をやっていただけました。それは私たちも楽しかったですし、これから活かされていくだろうと思います。
京都の期待の若手劇団「安住の地」は、7月に新作を上演。「今回がE9二度目の公演。演劇は必要なものだと思っていますし、いろんなことに気をつけつつ、いつも通り楽しんでもらえたら」と劇団代表の中村彩乃。
世界中のアーティストたちが、この(新型コロナの)状況の渦中にあり、これから作る作品は、そことまったく無縁であることはないと思います。こういうことは過去にほぼなかったと思うので、その点でもこれから上演される作品はとても楽しみですし、ぜひ多くの方に観ていただきたいと思います」。
京都大蔵流茂山家の狂言師・茂山千之丞は「童司カンパニー」の公演を2022年1月に開催。「劇場が何百年も根を張るために、僕ら伝統の人間も本気で腰を据えてお付き合いしたい。次回は狂言のWEB配信を考えています」。
以上がプログラム発表のあらましだが、これ以外にも「E9サポーターズクラブ」や劇場上演作品のアーカイブ作成のプロジェクト、現代芸術支援基金の設立を目指す団体「BASE(Bank for Art Support Encounter)」立ち上げの説明なども行われた。
2021年度はE9で2回公演を行う田中泯は「9月はE9ではまだやってない即興の公演。即興は本当にライブの醍醐味を味わっていただけるし、人間のとっても大事な生き方の一つだと思う」とビデオメッセージを。
E9サポーターズクラブは、一般なら年会費30,000円で、E9で行われる全公演はもちろん、[こまばアゴラ劇場][津あけぼの座]などの提携劇場、および劇団「青年団」の全公演を自由に鑑賞(1公演1回のみ)できるという、関西のシアターゴアにとっては実にお得な制度。月1~2回の頻度でE9に行く見通しであれば、ぜひ加入しておきたい。

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