岡野昭仁(ポルノグラフィティ)がオリ
ジナルからカバー、最新曲まで織り交
ぜ届けた『DISPATCHERS』

岡野昭仁 配信LIVE2021「DISPATCHERS」 2021.4.11
4月11日日曜日、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)の配信ライブ2021『DISPATCHERS』を観た。これは昨年から放送中のYouTube&スペースシャワーTV連動番組『DISPATCHERS』(発信者、の意味)の集大成であり、今年に入って「歌を抱えて、歩いていく」プロジェクトをスタートした彼にとって、新たなステージの始まりを告げる重要なライブだ。プロジェクト第一弾楽曲「光あれ」(TVアニメ『七つの大罪 憤怒の審判』オープニングテーマ)はもちろん、番組『DISPATCHERS』と同様に、様々なアーティストのカバー曲も披露すると言う。ビッグアーティストの看板をちょっと横へ降ろして素顔で臨む、初々しい新人のような第一歩。見逃すわけにはいかない。
自宅の作業部屋で配信映像のカメラをオンにする、いつもの『DISPATCHERS』のオープニング。すぐに画像が切り替わり、独りきりのステージの上で、アコースティックギターを抱えた岡野がおもむろに歌いだす――。1曲目はポルノグラフィティ「ROLL」だ。ルーパー・エフェクターを駆使して、ギターのボディを叩いてビートを組み、メロディを紡ぎ、コーラスを重ねてゆく。普段着の眼鏡、花柄の長袖シャツの下にはカート・コバーンのTシャツ。緊張感漂う中にもあたたかな親密さを感じる、一瞬でその世界に引き込まれるオープニングだ。
「『DISPATCHERS』、始まりました。今回のライブは非常にチャレンジングで、終えたあとには、自分としても成果を得られるんじゃないかと思います。まだまだ先の見えないコロナ禍の中ですが、みなさん大いに楽しんでもらいたいと思います」
「Zombies are standing out」「愛なき…」と、序盤はポルノグラフィティの、どちらかと言えば渋めの選曲が続く。1曲ごとに一息入れ、曲を作った時の思い出などをざっくばらんに話してくれるのがうれしい。小さなランプ型の照明の灯りで、バルコニーステージの階段がちらりと見え、ここが東京キネマ倶楽部であることがわかる。レトロな装飾、こぢんまりとしたステージ、プライベートなムード、初めてのソロ配信ライブにぴったりのシチュエーションだ。
「ここからはカバーということで、日本の音楽史をたどっていこうと思います」
ポルノグラフィティのライブでもおなじみ、ギタリスト&アレンジャーのtasukuを呼び込むと、ここからがいわば今日のライブのメインテーマ。tasukuが組み上げた精妙なトラックに乗せ、まずはKing Gnu「白日」と藤井風「優しさ」という、2020年代の日本のポップス/ロックを象徴する楽曲を、気負わずてらわず、岡野昭仁のスタイルでまっすぐに歌いきる。コピーではなく、我田引水でもない。歌を歌そのものとしてリスペクトする心がこもる、実にすがすがしい歌唱だ。「白日」ではKing Gnu井口との交流を語り、「優しさ」ではジャズを取り入れた新世代の音楽性の高さに「勉強になってます」と謙虚に言う、飾らないMCに人柄がにじみ出る。そして90年代の懐かしいメロディ、山崎まさよし「One more time,One more chance」へ。原曲よりもさらにゆったりとしたテンポで、心地よい時間が過ぎてゆく。
窮屈な世の中なので、野外へ飛び出して、気持ちいい風景を見せてあげたい。――そんな言葉と共に場面は一転、満開の桜を背景にした明るい景色の中で歌うのは、スピッツ「空も飛べるはず」と、ポルノグラフィティ「Aokage」だ。明るい陽射し、遠くから聴こえる車の音、風のざわめきが歌声に溶け込み、オーガニックな響きを作り出す。「故郷・因島の青春時代を切り取った歌」という「Aokage」を感情こめて歌いあげ、「大空の下でアオカゲを歌いました」と笑う。つられてこちらも笑顔になってしまう。
またまた場面は切り替わり、今度は夜の渋谷のMIYASHITA PARK。夜景を見おろす居心地よさそうなスペースで、24年前の上京の思い出語りを添えて歌ったのは、Fairlife feat.岡野昭仁「旅せよ若人」だった。浜田省吾を中心としたFairlifeと岡野との縁は長く深いもので、2010年にリリースされたこの曲も、彼にとって大切な曲なのだろう。「新生活が始まる4月、新しい旅を始める方へのエールとしてこの曲を送ります」という言葉に、深い共感がにじむ。どちらかと言えば隠れがちだった名曲をこうして聴ける、それだけでもこの配信ライブを観て良かったと思う。さらにもう1曲、玉置浩二との出会いのエピソードに続いて歌った安全地帯「ワインレッドの心」は、ぐっとアダルトな魅力を振りまきながら、つややかに伸びやかに。ポルノグラフィティにはあまりないタイプの曲だけに、かえってボーカリスト・岡野昭仁の巧さと柔軟性の高さを示す、絶妙な選曲だ。
カメラが再びキネマ倶楽部のステージへと切り替わると、配信ライブもいよいよ佳境だ。ここからは女性ボーカリストのセクションで、まずヨルシカ「だから僕は音楽をやめた」は、言葉数の多い複雑なメロディを、圧倒的なスキルを駆使していともたやすく伸びやかに。椎名林檎「丸の内サディスティック」は、クール&ファンキーなトラックの上で、ジャズ・ボーカルっぽい細やかな息使いを入れながら、色気たっぷりに。そして近年リバイバルヒットしているシティポップの名曲、松原みき「真夜中のドア~stay with me」を、せつないメロディの一音一音をいとおしむように、情感豊かに。さらにDREAMS COME TRUE「未来予想図II」を、歌詞のワンシーンを鮮やかに目の前に浮かび上がらせるように、心をこめて端正に。女性ボーカルのキーにもぴったりハマる、ハイトーンの美しさと説得力で一気に聴かせる。これぞ岡野昭仁の真骨頂だ。
「“歌を抱えて、歩いていく”というテーマで、活動していくことにしました。僕に何ができるか?を考えると、歌を届けるしかありません。僕が歌うことで、わずかでも皆さんに光が見えたらいいなと思います」
聴きどころのたっぷり詰まった配信ライブのラストを飾るのは、岡野昭仁による新曲2曲。4月12日配信スタートの「Shaft of Light」は、サウンドクリエイター・辻村有記と共に作り上げた楽曲で、高性能エレクトロ・ビート、ラテン風のダンサブルなリズム、オルタナティブR&B、そして岡野のまっすぐな歌声が絶妙に溶け合った1曲。そして「光あれ」は、壮大な空間を創造するミドル・ロックチューンと、四つ打ちのビートを組み合わせたハイブリッドな楽曲で、まばゆい銀白色の光が降り注ぐ、ミラーボールの演出がばっちりハマった。どちらもボーカリスト・岡野昭仁の揺るぎない個性と、最新型のエレクトロニック音楽とを組み合わせた、刺激と安定と娯楽と挑戦がゴチャマゼになった、魅力的な楽曲だ。
ここでやったことをポルノグラフィティに還元したい。と、ラストMCで岡野は言った。このプロジェクトはあくまでポルノありきの活動ということで、スタッフやファンへの感謝と共に、「僕が好き勝手にやるのを許してくれる新藤晴一にも感謝」と言って笑った。しかしいちリスナーとして思うことは、これだけの可能性含んだプロジェクトを期間限定で終わらせるのはもったいない、どういう形になっても続けてくれることを希望したい、ということだ。すべての配信が終わり、最後に浮かび上がった「人生を旅するすべての人へ 光あれ」というテロップが示す、チャレンジすることの尊さと未来への希望。心に残るライブだった。勇気の湧いてくるライブだった。アーカイブ映像は、4月14日23:59まで配信中だ。ぜひ体感してほしい。

取材・文=宮本英夫

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