人気音楽番組にも相次いで出演、話題
沸騰のシンガーソングライター・川崎
鷹也が語る「人との距離感」の大事さ

『ミュージックステーション』(テレビ朝日)、『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)など人気音楽番組に相次いで出演するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いのシンガーソングライター・川崎鷹也。2018年にリリースした「魔法の絨毯」が、2020年にTikTokをはじめとするSNSを中心に大流行。ハスキーな声でうたわれる日常に寄り添った歌内容が、リスナーの気持ちを揺り動かした。そんな彼があらたにリリースした曲が「サクラウサギ」は、好きな人に思いを伝えられず高校生活を終えてしまった人たちをイメージした楽曲。普遍的な感情を綴り、共感を声をあつめている。今回はそんな川崎に「サクラウサギ」のことや『ミュージックステーション』出演時について話を訊いた。
川崎鷹也
――これは誰もが思うはずですが、川崎さんは声が素晴らしいですね。
野球をずっとやってきた、結構な強豪校に在籍していたんですけど、練習や試合でめちゃくちゃ声を出していたんです。なのでいつも声を枯らしていたんです。それからハスキーな感じに変わりましたね。「ウィスキーでうがい」みないなものではなく、声を出して、枯れて治って、枯れて治ってを繰り返していたんです。「声が良い」というのは、歌うまで言われたことがなかったです。
――色気のある楽曲に乗せて歌われる内容は、何かをドラマチックに飾り立てるようなものではなく、今回の「サクラウサギ」はじめ、日常性をテーマとした楽曲が多いですよね。
日常の小さな幸せ、誰もが見落としてしまいそうなもの、そういったことをピックアップして楽曲にするのは自分のモットーです。忘れてしまいそうなことだからこそ、そのありがたみを忘れちゃいけない。何より僕自身が忘れたくないんです。歌詞を書くときは頭にある言葉、感情とか、歩んできた人生観など揺れ動いたことを歌詞にします。リアリティを求めるので、もし自分がドラマチックな生活をしていたら、また違っていたかもしれません。
――川崎さんの考えるドラマチックとは?
何だろう。そもそも自分はサプライズなどドラマチックなものはあまり得意じゃないというか、恥ずかしくなっちゃうので。だから楽曲も「こういうふうに曲を書こう」というものはなくて、出たとこ勝負ですね。そのときに浮かんだことを単純に書いて、そして「こういうふうに届いて欲しいな」という感じで。
川崎鷹也
――先ほどの「自分自身が忘れたくない」という気持ちは、「サクラウサギ」、「魔法の絨毯」などこれまでの曲にも歌詞としてあらわれています。
楽しかったことですら、忘れちゃいがちだと多いと思いませんか? 恋人、夫婦関係、何でもいいんですけど、悲しかったこと、悩んでいたこと、幸せだった瞬間、それらを忘れることはどうしたってある。でも、僕の曲を聴いたことで記憶を思い出してほしいんです。だから、そういうキッカケになれば良いなって。
――川崎さん自身、大切なことを忘れて奥様に怒られることなどありましたか。
しょっちゅうあります、妻によく怒られます(苦笑)。彼女は記念日など行事ごとを大事にする人。付き合った日などを毎月の記念日として考えるタイプなんです。毎月2日が「付き合った記念日」なんですけど、ついつい忘れちゃう。妻に「今日、何の日?」と尋ねられて、「あああっ、2日です」と焦ってしまいますね(笑)。毎月2日はささやかなんですけど僕が何かを買って帰っています。
――そうやって毎月、気持ちを伝える日があるのは大事ですよね。一方で、川崎さんの楽曲の多くは、相手に自分の言葉が届かないものばかり。「サクラウサギ」は3年間「好き」が言えなかった話。「光さす」は<僕の曖昧な言葉では届かない>、「Luv Letter」は<口下手で恥ずかしがり屋>、「きのこハンバーグ」は<『愛してる』この5文字は言えなかった>、ほかにも「今夜のクリスマス」、「エンドロール」など、いずれも「言葉って相手にうまく伝わらない」という曲なんですよね。
自分が思っていることって、相手には3割くらいしか伝わらないと言われているんです。僕もまさにそうだなと感じています。恋人でもそうだけど、相手に自分の気持ちを伝えられているかどうか考えたとき、実際はそんなできていないんだろうなと。それが僕自身、大前提としてあります。
――なるほど。
だからこそ、感謝、愛情はできるだけストレートに伝えたい。その気持ちが楽曲に生きているはず。僕のなかで「言えなかったこと」というのは、今の妻に対することが多いです。高校時代に知り合った2つ上の先輩だけど、付き合い始めたのはお互いに東京へ出てきて3年目くらい。僕はずっと想いを寄せていたけど、当時、彼女には彼氏がいた。好きだけどそれが言えない状況が続いた事実があるんです。それが僕の楽曲には潜在的にあって、「言いたいけど、言えない」という感情が落とし込まれているのかもしれません。
川崎鷹也
――恋愛に限らず「あのとき、ちゃんと気持ちを言っておけば」という状況は生きていて何度かありますね。
あと、僕の場合はそれが親なんです。地元の栃木で暮らしている親には、感謝の言葉がなかなか伝えられません。何も言えないまま栃木から東京へ出てきたし、たまに実家へ帰ったら喧嘩するし(笑)。
――よくある話ですよね。
うん、いまだに喧嘩ばかり。でも自分の親もそうだし、じいちゃん、ばあちゃんとあと何回、メシが食えるかとか考えるとそんなに多くないはず。「いつもありがとう」とか、「ご飯うまいね」とか言えたら良いんだけど、やっぱり照れくさい。だから、「背景、ひまわり」という母親に向けた曲を作ったんです。あの曲を歌うと母親はいつも泣きます。言葉で母親に伝えなきゃいけないのは分かっているけど、僕のやり方はこれで良いかなと。親も、そこは分かってくれているはず。
――親御様とはどういう喧嘩をするんですか。
何ですかね。うーん、いちいちうるさいんですよね(笑)。
――ハハハ(笑)。いや、ニュアンスは分かります。
何なんですかね、あの感じは。「はよ、お風呂入り」みたいな。こっちも「もうええって」となりますし。いつまでたっても、親にとっては子どもなんでしょうね。で、そのたびに妻に怒られます。「どうしてあんなに冷たい言い方をするの!」と。
――川崎さんの曲の多くは、人と寄り添っているじゃないですか。「魔法の絨毯」、「今夜のクリスマス」、「Luv Letter」などなど。なかでも「ベルが鳴る前に」は象徴的で、<あなたとの距離だけをずっとそっと保って生きてきた>と歌っているんですよね。これが川崎さんの生き方に集約されている気がするんです。
まさにそうだと思います。距離感をとても大事にしています。特に、初めて会った人との心の距離ですね。僕が面倒くさい性格ということもあるんですが、お互いに信頼関係をまずしっかり築いてから、パーソナルな部分を明かしたり、イジったり、イジられたりとかするようにしますね。すべて、距離感をしっかり保った上でと考えていますし、自分の過去の話や大事なことは基本的に話すつもりもないんです。僕は基本的に心をひらかないタイプなんです。
――自分からは内面を話さない、ということですね。
相手の過去や大事な部分を開きたいとも思っていないし、それでも良いと考えています。だけど、あるとき距離感が詰まったりして、「この人と何かやりたいな」という瞬間が生まれることがある。そこでパカっと心がひらく。恋愛も一緒で、好きな人との距離感を常に伺いつつ、「近づきすぎかも」、「これは遠すぎる」とか距離をはかっていて、そういった感覚が楽曲にもあらわれているのだと思います。
川崎鷹也
――でも今は「魔法の絨毯」の大ヒットをキッカケに、テレビ、ラジオへの出演、取材となど多くの人と出会う機会が増えていますよね。人との距離をはかって生きてきたけど、これまでの状況とは違ってきているんじゃないですか。
でも、感覚としては昔から変わらないかもしれません。距離感の話で言うと、僕の音楽や人間性を本当に応援してくれている人は分かりますから。逆に「あ、この人は仕事モードできているな」とか(笑)。
――人をちゃんと見極められるんですね。
だからと言って「この人にはちゃんと話して、この人にはソコソコで……」という接し方はしません。何か通じるものがあれば距離感は縮まりますよね。僕の場合は今、音楽をいろんな人に聴いてもらえて本当に感謝なんです。これまでは誰にも見向きもされなかったから。「魔法の絨毯」も2017年に作って2018年にリリースしたけど、鳴かず飛ばずで。それでもライブはちゃんとやっていたし、事務所も頑張って売り込みをしてくれていた。ずっとずっとやっていたんです、僕らは。音楽への取り組み方は何も変わらないんです。
――そういった姿勢が、『ミュージックステーション』への出演などに結びついてきましたね。司会のタモリさんにはどういう印象を持たれましたか。
人生で一番、緊張しました。それこそ距離感という話で言えば、タモリさんはサングラスをかけていらっしゃるので表情があまり掴めない。でも、ずっと観ていた『Mステ』のスタジオのなかで、ずっと聞いていたタモリさんの声がそこにあって。あの声が僕にダイレクトに話しかけてきた。不思議な感覚になりました。「タモリさんが俺に話かけている? あれ、俺に?」と。自分と話をしてくださっているという現実がすごく嬉しかったです。
――今回の「サクラウサギ」もじわじわと話題が広がっていますし、今後の川崎さんのご活躍が楽しみです。
「サクラウサギ」は2018年に高校の卒業式を思い浮かべて書いた曲ですが、当時よりも視野がどんどん広くなってきましたし、出会う人も多くなった。そういった状況のなかで曲を書いているので、伝える言葉も変わっていくかもしれません。情報解禁していない楽曲もいくつかありますし、そこでどのように僕自身が変化しているのか聴いてほしいです。
川崎鷹也
取材・文=田辺ユウキ 撮影=ハヤシマコ

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