柾木玲弥インタビュー~舞台『パンド
ラの鐘』に出演、「自分の芝居に深み
を出していきたい」

舞台『パンドラの鐘』が、2021年4月14日(水)~5月4日(火・祝)、東京芸術劇場シアターイーストにて上演される。『パンドラの鐘』は東京芸術劇場の芸術監督・野田秀樹の戯曲で、1999年に野田演出、堤真一や天海祐希らの出演で上演され、ほぼ同時期に蜷川幸雄演出、大竹しのぶや勝村政信らの出演でも上演されたことで、当時大きな話題となった作品だ。
そんな伝説的な作品の演出に今回挑むのは、気鋭の演出家として注目を集める熊林弘高。深く戯曲を読み込み時間をかけて丁寧に演出するため、発表される作品は1年に1~2作程度というペースだが、東京芸術劇場では、プレイハウスで上演された2016年の『かもめ』や2019年の『お気に召すまま』での挑戦的な演出で強烈な印象を残しており、昨年(2020年)は9月に日生劇場で上演された、三島由紀夫没後50周年企画『MISHIMA2020』において『班女』(麻実れい、橋本愛、中村蒼出演)を演出し、高い評価を得ている。野田戯曲は初挑戦となる熊林だが、22年前に書かれた今作をどのように演出するのか期待が高まる。
出演者も、門脇麦 金子大地 松尾諭 柾木玲弥 松下優也 緒川たまき ほか、魅力的な俳優が集結している。今回SPICEは、柾木玲弥(まさきれいや)に、公演に向けての思いを聞いた。

■「すごいね」と言われても、正直あまり実感が湧かない
――野田秀樹さんの脚本、熊林弘高さんの演出ということもあり、各方面から注目を集める作品だと思いますが、今作へのご出演が決まった際、周囲からの反応など何かありましたか。
同業者からの反響は結構ありましたね。僕は本当に申し訳ないくらい演劇に関して無知なので、「すごいね」と言われても、正直あまり実感が湧いていません。でもそうした反響をもらうと、本当にありがたいお話をいただいたんだな、と改めて思います。熊林さんとお話ししていると、いろんな作品とか演出家さんの名前を出されるんですけど、シェイクスピアも見たことのない僕には全然わからなくて、自分がいかに演劇に触れてこなかったか、というのを痛感します。だから熊林さんから「この作品を観て欲しい」って言われたものは全部観たいと思っています。
――舞台へのご出演自体は決して多くありませんが、2019年にKAATで上演された『恐るべき子供たち』(白井晃演出)にご出演されたことで、柾木さんの存在は演劇界にも非常にインパクトを与えたと思います。
そうなんですかね? 自分ではあまりわかってないですね。でも白井さんの作品や今作のように質の高い舞台、「この作品に出られるなんてすごいね」と言われるような舞台に声をかけてもらえることは、とても嬉しいと率直に思います。
――あまり気負わずに舞台に挑まれている、そのナチュラルな姿勢が柾木さんの舞台での存在感に繋がっているのかもしれませんね。
『恐るべき子供たち』のときも、周囲から「白井さんは怖い」とか「結構厳しい稽古になる」とか聞かされていたのですが、実際に参加してみたら全く厳しくありませんでした。もしかしたら、白井さんが素敵な方だと知っている人ほど緊張してしまったり、「きっと怖いんだろう」という先入観を持ってしまったりするのかもしれないですけど、僕は良くも悪くも何も考えずに稽古に臨んでいました。
■舞台への出演は「挑戦」であり、絶対に通る道
――柾木さんは主にテレビや映画など映像を中心にご活躍されていますが、映像作品に臨むときと、舞台作品に臨むときで何か気持ちの持ち方に違いはありますか。
舞台だからこうしなきゃいけない、というのは思ったよりはないですが、舞台はやはり完成されたものをお客様に生で見てもらう“作り込まれた芸術”だと思うので、映像とは芝居の仕方が違う部分はあると思います。舞台をやっているときは、なんだか不思議な感覚になります。同じことを何公演も、そして稽古も含めると何十回もやるじゃないですか。稽古中とか本番中とか、やってる最中こそ、毎回アドレナリンが出ているせいか何も思わないのですが、始まる前とか終わった後にふと冷静になって考えると、「こんなに何度も何度も同じことをしてるんだな」って思うんですよね。
――映像作品の多い柾木さんにとって、舞台への出演とはどういうものでしょうか。
挑戦ですね。それに、やはり第一線級の俳優さんたちはみな舞台をやっていて、いい作品に出演してそこでいいお芝居をしています。舞台は絶対に通る道だなと。だから僕も、この作品はもちろん、これからも一個一個大切に、真剣に挑まないといけないなと思っています。さっき「演劇に関して無知」だと言いましたけど、そろそろ、そうとばかりも言ってられませんから、今回の作品を通して、自分の芝居に深みや厚みがもっと出るように頑張りたいです。
――やはり舞台に出演する経験から得られるものは大きいと実感されていますか。
舞台は一つのカンパニーで、一つのものを何カ月もかけて作りますから、やはり作品自体に思い入れができますし、芝居もどんどん掘り下げて突き詰めていくので、そこは映像での芝居とはやはり違う部分が出てくるなとは感じますね。もちろん映像のほうには芝居の新鮮さがあるし、それぞれに良さがあるので比べるものではないのですが、僕は舞台で作るお芝居には、時間をかけて作るからこそ得られる“深さ”みたいな部分を期待しています。
――稽古期間をしっかり取るというところも映像との大きな違いの一つです。稽古好きな方とそうでない方と結構分かれるところですが、柾木さんはいかがですか。
稽古することによって、自分が「進んでるな」って感じることができると楽しいですね。『恐るべき子供たち』のときは、白井さんやキャストの皆さんと一緒に作品を前に進めている感じがあったので、すごく楽しかったです。きっと今作も、みんなで作って、それがどんどん形になっていって……と前に進んでいることを感じられる稽古になるんじゃないかなと思うので、とても楽しみです。
――今回共演者の方たちも、映像でも舞台でも多岐にわたってご活躍の方々が集結しています。
今度、松尾諭さんとは映像のほうでご一緒する予定なのですが、他の方は初めての共演になります。金子大地くんはこれまで会ったことはなかったんですが、実は同じ北海道出身で、地元も近いんですよ。この間ツイッターで知ったんですけど、金子くんがどこかで「北海道を代表する俳優」みたいな感じで紹介されていたらしくて、「なんで俺じゃないんだろう」って、すごく嫉妬しました(笑)。
――もしかしたら今作で、北海道代表の座を争う戦いが密かに繰り広げられるかもしれませんね(笑)。
北海道代表の座をかけて争うかもしれないですね、頑張ります……って、北海道出身の俳優さんは他にも沢山いらっしゃいますけど(笑)。
■この作品に携われることに責任や誇り、そして嬉しさを覚える
――今作は1999年に野田さんと蜷川幸雄さんがそれぞれ演出されて、その競演が話題になった伝説の舞台であり、演劇ファンからすると待望の上演だと思います。そのあたりのプレッシャーは感じられますか。
当時僕は4歳ですし、北海道に住んでいましたから観ることは叶いませんでしたが、野田さんと蜷川さん、両方の演出での上演は観たかったなぁ、と思います。キャストもすごい豪華でしたし。だから今回、キャスティングしていただいたことはまず嬉しいんですけど、でも嬉しいからこそ大きなプレッシャーでもあります。おそらく今作を観に来られるであろう演劇ファンの方々って「そんなところ見てるの?」っていうくらい深いところまで見ていらっしゃる方が多いと思うんですよ。そういう方々の前で演じるんだと思うと、ちょっとここは勝負ですね。自分が薄っぺらかったらそれはきっとバレると思うし……。だから、しっかり稽古して演劇ファンの方々にも認めてもらえるように頑張りたいです。
――コロナ禍で先が見えない状況の中で、これからお稽古、そして本番を迎えることになります。柾木さんご自身はこの状況下で何か新たな気づきや、改めて考えたこと、感じたことなどありましたか。
こういう状況になると、エンターテインメントって本当に必要なのかな?と不安になっちゃうことはありましたね。でも、僕は『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと』(2015年、NHK)という、東日本大震災に関するドラマに出演したことがあり、そのとき実際に被災地に行ってお話しを伺ったら、つらいときにドラマやバラエティを見ました、と言ってくださる方もいて、その時にやはり、エンターテインメントが必要ないことははないんじゃないか、と思ったんですよね。僕にはもうこの仕事しかないと思っているから、コロナ禍になって改めてそういうことは考えましたね。
すごく個人的な話をしますと、コロナ禍でめちゃくちゃ規則正しい生活になりました。1回目の緊急事態宣言の時は、仕事はストップ、お店もジムもやっておらず、家から全く出ない生活をしていて、その状況を「非日常って感じだな」とーーこういう言い方は不謹慎かもしれませんがーー僕なりにどこか楽しみながら過ごすことができました。今は2回目の緊急事態宣言が出ている状況下で、20時以降はお店もやっていないし、そうなると運動したり筋トレしたりとすごく健康的な生活になって、体の調子が良くなりましたが暫くしたら合わないのかあまり良くなくなり今は普通になりました(笑)。
――この状況を自分なりに楽しんで過ごせるというのは、精神的にも健全なことだと思いますから、心身共に万全な状態で今作に挑むことができそうですね。上演されるとき、この状況がどうなっているかは現時点ではわかりませんが、できるだけ多くのお客様が、なるべく安心・安全に観劇できるといいですね。
この作品には、直接的にこそ描かれませんが、歴史上の実際の出来事や、政治に関する事柄が色々ちりばめられ、深くて強いメッセージ性を感じます。今のこの日本の状況に通じるものもあるんじゃないかな、と思っています。この作品が上演されるころ、座席のことも含めて観客の皆さんがどういう状況で観ていただけるのかわかりませんが、でも演劇ファンの方々をはじめ、この作品を楽しみにしてくださっている方々がいるかぎり、僕は一生懸命頑張って演じるしかありません。僕にも僕なりに、この作品に携われることに、責任や誇り、そして嬉しさもありますから、今からかなり前のめりになっています。皆さんに観ていただける日が本当に楽しみです。
柾木玲弥
取材・文=久田絢子

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