【松尾太陽 インタビュー】
今の流行りの曲調やジャンルを
松尾太陽として消化したかった
今年の応援歌には特別な意味があるから
少しでも希望を見せられるものにしたい
いずれにせよ、魔法のような恋に落ちた胸のときめきを描いていることには変わりない。
で、この想いがずっと続いていくんだ…となった矢先に出る第二弾が「体温」っていう、その流れが僕的には美しいんですよ。間に1カ月空くことで、その関係性の変化がよりリアルに感じられる。
つまり、「Magic」と「体温」はストーリーがつながっている?
そういうとらえ方もできますね。僕の頭の中で「体温」は主人公が彼女との思い出を回想しているんですけど、曲が進むにつれて距離を感じて、だんだん離れていくようなイメージなんです。だから、サビに出てくる《ぎゅっと握って》も最初は目の前の本人に向けて言っているのに、後半のDメロから握っていた手がだんだんと離れて、ドン!と感情が爆発してからクールダウンしての《ぎゅっと握って》は、またちょっと意味が違うんですよ。ある意味で吹っ切れたというか、これからひとりでまた頑張っていこうという決意を表している。
最後に握っているのは君の手ではなく、君との思い出かもしれないですね。
確かに。実際に人肌を感じての《ぎゅっと握って》じゃないですもんね。なんかちょっとすっきりした(笑)。
そう。体温ではなく、心の温度みたいな。歌詞にも《温もり》とありますが、そもそも太陽さんの声はとても温もりがあるのでぴったりだなと。
ほんとですか? 自分では自覚できていないんですけど、そう言っていただけるのは本当に嬉しいことです。何よりもOmoinotakeのみなさんが、言葉のひとつひとつに対して細かいアドバイスをしてくださったので、解釈としては分かりやすく歌い切れた気がします。
今、おっしゃっていただいた通り、「体温」は3人組ピアノバンドのOmoinotakeが作詞作曲を手がけられていますが、もともと彼らの音楽は聴かれてました?
僕、(超特急のメンバーの)タクヤが出演していたドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』のオープニングで聴かせてもらったのが初めてだったんですよ。その時は楽曲提供していただけるなんてまったく知らなかったので、“今度の曲はOmoinotakeの方々に提供してもらいます”と聞いた時に“えっ!?”と。不思議なところでつながるんだなと驚きました。
軽快な「Magic」とは対照的に、サウンド的には切ないラブバラードですよね。
加えて、今までの人生で歌ったことのないジャンルの楽曲だとも感じました。R&Bの中でもブラックミュージックの要素が結構盛り込まれていますし、AメロからBメロに続いてサビに行くかと思いきや、まったく違うDメロに飛ぶっていう2番の展開も予想外で。あと、Omoinotakeさんの入れてくださった仮唄が本当にうまいんですよ! その分、自分が歌わせていただくことによって、より意味のある楽曲にしたいという気持ちが、さらに強く出てきました。
始まりはシンプルで素朴なムードなのに、2番の展開でグッとブラックな要素が入ってくるのが面白いですよね。
入口は聴きやすい感じなんですけど、いきなりカーブをかけてきたみたいな(笑)。なので、この楽曲をもらった時点で刺激はかなり受けていたのに、レコーディングで実際に歌ってみて、さらに感じたんですよ。例えば、Omoinotakeのみなさんは誰も見ていなかった部分に着目して、自分やスタッフさんたちが選んだのとは違うテイクを推してくださったり。あと、僕は“憂鬱”みたいに同じ母音が続く言葉って、一音一音区切って歌う癖があるんです。途中の音が消えないように。だけど、“ゆーうつ”と最初の2音をつなげて“うつ”と続ければ音が消えないとか、新たな歌い回しも教えていただけて勉強になりました。こんなに細かくディレクションしてもらえることなんて滅多にないですし、「Magic」とはまた違う人間味あふれる歌詞なので、きっとかなりこだわってくださったと思います。
冒頭の声がちょっと震えてる感じなのも主人公の揺れる心を表しているようで、そこから朗々と広がり、新たな決意へと至る流れが、とてもドラマチックでした。しかし、そうして君との思い出を抱きしめて生きていくとなると、次はどうなるんでしょう?
次の曲は出すのが3月というのもあるので、春だとか桜というものをテーマに、聴いてくださる方にとっての応援歌にしたいという気持ちが強いんですよ。なので、“2作連続+3カ月連続リリースを締め括る一作”っていう考え方のほうが分かりやすいかもしれないですね。
これが最初におっしゃっていた、ご自身での作詞作曲になるんですよね。
そうです。今、まさに作曲作業をしている最中で、一回ある程度まで出来上がったんですけど、“いや、もう少しサビを考えられそうだなぁ”ってことになって。そのメロディーが固まり次第、作詞のほうに入っていこうかなと思っています。今年に出す応援歌って、例年とは意味合いが変わってくるはずなんですよ。例えば入学とか卒業とか、いろんな生活環境が変わるタイミングって、ただでさえ不安や緊張があるものじゃないですか。でも、今年入学や卒業する人、新しい生活を始める人って、僕が経験した時とは比べものにならないくらい不安だと思うんです。
確かに。世の中の状況がまったく変わってしまいましたからね。
その分、曲が持つメッセージも切実になるだろうから聴き手の背中を押す…まではいかなくても、背中を支えられるような曲を作れたらいいなぁと。まぁ、応援歌って力強いイメージになっちゃいますけど、“エールを贈る”という解釈もできる曲にはしたいですね。少しでも希望を見せられるようなものにしたい気持ちはすごく大きいです。
なんだか運命的ですよね。初めて作詞作曲した「掌」では自分が新しい一歩を踏み出した時の不安や希望を描いて、次に作る曲では同じようにスタート地点に立っている人に向けて書くことになるなんて。
なんだか感慨深くなりますよね。「掌」は上京を決めた高3の頃を回想しながら自分のヒストリーを歌っていたので、それをリスナー自身に当てはめて聴いてもらえたら嬉しいと思っていましたけど、今回作る曲は「掌」のさらに先のステージに立てるような曲にしたいです。自分の記憶も掘り起こしつつ、今の時代のことや状況についても敏感になりながら、自分が感じていることをつなげて描いていけたらなと。
ちなみに、作曲はどういった手法で?
鼻歌をメインに、最近はギターでコードを探りながらやったりもしますし。あとは、前作の「掌」と同じように、ソロライヴでバンドマスターをやってくださっている山口寛雄さんからいろいろアイディアもいただきつつ、“こういうのもやってみたいです”って話をしながら、生まれてくるものを完成させていく感じですね。そこから音に当てはめて、自分が歌詞を入れていく流れです。
「掌」が非常に評判良かった分、プレッシャーもあるのでは?
そこは頑張らないといけないんですけど、僕、むしろいいプレッシャーはかけたい人なんで(笑)。
そんじょそこらのプレッシャーで折れるメンタルじゃないですからね。そうなってくると、ますますライヴが観たい! きっと今回の3曲でかなり曲の幅が広がるでしょうから。
なので、何か告知できたらいいんですけど、残念ながら今の時点では何もなくて…。まずは2021年の第一歩である今回の3カ月連続リリースを聴いていただいて、“ライヴに行きたい”という気持ちを僕と一緒に膨らませてもらえると嬉しいです。リリースやライヴ以外でも、例えばSNS上での活動もやっていきたいですし、そういった情報も首を長くして待ってもらえたら。
公式YouTubeチャンネルではデビュー前からカバー動画を多数公開されていますけれど、それ以外にも何か目論んでいることがあるんですか?
ありますよ、いっぱい! カバー動画はロケーションもカメラのアングルも、かなりこだわって作り込んでいるので、もっと身近に、ラフな感じで観てもらえる企画もできたらいいなと。例えばギターの弾き語りだとか、これからライヴで披露できる機会もどんどん増えてくるだろうし、自分にとって返ってくるものも大きいと思うんです。こうやって会えない状況の中でも、いろいろコンテンツを充実させられるように自分なりにやっていこうと考えていますし、もちろんライヴをやりたいっていう気持ちは大前提として、とにかく今年は貪欲に生きていきたいですね。それこそギターの弾き語りみたいに、今まで“やりたいけど自分には無理だろうな”と諦めていたことも、とにかく好き嫌いせずに挑んでいきたい。何がどう転ぶか分からない世界であり時代だし、実際2020年はそれで驚いたこともたくさんあったんですよ。なので、2021年は果敢に挑戦していける年、ポジティブな企画とかチャレンジを惜しげもなくやっていける年にしたいです。もっと音楽のことについても勉強したいし、自分発信での曲創りも進めていきたいんですけど…実はパソコンを持っていないのが致命的で。
ええ! パソコンがあればDTMもできるのに。
僕、機械が苦手なんですよ。録音も未だに携帯だったりと、ほんとアナログなやり方しかできないので、パソコンも“無理だな”と諦めていたんですけど、そんなこと言ってられない! プロデューサーさんも“買ったら一緒に勉強しよう”って言ってくれているので、そこはしっかり甘えたいと思っています。もっと多様なコミュニケーションを取れるようにして、自分から行動する年にしたいですね。とにかくいろんなことをやってみます、今年は!
取材:清水素子
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配信シングル「Magic」2021年1月15日配信開始
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配信シングル「体温」2021年2月11日配信開始
SDR
マツオタカシ:両親の影響で幼い頃より1970年、80年代の音楽に慣れ親しんで育ち、12年6月に超特急のバックヴォーカルとしてCDデビュー。伸びやかな歌声と、ソウルフルなファルセットから艶やかに響く低音までを使い分ける表現力には定評があり、19年9月に開催した自身初となる単独公演『Utautai』のチケットは完売。平成生まれながら音楽ルーツと豊富な知識、さらに、どんな楽曲世界にも没入して登場人物を演じ切る七色の歌声で、今、大きな注目を集めている。20年9月にミニアルバム『うたうたい』でソロデビュー。松尾太陽 オフィシャルHP
超特急 オフィシャルHP
「Magic」teaser
「体温」MV