井上バレエ団が名振付家・関直人を偲
んで1日限りの特別公演を開催、配信
も決定

井上バレエ団が2021年2月28日(日)東京・メルパルクホールで2月特別公演「関直人を偲んで」を行い、長年芸術監督を務め2019年5月に89歳で逝去した関直人を偲ぶ。また、この舞台の模様は4月3日(土)から9日(日)までイープラスの「Streaming+」にてオンライン配信される。
■名舞踊手として名を馳せたのち、振付の道へ
関は1929年(昭和4年)福島県白河に生まれた。1946年8月に帝劇で行われた『白鳥の湖』全幕日本初演を観劇し、バレエの道に進むことを決意して小牧バレエ団の門を叩く。現役時代はダンス―ル・ノーブルとして知られ、テクニシャンとしても誉高かった。小牧バレエ団時代から振付を始め、1965年のアメリカ留学帰国後は振付家として長年活躍する。
若き日の関直人
振付家に転身後、日劇ダンシングチームなどの舞台で手腕を発揮すると同時に、全国各所のバレエ団体に請われ振付を行う。なかでも1968年以降は井上博文が創設した井上バレエ団(前身は「井上博文によるバレエ劇場」)と関係が深く、「井上博文によるバレエ小劇場」として始まった第1回公演以降、終生関わり続けた。1988年の井上没後は岡本佳津子(井上バレエ団代表理事、日本バレエ協会会長)らと共にバレエ団・バレエ学園の発展に力を尽くした。
井上バレエ団公演のカーテンコールにて 関直人 撮影:スタッフ・テス
■卓越した音楽センス、粋で芸術性の高い舞台
関は『白鳥の湖』『くるみ割人形』『眠れる森の美女』というチャイコフスキー三大バレエ、『ジゼル』『シンデレラ』『コッペリア』といった全幕作品に加え、数々の創作バレエを発表した。そのいずれにおいても音楽センスが特出している。チャイコフスキー、ドリーブ、プロコフィエフなどの音楽と舞踊が流麗に溶け合い視聴覚に深く訴えかける。独特の豊かなニュアンスに富んだステップは「関(せき)節」と称され、ファンや踊り手に親しまれてきた。
井上バレエ団は創設者の時代からデンマーク発祥のブルノンヴィル・スタイルの継承に努めているが、関の振付は、その俊敏なテクニックになじんだ踊り手の良さも生かされているように思われる。また全幕物においてはピーター・ファーマーのロマンティックで美しい舞台美術との相性が良く、無駄のない洗練された仕上がりだ。バレエ団の歴史・カラーを踏まえながら、粋で芸術性の高い舞台を生み出してきた名匠だが、カーテンコールに登場するときの控えめながらどこか飄々とした表情が忘れ難い。その死があらためて惜しまれる。
『白鳥の湖』第4幕(振付:関直人) 撮影:スタッフ・テス
■バレエと日本舞踊の至高のコラボレーション~『ゆきひめ』
追悼公演で最初に上演されるのが『ゆきひめ』(原案:杉昌郎、音楽:ワーグナー、日舞指導:吾妻徳穂)。これは小泉八雲の怪談「雪女」に取材した創作で、ゆきひめと若者の恋物語である。バレエと日本舞踊のコラボレーションで、1972年の初演時は若者役がバレエ、それ以外の役は日本舞踊が踊った。以後、ゆきひめ役だけが日本舞踊、すべての役がバレエという3バージョンが存在する。この度は、ゆきひめ役だけに日本舞踊の踊り手を招く。ゆきひめ役は花柳和あやき、若者役は荒井成也。ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲」と「愛の死」が印象深く用いた名品を堪能できる。

『ゆきひめ』(振付:関直人) 撮影:スタッフ・テス
■次代を担う俊英・石井竜一が関に捧げる新作~『Chacona Dedicada』
次いで上演されるのは石井竜一の新作『Chacona Dedicada』。石井は井上バレエ団「アネックスシアター 次世代への架け橋」の芸術監督を務めるなど実力ある振付家で、音楽を大事にしながら柔軟な姿勢で創作に挑む。2019年には井上バレエ団7月公演で『シルヴィア』全幕を振り付けし、全3幕の大作を成功に導いた。『Chacona Dedicada』は民族音楽を使う。メインキャストは越智ふじの、阿部碧。「関先生の子供たちが一生懸命踊っている姿を表現し、関先生への讃歌として作りました」と石井は述べる。関亡き後、その衣鉢を継ぐ存在がいることは日本バレエ界にとっても心強い。関へのオマージュ=未来への希望を感じさせる舞台となるのではないか。
『シルヴィア』(振付:石井竜一) 撮影:スタッフ・テス

■これぞシンフォニック・バレエ!~『クラシカル・シンフォニー』
最後を飾るのは「関(せき)節」の真骨頂といえる『クラシカル・シンフォニー』である。音楽はプロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」。1977年の初演以来再演を重ね、関自身が最も愛した作品の一つだという。全4楽章を通して、テンポの良い音楽と生き生きとした踊りが一体となり、踊る喜びが伝わってくる。2011年、舞踊生活65周年を記念して井上バレエ団7月公演で上演されたのは記憶に新しい。古典的かつ清新なシンフォニック・バレエとして日本バレエ史に刻まれる名品である。メインキャストは宮嵜万央里、源小織、齊藤絵里香、浅田良和、吉瀬智弘、荒井成也。関の在りし日を偲びつつ、晴れやかな気分で家路につけるだろう。
『クラシカル・シンフォニー』(振付:関直人) 撮影:スタッフ・テス
文=高橋森彦

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