金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第23回「ダミア
ン浜田陛下のプログレイズムを徹底検
証!」

 金属恵比須は全員が“改臟人間”にされてしまった。
 聖飢魔IIの創始者・ダミアン浜田陛下が再び降臨することとなり、アルバム『旧約魔界聖書 第I章』『同 第II章』を発表。その演奏をしたのが我ら金属恵比須だ。知らぬ間にメンバー全員が“改臟人間”となり、筆者は「大地“ラスプーチン”高木」となってしまった。その経緯は数々のメディアで言及されていることなので、詳細はあらゆる媒体で参照いただきたい。ざっくりいえば、筆者の暴飲暴食が祟り、人間ドックで胃カメラ検査する機会があり、その胃カメラに“改臟”キットが仕込まれており、悪魔の僕(シモベ)となってしまった次第である。
 さて金属恵比須。「プログレというジャンルにとらわれた、幅狭い音楽を奏でる」というのがキャッチコピーのゴリゴリのプログレッシャーなのだが、なぜダミアン陛下の僕(シモベ)となるのか疑問に思われる方も多い。なんせダミアン陛下の創られた聖飢魔IIはお茶の間にヘヴィ・メタルを浸透させた悪魔たち。ダミアン陛下は初期のメタル然とした作品のほとんどを作詞・作曲されているお方なので、当然今回もヘヴィ・メタル調に違いない。
 でも何故に金属恵比須? ――我々をダミアン陛下と引き合わせた悪魔教会(レコード会社のようなもの)からは「プログレっぽい部分があるから」とのことだった。実際にレコーディングするにあたり、数々のデモ・テープを聴くとたしかにヘヴィ・メタルとして一筋縄ではいかない曲ばかり。良い意味でダミアン陛下らしからぬ展開だ。これはただのヘヴィ・メタルではない。
 そもそもダミアン陛下のロックの入口がエマーソン・レイク&パーマー『トリロジー』なのだそうだ。メタルではなくプログレからロックの道に入ったわけだ。ということはそもそもプログレのリスナーであり、これはプログレッシヴ・ロック・バンド金属恵比須と親和性が高いかもしれない。いっそのこと陛下のプログレ観をお聞きした。
 すると、
「変拍子または複雑なリズムパターンを用いている」
「ロック以外に何か別のジャンルを含んでいる」
「展開がドラマチックである」
「構成が複雑、あるいは長い(大作)」
「意表を突いたことをしている」
とのこと。
 まさしく金属恵比須の得意分野ではないか。そして『旧約魔界聖書』も陛下の思うプログレ感に通ずる世界観。金属恵比須は喜んで“改臟人間”になるしかなかろう。
 ということで、陛下の持つプログレ感がこの2枚のアルバムのどこに潜んでいるかをお聞きし、筆者の視点を交え、まずは『第I章』より3曲を以下に解説する。
●聖詠
 ダミアン浜田陛下が「登場音楽として書いた」というオーケストラ調の曲。ジューダス・プリーストやマイケル・シェンカー・グループ、そしてイエスがオーケストラ曲をバックに登場するのを彷彿とさせる。1曲目ゆえに筆者が最もこだわった曲だった。サウンド・プロデューサーも務めた金属恵比須の宮嶋健一(ケン“アレイスター”宮嶋)に、陛下を差し置いて何度も編曲や音を直すよう指示した曲である。
 「キング・クリムゾンなどがカバーしたホルスト『火星』を意識して、後半にフレンチホルンの割れるような低音を追加しました」とのこと。オープニングからしてプログレだ。
●Heaven to Hell
 陛下いわく「編曲の出来は過去TOP10に入る」。展開が激しい3部構成の楽曲。後半の宮嶋によるシンセサイザー・ソロがどう聴いてもイエスのリック・ウェイクマンの手癖を彷彿とさせる。
●Lady into Devil
 とにかく中間部のギター・ソロのリズムがトリッキーだ。陛下はこれを「Confusion will be my epitaph――となる」と表現している。キング・クリムゾン不朽の名曲「エピタフ(墓碑銘)」のサビの歌詞からの引用だ。筆者なりに訳すと「どこで頭を振るアクセントをつくればいいかわからないほど混乱するでしょ?」となるだろうか。なお「エピタフ」の類似を感じることもないので、ただ単に「混乱して!」とのことだろうと思う。
 続いて『第II章』からも3曲。
●Angel of Darkness
 演奏時間が7分近くあり、その時点でかなりプログレッシヴな曲である。MVも制作されており、「編曲TOP10」の1曲。しかも自信のある編曲はイントロとのこと。宮嶋は、「イントロのアコースティック・ギターのアルペジオにプログレ味を感じる人もいるかも」と分析しているが、たしかにアコギで始まって徐々にアンサンブルが複雑になって盛り上がっていくのはプログレっぽい。過去の名曲をたぐれば、イエス「ラウンドアバウト」、ジェネシス「サパーズ・レディ」、ラッシュ「フェアウェル・トゥ・キングス」など枚挙にいとまがない。また、陛下は「後半への場面転換が強烈な点」がプログレっぽいと表現しており、曲の展開が激しい。筆者としてもプログレ・メタルの最高峰のように思える曲だ。
【動画】Damian Hamada's Creatures 『Angel of Darkness』Music Video

●Deepest Red
 この曲は意見が割れた。陛下は「プログレっぽさはほぼ0」とのたまうが、筆者はアレンジを聴いてまるでイエスのアルバム『究極』を感じた。パイプ・オルガンとロックの音楽はなかなか混ざり合うことはないと思っているのだが、『究極』はバランスよく融合されていた。そしてこの曲にも全く同じ印象を持ったのだった。
●新月のメヌエット
 金属恵比須として最もプログレっぽくアレンジできたのがこの曲。冒頭から、キング・クリムゾンを彷彿とさせるメロディが咽び泣く。それもそのはず――「メロトロン」(テープに録音された弦楽器などの音を演奏する楽器)というプログレでは必須のヴィンテージ・キーボードを使用しているのだ。キング・クリムゾンやジェネシスの名曲群もメロトロンなしでは魅力半減であろう。そんな楽器を大々的にフィーチャーしてプログレ以外の何物にもならないアレンジとなった。筆者もギター・ソロではジェネシス「ファース・オブ・フィフス」を意識したギターを収録してみた。奇しくも同曲が収録されたアルバムの名前は「月影の騎士」。「月」つながりだったのかはわからないが。
 ……ということで、全13曲の中でも特にプログレっぽさを感じる6曲を見てきた。聖飢魔IIと同じくヘヴィ・メタル一言ではくくることのできないプログレッシヴな楽曲が並んでいる。ダミアン陛下、宮嶋(アレイスター)、筆者(ラスプーチン)、それぞれ違う観点を持ちながらも共通するワードとして「プログレ」がチラつく。
 そういえば、元はといえば「第I章」「第II章」の全13曲を1枚のアルバムに収録しようとしていた。が、
「消化不良になるから」
ということで2枚に分けることとなった。
 音楽って食事に例えられることが多い。「初期ジェネシスってこってり系だよね」「ジャーマン・プログレ聴きすぎると胃もたれ起こすわ」などの表現を、プログレ・マニアたちと話をしているとしばしば耳にする。であれば、いっそのこと、プログレを味覚に例えてカテゴライズしていくのはどうだろう。
 次回より、プログレの代表バンド(いわゆる「五大プログレ」)とその作品たちを“味”に例えてマトリクス化し、青少年にもわかりやすい入門編を書いていこうと思う。しかし、それらの作品の数は膨大。筆者が復習として聴き直しているうちに消化不良を起こしそうだ。また胃カメラの検査を受けねばならないか。
文=高木大地(金属恵比須)

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