NBAバレエ団新作『シンデレラ』、振
付家ヨハン・コボーに直撃インタビュ
ー「歩みを止めず、情熱をもって」

2021年2月6日(土)・7日(日) 、NBAバレエ団の新作、元英国ロイヤルバレエ団プリンシパルであるヨハン・コボー振付『シンデレラ』がいよいよ幕を開ける。未だ収束の気配の見えないコロナ禍により、バレエ団では2020年に3公演が中止になり、制作費の資金難をクラウドファンディングで乗り越えるなど、様々な困難を一つひとつ打破。振付家コボーの来日も制限されるなか、オンラインでミーティングやリハーサルを行うといった、可能な限りの工夫を凝らしながら一歩一歩、情熱をもって新作の世界初演に向けて取り組んできた。今回はこうしたなか、リハーサルのために来日したコボーに直接インタビューを実施。新作上演に向けての思いを聞いた。(文章中敬称略)
NBAバレエ団ダンサーたちとともに。左は久保綋一芸術監督、右はヨハン・コボー

■コロナ禍のなかでの創作と上演に感謝。古典に敬意を払いながら新たな創作を
コボー版『シンデレラ』制作のきっかけとなったのは2019年、NBAバレエ団公演『白鳥の湖』に、コボーのパートナーであるアリーナ・コジョカル(元英国ロイヤルバレエ団プリンシパル、イングリッシュ・ナショナル・バレエ リード・プリンシパル)がゲスト出演したことがきっかけ。「僕とヨハンが同い年ということもあり、意気投合して話が弾み、新作を依頼することになった」と久保綋一監督は振り返る。コボーにNBAバレエ団に新作を振り付けることとなった、その思いについてまず、語ってもらった。
久保監督から新作バレエの振付を依頼されたことは本当に名誉なことだと思っています。とくに規模の小さいカンパニーにとって、全幕バレエをつくることは非常に大きな事業です。予算や財政の面でもとても大きなリスクを負っていると思いますが、そのうえで私に新作のオファーをしてくれた。その信頼とバレエ芸術に対するリスペクトには、敬意と名誉を持って、応えていきたいと思っています。
また今のように世界が(新型コロナウィルスにより)行き詰まっているなか、バレエが全く上演できない国もある。そうしたところは過去の収録映像、あるいは無観客でのオンライン上演に頼らざるを得ず、私たちがこうしてマスクをして会話をしなければならないなど、これまでにはあり得なかった問題が世の中を取り巻いています。
そうしたなか、私がこうして新たなバレエをつくれるというのは、ほんとうに恵まれていることです。私はプロダクションをつくることが大好きですし、何よりありがたく敬意を感じているのは、久保監督が創作については私の自由に任せてくれたということです。これにも本当に感謝しています。

久保綋一芸術監督。コボーの話から両氏の厚い信頼関係がうかがえた
――アイデアやコンセプトはほとんどコボーさんによるものですか。
はい、100%私の創作になります。
以前私はあるバレエ団の芸術監督をしていたことがありました。ですからバレエをつくるにあたっては、商業的な側面も考えなければならないのは承知しています。ただ同時にそれだけに寄ってもならない。バレエの伝統はとても大切ですし、私は過去から現在に至るまでの古典作品を含む「バレエ」に対し敬意を払うことは非常に重要なことだと思っています。そうしたなかで例えば、私はこれまで『ラ・シルフィード』、『ジゼル』、『ドン・キホーテ』など、最近では『ロミオとジュリエット』を振り付けてきましたが、いずれも物語あるいは振付に、古典をはじめ既存の要素を残しながらの創作をしてきました。
しかしバレエ芸術は古典の「博物館」になってもいけません。そういう意味では私は自分の『シンデレラ』には物語の大筋を含め、これまでにつくられた作品へのリスペクトを織り込みつつも、既存の物語とは別の種類の設定にしていきたいと思っています。自分のアイデアも含め、私自身、この作品がとても特別であり、思い入れの深いものとなっています。
衣裳デザイン
■情熱は才能をこえる。情熱をもって夢を追う少女の物語
――その気になる物語ですが、オーソドックスなファンタジーとは違い、現代を舞台に、夢を追うバレリーナの少女が主人公だと久保監督から聞いています。こうしたストーリーにしようと思った理由は。
私はバレエに携わる長いキャリアの中でとても多くのダンサーを見てきました。そのなかには素晴らしく才能があり、スターになれる可能性があるのに情熱が足りず、その才能を生かすことができない人もいました。その一方で、才能というよりも、バレエに対する情熱と愛情がとても深い人が成功していく姿も見てきました。私たちは本当に好きなことに情熱を傾け、そそいでいるときが幸せなのです。
また競争社会の現代において、私はこのシンデレラの物語を単に白馬の王子が現れ、ロマンスと幸せに導くような物語ではないものにしたいとも思いました。仙女やアグリーシスターズなど、それを思わせるキャラクターは出てはきますが、皆さんがよく知るストーリーとの役割とは違った形で登場することになるでしょう。
物語としては、今の段階では現代的な、いわゆるファンタジーの『シンデレラ』とは大きく変更をした作品のように感じられるかもしれませんが、見ていただければきっと『シンデレラ』の物語であると思っていただけるのではないかと思います。
――自分の足で歩き、幸せを掴みとっていくというストーリーになるのでしょうか。とにかく、見てみなければという感じですね。こうしたアイデアはずっと抱いていたのですか。
久保監督からお話をいただいたのが一昨年の2月で、その時から考え始め、「バレエ」をテーマとしたものにしたらどうか、という漠然としたアイデアがうかびました。
ただそれを実際に形にしようと思った時にコロナ禍でロンドンはロックダウンされ、スタジオも閉鎖になり、物理的な空間での作業ができないという、普段とは異なったプロセスでクリエイションをしなければならなくなったのです。アリーナ(・コジョカル)とも何度も話をしながら考えつつ、また本来なら日本にも足を運んで実際にダンサーを前にしてクリエイションを進めるところですが、それもままならなかったのが大変でした。

衣裳デザイン
――その間、久保監督らNBAバレエ団のスタッフとはオンラインミーティングを重ね、ダンサーの姿もオンラインを通して目にしながら創作を続けていったと伺いました。実際に今回来日されて、バレエ団のダンサーを目にした印象は。
とにかく皆びっくりするほど覚えが速いです。オンラインで見ていた時も、その真面目さ、覚えるスピードには驚いていましたが、実際に目の当たりにして一層驚きました。その日教えたことが、翌日にはしっかりできているようになっているんです。素晴らしいことです。
――振付についてですが、久保監督は「一つひとつが本当にチャーミングだ」と絶賛しておられました。あなたは英国ロイヤルバレエ団に在籍していたときにフレデリック・アシュトン版の『シンデレラ』を何度も踊ったかと思います。今回の創作に当たり、そうした過去の経験を活かしたり、あるいは影響などをうけた部分はあったのでしょうか。
アシュトンの『シンデレラ』は本当に素晴らしいプロダクションで、私もダンサー時代に王子を何度も踊りました。でも今回のクリエイションで影響を受けた、ということはありません。
むしろ今回作品をつくるにあたって、大切にしつつ、かつ苦労したのは音楽です。プロコフィエフの『シンデレラ』の音楽がとても雄弁で、本来の物語をとてもよく表現しているので、そのイメージを自分の作品のストーリーとどう合わせていくか、そこにとても苦心しています。プロコフィエフの素晴らしい音楽を上手く生かしていきたいですね。

■英国ロイヤルバレエ団の高田茜がシンデレラ役に。NBA野久保の成長にも期待
コロナ禍のなか、本来主演に予定されていたフランチェスカ・ヘイワード(英国ロイヤルバレエ団プリンシパル)の来日の見通しが立たなくなり、代わって高田茜(英国ロイヤルバレエ団プリンシパル)が初日6日の主演をつとめることとなった。高田にとっては日本で初めて全幕作品の主役を踊る機会となり、NBAバレエ団『シンデレラ』公演は俄然注目を集めている。さらに7日は成長著しいソリスト、野久保奈央がシンデレラを踊る。

高田茜
――高田茜、野久保奈央の印象を教えてください。
茜と奈央の2人とともに働けて本当にうれしく、大きな喜びを感じています。
私は長年ダンサー、あるいはアーティストとして茜のことを見てきましたが、彼女は今やあらゆる面で、完全なアーティストになっており、心からうれしく思っています。クリエイターとして彼女とこの物語を完成させることができるのは、私にとっては特権ともいえるものです。
奈央は私が日本に来てから知ったダンサーですが、毎日めまぐるしく成長を続けていて、役作りとバレエの双方に、新たな自信を見出しています。彼女の成長を見ることが楽しく、豊かな将来性も感じます。この作品の経験が彼女のキャリアと未来に一役買うこともうれしく思います。
この2人のダンサーそれぞれが、私の『シンデレラ』にそれぞれに個性的な踊り、描写と感動をもたらしてくれるでしょう。今回私のまわりにそのようなアーティストが2人もいてくれたのは、とても幸せなことだと思っています。

野久保奈央 Ⓒ瀬戸秀美
――最後にお客様にメッセージを。
今のこうした世の中、何かを成し遂げるためには犠牲を払わなければならなりません。私はこのクリエイションのために来日した際、日本で14日間の検疫のために小さな部屋に隔離されていました。そしてその間に娘を授かり、愛犬が永遠の旅に出てしまいましたが、私はその双方に立ち会うことができませんでした。でも私はフリーランスのバレエダンサーでありアーティストですから、歩みを止めてしまうと何もかもが止まってしまう。だからこそ、こうしたコロナ禍のなかでクリエイションができ、バレエに携わることができるというのはとても幸運なことだと心から思っています。そして久保監督は私のこの新制作のために資金を集め様々な努力をしてくださった。ですから私はこの『シンデレラ』がNBAバレエ団の成功につながることを、心から願っています。
また私と日本との関わりは長く、そのなかで日本人がバレエに対していかに深い見識を持ち、子供から大人までが実際にバレエを踊って楽しんでいるかを見てきました。今回日本に来て、町の人々のほとんどがマスクをしているのを目にし、日本人の礼儀正しさに加えコロナ予防に対する意識の高さに改めて驚き、感動し、より敬意を抱いています。
大変な時代ではありますが、ぜひ私の新作バレエを楽しんでいただければと思います。
――ありがとうございました。
取材・文=西原朋未

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