城 南海

城 南海

【城 南海 インタビュー】
この10年
いろいろやらせていただいたことが、
今に全てつながっている

ディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」を担当し、日本語訳詞も手がけた城 南海。そこから派生して映画音楽のカバー、さらに森山直太朗による作詞作曲の「産声」(NHK『ラジオ深夜便』2020年12月~2021年1月 深夜便のうた)などのオリジナル曲を含めた10曲を収録するアルバム『Reflections』が完成した。彼女がこの作品を通して得たものとは?

森山直太朗さんからいただいた言葉で
新たな歌い方の感覚を掴めた

アルバム『Reflections』は城さんが担当された映画『ムーラン』の日本版主題歌「リフレクション」をはじめ、映画『グレイテスト・ショーマン』の「Never Enough」や映画『耳をすませば』の「カントリー・ロード」といったカバー、さらに森山直太朗さんが作詞作曲されたオリジナル楽曲「産声」などが収録されていて、幅広い楽曲を堪能できる一枚になっていますね。まずは本作の制作のきっかけを教えてください。

今回はカバーアルバムということだったんですけど、「リフレクション」は映画の曲なので、映画音楽のカバーにしようと思ったんです。自分の好きな曲、やってみたかった曲、人から勧めてもらった曲、ファンの方からリクエストをいただいた曲を何百曲と出して絞っていって。今までにカバーアルバムを3枚出させていただいた中で、原曲にとても忠実だったり、逆に奄美色を入れたりなどいろいろなことをしてきたのですが、意外と三味線をそんなに入れてなかったと思ったんですね。さらに、昨年はコロナ禍で私自身も奄美大島に帰れなくて、島の風を感じることができなかったので、奄美大島のテイストも入れたくて。あとは、デビュー10周年を迎えたあとに、今一度原点に戻るというか…前作の『one』(2019年12月発表のアルバム)ではいろいろチャレンジしたじゃないですか。

確かに。前作はリアルな大人の女性を描いた楽曲に挑戦されていて、“少女から大人へ”といった変化が如実に表れている作品でした。

そこからコロナがあり、自分を見つめ直す時間もあった中で、今回のカバーアルバムは今までと違うテイストの“自分らしさ”を出したいと思ったんです。「リフレクション」も“自分らしさ”がテーマになっていましたし。それで、すでに発表していた1曲目の「リフレクション」と9曲目の「Encounter in Space “THE EARTH”」以外を録る前に、まず10曲目のオリジナルソング「産声」のレコーディングをしたんです。

このアルバムのラストを飾る楽曲ですね。

はい。そのレコーディングが控えている時、直太朗さんが電話で“南海ちゃん、背負わなくていいからね”と言ってくださって。私の性格を全部感じとった上で、新たにチャレンジすることにおいて、“そんなに頑張りすぎなくていいよ”とひと言を投げかけてくださったんです。私は今まで歌い上げる曲が多かったので、基本的にスイッチを入れて歌っていたんですが、この曲はそうではなくて。そこにただいて、フッと出てくる声で歌う、その感覚で歌えたので、アルバム全体を通して力まずにやろうと決めたんです。その時その時で曲と向き合い、ちょっと声がぶれたり、ピッチが下がったりしても、それを素のいいニュアンスとして残すというか。いろいろな意味で“無理なく自分の良さを出しながら楽しむ”という制作をしていくことができました。

「産声」は城さんの静かなアカペラで始まり、それこそ歌詞の中にあるように宇宙を泳いでいるような、心地良いけれど魂が揺さぶられるナンバーで、こんなに控えめな楽曲なのに、最初に聴いた時はその懐の広さや深みといったものに度肝を抜かれました。この曲の作詞作曲を森山直太朗さんにお願いした経緯というのは?

ずっとお願いしたかったのですが、なかなかタイミングなどが合わなかったんです。なので、今回のNHK『ラジオ深夜便』の深夜便のうたのご依頼を受けて“誰に書いていただこうか?”という話をした際に、私から“直太朗さんにお願いしたいです”と希望して。結構タイトなスケジュールだったのですが、直太朗さんは“やるからにはみんなで足並みを揃えて、同じ方向へ向かうために話し合いましょう”とオンライン会議で進めていくことを提案してくださったんです。

城さんからは、どんな曲にしたいと要望されたのでしょうか?

深夜のラジオ番組なので、まずは落ち着いた曲ということをお願いしました。あと、これは自分で言うのは少しはばかられるのですが、やはり私は『THEカラオケ★バトル』のイメージが強く、歌のうまさや迫力といったものを求められてきて、そういう曲をたくさん出させていただいたので、それとは違うもの…うまさではなく、心に響くようなものを歌ってみたいという想いをお伝えしました。

「産声」の制作過程はどのようなものだったのでしょうか?

作っていく段階で、直太朗さんが私のことをよく理解しようとしてくださって、私のマネージャーさんやディレクターさんとも密にやり取りされていたんです。チームとしてどうやって作っていくのかということを非常に大事にされていたので、そこのコミュニケーションが本当にすごかったです。今回担当してくださったディレクターさんは『ユキマチヅキ』(2017年11月発表のカバーアルバム)をやっていただいたことがあるのですが、今まで一緒にご飯に行くという機会はなかったんですね。でも、今回は“アルバムを作る前にご飯に行きましょう”と誘われたんです。それも直太朗さんの影響だったようで、歌詞と曲を書くだけでなく、そういうコミュニケーションもすごく大切にされていたから、私やスタッフも全体を通しての音楽への向き合い方、姿勢といったものを勉強させていただきました。

すごくコミュニケーションが密だったんですね。

しかも、私の意見もすごく聞いてくださって。ある時、直太朗さんに“歌詞の一部を変えようと思うんだけど”と言われたのですが、私はそこを改めて歌ってみて“やっぱりもとの歌詞のほうがいいんじゃないかと思います”とお話したら、“僕も悩んでいたけど、やっぱりそうだよね”と言ってくださったんです。そうやって歌い手に寄り添ってくださるんです。

アーティストにとって大切なことを制作を通して教えてもらったと?

そうですね。歌い手さんが曲を作った場合、仮歌以外で“こういうふうにやってみたら?”と言われることはあまりないんですね。でも、直太朗さんは電話とかで“自分も歌い手だから、こう思うんだけど〜”といろいろアドバイスしてくれるので、それがすごく分かりやすくて。ディレクターさんとはまた違う視点での伝え方がたくさんあるんですよ。

具体的にどういったアドバイスがありましたか?

「産声」はギターが先に録り終わっていて、そのあとにピアノとビオラを合わせて録る流れだったんです。そしたら、ちょうどレコーディングに顔を出してくれた直太朗さんが“南海ちゃんも入って3人が一緒に演奏するのも面白そうじゃない?”とアイディアを出して。だから、レコーディングでは3人同時にやったんですよ。先日、テレビでこの曲を初披露した際も、“今日は生放送だよね。曲をもらった時の感覚と、トライアングルの感じを思い出して歌ってみて”とメールをくださったし。なので、みんなでトライアングルの感覚を共有しながら演奏したことが歌に出てると思います。

「産声」は本当にいろいろな受け取り方ができると思うのですが、歌詞に関してはどんな話をされましたか?

実は歌詞に関しては深い話をしてないんです。それぞれの受け取り方がこの曲にはあると思うし、直太朗さんも“この曲はとにかくたくさんの人に聴いてもらいたいのと同時に、大事な友人、家族みんなに聴いてほしい。そして、まずはお母さんに聴いてほしい”とおっしゃっていて。この曲にはお母さんのお腹の中で浮かんでいるような安心感と温かさがあるし、さらにレコーディングの時に歌ってみて感じたのは、今ここにいること、歌ってることの奇跡と、生まれてしまったことの切なさで。その何とも言い難い、嬉しさと切なさと喜びが織り混ざった感情があふれてきたんです。だから、聴く人によっての感情…ずっと心の底にあった感情というか、心にしまってあった感情をフワッと持ち上げて感じさせてくれる曲だと思ったし、その人の大事にしているものだったり、大事な人とつながれる曲だと感じました。

確かに心に感じたままで受け入れるのが自然な曲ですよね。

レコーディング前に仮歌の音源をビオラの方にもギターの方にももちろん送っていて、それを聴いて“自分はこう思った”や“自分はこういう生き方をしてきて、それで考えていたものがあふれてきて、すごく泣いちゃった”というお話をした上で、みんなで演奏しているんですよ。そういうふうにいろいろなものがつながって、今ここにいるんだと思うことができた曲ですね。しかも、『ラジオ深夜便』は深夜の放送なのでひとりの時間じゃないですか。自分と向き合う時間でもあり、そういう時に聴いていただく曲として、本当に素晴らしい曲だと思います。
城 南海
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OKMusic編集部

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