【おいしくるメロンパン
インタビュー】
世の中の理(ことわり)に
触れたいというのがあった
複雑な演奏やアレンジでポップなメロディーを展開する3人組ロックバンド、おいしくるメロンパンが5枚目のミニアルバム『theory』をリリースする。配信シングル「透明造花」「架空船」を含む全5曲は新たなバンドサウンドを感じさせるとともに、より研ぎ澄まされた歌詞の世界が美しい情景を伴って迫ってくる。立体感が増したアレンジも含め、バンドの持つ表現力がさらにスケールアップしたことを物語る一枚だ。
伝えたいことをストーリーに置き換えて
誰でも没入できる世界を作る
1stミニアルバム『thirsty』(2016年12月発表)からコンスタントに作品をリリースしてツアーも行なっていますけど、活動のペースとしては早いほうでした?
峯岸
音楽性が変わるスピードで言ったら、3枚目を出すまでは早いなって思ってたんですけど、そこからはゆっくりな気がします。
それはある程度、意図していたことなんですか?
ナカシマ
なるべくしてそうなったという感じはしてます。僕は初めて組んだのがこのバンドなので何ができるのか定まってなくて、曲を作りながらやりたいことに辿り着いていったというか、理想に向かってかたちを変えてきた感じがします。
その理想はどんなものでした?
ナカシマ
最初はただ作れるものを作っていたんですけど、3枚目のミニアルバム『hameln』(2018年7月発表)でやりたいことがひとつできたと思っていて。あの作品がひとつの理想ではあった気がします。
そこで出し切った?
ナカシマ
はい。だから、4枚目の『flask』(2019年9月発表のミニアルバム)をどうするかは結構悩みました。迷ったけど“とりあえず作らなきゃ”ってやみくもに作ったので、当時は何だか分からないものができちゃったと思ってたんですけど、今聴くとそれまでのおいしくるメロンパンらしさがあり、新しさもあるので良かったなと思います。
『hameln』を試行錯誤して作って、また次が見えてきた感じですか?
ナカシマ
4枚目を作ったあとも“これからどうしよう?”って気持ちはあったんですけど、今作『theory』を作っているうちに、だんだん解消されていった感じはありました。またやりたいことが少しずつ出てきたのかな?
その悩みの甲斐あってというか、『theory』は振り切って攻めた感じに仕上がっていて。これまでの流れがあったからこそできた作品だという手応えはありますか?
峯岸
あります。機材も変わって確実に音が良くなってるし。
ナカシマ
4枚目に比べてアレンジによる奥行きも出たと思います。今作から井上うにさん、釆原史明さんと初めてのエンジニアの方々に参加していただいたので、音にも奥行きが出て今までと違うものになったと思います。
今作を作る前に何かイメージやビジョンはありました?
ナカシマ
作り始める時は毎回なくて、その時に考えていることがうっすらと反映されて曲ができていくんです。作っているうちにだんだんと作りたいものが分かってきて、それをテーマにして残りの枠を埋めて作っていくんです。でも、全体像としては世の中の理(ことわり)みたいなものに触れたいというのがひとつありました。マイナスなイメージで、逃れられないものというか。
運命とか?
ナカシマ
そうです、そういう類のものですね。昔から思っていたことではあって、僕の曲にはずっとそれが反映され続けていたんですけど、ちゃんとテーマとして書いたのは初めてですね。あと、どう作用したのか自分でも分からないんですが、コロナの影響はあったと思います。「透明造花」以外はコロナ禍になってから作った曲で、何となく作曲に対する考え方が4枚目の『flask』(2019年9月発表のミニアルバム)とは違うと思います。
それはどんな違いですか?
ナカシマ
アレンジに奥行きが出たのは、そういう変化の末だと思うんです。以前までは詰め込んで埋め尽くすところがあったんですけど、今作では渋みとか外しがあったり…はっきりとは分からないんですが、何か力が抜けたのかな?
余白を残すことで想像力が搔き立てられるような?
ナカシマ
そうですね。昔の曲を聴くと、ずっと気を張ってると思うんですよ。ドラマチックな展開が好きなので、AメロからBメロに行くたびに感動があって、サビに行ってもっと感動がある作り方をしていたんですけど、今回はあえてドラマチックじゃないようなものにも挑戦しています。
それもあって、曲のタイプがすごく広がりましたよね。
ナカシマ
そうですね。曲ごとに違う雰囲気が出たと思います。最初にできたのが「透明造花」、それから「架空船」ができて、そのあとに他の曲を同じぐらいのタイミングで作っていきました。「架空船」がこのアルバムではメインですね。
「架空船」はスケール感があって、今バンドにできることが込められているような。
ナカシマ
そうだと思います。ポエトリーリーディングとか、これまであえてやらなかったこともやっていて、自分たちの殻を破るきっかけになった曲ですね。
かと思えば、「亡き王女のための水域」みたいにスローで独特の感じが漂っていたり。
ナカシマ
あれは「架空船」のコントラストとして作った曲で。「架空船」は現実味というか、私的というか、個人目線でノンフィクションのイメージがあって。でも、「亡き王女のための水域」は自分でもない、どこなのか、いつの時代なのかも分からない感じにしたくて。そこからバッと「架空船」に入るところが美しい流れだと思ってます。歌詞の内容もなんとなくリンクして、キーも同じにしてあるので結構面白がれるんじゃないかなと。
後半のマーチングドラムもインパクトありますね。“このままどうなっていくんだろう?”ってドキドキしますよ。
原
あのテーマはサビにも使われているんですけど、独特な雰囲気があってすごくいいところだと思います。
高まりが生まれますね。ちなみに「亡き王女のための水域」とくると、モーリス・ラヴェル作曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ」ですよね。
ナカシマ
そうですね(笑)。僕はラヴェルが好きで、「亡き王女のためのパヴァーヌ」がクラシックで一番好きな曲なんです。僕の曲は死にまつわるものが多いんですけど、死こそ逃れられないものの最たるものだと思っていて。今までずっと死について書いていたのって、そういう意思があったからで、おいしくるメロンパンがうっすら礎としてきたことが、この曲でちゃんとメッセージとして出た感じがします。
確かに死にまつわるイメージって他の曲にもありますね。
ナカシマ
でも、自分ではダイレクトに言ってるつもりはないんですよね。例えば“死ぬのは嫌だ”とは言っていない。ちゃんとストーリーに置き換えることで、誰でも没入できる世界を作るというのが、僕が音楽でやりたいことだと思っているので。
言っていることはシンプルかもしれないですね。ひとつの感情をいろんな言い方で表現していて。
ナカシマ
そうですね。『hameln』くらいから核は変わってなくて、角度が変わった作り方になっています。