H-el-ical// 一年ぶりのライブで届け
た 「今ここにある小さな幸せ」を伝
える歌

2020.12.29(Tue)H-el-ical// acoustic LIVE 2020 「咲 -SHOW-」@KT Zepp Yokohama
年の瀬も押し迫った2020年、横浜の地でH-el-ical//がアコースティックライブ『H-el-ical// acoustic LIVE 2020 「咲 -SHOW-」が開催された。
KalafinaのHikaru//のソロユニットであるH-el-ical//は、4月5日に開催予定だった『H-el-ical// Acoustic LlVE 2020~elements~』が新型コロナウイルス感染症対策のため中止を選択。実に13ヶ月ぶりにファンの前で歌唱することになったHikaru//の姿を見るために、会場となったKT Zepp Yokohamaには多数のファンが来場していた。
会場内は勿論徹底した感染対策が行われており、客席も一席空けて着席するスタイル。やはりこのコロナ禍では客席も静かな空気が流れているが、久しぶりのHikaru//との邂逅に期待がふつふつと湧き上がっているような熱がある。
時間になり、静かに会場の照明が落とされる、バンドメンバーに続いて入場してきたHikaru//は白黒のジョーゼットを大胆に使用したドレスを着用。万雷の拍手を浴びた彼女の一曲目はライブタイトルにもなっている「咲 -SHOW-」だ。
久々の生歌は変わらず耳にしっかりと優しく、でも力強く届いてくる。この日の昼公演も拝見したが、この夜の部のほうがリラックスしていた気がする。「Let's enjoy the show!」そう叫んで久々のライブは幕を開けた。
撮影:アンザイミキ
「今日はお越しくださって本当にありがとうございます」とにこやかに挨拶をしたHikaru//、「視力が2.0あるので最後列まで見えていますからね」とあくまで観客と向き合う姿勢を表明し、「Avaricia」「地 - Side by side」へ。
今回のライブに向けて制作された3rd mini album 『Blooming』、そして4月に開催されるはずだったライブのために作られた2nd mini album『elements』と、メジャーデビューしてからシングル2曲をリリースしているH-el-ical//は、積極的に楽曲をリリースしているが、全楽曲をHikaru//が歌詞を担当しており、彼女が描く世界観が歌にも顕著に現れている気がする。
「Avaricia」ではすこし大人の雰囲気、「地 - Side by side」では包み込むような歌声で会場を満たす。ソロになってからのHikaru//の歌声を聞いて思うのは、とことん憑依型のシンガーなんだということだ。
撮影:アンザイミキ
楽曲のイメージで声色だけでなく、表情、雰囲気、印象まで全部が変わるHikaru//のステージングは決して派手ではないが女優的だ。きらめく照明の効果も合わせて、まるでミュージカルのワンシーンを見ているような気持ちになる。変わる世界のようなライブの背骨としてあるのは彼女の歌の地力なのだろう。安心して音楽に浸れるのは耳心地の良さと、その中にハッとさせてくるテクニックがあるからだ。
「タイトルが空なので、色々な空の景色を入れたくてずっと外で書いたんです、一日中カフェに居座ったり」とMCで語り歌ったのは「空 - Look ahead」。広々と広がるようなメロディから「Spiranthes」へ。五大元素をアルバム名に持つ『elements』、そして花の名前を冠した『Blooming』から披露される楽曲はまさに楽曲タイトル通りの印象を与えてくれる。作詞をしているHikaru//自身のこだわりもMCから感じることが出来るが、その思いの深さが言葉として、歌として届けられる。
日本人は音楽を詩先で聴くという、CDを購入したらまず聴くより前に歌詞カードを開いて歌詞を見る事が多い。勿論メロディの美しさやビートに込められた躍動を感じて楽しむことも多いが、僕たちはまずその曲にどんな思いが込められているのか、言葉として受け取りたいという思いがある。僕は音楽は国境を超えると真剣に思っているし、実際数々のフェスやライブハウス、クラブなどで言語を超えた共有を感じたことも多々ある。
だが、先日かのポップスの巨人、山下達郎がインタビューで以下のように語っていたのだ。
「もちろん普遍性やインターナショナリズムというものはありますけど、ポピュラーミュージックはキチッとしたコール&レスポンスが言語的に存在しないといけないと思ってきましたし、インストゥルメンタルだって例えばクラシックなら「この曲をどういう動機で作ったか」がわからないと、音楽の魅力が何%か薄れてしまう」
(出典:PHILEWEB 12/16「山下達郎 独占インタビュー。徹底的に音にこだわり選んだ、新しいライブのかたちとは」より一部抜粋)
この山下達郎の言葉を借りるなら、Hikaru//が紡ごうとしているH-el-ical//の音楽はまごうことなきポップスだ。これまで全ての作曲を担当しているグシミヤギヒデユキがイメージを切り出し、メロディに載せたHikaru//の言葉は様々な感情を内包している。このあと奏でられた冬の祈りをテーマとした美しいワルツ「Angraecum」、愛情を思い切り詰め込んだ「Kalanchoe」。言葉の一文字一文字にまで想いと願いを込めた歌は、照明効果も相まって景色や場所を変えて届けられる。
「今年は2枚のシングルを出させてもらったので、シングルの曲をやりたいと思います」
そう言って放たれたのはメジャーデビューシングル「Altern-ate-」はドラムスのMASUKEが奏でるアフリカの打楽器、ブーガラブーの土着的なリズムに乗って神秘的にスリリングに展開される。Kalafina時代に「Magia」などで見せた凄みのあるHikaru//が垣間見えるようだ、やわらかで人懐っこいポップさの裏にこういうナイフをしっかり隠し持っているのが、培ってきたキャリアを感じさせる。
撮影:アンザイミキ
転じて「シオン」ではシンプルなメロディで街中での情景が描かれる。今回のアコースティックライブで感じたこととして、タイアップ曲と比べてアルバムのオリジナル曲では、H-el-ical/はかなり日常のこと、そこで感じた日々を描いているということだ。
このコロナ禍は世界のあり方を一変させてしまった。当たり前だったものは遠い憧れになりつつあり、ただ友達と街で食事をして笑い合うのも難しくなっている。アニメやコミックの中にしかなかったディストピアが目の前に迫ってきたのだ。何よりもエンターテイメントの世界がその影響を喰らいすぎるくらい喰らっているのは現場を見て実感している。
だからアーティストは希望の唄を歌う。きっと夜は開けると配信や楽曲で訴え続けてきた。反するように都会の隙間で息を殺して泣いている人に寄り添うような楽曲も多数発表されていた。歌は文化であり、文化の変換点である今は時代を反映するような楽曲が多数生まれている。
しかしHikaru//は終始この日楽しそうだった。「いつか選択する時が来たとして、その時に自分の意志を持って選択することが大事だという曲なんです」本編ラストで歌われた「水 -Find your answer」の前のMCで言葉を選びながら彼女が語ったのはこの日唯一の今の現状に対するコメントだった。
「今日足を運んでくださることも大きな決断だったと思います、皆さんが決断してくれたからこそ目を合わせて音楽を届けられることが嬉しいです、Hikaru//はライブをやると選択して良かったとステージに立って実感しています」
撮影:アンザイミキ
その笑顔を見て、こんな状況下でも、目の前の幸せや喜びを忘れてはいけないと痛感した。世界中で悲しみに暮れている人がいる。でも、今ここにある小さな幸せを噛み締め、見つめ直したっていいのだ。アフターコロナの未来に思いを託すだけじゃない。どんな悲しみの中にも喜びは見出すことが出来る。Hikaru//が歌でそう”会話”してきた気がした。
鳴り止まないアンコールの拍手をうけ、Tシャツに着替えて「火-One step forward」を蠱惑的に披露。「本番でやるはずだったバンド紹介を忘れてた……」と言うと、マスク越しに笑いが起こる。
そしてKalafina時代からお得意の「グッズ紹介」もしっかりと披露。当時よりも更に砕けて友達に語りかけるような口調でグッズの魅力をしっかりと伝えてくれた。
あまりのフランクな会話に「最後の曲行きづらい……」と苦笑したのもご愛嬌。「声を出せないから、クラップする所一緒にやってくれたら嬉しいです」と最後の曲「紡 -TSUMUGU-」へ。
この日一番のストレートな感謝を込めた一曲を笑顔で歌うHikaru//。この日の彼女は歌うこと、歌えることの喜びを全身から溢れさせていた。Hiakru//の魅力はひどく達観した大人の目線と、子供のような無邪気さがマーブル状に混ざり合っている所だ。この「紡 -TSUMUGU-」という曲はその両面がしっかりと顔を見せるライブのラストを飾るのにもってこいの一曲。
撮影:アンザイミキ
「まだ独りでステージに立つことに慣れていない」というHikaru//はそれでも最後に客席全員と目を合わせながら「今日ここに来てくれた幸せを感じています」としっかりと伝えてくれた。
今ここで歌える喜びと、今ここでその歌を受け止める幸せ。上質なポップネスに包まれた空間は、変わる世界に感化されないここにある幸福を教えてくれた。きっとこんな状況下でも、日々は思ったよりカラフルで、それに気づけていないだけなのかもしれない。
「名残惜しいけど23時までには帰らないとならないから」と別れ際に語ったHikaru//。当日がEDテーマ曲を担当したアニメ『禍つヴァールハイト-ZUERST-』の最終回だったことを踏まえても、アニメオタクを自称する彼女らしさを爆発させ、笑顔でステージを去った。
奇しくも前回のライブから約一年。一年に一回の邂逅となったライブだが、きっと日々を笑って過ごしていれば気がつけば夜は明けるだろう。大変なこともあると思うが、君に会えるその日を胸に、満面の笑顔がくれたひかりを心に収めて、次に会う日を待ちたい。
撮影:アンザイミキ
レポート・文:加東岳史

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