サイダーガール、東名阪自主企画ツア
ー『ぼくらのサイダーウォーズ4』フ
ァイナルのライブレポートが到着

2020年11月28日の名古屋公演を皮切りに大阪、東京で開催してきたサイダーガールによる東名阪自主企画ツアー「ぼくらのサイダーウォーズ4」が2021年1月7日、ファイナルを迎えた。

『ぼくらのサイダーウォーズ4』ライブ写真  Photo by Tetsuya Yamakawa
2020年12月17日の新木場STUDIO COAST公演に続く東京2公演目となるこの日の会場はLINE CUBE SHIBUYA。感染対策を万全にしたうえで開催された本公演は、サイダーガールにとって初のホール公演となったわけだが、有観客のワンマン・ライブとしては1年ぶりとなる今回のツアーを締めくくるという意味で、これほどふさわしい舞台はなかっただろう。そして、ホールならではの演出も交えながら、現在進行形のバンドの姿を印象づけた、この日の熱演はまさに有終の美を飾るものとなったのだった。
客電が消え、開演を知らせるSEが流れると、秘密基地をイメージしたセットの中央に立てられたバンドの旗がはためき、バックドロップには大空の絵。そんなドラマチックなオープニングに誰もが心を躍らせたに違いない。
Yurin(Vo, Gt)がグランジィにかき鳴らしたギターに知(Gt)がフリーキーなリード・ギターを重ね、フジムラ(Ba)がベースを唸らせながら演奏になだれこんだ1曲目は、2020年1月にリリースした3rdアルバム『SODA POP FANCLUB 3』のトップを飾る「飛行船」だ。『SODA POP FANCLUB 3』をひっさげ、開催する予定だった全国ツアーがコロナ禍の影響で中止になったことを知っているファンなら、彼らがこの日、どんな思いでこの曲を1曲目に選んだのか思いを馳せたことだろう。爽やかなメロディと力強いオルタナ・ロック・サウンドに思わず胸の中で快哉を叫んだ。
『ぼくらのサイダーウォーズ4』ライブ写真  Photo by Tetsuya Yamakawa
「サイダーガールです!よろしくお願いします!」とYurinが声を上げる。そして、サポート・ドラマーを含むステージの4人が疾走感あふれる「エバーグリーン」、跳ねるリズムが心地いい「ばかやろう」をたたみかけ、見事、スタートダッシュをキメると、すでに立ち上がっていた観客は序盤からエネルギッシュなパフォーマンスを見せるメンバーたちに惜しみない拍手を返したのだった。
「初のホール公演です。必死に演奏していくのでよろしくお願いします!」
「長いようで、あっという間のライブになると思います。楽しんでいってくれたらうれしいです」
フジムラとYurinがそれぞれに意気込みを語ると、バンドはそこから2時間にわたって、アンコールを含む全21曲を披露していった。改めて振り返ってみると、『SODA POP FANCLUB 3』の曲を中心に新旧のレパートリーを織り交ぜたセットリストは、“変幻自在の炭酸系ロックバンド”というキャッチフレーズの“変幻自在”という言葉にふさわしい多彩な曲を作ることに挑んできたバンドの歩みを今一度印象づけるものだったと思う。
『ぼくらのサイダーウォーズ4』ライブ写真  Photo by Tetsuya Yamakawa
中でも、ユーモラスでどこか投げやりな調子があるにもかかわらず、演奏するたびパワーアップしていき、いつしか彼らのライブには欠かせない人気曲になっていた「なまけもの」、シティ・ポップに通じる魅力もある「メランコリー」――スタートダッシュをキメた直後につなげた2曲。そして、「思うように活動できない中、自分たちにできることを探してバンドを続けていくつもりなので、みんなもあきらめずについてきてくれたらうれしいです」とYurinがコロナ禍における新たな決意を語ってから演奏した「化物」と「フューリー」――レゲエの裏打ちのリズムを取り入れた前者、これまでにないハードな魅力を打ち出したファンク・ロックの後者などは、彼らのリズムに対する興味がどんどん広がってきたことを物語るという意味で、ライブの大きな見どころになっていたと思う。
また、バンド・サウンドと打ち込みのトラックを組み合わせた「ID」、シーケンスでそれぞれにホーンとピアノを鳴らした「クライベイビー」と「パレット」――終盤に披露した3曲からはコンテンポラリーなJ-POPに対する彼ららしいアプローチが感じられ、バンドの興味はここからまだまだ広がっていきそうだと期待させた。
『ぼくらのサイダーウォーズ4』ライブ写真  Photo by Tetsuya Yamakawa
彼らが常に新しいことに挑んでいることを物語るそういう曲の数々と、「落陽」「これから」「約束」といったアンセミックなギター・ロック・ナンバーを巧みに混ぜながら、この日、サイダーガールは現在進行形のバンドの姿をアピールしていった。昨年の自粛期間中に作って、5月に発表した「これから」はストレートな8ビートと疾走感あふれる曲調がまさに原点回帰を思わせるロック・ナンバーだが、「このタイミングで初心に戻れたという意味では、マイナスばかりではなく、バンドとしてはプラスもあった」とYurinはコメント。ライブはできなかったものの、それならとメンバーたちが新曲を作ることに励んでいたことを想像させた。
そして、中盤、ぐっとテンポを落として、じっくりと聴かせた「アンブレラ」ではバックドロップに満天の星を映し出し、一瞬、野外にいるんじゃないか⁉と錯覚させ、続く「雨と花束」ではそこに霧を発生させ、幻想的な光景を作り出すという曲のスケールにふさわしいホールならではの演出も飛び出した!
「どれだけ時間が空いたとしても、また元気に会おうぜという約束をしたい」
そんなフジムラの言葉から始まった本編最後のブロックを、ロック・ナンバーで駆け抜ける代わりにノンストップで鳴り続けるドラムのキックがクラブ・ミュージックを連想させたパーティー・チューン「週刊少年ゾンビ」で観客を踊らせながら締めくくったところにも新境地が感じられた。
『ぼくらのサイダーウォーズ4』ライブ写真  Photo by Tetsuya Yamakawa
そして、アンコールを求める観客の手拍子に応え、ステージに戻ってきたバンドは知がピアニカも演奏した「帰っておいでよ」と「NO.2」の2曲を披露。跳ねる8ビートに乗せて歌う《帰っておいでよ》というリフレインが、またライブで会おうという意味に聴こえたのは、筆者だけではなかったはず。そして、「また、みんなで大声で歌って踊って、遊べるようにと祈りながら最後にもう1曲!」とYurinが言ってから演奏した「NO.2」は、ライブの最後に演奏することが多いお馴染みのアンセムだ。この日、(新型コロナウイルス感染防止のため)声は出せなかったものの、観客はみんな、胸の中で一緒に歌っていたに違いない。新旧のさまざまなアプローチを織り交ぜながら、バンドの現在進行形のバンドの姿を印象づけた熱演の最後の最後にせつなさと清々しさが入り混じるメロディが描き出したのは、サイダーガールの原風景とも言える感慨だった。
そして、バンドはさっきフジムラが言った約束を果たすために6月18日の渋谷WWWX公演から全国各地を回る「CIDERGIRL ELEVEN DAYS KITCHEN TOUR 2021」を開催することを発表。新年早々のうれしい知らせに対して、熱演の余韻を味わっている客席から大きな拍手が起こったのだった。
文:山口智男

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