【対談】カザマタカフミ(3markets[
])×村上純(しずる) 自虐、卑屈
、後ろ向きの塊のようなカザマに芽生
えた変化とは?

日頃から親交の深いカザマタカフミ(3markets[ ])と村上純(しずる)の対談が実現! “音楽”“お笑い”――各々の世界で活躍しているふたりに語り合ってもらったのだが、3markets[ ]の明るい未来を予感できる内容となった。文才を世に知らしめた2冊のブログ本『売れないバンドマン』『それでも売れないバンドマン 本当にもうダメかもしれない』のタイトルにも表れている通り、カザマは“自虐”“卑屈”“後ろ向き”の塊のような人物だ。しかし、彼の中で大きな変化が生まれつつあることが途中で明らかになる……。

昨年の3markets[ ]は、5月に渋谷クラブクアトロでワンマンライブを行う予定だった。しかし、同公演も含めた様々なライブが次々中止。ひたすら虚無感に包まれながら過ごしていたのだという。そんな日々の中で完成した2ndフルアルバム『ニヒヒリズム』は、理不尽なことばかりが起こる現実を独自の視点から鮮やかに捉えた作品だ。全編で鳴り響くバンドサウンドの切れ味の良さにも、ぜひ注目していただきたい。1月8日には恵比寿リキッドルーム、5月27日には渋谷クラブクアトロでのワンマンライブも決定していて、今年こそ力強く突き進もうとしている3markets[ ]。彼らが大躍進を遂げる瞬間は、もう間近なのかもしれない。
――おふたりの出会いのきっかけは?
カザマ:SNSナンパですよ。俺らからかな?
村上:いや。俺からですよ。
カザマ:村上さんがツイートしてくれて、それでナンパ返ししたんです。
村上:俺、ブログの引用リツイートしたんだっけ?
カザマ:はい。ブログの引用リツイートでしたね。
村上:ブログ読んで面白くて、下にYouTubeが張っ付けてあったんです。それがまたかっこよくて。でも、“この人、めちゃくちゃ卑屈な人だな”って思いました(笑)。すごい共感というか、キュートな人だなと思って気になったんですよ。引用リツイートをしたら返してくれたので、僕からDMしました。“友だちになろう”と。
カザマ:そういうことは今までなかったので、すっごい嬉しかったですね。
村上:ほんとですか? その感じ全然出てなかった(笑)。“芸人さんと会っても面白い話できないですよ”みたいな感じだったから。ツイッターで出会って、すぐに飲みに行きましたよね?
カザマ:はい。ふたりっきりでしたっけ?
村上:そうです。窓側の席で向かい合って。
カザマ:すごい記憶力ですね(笑)。俺、あんまりお笑いとか観なくて、もともとは村上さんのことをほとんど知らなかったんですよ。でも、その後に劇場で観させてもらって、すごい衝撃だったんです。
村上:単独ライブを観に来てくれましたよね?
カザマ:はい。ほんとすごくて。“こんなに頭いい人いるんだ!”って思いました。
村上:最初に単独ライブを観に来てくれた時って、初めて会った時みたいに不安だったんでしょ? “面白くなかったらどうしよう?”って。
カザマ:そうそうそう(笑)。“面白くなかったら、どうやって挨拶しよう?”って思ってました。でも、すごく面白くて。
村上:よかった(笑)。そういうのをおべんちゃらで言うタイプの人じゃないから。その後も何回も劇場に来てくれましたよね。
カザマ:ルミネの劇場でウチらの曲を流してくれたのが、めっちゃ嬉しかったんですよ。しかも、音がめちゃくちゃ良くて。
村上:ルミネの音響って、ちゃんとしてるんだ?
カザマ:すごくちゃんとしてますよ。
村上:3markets[ ]の曲を勝手に使ったんですけど(笑)。事前に言ったっけ?
カザマ:言われてなかったです。
村上:でも、怒らないでいてくれるかなと思って、ちょっとサプライズ的に使わせていただきました。
――先ほどのお話だと、カザマさんは、もともとお笑いに詳しかったわけではないんですね?
カザマ:そうなんです。でも『爆笑オンエアバトル』は、結構観てましたけど。
村上:誰が好きでした?
カザマ:覚えてないんですよ。
村上:推しになるコンビとか大体いるわけじゃないですか。
カザマ:そういうのがなくて。
村上:みんなを並列で観てた?
カザマ:はい。“面白ければ観る”みたいな感じでした。
村上:『エンタの神様』とかは?
カザマ:観てなかったです。
村上:『爆笑レッドカーペット』は?
カザマ:『エンタの神様』と『爆笑レッドカーペット』は違う番組?
村上:……それくらいあんま観てなかったってことですね(笑)。
カザマ:そういうことです(笑)。
村上:いろいろお薦めしたら好きになると思いますけどね。
カザマ:そういえば……この前、渋谷のクラブクアトロでライブがあって、空き時間があったから近くのヨシモト∞ホールに、初めてひとりで観に行ったんです。あの劇場は芸人さんが呼び込みをやってるじゃないですか。そこを通ったら“おつかれさまです”って言われました。
村上:芸人だと思われた?
カザマ:おそらく芸人さんか関係者だと思われたんでしょうね。
村上:“ミュージシャンじゃないんだ、俺は……”って?
カザマ:はい(笑)。年齢もあって挨拶されたのかもしれないけど。
村上:芸人だと思われたことはショック?
カザマ:それはショックじゃないです。先輩と思われる方がショック(笑)。
村上:年齢公表してないよね?
カザマ:してないです。
――ヴィジュアル系では、よくあることですよ。
村上:3markets[ ]はヴィジュアル系!? こんなにすっぴんなのに!(笑)。素の自分でやってて、むしろ一番作ってないくらいのミュージシャンですよね。
カザマ:売れたら年齢を公表します(笑)。売れてないバンドがいつまでもやってるって、超イメージ悪いと思ってるから公表してないんですけど。
村上:イメージがいいとか悪いとか、カザマさんの場合、関係ないでしょ?
カザマ:まあ、最近は“関係ないかな”って思ってますけど。
村上:カザマさんは本を2冊出してますけど、『売れないバンドマン』なんてタイトル、若手じゃ成立させられないですからね。それなりに年齢行ってないと味も出ないし。3年目、4年目のバンドマンが“売れない”って言っても、“そんなやつ、めちゃくちゃいるよ”ってなるから。
“第7世代と旧世代”みたいなところにもし自分がいたら、死にたくなるなと思いました(笑)。(カザマ)
――おふたりは、音楽の話はするんですか?
カザマ:お互いにチャットモンチーが好きっていう話はしましたよね?
村上:そうですね。あと、ユニコーン奥田民生さんとか。カザマさん、B'zが好きですよね?
カザマ:はい。
村上:それが意外で面白い。聴く音楽とやりたい音楽って違うんでしょうね。
カザマ:そうですね。今はB'z聴いてないですけど……っていう言い方は失礼になっちゃうけど(笑)。
村上:“今、聴くタイミングじゃない”ってことでしょ? YO-KINGさんも、敢えてビートルズを聴かないようにしたとかあったらしいし。
カザマ:影響されちゃうから?
村上:そう。
カザマ:芸人さんも“影響されちゃうから観ない”みたいなのは、あるんですか?
村上:ないですね。“その人はその人”ってなるから。あと、観つつも“影響を受けないようにする”っていうのもあるのかも。若手のネタの雰囲気とか時代的なものを無意識に感じたりはしますけど。
カザマ:最近テレビで“第7世代”って言ってて、“iPhoneか?”って思ったんですけど。
村上:そういうのは知ってるんだね(笑)。
カザマ:“第7世代と旧世代”みたいなところにもし自分がいたら、死にたくなるなと思いました(笑)。
村上:若手のまぶしさを前にして?
カザマ:はい。“古い”って言われてる感じになると思うんですよ。
村上:若い子に対してコンプレックスがあり過ぎ(笑)。
カザマ:そこは、ちょっと直していきます(笑)。
村上:「下北沢のギターロック」も、そんな感じの曲だし。
カザマ:「人生詰んだ」でも《なあ 若者たちよ 軽々しく年齢を聞くなよ》って言ってます。
村上:それ、大きい声で“俺、おじさんです”って言ってるのと同じだから(笑)。
「下北沢のギターロック」
――(笑)経験を積みながら世に出ていくのって、お笑いの世界もバンドも共通するものがあるように思うんですが。
村上:どうなんですかね?
カザマ:吉本の劇場に観に行った時に、“3回1位になったらヨシモト∞ドームに出られる”っていうのをやってて、それはすごくバンドっぽいと思いました。最初、客がふたりだったんですけど、その後に4人くらい来て、ある芸人さんに投票したんですよ。最初は客がふたりだったわけだから、4人くらいが投票すれば絶対に1位になるじゃないですか。こういうノルマ戦争みたいなの、昔あったなって思いました。
村上:“これに勝つと、もう1個大きなライブに出られる”みたいなのが、バンドにもあるんですか?
カザマ:ありますね。でかいイベントに出られたりして。
村上:そういうところは似てるのかもしれないですね。でも、ミュージシャンの方が大変だと思います。バンドは数が多いですからね。
カザマ:そうなんですか?
村上:絶対にそうですよ。学生時代に音楽やってる人より、学生時代にお笑いをやってる人の方が少ない。そういう部活、あんまりないし。そうなると、プロを目指す人は自然と音楽の方が多くなると思うんです。
カザマ:でも、お笑いの方が夢がある気がしますけどね。イベントとかテレビ番組とか、いっぱいあるじゃないですか。バンドってそういうのがあんまりないですから。
村上:ミュージシャンって、夢を自分で作るようなところがあるのかも。それは例えば“武道館”に設定するのか、“Mステに出る”に設定するのか、いろいろだと思いますけど。人によっては“食べていけさえすれば、小さいライブハウスでやってく”っていう人もいるだろうし。選択肢を自分で選ばなきゃいけないところがありますよね。
カザマ:お笑いは“M-1で優勝する”とか、1本化されてるんですか?
村上:昔はそうだったんですけど、今はそうでもなくなってきてるところがありますね。でも、M-1とかいう目標があるのは大きいですよ。
カザマ:あれって年齢制限はあるんですか?
村上:芸歴制限です。
カザマ:そういうのがバンドであったら、とっくにやめてないといけない(笑)。
僕は他人の人生に対して夢を持ったことはないですけど、カザマさんには3markets[ ]として大型フェスに出てほしいですよ。(村上)
――3markets[ ]は2020年の頭くらいに、“大型フェスに出られなかったら今年解散する”みたいなことを言っていましたよね?
カザマ:言ってました(笑)。
村上:そういうフェスみたいなのは、M-1とかに似てるのかも。
カザマ:似てると思います。オーディションがあるフェスもありますから。
村上:僕は他人の人生に対して夢を持ったことはないですけど、カザマさんには3markets[ ]として大型フェスに出てほしいですよ。
カザマ:最近、俺やばくて。なんか……売れる気がする(小声)。
村上:ええーっ! そんなこと言うの、初めてじゃないですか(笑)。
カザマ:そう。今までさんざん“売れる気あるの?”とか言われて、“どうせ売れないだろう”って思ってたんです。でも最近、売れる気がするんですよ。この前、俺、LINEを村上さんに送る寸前でやめたんです。“俺、来年、売れる気がするんですけど”って。
村上:一緒に売れましょうよ。
カザマ:売れましょう! いや。“売れましょう!”っていうか、“売れる”って思ってる。だから、これは売れますね。俺、売れたら“変えてくれた人、村上さん”って言いますよ。
村上:まじですか!?
カザマ:あの日の夜は、それくらい衝撃的で。
村上:この前の新宿の夜? あそこでマインドが変わったんですか?
カザマ:そうなんです。これを言うと気持ち悪いんですけど、違う世界線に来た感があって。
「ホームパーティ」
――おふたりが参加した飲み会があったんですか?
村上:そうなんです。「レモン✕」とか「ホームパーティ」みたいな世界観の飲み会だったんですよ。ただ、「レモン✕」とか「ホームパーティ」みたいな飲み会はわかりやすく言うと“陽キャラの人たちが集まってるところにカザマさんがいて、なじめない”みたいなことだと思うんです。
――そうですね。
村上:でも、この前のはみんなの間で円滑に話が進んで、気が合ったんです。2軒目の店にPlay.Gooseのわっしゅうさん(ワタナベシュウヘイ)が連れて行ってくれて、周りから見たら陽キャのメンバーですよ。でも、みんなちゃんと暗い心を持ってる感じがしませんでした?
カザマ:そうですね。“みんな大変そうだな”って思いました。
村上:そういう人たちが集まって、肩ひじ張らずに過ごせたんですよね。カザマさんは、そういう場が苦手なのかもしれないのに、無理してない気がしたんです。
カザマ:全然無理じゃなかったです。あの日、帰ってから彼女に“今日すげえ行ってよかった。楽しかった”って言ったらしいんですよ。
村上:そういうの、あんまないんですか?
カザマ:“今まで一度も言われたことない”って言ってました。言ったの覚えてないんですけど。
村上:じゃあ、2021年は売れるんですね?
カザマ:売れますね。その飲み会の前の月が精神的にどん底で。“いつ死のう?”みたいな感じだったんですけど(笑)。その時、“死にたいけど、とりあえず自分のやりたいことを書きだそう……”と思って、“歌が上手くなりたい”とか書いてたんです。その後に飲み会があって、歌が上手いわっしゅうさんを紹介されたから、“歌のことを訊くしかない”って思って。そこでなんか、全部が上手くいくような感じになったんです。
――意識が変わるなんらかのきっかけがあったんでしょうね。
村上:そうみたいですね。僕たちが作ってる動画で音楽が必要で、カザマさんにお願いしてたんですけど、それは鍵盤の弾き語りなんです。わっしゅうさんに聴かせたら、“バンドもめっちゃかっこいいけど、『売れる』という点ではこっちの方が売れると思う”って言ってました。カザマさんは“歌が下手”ってよく言うけど、わっしゅうさんからすると“下手じゃない”って。僕も下手だと思ったことないですし。そういうのも、カザマさんがどう捉えていくかですよね。
カザマ:あの時、すごく褒めてもらったんですよ。あんなに褒めてもらえること、あんまないから。
村上:わっしゅうさん、カザマさん、僕のトライアングルが多分上手く循環してるんですよね。僕はわっしゅうさんもカザマさんもすごく尊敬していて、ふたりとも僕と仲良くしてくれてるから、この3人の間で話が円滑に進むんです。偉そうにちょっと時代的なことを言うと……今って友だちと仕事したり、価値観を共有した方が、人生得するのかなと。意外とその先に仕事がある気がします。だから今日、カザマさんが“変わった”とか“売れる”とか言ってくれてるのが、めっちゃ嬉しいです。
カザマ:こうなると離れてく人もいるという感覚もあって。でも、それはしょうがないと思ってて。なんか精神的に今……なんて言えばいいんだろう? ほんとにちょっと充足し過ぎてて、みなさんに“ありがとうございます”って感じで、やばくて。人への感謝が溢れ過ぎてるんですよね。
村上:今まで“卑屈”“悲しみ”に対して“感謝”が勝ったことはあったんですか?
カザマ:今まで、人生が楽しいって思ったことがなかったんです。それは音楽も含めて。だから“こんなに転換するんだ?”ってなってます。
村上:もともとライブは楽しかったでしょ?
カザマ:全然です。“普通”な感じのことが多かったです。俺、過去にあったことをあんまクヨクヨしなくて。過去はもうないことだから。
村上:なるほどね。
カザマ:だから今までは未来が不安で、それに関してクヨクヨすることしかなかったんです。そういうのが転換したというか。“未来は何が起こるかわからないから、今できることを精一杯やろう”“やりたいことだけやろう”“やらなきゃいけないけどやりたくないことは、やらない”と思うようになりました。自分の中で3つ決めたんですよ。“めんどくさいけどやりたいことはやる”って。あとは……なんだっけ? 忘れちゃった(笑)。
村上:やりたいことって、今までなかったんですか?
カザマ:わかんなくなってました。何がやりたいのかが。
村上:それも面白いですよね。ミュージシャンって音楽をやりたいからやってるって思ってたけど、音楽がやりたくてミュージシャンをやってなかったってこと?
カザマ:そうなんです。“しなければならない”っていう感じだったんですよ。他人に動かされてる感もあって。
村上:サラリーマンみたいな感覚?
カザマ:ほんとそうでしたね。
村上:そう思ってたのは知らなかったけど、カザマさんから漂ってくる異物感みたいなのが、ずっと面白かったんですよね。普通のミュージシャンと比べて“様子がおかしい”というか。なんかそういう感じになってる理由が、ちょっとわかりました。
カザマ:だから、これからは普通の人間になるかもしれないですよ。
村上:“普通”っていう感覚を知っただけで、この人は絶対に普通の人間になんないと思う(笑)。そこは大丈夫でしょうね。この年までこうだった人間が普通の感覚を持っても、普通に生きることなんて絶対にないんで。
カザマ:もし1年経った後も自分が同じことを言ってたら、ずっとつらい人たちのために仕事をしようと思ってます。
村上:まあとにかく、これからは“売れる”“やりたいことをやる”っていうことですね。整理がついたってこと?
カザマ:そうですね。
村上:今年は、いろいろ考える時間もあったんじゃないですか?
カザマ:ありましたね。今年はライブが中止になったりしましたけど、それがなかったらここまで考えなかったかもしれない。コロナを言い訳にするようなやつは、何でも言い訳にすると思いましたし。
村上:そんなこと、今までのカザマさんだったら言わなかったでしょ?
カザマ:でも、他人のせいにはしないタイプでしたよ。
村上:根本は、そういう強さがあるんですよね。そういえば……この前の新宿の1個前の飲み会の時、“やめる”って言ってたけど。だからめちゃくちゃみんなで止めて。
カザマ:そうでしたね。
最強に自己分析してますよ。だから多分……売れる。今回のアルバムはへこんでる時に作ってるから、売れない可能性がありますが(笑)。(カザマ)
――最新アルバム『ニヒヒリズム』は、“やめる”とか言ってる精神状態の中で生まれた作品ということになりますね。
カザマ:そうですね。“売れる曲書け”ってメンバーに言われたのがすごいショックで(笑)。それで作った曲がいくつかあるんですけど。
村上:そういうのがこうしてCDになったのって、めちゃくちゃ意味があると思いますよ。“売れる曲書け”とか、やったことないのに否定しちゃうと、いろんなことが机上の空論になっちゃうから。
カザマ:ほんとそうですね。ウチのベースは、このアルバムの「言えなき子」を推してました。俺、今住んでるアパートが彼女の名義なんですよ。だからもし喧嘩して、“出てけ!”って言われたらどこにも居場所がないなと。そういうのをちゃんと描こうと思った曲です。
村上:カザマさんは照れ屋で正直な人ですけど、それって相反する性質なんですよね。しかも、めちゃくちゃロマンチック。“照れ”が“ロマンチック”に繋がってて、正直なところを人に伝えたいけど照れるから、“正直”が“ロマンチック”に変わるんですよ。それによって“色気”も生まれてると思います。だからモテるんですよ。
カザマ:実は最近、めちゃくちゃモテるんです。
村上:ほら!(笑)。
カザマ:“バンドマンと付き合いたいならDMをすればいい”って、ブログ書いたせいなんですけど、多分。だからDMに連絡が来るんです。
村上:モテたいっていう気持ちは大事ですよ。まあ、彼女がいるわけだから、言い方はあれですけど、女性に思ってもらえるっていうのは、お客さんに何かを届ける上で大事な要素のひとつでしょうからね。カザマさんがその武器を持ち始めたということですね。
カザマ:最近、“ありがたいなあ”しかない。つまんない人間になりそうで怖いですけど。
村上:大丈夫。つまんなくなんないから。感謝ばっかりしてる自分が、つまんなくなっちゃいそうで怖いっていうこと?
カザマ:そうですね。変わろうとしてることへの抗いもあるというか(笑)。
村上:カザマさん、変わったのは確かですよ。
カザマ:アルバムを作ってる時は“死にたい”しかなかったんですけどね。
村上:やっぱ照れ屋だから、卑屈なオブラートで包むところがあるってことだと思う。カザマさんの芸人っぽさは、そこなんです。自分を下にするっていうのは芸人がすることで、カザマさんもそうなんですよ。相手に期待させたくなかったり、相手が思ってるような自分じゃなかったらショックだから、自分を下にするんでしょ?
カザマ:そうですね。それです。あんま良くないことですよね?
村上:でも、変わってきたでしょ?
カザマ:はい。
村上:“嫌われてもいいや。好きなことができれば”っていうぐらいになってきた?
カザマ:例えば「レモン✕」は、《嫌われるのがとても怖い》っていう感覚の改善策を出してない曲なんですよ。そのままであるというのはアイディアとしては面白くて共感はするけど、“じゃあどうするの?”っていうところをこれからもうちょっと描けたらいいなあって思ってます。
村上:すごい! それで失敗してもいい?
カザマ:全然いいです。
村上:失敗したとしても、それは滑稽な話になるじゃないですか。
カザマ:そうですね。“なんにせよ経験した”ってことになりますから。
村上:「レモン✕」は、閉じこもってるだけですもんね?
カザマ:そうなんです。3markets[ ]は、そういう曲が多くて。
村上:つまり“閉じこもってるなりに対策練れよ”ってなってきたってこと?
カザマ:はい。多分、俺が売れないのはそういうところが原因だったのかなと。
村上:自己分析まで始めた!
カザマ:最強に自己分析してますよ。だから多分……売れる。今回のアルバムはへこんでる時に作ってるから、売れない可能性がありますが(笑)。
村上:そんなこと言っちゃダメ(笑)。このアルバムのプロモーションなんだから。でも、その落差も面白いですね。今のメンタルで、真逆のメンタルの時のアルバムのプロモーションをしてるっていうのも。
カザマ:そうですね(笑)。それはそれで面白いです。
村上:今、めちゃくちゃいいじゃないですか。
カザマ:人生楽しいです。
村上:カザマさん、出会った時と全然違うなあ。
カザマ:それはいい意味で?
村上:めちゃくちゃいい意味です。悪い意味だったら今インタビュー中だけど、友だちやめてますよ。
カザマ:この場で“今日でもう会うことないです!”って?
村上:うん(笑)。
カザマ:でもほんと、“人にいい影響を与えたいなあ”って最近思います。仕事とかでも“またこの人と仕事したい”って思ってもらえる人間になりたいです。それは作品や内容に関してもですけど。
――僕は何度もお仕事をさせていただいていますけど、今までも“またこの人と仕事したい”って思っていましたよ。
カザマ:ほんとですか?
僕にとってカザマさんはミュージシャンで一番大事だと思ってる人で、この人にいい言葉を届けたいし、いい会話をしたい。(村上)
――今までのインタビューの際もひたすら卑屈でしたけど、嫌な気持ちになったことは一度もないですからね。むしろ人としての面白さと深みを感じていました。カザマさんの卑屈は、他人を嫌な気持ちにさせない卑屈です。
村上:もともと“そんなうじうじ言うなよ”じゃ終わらない人ですからね。笑えるし、つっこめるんですよ。
カザマ:卑屈なままでいると嫌だから、笑いにしないといけないっていうのは、ずっとありますね。
村上:カザマさんは自分を俯瞰で見ていて、めちゃくちゃ客観視してるんですよね。それって表現者として必要な才能のひとつだと思います。だから、カザマさんにはもっともっといい曲を書いてほしいですね。もっともっといい歌声を聴かせてほしいですし、もっともっと売れてほしい。カザマさんが東京ドームのステージに立ったら大号泣だと思います。
カザマ:いやあ、楽しみですねえ。
村上:“東京ドームなんて無理です”って、普通は言うんですけど(笑)。武道館には立ちたいですか?
カザマ:立ちたいか立ちたくないかで言ったら、絶対に立ちたいです。
村上:二択にする必要ないのに(笑)。相手の幸せが自分の幸せになるので、それは自分の幸せのために生きてるっていう意味にもなるんですよ。だから、大きいステージに立ちたいって言ってるカザマさんが実際に立って幸せを感じたら、僕も幸せです。
カザマ:すごい。ほんとにそれが人としての真理だと思います。最近それに気づきました。今までは“自分 自分”しかなくて。俺、どういうのが嫌いな人で、どういうのが好きな人なのかを書き出したことがあるんです。それで気づいたんですけど、嫌いな人のタイプって自分。だから、“こういうところが嫌だったら変えればいい”っていうことも思いました。
村上:同族嫌悪だから“こっちになっちゃだめだ”って思ってたんだ?
カザマ:そうです。“俺、こっちにいたんだ……”って。だから自分のことが嫌いなんですよね。最近、いろいろ気づいて、たくさんのことが全部繋がりました。
村上:“自分を見てほしい”ってすごく思うのは“自分が好き”っていうことかと思いきや、それって自分のことしか考えてないということだから、一番自分が嫌いなタイプだったっていうこと?
カザマ:そうなんです。それに気づきました。
――こんなこと言うカザマさん、初めてですよ。
カザマ:今日だけの可能性もあります。
村上:そこもカザマさんの良さですよね(笑)。
カザマ:でも、俺、売れますよ。
村上:俺、今泣きそうです。この人の口から“俺、売れますよ”という言葉を聞くとは(笑)。“俺、売れますよ。売れるんじゃないですか?”っていう気持ちだけ持ってたら、こういう気持ちになる前の曲を歌っても、届いてくるものが全然変わるかも。例えば「レモン✕」や「ホームパーティ」とかも、めちゃくちゃ深みが出るでしょうね。
カザマ:楽しみですねえ。
村上:「ホームパーティ」は《アイラブユーもアイウォンチューもアイニージューも正しい/こんなに正しい歌をどうして 歌えないんだ》っていう歌詞ですけど、《アイラブユーもアイウォンチューもアイニージューも》っていうところに一番感情がこもってるように聴こえるんです。あれは“歌えない”のに実際は“歌ってる”っていうめちゃくちゃすごい作品。今まではそれをある意味“コント”で歌ってたのが、“本当のこと”として歌い始めることになるだろうから、意味も変わってくると思います。これは……売れますね。
カザマ:売れますね。
村上:……っていうオチのない話を僕は続けたい(笑)。“やっぱり売れるのやめました。売れません”っていうオチになっちゃうと、生きた会話じゃないかなあ。今のカザマさんの丸裸の言葉での“売れます”っていうのは、まじで今日来てよかったと思いました。
カザマ:よかった。目標達成ですね。
村上:今日、そういう目標があったんだ?
カザマ:はい(笑)。
――卑屈なカザマさんを想定して取材の準備をしていたんですけど、僕も嬉しい肩透かしを喰らっています。前は1褒めると2否定して返してくる人でしたからね。
村上:僕はその喧嘩をずっとしてましたよ。“どんなに否定しようが、めちゃくちゃいい!”ってことは言い続けてきましたから。
カザマ:今までは言われると“ありがとうございます”とは思いつつも申し訳ない気持ちになってて。“そんな実力が自分にはないのに、この人に気を使わせてしまった”ってなってたので。
村上:“そんなに卑屈になるほどこっちは褒めてないけどね”っていうのもあったんですけど(笑)。“世界一”とまでは言ってないから。
カザマ:なるほど。たしかに。
村上:でも、信じてましたよ。文才もすごいですからね。本も2冊出してますし。
――1冊目が好評だったから2冊目も出せたわけですよ。
カザマ:それは僕の力じゃないんで。僕の力でもあるんですけど。
――今までだったら“それは僕の力じゃないんで”だけで終わっていたはず。“僕の力でもあるんですけど”って言わなかったでしょうね。
カザマ:ちょっと嫌なやつになった気がする(笑)。
――そんなことはないです(笑)。
カザマ:この前、『統合失調症のひろば』という雑誌から依頼が来て文章を書いたんです。それを見た彼女が“天才だね”と。めちゃくちゃ嬉しくて。いつも僕が書いたものを読んでも何も言わないんですけど。
村上:やっぱり、カザマさんの中で何かが変わったんでしょうね。書き方とか表現の仕方とかも。
カザマ:そうなんだと思います。
村上:彼女に“天才だね”って言われたら有頂天でしょ?
カザマ:そんなことあります?
村上:ないですよ。俺も言ってもらいたい(笑)。でも、奥さんが“今のは面白いね”って言ってくれたり、“これ、ほんとに笑ってる”って感じる時があるんです。それって最上の喜びではあります。“一番近くの大事なひとりに、いいものを届ける”っていう意識が自分にとっては大事だなと、僕はこの1年間で気づいたんです。僕にとってカザマさんはミュージシャンで一番大事だと思ってる人で、この人にいい言葉を届けたいし、いい会話をしたい。そして、この世で一番好きな異性である奥さん、一番好きな年下の男の子である息子に向かって行きたいんですよね。だから“天才だね”って彼女に言われた嬉しさって、すごくいいなあって思います。
カザマ:もう全うしたかなと。人生は。
村上:1個、人生詰みましたね?
カザマ:はい。今、もう第2の人生です。新しい俺になりました(笑)。
村上:“新しい”って言葉がカザマさんから出てきた!(笑)。
カザマ:“きれいなカザマ”です。
――『ドラえもん』の「きこりの泉」に落ちたジャイアンみたいな?
カザマ:はい(笑)。
村上:でも、そういう全部がカザマさんですからね。
カザマ:そうですね。今までの点が全部繋がって線になったっていう感覚です。
「社会のゴミカザマタカフミ」
――“きれいなカザマさん”としての作品も既に作りたくなっているんじゃないですか?
カザマ:ほんとそうですね。それがバンドなのかはわからないですけど。
村上:ふたつやればいいじゃないですか。もうひとつでは鍵盤でやりましょうよ。
カザマ:そうですね。今、友だちに鍵盤をお願いしてます。
村上:鍵盤でやるのはカザマタカフミで、「社会のゴミカザマタカフミ」みたいなことは3markets[ ]でやればいいんじゃないですか?
カザマ:いいですね。きれいなカザマタカフミと3markets[ ]というふたつで(笑)。
村上:鍵盤の方は今のカザマさんで、3markets[ ]では“今までの自分に感謝”っていう意味も込めて、クズなやつ、卑屈なやつをコントとしてやるんですよ。
カザマ:それ、面白そうですね。
村上:きれいなカザマタカフミは、どういう文字表記にします?
カザマ:“きれい”がカタカナで“な”が平仮名ですかね?
村上:キレイなカザマタカフミは3markets[ ]のカザマタカフミに“お前こっち来いよ。他人に感謝しろよ”って言って、3markets[ ]のカザマタカフミは、“キレイなカザマタカフミは、キレイなことを言い過ぎだ”ってディスればいいんですよ。昔のカザマは誰かをディスってないと生きていけないから、その対象を自分に設定するんです。
カザマ:それ、めっちゃワクワクしますね。
村上:つまり、神様とピッコロ大魔王に分離したピッコロですよ。“社会のゴミ”と“社会の神”。そして、人生の最後で、ふたつが同化したら最強になるんです。
カザマ:これは素晴らしい(笑)。傍から見て嘘くさくならないといいですけど。まあ、なんとなるか。
村上:“なんとかなるか”っていう言葉も、今までだったらなかったはず(笑)。
――この対談、今までのカザマさんを知っているファンが驚くでしょうね。
村上:“これ、小説? フィクション?”ってなるかも(笑)。“これはノンフィクションです”って書いておいた方がいいかもしれないですね。
――予想外の展開となった対談ですが、最後にお互いに何か言いたいことはあります?
村上:2021年は一緒に売れましょうか?
カザマ:はい。売れましょう!
村上:まずは「アイラブユー」っていう曲をキレイなカザマタカフミで作ってください。発表する、しないは別として。
カザマ:作ってみます(笑)。

取材・文=田中大 撮影=猪瀬紀子

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