L→R 橋本 薫(Vo&Gu)、稲葉航大(Ba)、熊谷太起(Gu)

L→R 橋本 薫(Vo&Gu)、稲葉航大(Ba)、熊谷太起(Gu)

【Helsinki Lambda Club
インタビュー】
“このバンドなら大丈夫だな”という
気持ちは以前よりも強くなった

自分の中に核となる部分があれば、
ちゃんと自分らしさが出る

インストの「Mind The Gap」は過去と未来をつなぐ曲として熊谷さんが制作されたそうですが、民族音楽っぽかったり、謎のトラックがたくさん入っている不思議な感じがアルバムにメリハリを生み出している印象です。

この曲は完璧だと思います(笑)。これがあるとないとではアルバムとして全然印象が違うんじゃないかと思いますね。今回のアルバムの全体に漂うテーマとして“必然と偶然”という概念があるのですが、この曲が生まれたことも必然だなと強く感じています。

「午時葵」は死生観を題材にした複雑さがありますが、シリアスすぎず切実に描かれていますね。曲順的には未来盤の1曲目にあたりますが、近未来的な位置というか、“いつかこの題材で書こう”と思っていたことを今作でかたちにした感覚なのでしょうか?

ずっと温めていたアイディアというわけではないですけど、一番近いヘルシンキの未来を考えた時に80’sのスタジアムロック的なアプローチをしていそうだと思ったんですよね。たぶん今までのヘルシンキならそれをもっとギャグっぽくやっていたんですけど、あえてめちゃくちゃシリアスな歌詞に合わせることで光と闇が際立つというか。より多幸感のある仕上がりにするという方向性が、現在から近い未来のヘルシンキのやり方になっていると思います。

橋本さんは今作のコンセプトが思いついたきっかけを“未来が見えたから”と公言していますが、「IKEA」を聴いた時に図らずも“未来が見えてしまったのかな?”と感じました。この曲にはSNSを楽しんでいる人の裏で不満が蓄積されていき、絶望の手前にいるような危機感があって、未来というより、すでにその状態に足を踏み入れているのかなと。

確かに未来盤で言うと「IKEA」までが“想像した”というよりも“見えた”という感覚に近い曲ですね。まさにこの歌の中で描かれている世界に、すでに足を踏み入れている状態です。何度もバンドで練り直していた曲なので完成したのは比較的あとのほうでしたが、デモを作った段階としてはアプローチの仕方も含め、未来盤の核となる曲だと思っていました。

サウンドのカオスな感じには“これが未来のヘルシンキなのか!?”という新鮮味もありました。後半はヘイトっぽく、ラップにも挑戦されていますがどのように作ったんですか?

ラップ部分の歌詞は、自粛要請が明けたタイミングで銀座を歩いていた時にほぼ一気に書き上げました。ネットの中に広がるリアルと、ほぼゴーストタウンと化した街の様子のコントラストがすごくて、SFの世界にいるような気持ちになっていろいろと想像が膨らんでいって…買い物するつもりだったんですけどずっとグルグル通りを歩き回ってラップを口ずさんでいました(笑)。

稲葉さんが初めて作詞作曲した「Sabai」は、《どうせ死ぬなら楽しもう》と「午時葵」とは真逆のことを歌っている部分に救いがあると思いました。これを橋本さんではなく、稲葉さんが歌うことでの受け入れやすさもありますし、未来盤の中で心強い薬のような役割になっていますが、稲葉さんには何か伝えてましたか?

制作時においては何も伝えてないですね。とにかく“未来では僕がバンドにいないので稲葉が曲を作ってくれ”としか(笑)。曲のデモが送られてきた時は一瞬驚いたんですけど、バランサーとしての稲葉の性格を考えるとすぐに腑に落ちました。稲葉自身はブラックミュージックとかが好きなので、もっとベースをフィーチャーした渋い曲を持ってくるかと思っていたんですけど、完全に彼の思うバンド像に寄せてきましたね(笑)。そういった分析で受け取ったので、歌詞も最初は「ロックンロール・プランクスター」(2018年12月発表のアルバム『Tourist』収録曲)的な世界観を稲葉なりに頑張って自分で書いてきてくれたんだくらいにとらえてました。でも、後日一緒に飲んでる時に「Sabai」の話になって、作った経緯などを聞いたら一気にとらえ方が変わって。僕にとってもすごく大事な曲になりましたね。その内容については僕から語る話でもないので、いつかどこかのタイミングで稲葉から話すことがあれば明かされるかもしれないですけど。

「眠ったふりして」はヘルシンキの前身バンド時代からあった「人のソックスを笑うな」のリアレンジで、ふたりの気持ちを曖昧にするやさしさと、そのやさしさからは何も生まれない退屈、最後に物語が動きかける描写がロマンチックでした。

タイキが加入してから何度か「人のソックスを笑うな」をやろうという話をされたことがあったんです。僕自身もすごく気に入っている曲だったからやりたいとは思っていたんですけど、なかなかヘルシンキでやる意義というか、確実により良くする方法が見出せなくて結局放置していました。その間に制作におけるメンバーへの信頼はどんどん増していきましたし、僕の中でタイキのアレンジの特性みたいなものが見えてきたので、未来盤というコンセプトの中で制作をするにあたって、バンドのアニバーサリー的な立ち位置の曲を入れたいと思った時に“この曲だな”とすんなり思えました。

「Happy Blue Monday」は「引っ越し」にも似た、どこか開放的な印象がありました。

サウンドは全然違うけど、確かに開放的という点では「引っ越し」とかなり近いフィーリングがある曲だと思います。これもやはりあらゆるマイノリティーに寄り添った曲だと思うので。この曲はシンセもギターフレーズもベースラインも基本的に全部僕が作ったんですけど、意外とできちゃったなというのが正直なところです(笑)。「引っ越し」に通ずるところがあるという部分にも関係するんですけど、自分の中で表現における核の部分があれば、どれだけ音のアウトプットのかたちが違ったとしても、ちゃんと自分らしさやバンドらしさというのは出るんだと改めて思いました。なので、今後何をやっても大丈夫だという自信にもつながった曲です。

「you are my gravity」は位置づけ的にも未来の曲で、打ち込みや声にエフェクトをかけていたりとヘルシンキの未来感はあるのですが、同時に“現在”でもあるような気がしました。無機質な中に希望があるというか、未来に向かっていくための今の曲という印象です。

一番果ての未来の曲ではあるんですけど、歴史は繰り返すというか、“結局のところ巡り巡って今と同じような時代かもしれない”という発想があるからですかね。今とも言えるし、懐かしい感じもするし、一番アルバムを包括的に象徴している曲だと思います。この曲の断片が2年近く前にできたことで未来盤というアイディアができたんですよね。すごく荒廃した未来の風景が浮かんで、メンバーの姿は見えないんですけどバンドとして曲を作り続けていて。その様子がこのバンドの可能性というポジティブな面にも見えたし、世の中がヤバくなってもなお音楽は続くという希望にも見えました。だから、無機質だし、一見絶望的にも見えるんだけど、探せばどこかに希望があるようなイメージで作ってます。

今作のタイトル“Eleven plus two / Twelve plus one”がアナグラムになっていることや、Cristina Dauraさんが手がけたジャケットを見て、冒頭で“素直なヘルシンキが感じられた”とお伝えしつつも、その奥にどんな想いがあるのかと想像が掻き立てられる作品でした。自分から見た自分と、他の人から見た自分を考えた上での13曲だと思いますが、最後に今作の制作を経ての心境をお聞かせください。

いつもは作品を作り終えてリリースするまでの間に次の作品のことをがっつり考え始めているんですけど、今回はまだいつもほど次のことを考えられていないですね。良く言えば、今までにない充足感があります。それはこの作品の裏のテーマでもあった“必然と偶然”という概念を、制作を通して強く感じたことも大きいと思います。だから、次の作品を作るにあたって前作を超えられるかという不安もなくはないんですけど、なるようになるというか、“このバンドなら大丈夫だな”という気持ちは以前よりも強くなった気がします。

取材:千々和香苗

アルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』2020年11月25日発売 Hamsterdam Records/UK.PROJECT
    • HAMZ-008
    • ¥3,300(税込)

『「Eleven plus two / Twelve plus one」release tour "MIND THE GAP!!"』

[2021年]
1/30(土) 大阪・梅田Shangri-La
1/31(日) 愛知・名古屋APOLLO BASE
2/15(月) 東京・恵比寿LIQUIDROOM

Helsinki Lambda Club プロフィール

ヘルシンキラムダクラブ:2013年に西千葉で結成された、“PAVEMENTだとB面の曲が好き”と豪語する橋本を中心としたニューオルタナティブロックバンド。ポップなのにどこかひねくれたメロディーと、ひねくれているようでわりと純粋な心情を綴った歌詞を特徴とする。19年5月に念願の海外公演を香港で行ない、8月には北京・上海にてツアーを開催。20年11月にリリースした2ndアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』を掲げて、同年12月より『「Eleven plus two / Twelve plus one」release tour "MIND THE GAP!!”』を開催中。Helsinki Lambda Club オフィシャルHP

「午時葵」リリックビデオ

「Good News Is Bad News」MV

「ミツビシ・マキアート」MV

「 眠ったふりして」MV

「Happy Blue Monday」MV

OKMusic編集部

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