役者・稲垣吾郎が人間・ベートーヴェ
ンの生き様を魅せる『No.9−不滅の旋
律−』ゲネプロレポート

ベートーヴェン生誕250周年。その記念すべき年に東京・TBS赤坂ACTシアターにて、稲垣吾郎が天才音楽家ベートーヴェン役に全身全霊で臨む舞台『No.9−不滅の旋律−』の幕が開く。本作では演出を白井晃、脚本を中島かずき(劇団☆新感線)、音楽監督を三宅純という豪華クリエイター陣が担う。2015年の初演で好評を博し、2018年に再演、そして今回の再々演に至る。上演を重ねるたびに円熟味を増していく稲垣の演技、より研ぎ澄まされていく白井の演出に注目したい。以下、2020年12月13日(日)の初日前夜に行われたゲネプロと会見の模様をレポートする。
1800年、音楽の都ウィーン。30歳のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、20代後半から悩まされていた難聴が次第に悪化し、心荒む日々を送っていた。今もなお”楽聖”と称され後世に多大なる影響を及ぼした天才音楽家が、いかにして名曲を生み出していったのか・・・・・・。本公演で三度目のベートーヴェン役となる稲垣吾郎が、人間・ベートーヴェンの生き様を舞台上で鮮やかに体現した。
『No.9−不滅の旋律−』
幼少期に父から虐待に近い形で音楽教育を受け、早くに母を亡くし、幼い二人の弟を守りながら生きてきたベートーヴェン。やっと作曲家として名が知られ始めた矢先に、難聴の兆候が出てきてしまう。感情の起伏が激しく、傲慢で自信家で、人としては決して素晴らしいとは言えない男。稲垣の一挙手一投足からは、そうしたベートーヴェンの人柄がよくにじみ出ている。狂気と才能を持ち合わせた”楽聖”を演じる稲垣の鋭い目には、常に音楽に対する情熱がほとばしっていた。
ベートーヴェンがたとえどんなに傍若無人だろうとも、彼の持つ音楽の才能の前に人は屈服してしまう。その最たる人物が、メイドとしてベートーヴェンの家に住み込み、ゆくゆくは彼の音楽活動を手助けする重要な役割を果たす女性、マリア・シュタイン(剛力彩芽)だ。初対面のときから決してベートーヴェンに対して好意的ではなかった彼女だが、物語が進むにつれて彼の才能に魅入られていく過程が丁寧に描かれている。マリア役の剛力は、芯の強さと優しさを持った女性が成長する様を活き活きと演じていた。
『No.9−不滅の旋律−』
嵐のような男ベートーヴェンに翻弄されたのは、マリアだけではない。ベートーヴェンには二人の弟がいた。物語前半、次男のカスパール・アント・カール・ベートーヴェン(橋本淳)と三男のニコラウス・ヨーハン・ベートーヴェン(前山剛久)は兄の難聴が周囲にばれないよう必死にサポートするのだが、そのコンビネーションは時に微笑ましいほどだ。ピアノ職人のナネッテ・シュタイン・シュトライヒャー(村川絵梨)は、恋人に振り回され一喜一憂するベートーヴェンを気にかけながらも、彼の音楽活動を献身的に支えていた。
他にも、恋人ヨゼフィーネ・フォン・ブルンスヴィク(奥貫薫)、父ヨハン・ヴァン・ベートーヴェン(羽場裕一)、商売人ヴィクトル・ヴァン・ハスラー(長谷川初範)、発明家ヨハン・ネポムク・メルツェル(片桐仁)、警官フリッツ・ザイデル(深水元基)らなど、ベートーヴェンの周囲を取り巻く個性的な登場人物にも要注目だ。

『No.9−不滅の旋律−』
『No.9−不滅の旋律−』

本公演の大きな特徴であり実に贅沢なのが、舞台の上手と下手にそれぞれ配置されたグランドピアノだ。物語に沿って二人のピアニストがベートーヴェンの名曲を次々に演奏し、人間ドラマをときに熱く、ときに切なく演出する。ベートーヴェンが生み出した“不滅の旋律”と共に、役者・稲垣吾郎の集大成とも言える渾身の演技を全身で味わってほしい。

ゲネプロ直前にステージ上で会見が行われ、稲垣と剛力の二人が登壇。質疑応答の時間が設けられた。
早速、再々演の3度目の舞台に臨む想いを尋ねられた稲垣は「とても嬉しいです。今回はコロナの影響もあって、スタッフの方々に作っていただいたルールを元に感染対策をしながら、稽古をして1ヶ月が経ち、ゲネプロと本番を迎えることができます。観に来てくださるお客さんと、素敵な時間を過ごせると思うと楽しみで仕方ないです」と笑顔を見せた。
「今年1年を漢字1文字で振り返ると?」という問いに困惑しつつも、元SMAPの森且行がオートレースで優勝したことを挙げ、「どうですか今年1年、森!」と笑顔で回答。
2018年の再演から加わり、本公演が2度目の出演となる剛力は「私自身、2回同じ役を演じることができるというのもすごく嬉しいです。時代は違っても想いは一緒だと思うので、このご時世だからこその『No.9』を通して皆さんに何か伝えることができるんじゃないかと。最後までみんなで力を合わせてやりきりたいなと思います」と意気込む。
劇中でベートーヴェンの音楽活動を支えるマリアを演じる剛力について、稲垣は「本当に信頼していますし、尊敬する女優さんです。まあ稽古中はどうしてもみんなマスクをしながらだったので、和気あいあいと楽しくというより緊張感を持って稽古をしてきたんですけども、心と心は繋がっているんじゃないかなと。ちゃんとベートーヴェンとマリアになっているので、その姿を見ていただきたいです」と語った。
さらに、二人がわかりあえたと思えた具体的なエピソードを求められると「舞台の上では僕がベートーヴェンで本当にゴジラみたいに暴れるので、周りの人間がとても大変なんですね(笑)。感情が爆発している役なので動きが変わってしまうこともあるんですけど、その僕の動きに合わせてくれたりとか。稽古で冷静さを失ってしまうときにも、剛力さんが役柄のマリアのように僕のことをサポートしてくれていますね。と僕は思っていますが・・・・・・」と少々不安げに剛力に視線を送った。
これに対し剛力は「本当にベートーヴェンのように稲垣さん自身に人を引きつける魅力があります。マリアが支えているようで実は支えられている感じというか、私が安心して寄り添うことができるところがあって、そこは稲垣さんにリンクしているところだと思います」と即座に返し、二人の信頼関係が伺えた。
「今年1年を漢字1文字で振り返ると?」という問いには劇中の「歓喜の歌」の「喜」と答え、「喜べるような年じゃなかったかもしれないけれど、こうしてみなさんとお芝居ができて観に来てくださる方がいらっしゃるのは表現者としてすごく嬉しい」とコメント。
会見の最後、稲垣は「今年はみなさんコロナ禍でいろんな思いで過ごされたと思うんですけど、『No.9』はベートーヴェンからの大きな大きな愛のメッセージなので、エネルギーを持ってお届けして、2021年にみなさんが1歩を踏み出す力になれれば幸いです。千秋楽まで頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします」とコメントし、続けて剛力も「正直まだ明日初日を迎えるという実感が湧いていなくて。本当にできるんだ、本当にやるんだ、と。不安じゃなくて緊張ですね。いろんな緊張が混ざっています。小さな希望じゃないですけど、みなさんに光を届けられればと思います」と笑顔でメッセージを送った。
上演時間は1幕1時間10分、休憩20分、2幕1時間40分の計3時間10分を予定している。2020年12月13日(日)より2021年1月7日(木)まで、TBS赤坂ACTシアターにて上演される。
剛力彩芽、稲垣吾郎
取材・文・写真=松村 蘭(らんねえ)

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