【宮野真守 インタビュー】
ウルトラマンだからこそ
発信できるメッセージを届けたかった
記念すべき20枚目となるシングル「ZERO to INFINITY」は、YouTube配信作品『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』の主題歌。自身が演じるウルトラマンゼロのキャラクターを重ねつつ、“出会い”が生む奇跡を描いた力強いナンバーには、人類が苦境に立つ今だからこそ刺さるメッセージが濃密に込められている。
音楽面でも、画作りの面でも、
今できる最大限の作品作りができた
YouTube配信作品『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』でご自身が演じているウルトラマンゼロから“ZERO”を取って“ZERO to INFINITY”、つまり“ゼロから無限大”とは主題歌として実にうまいタイトルですね。
ありがとうございます。さまざまな発信の仕方をエンタメが模索している今、監督から“ウルトラマンの絆を描くことで、今だからこそ伝えられる強い想いだったり、未来へ向かっていくメッセージを込めたい”という意志をうかがったんです。なので、その気持ちに呼応して僕も歌詞を綴っていきたかったし、楽曲にも希望のあるグルーブ感とメロディーライン、そしてメッセージ性を込めたいと思って制作に臨みました。
その言葉の通り、ロックなサウンドからは着実に一歩一歩進んでいくような力強さを感じます。
これまで担当させていただいた『ウルトラマン』シリーズの楽曲に比べても、BPMが抑えめですからね。原曲の段階からダンスミュージックっぽいノリの強い曲で、このグルーブ感がいいなと思ったんですよ。疾走感を加速させるような音を入れながらも、速さで捲し立てるような曲ではなく、気持ちを込められるというか、鼓動を感じられるグルーブ感が欲しかったので、スピードよりもノリを重視しました。実は当初はもっとヤンチャな曲にするつもりだったんですけど、制作自体の方向性が変わっていったんです。
それはなぜですか?
お話をいただいたのが新型コロナウイルスの問題が起きる前だったので、最初はウルトラマンゼロの成長だったり、気持ちに特化した楽曲にしようと考えていたんです。11年前に登場した時は未熟で自分探しをしていたのに、今や師匠と呼ばれるようにまでなった彼の自信に満ちあふれた曲にしても面白いかなと。それが世の中の状況も変わり、映像作品自体も監督が“現状の中でも絆をつなぎ、希望の光を見つけていきたい”という想いを込めているとうかがって。それを聞いて、僕もウルトラマンだからこそ伝えられるメッセージを発信していくという方向性にしたくて、“じゃあ、人と人が出会い、絆をつなぐことによって、可能性は無限大になることを伝えていけたら”と思ったんです。例えばゼロを“個人”ととらえたとして、ゼロとゼロをくっつけると無限大(∞)になるじゃないですか。
あっ、なるほど! それで“ZERO to INFINITY”なんですね。
実際、人と人が出会うことによって個人ではできないことができたり、絆をつなぐことで見えてくるものがあるんですよね。僕もいろんな現場に行くので、そこでの出会いが自分を成長させてくれるし、ひとつの事柄と事柄がつながった時に新たなものが生まれてきたりもするし。声優とアーティストもそうだし、声優と舞台、舞台とアーティストもそうで。いろんな要素が組み合わさることによって、“宮野真守”というひとつのエンターテインメントができていると、僕自身も感じているんです。おまけに、ウルトラマンゼロには次元や時空を超えられる力があるから、作品の中で出会うはずのないものを出会わせたり、絆をつなぐきっかけになっていたりするんですね。そういう意味では、ウルトラマンゼロというキャラクター自体とも通ずるところがあるメッセージなんです。
そういった出会いの生む奇跡、無限の力が感じられる爽快な曲で、聴いていると飛び立っていくウルトラマンの姿が脳裏に浮かびました。
それは嬉しいですね。ヒーローショーとかでゼロが登場する時に流したいっていう話もあったので、ウルトラマンが登場しやすい音っていうのは留意したところだったんですよ。ウルトラマンの楽曲を書かせていただく時は、やっぱり子供たちにも伝えたいので、ゼロが背中を押してくれる…というか。普段はしないような言葉遣いで文字を綴ったりするので、それも自分なりの面白さだったりするんですよね。
確かに、より伝わりやすい言葉で書かれている気がします。
世界がピンチの時に言葉を発することができるのが、ウルトラマンの本当のすごさだと思うんです。東日本大震災の時、自分に何ができるのか分からない無力感に苛まれていた中で、ウルトラマンゼロとしてコメントさせていただいた言葉がすごく力強くて! “ウルトラマンってこうやって世の中に想いを伝えることができるんだ! これがヒーローなんだ!”って痛感したんです。なので、今回の歌詞にも“絆をつないでともに頑張っていこう”ということだけじゃなく、“俺が連れて行くから、この手を取って”というメッセージも入れました。ウルトラマンは光の国から来ているわけだから、希望に満ちた頼もしい空気感を出したかったんです。
ウルトラマンほど世代を問わず、誰もが信頼できるヒーローもいませんよね。宇宙をイメージさせるジャケットデザインもウルトラマンの神秘的なパワーを感じさせます。
単純に『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』という作品が、地球とか地上ではなく宇宙の話なんですよ。なので、星が見えるところがいいなと思って、プラネタリウムで撮影させていただきました。ただMVに関しては、制作を始める段階では世の中の状況も逼迫していたので、できるだけ身ひとつで戦っていけるようなものにしたいと考えたんです。それで無機質な空間に印象的な照明を入れつつ、自分のパフォーマンスだけで力強さを打ち出していきました。最終的には状況が変わってダンサーに入ってもらったりもしたんですけど、僕の中には“身ひとつで戦う!”みたいなイメージがありましたね。
そもそもウルトラマン自体が身ひとつで戦ってますし。
でも、それは周りへの信頼がないとできないことなんですよ。きっと僕の言葉をうまく広げてくれるだろうっていう、監督に対する信頼関係があるからこそ身ひとつで戦えるわけで、観え方は無機質でも可能性が“ZERO to INFINITY”であることに変わりはない。で、出来上がったMVのラフを観たら、めちゃくちゃカッコ良かった! 音楽面でも、画作りの面でも、今できる最大限の作品作りができたのですごく満足してますね。
当初の予定から方向性は変わった分、今だからこそ出す意味のある作品になりましたよね。
今回収録されている3曲とも、そこは目指したところなんです。今の状況とは3曲とも切り離せないものになっていて…でも、アウトプットの仕方によってこんなにも見え方が変わってくるっていうのは、僕自身も面白かったです。