ストレイテナー・ホリエアツシは最新
作『Applause』へどのように挑み、何
を託したのか

キャリア20年を超えてなお、年に複数本のツアーを周り、各地のイベントやフェスにも積極的に参加。ストレイテナーとライブとは切っても切り離せない関係が続いてきた。それだけに、音楽シーンから長らく(リアルの)ライブが失われた今年は、彼らの活動も大きく様変わりすることを余儀なくされた。そんな状況のなか作り上げられ、“拍手”という象徴的な名を冠した11枚目のフルアルバム『Applause』は、世相や心境を反映させつつも、それ以上に曲ごとの完成度と作品としてのパンチ力の高さに耳を奪われる一枚となっている。ホリエアツシ(Vo/Gt/Key)の言葉を借りれば「凝りに凝った」という一枚、2020年の終わりに満を持して放たれるマスターピースである。
――今回、ジャケットが写真なんですよね。この取材でも撮影された西槇太一さんが撮られたと聞いたんですが、これまで基本的にアルバムはイラストの印象が強くて。『ROCK END ROLL』とか『TITLE』の頃以来なんじゃないかと。
あ、でも『Behind The Scene』のジャケは、あれ一枚の写真なんですよ。ロゴとイラストのパネルを作って、シンペイと(橋本)塁くんが茨城まで行って森の中で蚊に刺されながら撮った写真で(笑)。一枚の写真でいうとそれ以来かもしれない。ここ何作かはシンペイが「こういうの、どう?」っていう案を持ってきて、僕がそれに意見したり調整していくやり方だったのが、今回はノープランで「どうしよう?」って言ってきたから、「Dry Flower」っていう曲があるしドライフラワーのリースとかどうかな?っていうのを僕が提案して。で、そこからデザイナーの美登一とシンペイが色々話して、僕も世界観的にイメージに近いドライフラワーを作っている作家さんを見つけて。
――なるほど。
西槇くんは、イベントとかで結構ストレイテナーのライブの写真とか撮ってくれてるんだけど、意外とシンペイは面識がなかったみたいで。こうやって物体の写真を撮ってもらってどうなるのかは、僕も想像していなかったですけど。
――かなり綺麗な仕上がりですよね。
そうですね。現場にも立ち会ってずっと見ていて、けっこう試行錯誤だったんですよ。電飾がちりばめられているんですけど、あんまりクリスマスっぽくしたくなかったので、これも「アリかな、ナシかな」みたいな。可愛い感じというよりは、まずパッと目に飛び込んできたときに「何だろう?」っていう、何かわからないような見え方が良いなと思っていて。この電飾のぼやけ具合がちょっと水たまりっぽく見えたりもするし、ドライフラワーも綺麗なグリーンじゃなくてちょっと枯れたイメージだったから、暗い写真にしたのはそういう意図ですね。
――実際、リースではあるけどクリスマス感はゼロに近いですよ。
(笑)。リースの意味を調べたら、永遠の幸福とか愛を願って飾るものなので、それがなんか良いなと思って。このアルバムを飾ってリース代わりに部屋に飾ってほしい。
――タイトルの『Applause』には拍手という意味がありますが、これはやはりライブからの連想ですか。
うん。作品自体は、ライブが無い時期、できなかった時期に作った作品という意味では、どっちかというとスタジオアルバムというか。ライブでやって完成されるようなものではなく、もっと作品寄り、音源寄りなものを目指して作ってはいるんだけど、タイトルをつけるにあたって、このアルバムのイメージを言葉で表したり歌詞の中から言葉を引っ張ってくるんではなく、今作は……9月に、1月以来今年2回目のライブをやったとき、お客さんが歓声の代わりに拍手で最大限の賞賛を表してくれた感動が、一番大きく印象に残って、そのままタイトルになったという。
――作品寄り、音源寄りという言葉がありましたが、過去作でそれと近い作り方をしたアルバムってありますか。
今回は実験的なのとはまた違ったバンド感があるから、今までになかったタイプのアルバムかなとは思うんですけど……曲に対する意識は違えど『CREATURES』とか。色々試しながら作るというか、自分達でも「これどうなるのかな」っていうワクワク感がありつつ作っている感覚は近かったかもしれないですね。
――近作では……ずっとそうかもしれないですけど、今までやったことのないことをやってどんな作品ができるだろう?という姿勢でしたよね。今作にもそれはところどころ窺えつつも、「今までやってきたことの更新」みたいな部分の割合も多めなのかな、という印象を受けたんですよ。
冒険したり実験してる意識は全くなく、アレンジを楽しんで演奏を楽しめるアルバムっていうのが一つのテーマだったかな。自分達に対してより自然体というか、欲求に対して素直に作っていて。(前作の)『Future Soundtrack』はボーカルアルバムみたいなものになったと思うんですけど、そのあとの『Blank Map』というミニアルバムは結構いろんな側面を一つにパッケージしたというか、自分達の持ち味とやりたいこと、あとは聴きたい曲もひとまとめになったオムニバスみたいになっていて。あそこで作った「Jam and Milk」の路線を、もっと自分達のものとして出していきたいなっていう方向性が、今回の曲作りでは強かったんです。
まず「Parody」ができて、「倍音と体温」「Dry Flower」と、「No Cut」みたいな、大人路線の曲が初めの頃にできていたんですけど、「Graffiti」ができたときに――「Graffiti」って、ストレイテナーらしさがすごく出てると思うんですけど――こういう綺麗な泣きのメロディの曲を、ギターサウンドでダンサブルにアレンジできたことが今のバンドにとっては大きくて、それを弾みにして「叫ぶ星」とかが出来ていったという。
――前回のインタビューで「Parody」は『Blank Map』期からあったという話をされていましたが、他にも「Graffiti」以前から原型のあった曲も多いんですね。
そうですね。だから、当初はそういう曲一色になっちゃうかもなって。
――そこから曲が出来てくるごとにだんだん全体像が固まってきたと。
だんだん拡がりが出ていったという感じですね。ある程度素直に作っていいかなという思いはあったんですけど、「Graffiti」ができて以降はちょっとずつ変わっていって。「叫ぶ星」も元々はHIP-HOP的なリズムに乗せてライムするみたいな曲だったのを、8ビートに変えたし。
――ああ、だから歌メロの感じや歌い方がちょっと違うんですね。
そうそう。ちょうど『TITLE』の全曲再現配信ライブもあったけど、『TITLE』の「泳ぐ鳥」っぽいアレンジのフォーマットに今敢えて落とし込んだ曲になってます。
――「Melodic Storm」とか、もう少しあとだと「DAY TO DAY」とか、そういう方向性の今バージョンとも感じました。
そう、ギターロックのね。
――アルバムの制作時期としては、外出自粛だった期間とも被ってきますよね?
3月頃からスタジオには入り始めて、まず3曲くらいはアレンジしたんですけど。5月からの予定だったレコーディングを延期して、6月からあらためてスタジオワークに取り掛かりました。その1ヶ月半の間に、もともと作ろうと思っていた曲の形から自分の中で何転もしていって、例えば「叫ぶ星」のリズムをガラッと変えたりとか、曲ごとのイメージがより具体的になっていきましたね。
何もなかったら、もっと出たとこ勝負というか、瞬発力重視のレコーディングになっていたかもしれないですけど、やっぱりこう、状況がつかめなくなっていく不安感みたいなもの――スタジオもどんどん閉まっていってたし、「今やってもレコーディングを楽しめるかな」っていう思いもあった。結果、休んで時間を置いたことによって、その1ヶ月半はずっと自分の中で曲とか歌詞をアップデートしていく期間になって、そういう意味ではプラスになったと思います。
――試行錯誤やアップデートをする時間であると同時に、外に出れなかったり人と会えなかったりした経験も、何かしらこの作品に影響を及ぼしていますよね?
言葉にはけっこう出てますよね。空虚な街の風景だったり、“何もない1日”が現れてる言葉が。特に「ガラクタの楽団」なんかはフラストレーションがぶち込まれてる。
――そうですよね。
ロックバンドもライブハウスも次いつまた活動できるかわからない状況が、この曲にはすごく出ているかなと。それでもロックっていうのは吠えるものだし。
――「DEATH GAME」とこの「ガラクタの楽団」はアルバムの中でちょっと異彩を放ってますからね。
ははは。こんなに激しい曲ができるとは思ってなかったので。
――あとは「No Cut」あたりもその頃の心境を映したものかな、と思いました。「スパイラル」で歌った内容ともリンクするような。
ああ、でもこれはシンプルなラブソングになっていて。だいたいちょっと変化球を投げてしまうから、ここまでピュアな詞を書けたのは自分としてはビックリしたというか。プロポーズソングみたいな感じになっちゃったなと思って。でも、「No Cut」は良いですよね。自分が書いたんじゃないみたいなくらい、良いですね(笑)。
――「Maestro」は、Aメロ、Bメロ、サビ、全て表情が違う曲で。
この曲はスピッツのイメージですね。サビで急にポップになる、天の邪鬼な展開の曲ってけっこうあるじゃないですか。
――わかります。
前半はちょっと難解なんだけど、サビになるとみんな知ってる!みたいな。この曲もそういう感じの曲になるのかなって(笑)。多幸感がありますしね。むなしさもあるけど、一番素直に新しい世界の希望を歌っていると思います。
――好きな曲です。だから「Maestro」「No Cut」、あとは「混ぜれば黒になる絵具」というこのアルバム終盤がもう――
終盤、すごいですよね(笑)。心にグッと入ってくる。
――アルバム全体を聴いた印象としても、これまでにないくらい、第一印象でグッとくるというか、出会って最初のパンチ力が高い印象があったんですよ。そういう即効性というか、耳馴染みのような要素を出すことってどこか頭にありました?
どうなんですかね? でもなんか……一言で言うとやっぱり“凝った”のかなぁ。楽曲の個性みたいなものよりも、一曲一曲が物語のように、それらが持っている表情の豊かさというか。時間をかけられたことで、そっちを重要視したのかもしれないです。
――メンバーに渡す前の段階から作り込んだんですか。
曲や歌詞の展開にはそれが強く出てるし、アレンジもメンバーそれぞれがその曲ごとにシンプルに向き合ってる感があって、自分のプレイの在り方というよりもその曲の在り方をなぞっていったから、一曲一曲の完成度が高いのかなって。バリエーションとしては狭いのかなと思いますけどね。曲が持っているカラフルさはすごくあるんだけど、それは一曲一曲のカラフルさであって。
――曲によっては、かなり大胆に音数を絞っていたりするアレンジが印象に残りました。「Dry Flower」とか。こういうアプローチはありそうでなかったなと。
そうですね。「Dry Flower」はたしかに、もう一音あっても良いのかなっていう気もしたけど、ギターの音の存在感を大事にしたくて。たとえばピアノを乗せたらピアノも一緒にバッキングすることになるんだろうけど、ギター2本の存在感が薄れてしまったらもったいないなと思って。
――曲調のバリエーションは多くないとしても、そういうアレンジ面も手伝ってか、すごく起承転結や起伏に富んだ作品とも感じるんですよね。手法として新たに試みたことも何かありましたか?
いや、どうですかね? ……新しいものはないかな。曲自体が新鮮であって、曲を新鮮に聴かせるためにこだわるっていう、層になっていく感じでした。
――歌詞に関してはどうでした? 言葉選びであったり。
歌詞は、僕が前もって思っていたのは、ちょっと原点に戻ることで。……20代の頃の歌詞は、自分の中であまり意味を持たせずに、喪失感とか空想的な世界の中に自分のイメージを飛び込ませて、そこにどういうストーリーを示せるかを試してきたんですけど、近年の作品では実際に目に見えてるものとか、感じることとかを言葉にするように努めて書いてきてて。で、そこには「吉祥寺」っていう曲で一回決着をつけたなと思って。
――もろに実際にある街やものがモチーフの曲ですもんね。
そうそう(笑)。で、またちょっと遠くに行きたいというか、そういうテーマはなんとなくあったんですよね。だから「Dry Flower」ではちょっと映画のシーンっぽいものを書きたかったし。都会の憂いみたいなものが、ひとつの特徴として何曲かにあると思うんですけど、自分のいる場所を俯瞰で見るような詞の書き方を今回はしていて。だからリアリティとはちょっと違うものとして書いていますね。
――近作は、受け取る上で想像力がそんなにいらないように書かれた歌詞だったと思うんですよ。そこと比べると少しフィルタがかかったような感覚ですか。
ああ、そうかもしれないです。
――ただ、「混ぜれば黒になる絵具」に関しては実際にあった情景を描写してるのかな、と思いました。
ロードムービー的な、風景描写から書き始めて、時間的には短いものを書いているんですけど、この曲自体が元々想像していた曲とは全然違うものになっていて、最初はむちゃくちゃ激しい曲を作るつもりだったんですけど。歌詞を書くときに、リズムもテンポも、何から何までガラッと切り替えて作りました。
――サビにその名残がある感じですか?
結構キーが高いのはその名残ですね。元々こういう曲を作ろうと思ったらもっとキーを低くしてると思うんだけど、元々は絶叫系のイメージでいたから。
――「シンデレラソング」みたいな。
そうそう(笑)。このアルバムにそれはちょっと入らないというか、今の俺たちには作れないかな、みたいなのはあって。詞を書いてみたらちょうど今の自分に合う質感で、言葉と映像的なものがばっちりリンクして。だからこの曲はまぁ、素に近いですかね。
――アルバムを形作っていく上で、「この曲ができたのが大きかった」みたいな存在もあります?
「さよならだけがおしえてくれた」は大きかったですね。前半の部分は、アコギを弾きながら手癖みたいなコードのループの上で作ったメロディなんだけど、もとは緩やかなリズムだったのを、発想を変えて、HIP-HOPっぽいシンプルで跳ねるリズムにすることで、サビで大きく広がりを持たせるメロディが出てきて、どんどんドラマチックに展開していく曲になりました。
――元々はこのAメロの感じが続くような曲だったんですか。
うん。どこがサビかわからないような、U2みたいな曲だったんですけど、最初は。全然変わっちゃいましたね。
――でもこのサビのメロディは屈指の良メロですよ。
はははは。こんなのが出てくるはずではなかったっていう。この曲を一番最後に作ったので、それまでの曲は曲の個性を楽しんで作れたから、意図的になにか一曲ポップなものというか、今までにないビックリするような曲を作りたいなと思って。とにかく凝りに凝ったというか、自分の意表をついたっていう。
――先ほどもちらっと話題に出ましたけど、この前配信での再現ライブがあって、そのあと観客のいるライブも久々に行なったじゃないですか。
はい。
――で、アルバムリリース後に再び配信ライブがあって、年明けからはツアーもある。配信は配信、リアルはリアルでそれぞれ違いはあると思いますが、ライブに対する想いや捉え方など、この期間で変わった部分もあるのではないかと思うんですが。
12月の配信はクアトロからなんで、ようやく初めてライブハウスからの配信というところで、また全然勝手は違うだろうし……『TITLE COMEBACK SHOW』はスタジオライブだったので、半分くらいはレコーディングしてるみたいな感覚だったから、それとはまったく違ったものになると思うんですよね。
――はい。
そもそもストレイテナーとして、ライブっていうものの位置付けを変えようとは思っていなくて、変えたくもないんですけど、配信として映像で観てもらうには、やっぱり自分なりに高めなきゃいけないところがあると思っていて。考えてみると、自分が憧れてきたミュージシャンとの出会いってテレビの中で、ライブハウスじゃなくてまずはテレビのスタジオライブを観て、それをカッコいいと思って憧れてきた。だから、そういうカッコいいパフォーマンスを映像でもやれなきゃダメだ、っていうのがまず一つがんばりたいことですかね。
――そうなると、やっぱり体現するカッコよさの種類自体が違ってきますか。
そうですね。今までの配信や映像作品で見せてたライブ映像って、やっぱりお客さんがいてお客さんに対してのライブパフォーマンスだから、ある意味助けられてるし、お客さん込みでライブってカッコいいというか。フロアのもみくちゃの中にいるお客さんは多分わからないと思うんですけど、たとえば2階席から観たりすると、1階席のお客さんあってのライブなんですよね。
――ああ、まさに。
そこに甘えちゃいけないというか。それはめちゃくちゃ大きくて。
――そこの力を借りずともカッコついていなくちゃいけないという。
そうそう。ただ、まあストレイテナーは幸いにというか、昔は特に、あまり心を開いてライブをやってなかったバンドだから(笑)。その頃って、目の前のお客さんの力を借りるというよりは、やっつけてやるとか、ねじ伏せてやるみたいなモチベーションだったと思うんですよね。で、それが徐々に徐々に変わってきて、通じ合えてるというか、自分たちの音楽を評価してくれて必要としてくれてる人は味方だし、信頼すべき同士みたいなものだと思うようになってきての今で。やっと素直に感謝の気持ちをライブで表現できるようになったバンドなのに、なんかこう、さらなるものが……
――要求される時代になってしまった(笑)。
っていうね(笑)。今までずっと自分たちもどんどん変化してきているから、そこからさらに変化するっていうだけなのかもしれないけど。だけど正直なところ、やっぱりライブの最高の形は、生で観てもらうことに尽きるかなと思います。そこで起きることが全て、みたいな。

取材・文=風間大洋 撮影=西槇太一

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