阿佐ヶ谷スパイダース『ともだちが来
た』全キャスト&演出家の座談会~中
山祐一朗17年ぶりの演出、ヨーロッパ
企画の2人が参戦

阿佐ヶ谷スパイダースの劇団化第3弾となる作品は17年前に上演された『ともだちが来た』だ。鈴江俊郎の代表作で、演出の中山祐一朗にとっては、かつて出演し、長きにわたってかかわってきた作品でもある。2バージョンの上演で、ヨーロッパ企画の土佐和成、本多力が加わった。死んでしまった友人が現れたひと夏の出来事。シュールで不条理なテキストを、どのように料理するのか。全キャストと演出家が語る。
◆当初から「見えた」キャスティング
――今回の話を聞いたとき、キャストのみなさんはどんなことを思いましたか?
土佐和成(以降:土佐) 同じ演目をAとBのチームに別れてやるというのは最初から聞いていたんですけれど、もう少し小規模な公演で、ちょっとしたお祭りイベントみたいな感じと勝手に思っていたんです。ところが、めちゃくちゃガチンコやった(笑)。
中山祐一朗(以降:中山) もっと軽い感じを想像していたんだね。
土佐 なぜかそういうふうに思っていました。だから台本を手にした途端、「これは本気やで」と(笑)。
本多力(以降:本多) 僕ら(ヨーロッパ企画)の舞台で中山さんに来ていただいたとき、わりとお祭り公演っぽいものもあったので。僕も台本をもらって、震え上がりました(笑)。
坂本慶介(以降:坂本) お話を聞いて、正直僕でいいのかなという感想が最初でした。中山さんも「友」の役で出ていて、演出もしているという思い入れのある作品ですし。でも、こういう組み合わせは絶対に面白くなると思っています。
森一生(以降:森) 僕も同じです。「自分でいいのかな?」と思った。最初は『ともだちが来た』をヨーロッパ企画の方々と一緒にやるということだけ聞いていて、キャストの細かいことは知りませんでした。
土佐 確かにふたりからすれば、阿佐ヶ谷スパイダースを背負うみたいな感じがあるよね。僕らは「お邪魔します」って気持ちがあって、そこらへんはふたりとも感じ方が違うんやろうね。
土佐和成
森 ほかのメンバーが空いてなかったから、僕のところに来たんだと今でも思っています(笑)。
土佐 若手の有望株やから(と、土佐が話をしようとしても森が続ける)。あ、全然聞いてくれへん(笑)。
本多 慶介くんも言っていたように、中山さんにとって思い入れの大きい作品だってことがすごくわかりました。ご自分が出演された作品を阿佐ヶ谷スパイダースで演出して、さらにもう一度やるということもそうですし。
森 (長塚)圭史さんと伊達(暁)さんが演じた作品を今やるのが、僕にとって負荷です。
本多 それはやりがいにはならない?
森 今のところまだ負荷です(笑)。圭史さんから電話がかかってきたときも「なんで僕なんですか?」なんて聞けないですし。
中山 一生と慶介は最初からイメージしていたふたりです。もちろん、ほかの劇団員もいろいろよぎりましたけど、ずっとこのふたりを思い浮かべていました。僕らは劇団公演が年1回のペースだけど、今後は若手だけが出演する舞台も増えたらいいと思うし。
中山祐一朗
――今回の配役については、中山さんの発案なのですか?
中山 シンプルに、慶介は「私」で、一生は「友」が合っていると思いましたね。今回プロデューサーの圭史にそう言ったら、喜んでくれました。「一生と慶介でいけるというのが中山さんのなかで見えているなら、すごくいいと思う」って。それから、本当は今年のヨーロッパ企画の本公演に出る予定があって、それが終わってから『ともだちが来た』の流れだったんです。でも、コロナで見合わせて……。
本多 そういう事情もあったので、なおさら合同でお祭りしている感じをイメージしちゃっていました。今はただただ粛々と真剣に稽古しているところです(笑)。
本多力
◆本番ではやらないことを試す現場
――稽古場の様子を聞かせてください。
土佐 稽古初日の中山さんの挨拶なんですけど、めっちゃ声が小さかったんです。そこで思いました。「これはガチや」と(笑)。
中山 ああいうのが慣れてないだけだよ(笑)。
本多 確かにあのときの中山さんは、ちょっと様子が違うなと思いました(笑)。でも、稽古場の中山さんはいつもと全然変わらない雰囲気です。
坂本 以前「私」をされていた圭史さんが稽古場にいらっしゃると、別の緊張感があります(笑)。
一同 ああ!
本多 客席が二面になっているんですよ。中山さんが正面からご覧になっているとき、長塚さんがもう一面の別の角度にいらして、「こっちも客席やったんや」と長塚さんの存在感により気付かせてもらいました(笑)。
森 稽古場に貼り出されているスケジュール表に、圭史さんが来る日は印がついているんです。でも、印のない日も来ています(笑)。
本多 いつだったかな、慶介くんが長塚さんを「もう来るな」っていう目で睨んでいたことがありました(笑)。
坂本 いやいやいや‼︎ そんなことしてないです。やめてくださいよ!
森 圭史さんも緊張するけど、僕も伊達さんがいるとかなり緊張すると思います。伊達さんは「友」を演じていたし、中山さんも「友」の役でした。同じ役の先輩がおふたりも揃うと考えたら、もう……。
坂本慶介
◆2バージョンの異なる個性
――AチームとBチームで、お互いそれぞれの芝居は見ていないんですね。
本多 稽古の時間が分かれていますから、基本的に見ていません。今日はこの取材で早めに来て別室にいたときに、少しだけ聞こえてきましたけど。
土佐 今日、僕らがやったシーンでも全然違うのかな?
本多 そうかもしれんけど、僕と慶介くんは別の話をしてたので。ただ、剣道のシーンのかけ声が聞こえてきて、すでに違ったから。一回別チームの様子を見てみたいなと。
坂本 影響されちゃうから見たくないという気持ちも、ちょっとだけありますね。
土佐 お互い見たほうがいいような気もするんやけどね。
中山 今、稽古場も感染症対策をしてるじゃない。だからAとBのそれぞれの稽古時間を分けているけど、こういう制限がなければ、もっと両チームが見たらいいのにと思うよ。でも、こういう条件でやる以上、お互い見ないで本番を迎えるのもアリなのかなとも思ったりするんだよね。僕は2つのバージョンを見ているから、もう違いがハッキリしていて面白いんだよ。
――その違いというのは?
中山 大げさに言うと、Aチームに関しては、ほとんど演出していないというか。Bチームは、わりと演出している感じ。たとえば、Aチームは立ち位置とかを決め込まないでどんどんやってもらうんだけど、Bチームでは「このセリフはここで言おうか」ということをけっこう早い段階から言っていますね。稽古している途中で、Aチームでやろうと思ったことをBチームで試したりもします。
本多 本番では絶対にやらないけど、まずはやってみようということもありますよね。
坂本 やっぱり、今は中山さんのおっしゃることをどれだけやれるかということばかり考えます。これまで劇団で2回ご一緒しましたが、演出のときにどういうふうにおっしゃるのかというのがいっさい想像できないまま稽古を迎えました。今は、中山さんが僕らの状況をすごく見てくれているのを感じます。
森 中山さんは掴みどころない先輩なので(笑)、現場はどんな空気感になるんだろうと思っていました。でも、対話があるし、何よりやりやすいです。可能性を削らないで、やってみる現場です。『ともだちが来た』での中山さんは厳しいという噂もあって、怯えながら現場に入ったんですが、蓋を開けてみたらやりやすいし、丁寧に伝えてくれます。実際に動いて見せてくれますし。中山さんがパッとやったのが面白くて、絶対できないって思います。
森一生
中山 吹越(満)さんとやったときの演出が岩松了さんで、また岩松さんがやって見せてくれるんだけど、それがかなり面白いんだ。すごく本気でやってくれるし。あのとき、俺も絶対できないよって思ったなあ。今、稽古場でやって見せるのは、僕の頭のなかで起きていることが可能なのかどうか確認する作業でもあるんです。17年前に演出したときは、わりと伊達にお手本を見せるように稽古をつけていました。僕と同じ「友」の役で、思い入れもあったから。圭史と伊達ちんはやっぱり高校の同級生なんだと思ったのが、演出席から舞台上に上がろうとする僕を、圭史が阻止したんですよ(笑)。
土佐 うわあ、厚い友情や!
中山 圭史が伊達ちんのことを思っていたんだよね。実際にやって見せるけど、今は可能性を探っているような意味合いのほうが大きい。
本多 稽古やってて一緒にゼロから作っていってくれてはる感じがします。
土佐 中山さんから「意味のわからないセリフがあれば大きな声で言えばいい」と言ってくださって。なので、ほとんどのセリフを大きな声で言っていたら「そろそろ、その大きな声は考えていこうか」ってことになって(笑)。ぼちぼち、わかろうやみたいな状況になってきました(笑)。
本多 全部大きな声やったら、全部意味わかりませんって言ってるのと同じやもんね(笑)。
土佐 ついつい中山さんに甘えてしまったことを、ここ最近で反省しまして。
中山 小さい声にしても成立するくらいの段階にきたってことだよ。でも、むずかしい台本ではあるから、まだわからないと思うことはあるよね。
土佐 中山さんが『ともだちが来た』にかかわるのは3回目じゃないですか。台本への印象とか捉え方というのは変わっていくものなんですか?
中山 どうだろう……。作品に対して感じるのは、出演していたときの記憶なんだよね。それが強烈で、ラストに近い9場の柿の種のシーンになるとホッとしている自分がいるんだよ。思い浮かべるのはそのときの記憶なんだけど、またイチから作り直そうということなんじゃないかな。
左から坂本慶介、本多力、中山祐一朗、土佐和成、森一生
◆鈴江戯曲の「むずかしさ」とは
――演じ手にとって『ともだちが来た』はむずかしい台本ですか?
坂本 僕にとってはむずかしいというより「私」の存在に分身みたいなものを感じてしまうんですよ。あるところで、自分とまったく同じところがあるなって。もちろん、どう演じるかは別として、「私」に関してはすごくよくわかるところがあります。
本多 僕はやっぱりむずかしい戯曲やなあって思った。鈴江さんの台本は難解だという前提で読んでしまっているのもあるかもしれませんけど。自分のやる「友」に関して共感する部分も特になくて。会話が飛躍して、何かのメタファーとして書かれているところなど、むずかしいですね。
森 読んだときに、これはいったいどうやって芝居にするんだろうと思いました。逆にいろんなやり方はあって、どうやっても成立するはずなんですけど……。どれを選べばいいのか、自分が行方不明になりそうな台本です。
土佐 僕はいまだに迷っているなあ。まだ意味がわからない点もあるから、やっぱり大きな声で言ってしまうという(笑)。
本多 僕も意味がわからないところはあるけど、日常でも意味のわからないまま言うことってあるから、まず言ってみる。
土佐 そんなことある? 意味わからんのにしゃべることなんてあるかな?(笑)。
本多 あるって。思ってないのに口をついて出るようなこと。
土佐 ああ、熱くなってつい言ってしまうとか。
本多 そうそう。
土佐 でもまあ、僕の理解が遅いのかもしれないです。ただ、読むごとに少しずつ納得したり気づいたりしたことが増えています。まだ自信はないけれど。
中山 わからないままやっていても、それが成立したものとして見えるということもあるからね。
本多 わからないままやってそれが褒められることもありますもんね。
土佐 それって複雑な気持ちになるよね。喜んでいいのかどうか。でも、わかったふりしてやるのでなくて、「わかってないままでええわ!」って気持ちで挑んだらいいというか。そうします。たった今、それでええって中山さん言ったし(笑)。
森 僕はわからないとき「わかんねえ!」って役者の友だちに愚痴るときがあります。
本多 僕は土佐さんに電話します。土佐さんもときどき電話くれますね。
土佐 どえらい現場に入ったときとかも、「もうバケモノばっかりや!」って相談する(笑)。一生くんはけっこうちゃんと本音を吐き出すタイプかなと思ったよ。「本多さんって見た目かわいらしいのに、目がよどんでいますよね」って僕に言ったやろ。あの一言で一生くんを信用した(笑)。
森 よどんでいるとは言ってないです! 闇があるって言ったんですよ(笑)。
本多 よどんでいるっていうのは、今まで聞いたことのない悪口やなあ(笑)。
森 よどんでいるって言ったことになっちゃってる(笑)。いや、かわいらしい雰囲気のなかにダーク感もあるってことです。
土佐 それを瞬時に見抜くから信用できるなと(笑)。
中山 普段の阿佐ヶ谷スパイダースの稽古場はもっと大人数だから、やっぱり雰囲気が違うよね。これまで慶介とも一緒にやってきて、こんなにガッツリ話すこともなかったんだけど、本多くんがすごく慶介に話しかけてくれるおかけで、いろんなことがわかりました。慶介といえば緑色が好きなことで劇団員はみんな知っているけど、なかでも養生テープみたいな緑が好きだってことも今回ちゃんと教えてもらった(笑)。
本多 じゃあ、(深い緑のスリッパを指して)ああいう緑は嫌い?
坂本 いや、嫌いってわけじゃないです(笑)。特に好きなのが蛍光っぽい緑なんです。
左から坂本慶介、本多力、中山祐一朗、森一生、土佐和成
◆作品と向き合い、観客に届ける
――最後に、この公演での課題や楽しみにしていることを教えてください。
土佐 とにかく自分のことやBチームのことで大変なんですけど、Aチームの芝居を観るのが楽しみです。ついこの前まで、千秋楽だけを観ることにして、途中では観ないつもりだったのですけど、もう早いうちに観たいですね。
森 僕は今の段階で充実しているんです。いろいろと試すことができる環境で、そこはもう目標を達成している部分があります。あとは、やはりこういう時期ですから、本番を無事に迎えられるようにしたいです。
坂本 「私」は、いい意味でお客さんに嫌われてほしいという思いがあって。本当に嫌われちゃうのではなくて、どこかがひっかかる存在だと思うので、そこを出せるようにしたいですね。本来は人に晒さないようなことが描かれているのが「私」なので、ちょっと嫌われたい。
中山 かなり高度なこと言っているね(笑)。
坂本 できるかどうかは自分でもわからないんですけど(笑)。
本多 やっぱり作品と向き合って、いかにお客さんに届けるか。僕は二人芝居をするのがほぼ初めてなんです。劇団ではわりと人数の多い芝居ばかりですから。もちろん一人芝居とも違うので、舞台上に生まれるものをどう感じて、お届けできるか。それを楽しみにしています。
中山 この状況で2回も舞台に来る方はなかなかいないかもしれないけど、AとBの両方を観た人と、褒められながらお話ししたい。両方よかったという感想をベースに。あくまで褒められながらね(笑)。
構成・文/田中大介
撮影/鈴木久美子

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