反田恭平、熱狂のウィーン・デビュー
を振り返る~『彼は絶対にウィーンで
スターになる』その言葉を胸にさらな
る高みへ

2020年10月25日(現地時間)、ウィーン楽友協会のステージでのデビューを飾った反田恭平。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を、佐渡裕指揮、トーンキュンストラー管弦楽団と共演した。11月4日にも同プログラムでの公演も予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大による2度目のロックダウンに見舞われ中止となった。(編集部注:10月25日の模様は11月19日より1週間、ラジオ「ORF Ö1 Radio」にて配信されている)
本インタビューは、初日2日後にオンラインで日本と結び、行われた。興奮冷めやらぬ中、黄金のホールでの演奏体験、マエストロやオーケストラとの濃密な音楽作り、ウィーンの人々の反響についてホットに語ってもらった。(取材・文=飯田有抄)

ポーランドやイタリアをはじめとして、ヨーロッパの様々な国や都市を訪れ、滞在してきた反田恭平だが、ウィーンに降り立ったのは意外にも今回が初めてだった。
「ハプスブルク家統治による貴族社会の長い伝統を持つ都市なので、どこか近寄り堅い印象を持っていたのですが、実際に訪れてみると街の人々、ホテルで働く人々、オーケストラ事務局やスタッフなど、みんな人柄がよくてフレンドリー。街並みは景観を大切にしていて美しい。これまで訪れたヨーロッパの都市の中ではベストワンかなと思うくらい、一気に惹かれました」
リハーサルより (c)️Yaromyr Babsky
10月25日に、代役で急遽デビューすることになったウィーン楽友協会主催のコンサート。指揮は佐渡裕、オーケストラはトーンキュンストラー管弦楽団だ。年末年始のニューイヤーコンサートのTV放送などで日本のお茶の間でもおなじみの「黄金のホール」は、これまで味わったことのない響きがしたと語る。
「いろいろな国のホールで弾いてきましたが、こういう残響感のホールはどこにもないですね。自分の出す音もこれまで聴いたことのないような響きだったので新鮮でした。このホールは、天井の上も床の下も空洞になっているため、めちゃくちゃ響くんです。教会のような響きとも違う、なんとも形容し難い響き。それでいて、どんなに小さな音も細やかなパッセージも、すべて客席に正確に届けてくれるので、自分の技量がすべてバレてしまう。ある意味では、ごまかしの利かない恐ろしいホールですね。リハーサルでは、まずはその響きの中で、感覚を掴むことに集中しました。
もちろん、小さな頃からテレビで見ていたホールに立てた瞬間は、本当に幸せでした。太陽の光が窓からホールに差し込んで来て、キラキラと反射して美しい。そんな中で演奏すると、ずいぶん上手くなったような気分になりました(笑)」

リハーサルより (c)️Yaromyr Babsky

指揮者・佐渡裕との共演は2017年・2019年のツアーから数えると、「26回目か27回目」とのこと。信頼関係が裏付けとなり、「音楽をどちらの方向に運びたいか、次はどのように持っていきたいか、お互いの気配で察することができた」という。
「佐渡さんとの共演は大変心強かったです。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、非常に手が忙しい作品なので、目線を合わせるタイミングを逃すとズレが生じてしまう。しかし佐渡さんなら、非常に厚い信頼関係があるので、ノールックでいける。打ち合わせをしていなくても、やりたいことを汲み取ってくださる。なので、オーケストラ奏者やお客さんの方を見る余裕も生まれました」
対して、トーンキュンストラー管は初共演。弦楽器の音圧に驚かされたという。
「10型とは思えないほどの音圧でした! 自分のピアノの音が埋もれるのではないか、という感覚は、日本では味わったことがなかったのですが……。(楽友協会は)ステージ幅が意外とないので、指揮者の目の前に木管楽器がいて、その後ろに金管楽器、さらにその後ろにコントラバスがいるという配置。その聞こえ方に慣れる必要もありました。
彼らはソリストと、とにかく目線を合わせくれるんです! 日本のオーケストラは大抵指揮者を見ているのですが、彼らはしっかり目線をこちらにも送る。逆にこちらもそれに応えていかなければ、よいコミュニケーションが図れない。いい音楽を共有したいという思いの強さを感じられましたね。非常にいい形で関係性を作ることができました」
リハーサルより (c)️Yaromyr Babsky

リハーサルより (c)️Yaromyr Babsky

本番はやはり特別な経験だったと振り返る。
「30分ほどの作品ですが、これまで演奏してきた中で一番長く感じた30分でした。一音ずつ、噛み締めるように弾いていました。第二楽章では感極まりそうになったし、第三楽章のクライマックスは、もう……最高でしたね。
一方で、どこか非常に冷静な自分もいて、『これから自分は本物の音楽、素晴らしい演奏に、もっともっと触れていかなければいけない。質のいいコンサートやオペラにも通わなければ。そしてもっともっと上手くなりたい……』そんなことを演奏中に感じていたのです」
演奏が終わると、客席(コロナによる人数制限で、最大収容人数は1000席)からは大きな喝采があがった。
「みなさん、ばーっと一斉に立ち上がってくださって、マスクはしていましたが、ブラボーの嵐。その光景に、終わった後の方が興奮してしまいました!
アンコールに、ヴォロドス編曲の『トルコ行進曲』(モーツァルト/ヴォロドス編​)を弾いたところ、また多いに盛り上がってくださって、口笛なんかも飛び出しました。カーテンコールは……もう何度呼んで頂いたか数えきれないくらいでした」
(c)️Yaromyr Babsky
熱気あふれる黄金の間の情景が目に浮かぶようだ。客席は若者から年配客まで、幅広い層がいた。30年にわたりホールに通い続けるウィーンの聴衆の1人は、やはり客席にいた日本人調律師にこう語ったという。
「『わたしたちは、ずっとこのホールに通い続けているけれど、彼は絶対にウィーンでスターになる人だ』そう言ってくれたそうなんです。励みになりますね」
輝かしいウィーン・デビューを飾った反田は、この滞在中に、同じく佐渡裕指揮、トーンキュンストラー管と、プロコフィエフのピアノ協奏曲 第3番のレコーディングを終えている(2021年2月NOVA Recordより販売予定)。より乗りに乗った状態での収録が期待できる。完成を心待ちにしたい。

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