数多くのアーティストが参加した
原子力発電所建設反対運動のライヴ盤
『ノー・ニュークス 〜ミューズ
・コンサート・ライヴ!〜』
『ミューズ・コンサート』の概要
実際には参加希望のアーティストが増えていき、2日間の予定が5日間に延長された以外は、この会見通りにミューズの活動は行なわれている。
この後、ホールはアーティスト活動を続けながら89年には州議会議員となり、2007〜2011年には民主党の下院議員に選ばれている。任期終了後の2011年、東日本大震災の福島第一原発事故を受け、ブラウン、レイット、ドゥービー・ブラザーズ、CS&Nら盟友と一緒に32年振りとなる反原発コンサート『M.U.S.E』を開催している。
本作『ノー・ニュークス 〜ミューズ
・コンサート・ライヴ!〜』について
本作のプロデュースは、ジョン・ホール、ジャクソン・ブラウン、グレアム・ナッシュ、ボニー・レイットらの反核団体『ミューズ』によるもので、5日間に及ぶ長いコンサートの中から選曲やミキシングなども彼ら自身の手によって実施されている。
収録曲は全部で29曲、オープニングとエンディングはマイケル・マクドナルド率いるドゥービー・ブラザーズで、当時の彼らの人気が高かったことが窺える曲順だと言える。ボニー・レイットの2曲は、ジョン・ホール(Gu)、フリーボ(Ba)、ビル・ペイン(Key:リトル・フィート)、デニス・ウィッテド(Dr)、ウィル・マクファーレイン(uG)、ローズマリー・バトラー(Vo)という最高の布陣で臨んでいるだけに名演となっている。
コンサートの発起人であるジョン・ホールの2曲はどちらも反核をテーマにしたもので、特に彼の代表曲「パワー」はコンサートの要でもあり、ドゥービー・ブラザーズ、ジェームス・テイラー、ジャクソン・ブラウン、グレアム・ナッシュ、ボニー・レイット、カーリー・サイモン、ニコレット・ラーソンを従えた演奏は素晴らしく、アルバムのハイライトとも言える仕上がりとなっている。
クロスビー・スティルス&ナッシュは最終日に登場し、久しぶりの再結成で当日は沸いたようだ。ナッシュのソロやジェームス・テイラーとのセッションも含めると、本作で最も収録曲が多い。クレイグ・ダーギー(Key)、ラス・カンケル(Dr)、デビッド・リンドレー(Gu)、ボブ・グロウブ(Ba)、ティム・ドラモンド(Ba)など、普段のレコーディングと同じ気心の知れた最高のミュージシャンたちがバックを務めている。
ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドは5日間のうち、2日間メインアクトとして登場し、会場は大いに盛り上がった。ブラウンの『孤独のランナー(原題:Running On Empty)』(‘77)に収録された「ステイ」でのスプリングスティーンとブラウンの共演は珍しく、そして楽しい。
ポコ、チャカ・カーン、レイディオ、ニコレット・ラーソンはそれぞれ大ヒットしたナンバーを披露していて、中でもチャカ・カーンはアベレージ・ホワイト・バンドのスティーブ・フェローン(Dr)とヘイミッシュ・スチュワート(Gu)とアンソニー・ジャクソン(Ba)、ジェフ・ミロノフ(Gu)、フィル・アップチャーチ(Gu)といった名プレーヤーたちをバックに従えている。ライ・クーダーやジェームス・テイラーもまたレコード通りのすごいメンツがバックを務めていて、申し分のない演奏を繰り広げている。
異色の女声アカペラ・グループのスウィート・ハニー・イン・ザ・ロックや政治色の濃い硬派のブラック・ミュージックを披露するギル・スコット・ヘロンらを紹介しているのも本作のメッセージ性の高さが窺えるところだ。また、ジェシ・コリン・ヤングのヤングブラッズ時代の名曲「ゲット・トゥゲザー」、ボブ・ディラン作の「時代は変わる(原題:The Times They Are A-Changin’)」、CSN&Yの「ティーチ・ユア・チルドレン」の3曲はアメリカ人にとって大きな意味を持つ曲であり、本作のメッセージをリスナーに伝えるには最適な選曲だろう(「ティーチ・ユア〜」ではサビの部分を観客が歌う感動的な場面も収められている)。
そして、アルバムを締め括るのはドゥービー・ブラザーズの「ドゥービー・ストリート(原題:Takin' It To The Street」で、バックヴォーカルはホール、ブラウン、ナッシュ、レイットが務めており、コンサートは大盛り上がりをみせ、大団円を迎える。
最後に…
本作は1997年に日本盤が出てから、残念ながら以降のリリースはされていない。35ページにも及ぶブックレットには、このコンサートが開催されるいきさつだけでなく、原発の危険についても図表を交えて丁寧に解説されており、いつでも入手できるよう数年に一度は再発すべきだと僕は思う。なお、80年にはコンサートや楽屋での模様を収めた映像作品も公開されたが、こちらはアメリカでも現在DVD化すらされていないのが現状である。観たい人はYouTubeで探してみてほしい。
TEXT:河崎直人