吉田鋼太郎&柿澤勇人が、二人芝居『
スルース~探偵~』で激突 「勝ち負
けしかない」という真意とは

二人芝居『スルース~探偵~』で、吉田鋼太郎と柿澤勇人の役者対決が実現する。イギリスの劇作家アンソニー・シェーファー(『ピサロ』『アマデウス』で知られるピーター・シェーファーの双子の兄)の最高傑作として知られるこの作品は、ローレンス・オリヴィエやマイケル・ケイン、ジュード・ロウらの出演で映画化されている他、日本でもたびたび上演されてきている。今回は吉田自ら演出を手がけ、「自分の若いころにそっくり」と語る柿澤と舞台上でがっぷり四つに組む。二人に意気込みを訊いた。
ーー今回の上演はどのように実現したのでしょうか。
柿澤:もともと、鋼太郎さんと一緒にやりたいねという話はしていて、その候補の一つとして上がっていた作品なんです。
吉田:3年前に『アテネのタイモン』で共演して、なんてすごい役者だと思って。それから事あるごとに、柿澤くんと芝居をしたいねと話していたのが、スタッフの耳に入って、じゃあやりましょうと。それで、どうせだったら二人でやりますかと。二人芝居なんで、稽古がとても濃くなると思うんです。負担が大変大きくなる。だったら演出もやったらさらに負担が大きくなるんじゃないでしょうかという意見もあると思うんですが、自分でいろいろ采配ができるので(笑)。今日はこれで終わり、とか。そういうのも含めて、ちょっと自由にやらせてもらった方が楽なんじゃないかなと思って。大変な芝居なんで、ちょっとでも精神的に楽な状況を作った方がいいなと思ったんで、演出もやらせていただきたいと。
柿澤:じゃあ、一時間くらいで稽古終わっちゃう日もあるかもしれないってことですよね。
吉田:そんなことはない。一時間はない。あるかもしれないけど。
柿澤:あるんだ(笑)。初めて共演したのが『デスノート THE MUSICAL』なんですが、そのときも大変お世話になって。『アテネのタイモン』はミュージカルではなくて、僕にとって初めてのシェイクスピア作品だったので、右も左もわからない状態で。
吉田:あのとき、ストレートプレイ作品で初めて、柿澤くんの本当の実力を知ったという感じで。
柿澤:シェイクスピアって日常会話じゃない難しい言葉である中で、感情をどう乗せるか、大変難しい作業なんですけど、鋼太郎さんが導いてくれて。そのとき、武将の役だったんですが、僕はあんまりガタイがいい方でもない、身長があるわけでもないから、準備というか、身体作ったりした方がいいですかねと聞いたら、「何もいらない、全部僕が言ってやるから」とおっしゃっくれて、かっこよかったんです。公演、すごく楽しかったですね。藤原竜也さんとか、横田栄司さんとか、演劇界をリードして走っていらっしゃる方々と一緒にやれたことも、僕にとっては非常に財産になりました。それで、鋼太郎さんとまたやりたいと思ってました。
(左から)吉田鋼太郎、柿澤勇人 撮影=渡部孝弘
ーー以前柿澤さんに取材させていただいたとき、「お前は僕の若いころにそっくり」と吉田さんに言われるとおっしゃっていました。
柿澤:あれ、ホントなんですか?
吉田:あのね、あんまり大きな声で言えないところが(笑)。今と、僕が若いころ、40年前とかって時代も違いますから。例えばまあ、無頼な感じですかね、一言で言えば。お酒を朝まで飲んで稽古場に来るのに、誰よりも声が出て、誰よりもエネルギッシュに芝居をするとか。目がギラギラしている。必ず何かにたどり着きたい、到達したい、いつか日本一、世界一のスターになってみせると思っている。それは何の根拠もない、何の保証もない、ただのやみくもな目標なんですけれど、それをしっかり信じてとにかく前に進み続けている。でも、決して品行方正ではない。俳優の魅力としてのさまざまなものを持っている。……って、自分がそうだったって今言ってしまっているわけですが(笑)。
柿澤:(笑)。
吉田:自分としては、そういうものだと固く信じて疑わずに、一寸先は闇の俳優稼業を続けてきましたので、そういうところと、柿澤くんはとってもよく似ていますね。
ーーとのことですが、柿澤さんとしてはいかがですか。
柿澤:そう、なんじゃないですかね。何も否定はできないです。まあ、品行方正ではない方だと思いますし。今、僕、33歳なんですけれど、そのくらいのときって鋼太郎さんは何してました?
吉田:ちょうどね、小劇場ではない、商業演劇の方にちょっと足を突っ込み始めたころで。松竹で行ったミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』に出たりとか、パナソニック・グローブ座でやっていたシェイクスピア・シリーズ、バブルのころだったんで海外から演出家を招いて上演していたんですが、それに出たり。そんな感じかな。芝居でご飯が食べられるようになり始めたころだね。
ーーその当時、吉田さんを支えていた思いとは?
吉田:何だろうな……。とにかく、好きは好きなんですよ、こうやってずっと続いているということは。稽古場に行くと、アドレナリンが出るんですよね。稽古場に行くと、全員を負かしてやりたくなる。
吉田鋼太郎 撮影=渡部孝弘
ーー勝ち負けなんですか。
吉田:勝ち負けです、明らかに。あいつより上手いとか、あいつより早くしゃべれるとか。滑舌は絶対自分の方がいいとか、立ち回りは僕の方が上手いとか。そう思って積み重ねていくと、いつの間にか一つの俳優の形ができあがっていたりするので。そう固く信じてやって行くしかなかったので。そういう思いだけはありました。
ーーそういう意味では、柿澤さんも闘争心の持ち主であると。
吉田:その塊みたいなもんですよ。
柿澤:いえ、演劇はやっぱり、チームワークですから。
吉田:(笑)。嘘つけ。そんなこと一言も言ってなかったじゃねえかよ。
柿澤:(笑)。やっぱり、みんなでスクラム組んで、一つのゴールに向かっていくっていうのが。
吉田:藤原くんと柿澤くんと名古屋でテレビの撮影をしていたときに、一緒にご飯食べたときがあって。そうすると、「写真撮ってください」って、僕と竜也に言ってくるのね。でも、カッキー(柿澤の愛称)には言わない。それどころか、彼にカメラ渡して、「シャッター押してください」と。それが柿澤くんにとっては大変屈辱的なことで。いつか自分もああなってやると、そのときやたら言ってたのを覚えてる。ミュージカル界ではもう十分貴公子、スターだけれども、これからは映像の世界でもどんどん売れていきたいという野心を燃やしているみたいです。
ーー『アテネのタイモン』ですごい役者だと思った理由は?
『アテネのタイモン』 撮影=渡部孝弘
吉田:完全に劇場を支配できますね。それは、圧倒的なパワーもそうだし、若いのに色気があるし、ついついお客さんが観てしまう俳優だなと。それはなかなか勉強しようと思っても学べることじゃないんで。その華と、圧倒的なエネルギーと、劇団四季で鍛えられたすべてのこと、身体の動き、滑舌、口跡、全部持っていると言っても過言ではないと思います。あとは、ホンを読む力がこれに加われば怖いものはないんじゃないかと思いますけどね。
ーー柿澤さんから見た吉田さんは?
柿澤:それこそ、さっきの勝ち負けの話じゃないですが、『デスノート THE MUSICAL』で初共演したとき、僕が演じる夜神月が軸の話ですけど、僕が一緒にやったときはもう、鋼太郎さんが演じるリュークの話になってましたから。
吉田:それはない。
柿澤:いや、それくらい、完全に食われてて。夜神月とリュークがだいたい一緒に出てくるんですが、鋼太郎さんの芝居がピックアップされてるんだなってわかるんです。僕は観られてないっていう。それこそ空間を自分のものにしちゃう、観客の目を自分に向けさせるっていうのが。初めてでしたね、そんな経験。そのころすでに蜷川(幸雄)さんともお会いしていたんですけれど、鋼太郎さんも蜷川さんの芝居に何本も出演してきた方ですし。そんなことがあって、悔しかったし、それでより芝居が好きになりました。竜也さんと会ったときは、『デスノート THE MUSICAL』で鋼太郎さんと一緒なんだよねって伝えたら、「カッキー、鋼太郎さんは日本一の俳優で、これからもっと上に行く人だから、何が何でも食らいついていけ」って言われて……稽古の初日からその意味をまざまざと見せつけられました。
『デスノート THE MUSICAL』 (c)大場つぐみ・小畑健/集英社
吉田:同じ事務所内の褒め合いみたいになってる(笑)。
柿澤:(笑)。だから、きっとずっとかなわないなって思ってる自分もいるし、でも、少しでも追いつかなきゃとか、売れなきゃとかは思ってます。
ーー今回、お二人ががっぷり四つに組む芝居ですが。
吉田:勝ち負けしかないです。どっちが素敵って言われるか、それしかない。
ーー素敵って言われたいんですか。
吉田:言われたい(笑)。
柿澤:そうですね、心理戦、だまし合いの芝居だったりするので、勝ち負けの部分もあると思います。十回に一回くらいは勝ちたいなって思ってますけれども。それも含め、かなり難しい役なので、鋼太郎さんに新たな面を引き出してほしいという思いもあって。勉強したいです。
『スルース~探偵~』チラシ画像
ーー作品目の魅力についてはいかがですか。
吉田:柿澤くんと二人でやりたいとなったときに、二人芝居ってなかなかないんです。男優と女優ならまあある。若い人同士もある。取捨選択していくと、意外とないんです、僕たち二人に合うのが。それと、これまでいろんな方が演じてきていらっしゃるので、その興味もありました。どうしてみんながこの芝居にひきつけられていくんだろうという。北大路欣也さんと劇団四季の田中明夫さんがおやりになったこともあるし、日下武史さんと山口祐一郎さんが劇団四季で演じられたこともある。最近だと西岡徳馬さんと新納慎也さん・音尾琢真さんでも上演されている。おもしろい戯曲ですよね。ただ、セリフの中に、イギリス人にしか理解できないような固有名詞が出てきたりするので、翻訳劇をやる上でのハードルはあるんですけれど。妻を寝取られた男が、妻を寝取った男に対して、あの手この手で復讐するというシチュエーションがとてもおもしろいなと思います。俳優にとってものすごくやりがいのある役でもありますね。
ーー作品の中における“演技合戦”も見どころとなりそうですね。
吉田:まさに、演技合戦以外の何物でもないです。
柿澤:台本の荒訳も読み、それから、設定が変わってはいるんですが、ジュード・ロウとマイケル・ケインが出演した映画版(ケネス・ブラナー監督『スルース』)を見て。ローレンス・オリヴィエとマイケル・ケインが出演したオリジナル版(ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督『探偵スルース』)も海外から取り寄せて見ました。どちらもおもしろかったです。ジュード・ロウのバージョンは現代に置き換えられていて、よい作品はそうやってリメイクしてもおもしろいんだなと。『ロミオとジュリエット』も、レオナルド・ディカプリオ主演の現代版もあったりしますし。『スルース』の場合、やられたら違うやり方でやり返すとか、嫉妬だったりと人間的なものがあって、単純に非常におもしろい。構図も、60歳くらいのおじさんの奥さんを僕が寝取っちゃうっていうのもすごく人間らしいし、芝居でしかできない世界で、すごく楽しみです。
ーーさきほど勝ち負けの話をされていましたが、今回、そこに演出家としての視座はどのように絡んでくるのでしょうか。
吉田:今回はね、二人芝居ということもあるので、その有利なところは、もうこれ、演出しなくていいんじゃないかっていう気がちょっとするんです。二人で稽古をするわけですから。それで、とりあえずまず二人でしゃべってみようよということになる。シチュエーションはわかっているし、関係性もわかっているし。自分たちのわかっている範囲内でのアドリブの芝居をまずはやっていくと。そうしていくと、結局、演出的なことは、最終的にライティングを決めたり、セリフの間だとか、声を張ろうとか、低くしようとか、それくらいのことで済むんじゃないかと思うんです。だから、今回あんまり演出家としての客観的な視点みたいなものはそんなに必要ないかなって。ちょっと乱暴な言い方ですけれど。今なぜこの芝居をやるのかについては、コメントも出しましたが、それも、稽古を進めていくうちにだんだん見えてくるんじゃないかなって。二人の男が、ほとんど誰も見ていないところで、ゲームのような復讐劇を繰り広げる。それって、何のためにやっているのかっていうことになる。誰も得しないのに。それなのにその行なわれていることを、お客様が目撃することになる。そのときお客様が何を思うかが重要なんです、やっぱり。そこのところをどこかできっちり踏まえなくてはいけないなと思って、それを演出としてどういう形でみせるのかは今考え中ですけど。
ーー今の時代に上演する意義がそこに出てくるのではないかと。
吉田:そうなってくるんじゃないかなと思います。
ーーこの半年、お二人とも出演舞台が公演中止になったりしていますが、コロナ禍において、改めて、劇場という場所、演じるということについて考えたこととは?
柿澤:僕は公演が2本なくなって。『ウエスト・サイド・ストーリー Season3』は、ゲネプロまでやったんですが、初日の数日前に、もう中止ですということになって。まさかこんなことになるとは誰も思っていなかったと思うんです。先日、日生劇場でコンサート『THE MUSICAL BOX~Welcome to my home~』をやらせていただいて、久々にお客さんの前に立って。客席数は半分だったり、配信があったりということで戸惑いはありましたが、やっぱり劇場で、舞台でやるということはすごく幸せなことなんだなと思いました。今、別の公演の稽古をしていますが、稽古場に行っても、コロナ前までのスタイルとは稽古が全然違って。何かもう……ちょっと悲しくなるような環境になってしまいましたが、それでも本読みして、立ち稽古して、本番があるというのは幸せなんだなと思うし、これからもますます大切にやりたいなと思いました。
柿澤勇人 撮影=渡部孝弘
吉田:『スルース~探偵~』で、約一年ぶりに芝居をするわけですが、それだけ空くとやっぱりやりたくなってきますね。お客様も観たがっているということもあるし、だからこそ、僕たちが頑張って何とかこの状況の中でもやらなきゃいけない、ということもあると思う。だけれど、それよりも、一年空くということで、この閉塞感の中で、芝居ができないという意味で押さえつけられて生きてきてみると、やっぱりやりたくなる。それは要するに、お客様がいようがいまいがやる、そんな気持ちになってくるんです。道端でやってもいいじゃないかみたいな。結局、俳優をしている根っこはそこなんだなということに改めて気がついたというか。実は芝居をしないで一年が経過するなか、映像作品に出ていた方が楽だから、このまま芝居をやらなくてもいいやと思うのかもしれない、とどこかでちょっと思ってたんです。大変だから、やっぱり芝居って。疲れるし、声も枯れるし、ギャラは安いし(笑)。でも、自分の中ではそっちに行かずに、やっぱりやりたいなと思った、それを再確認できたのが、自分としては収穫でした。
ーー道端でもやりたい、その心は?
吉田:なぜ俳優になったのか、自分でもずっと自問しながら生きてきてるんです。別に俳優じゃなくてもよかったんじゃないか。もっと消極的な理由、例えば、毎朝満員電車に乗って会社に行きたくないから俳優を自分はやっているんじゃないかとか、どこかで思ってたんですが、いや、そうじゃないんだと。やりたくなるんだなと。それはもう本能的なもので。「Born to be an actor」とまでは言いませんけれども、自分はやっぱり俳優を職業として選んでよかったんだなと初めて思いましたね。やりたくなるんです。舞台と映像とは全然違うんです。それこそ、映像は目の前にお客さんがいない。舞台は完全に目の前にお客さんがいて成立するものだから。でも、そういう常識はちょっとおいといて、今、ここで、例えばシェイクスピアの長ゼリフを言って、歩き回って走り回ってみたいっていう風に思うんです。それは、あくまでちっちゃい声でしゃべる映像の芝居じゃない。いろんなものを駆使したくなるんです。
ーー柿澤さんはそのあたりいかがですか。
柿澤:鋼太郎さんがおっしゃっていたように、どこかでもうできないんじゃないかと思っていたところもあって。そもそも僕は、自粛期間後の復帰が映像の仕事だったんですが、全然セリフが覚えられないんです。大したことない、2行とか3行とかでも。読み合わせとかしてても、何かふわふわしてて。
吉田:そうだよな……。
柿澤:こんな、2、3か月家にいて、ぽけっとして、まあ映画とかは観てましたけど、芝居してないと、だめになっちゃうんだというのがわかって。もちろん、現場に入ってやればちゃんとできるので、そこはおもしろいなと思って。それは舞台でも映像でも一緒なんですけれど。それで、やっぱり舞台の場合はダイレクトに反応があるし、演じていても、自分が観に行っても、そこの空間にいるだけで何かちょっと泣きそうになるみたいな感覚があって。その気持ちをやはり大切にしたいなという思いがありますね。
『スルース~探偵~』吉田鋼太郎×柿澤勇人 コメント動画
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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