武田真治「もう二度とできない芝居だ
と思っていた」 ミュージカル『パレ
ード』が待望の再演!

20世紀初頭のアメリカで起こった冤罪事件を題材にしたミュージカル『パレード』が2021年1月より東京芸術劇場プレイハウスほかで再演される。『ラスト・ファイヴ・イヤーズ』や『マディソン郡の橋』などを手掛けたジェイソン・ロバート・ブラウンが作詞作曲、ピューリッツァー賞受賞作家のアルフレッド・ウーリーが脚本を手掛け、1999年トニー賞最優秀作曲賞・最優秀脚本賞を受賞した本作。日本では、森新太郎の演出で2017年5月に初演された。主役のレオ・フランクを石丸幹二、相手役のルシールを堀内敬子が演じ、劇団四季時代より17年ぶりに共演を果たしたことなどで話題を呼んだ。
初演に引き続き、本作に新聞記者のブリット・クレイグ役で出演する武田真治に、再演への意気込みや初演の思い出などを語ってもらった。 
【STORY】
物語の舞台は、1913年のアメリカ南部の中心、ジョージア州アトランタ。南北戦争終結から半世紀が過ぎても、南軍戦没者追悼記念日には、南軍の生き残りの老兵が誇り高い表情でパレードに参加し、南部の自由のために戦った男たちの誇りを歌い上げる。
そんな土地で13歳の白人少女の強姦殺人事件が起こる。容疑者として逮捕されたのはニューヨーク・ブルックリンから来たレオ・フランク(石丸幹二)。実直なユダヤ人で少女が働いていた鉛筆工場の工場長だった。北部出身の彼は南部の風習にどうも馴染めずにいた。もう一人の容疑者は工場の夜間警備員で黒人のニュート・リー(安崎求)。事件の早期解決を図りたい州検事ヒュー・ドーシー(石川禅)は、レオを犯人へと仕立て上げていく。アトランタ・ジョージアン新聞記者のクレイグ(武田真治)はこの特ダネをものにする。
無実の罪で起訴されるフランク。そんなフランクを支えたのはジョージア出身の妻ルシール(堀内敬子)、同じユダヤ人だった。「レオは正直な人だ」と訴えるルシール。裁判が始まり、ユダヤ人を目の敵にしている政治活動家ワトソン(今井清隆)に煽られ、南部の群衆はレオへの憎しみを募らせる。黒人の鉛筆工場の清掃人ジム・コンリー(坂元健児)の偽の証言もあり、レオの訴えも虚しく、陪審員は次々へと「有罪」と声をあげ、判事は「有罪」の判決を下す。
あのパレードの日から1年。家で夫の帰りを待っているだけの女だったルシールは変わっていた。レオの潔白を証明しようと、夫を有罪に追い込んだ証言を覆すためにアトランタ州現知事のスレイトン(岡本健一)邸のパーティーを訪ね、知事に裁判のやり直しを頼む。彼女の熱意が知事の心を動かす。その結果、レオの無実が次々と明らかになっていく。レオとルシール、2人の間の絆はレオの逮捕により深まっていた。
白人、黒人、ユダヤ人、知事、検察、マスコミ、群衆...。それぞれの立場と思惑が交差する中、人種間の妬みと憎しみが事態を思わぬ方向へと導いていく。
「ジョージアの誇りのために!アトランタの町の、故郷のあの赤い丘のために」

 
4年ぶりの再演。「初演時よりも上演する意義を理解しやすいのでは」 

武田真治

――およそ4年ぶりの再演となります。
なんか嬉しいですね、再演って。およそ100年前の出来事を題材にしたミュージカルですが……この問題に対して、世界は一歩も改善されていない気がします。初演の時よりも今の時代の方が、この作品を上演する意義をお客さんも理解しやすいのではないかな。
  
――見方によっては初演の2017年よりも、もっと世界の状況は「悪くなっている」とも言えるかもしれませんね。
 
そうですね。状況としては、いろいろな面で4年前よりも悪くなっているかもしれないですね。
 
――武田さんが演じられるクレイグは新聞記者。劇中では、冤罪事件をつくりあげる一端を担い、民衆を熱狂させていく役割として描かれています。しかし、一概に「悪役」と言えない部分があるなぁと思うのですが、ご自身の役についてはどうお考えですか。
 
難しいです。結局はこの騒動に加担してしまうんですけど、この状況になったら誰でもそうしてしまうかも知れないというか。正義や悪が判断基準でなくなってしまい、誰も正しい判断ができない状況だから。そういうことってあるのかなと思います。
「アメリカ史に残る冤罪事件」と銘打っているから、お客さんも「これは冤罪事件なんだろうな」と思って、この作品を観て頂くわけですが、冤罪ということを謳わずにいたら、また違うかもしれないですよね。痛ましい事件が起きた時に誰かを犯人にしたい、しかも一番奇妙な人を犯人にしてしまおうという心理は、分からなくもないというか。ある意味自然な真理なのかなと思うんです。
「正直、面食らった」森新太郎の演出
武田真治
――初演時に1度だけ稽古場を拝見したのですが、すごく緊張感のある稽古場でした。武田さんご自身としてはどんな稽古場だったと記憶されていますか?
もう……ミュージカル初演出の森新太郎さんが暴れ回ってましたから(笑)。というのも、ミュージカルは、まずボーカルコーチや振付師によって歌曲や振り付けを教わり何度も反復して体に入れるという段階が必要なのですが、森さんはボーカルレッスンの初日(通常、全体稽古の一ヶ月~二週間前)に現れて、「ここはもっとこういう感情で!」とかなんとかボーカルコーチより前に出て言ってきましたからね。感情表現云々の前にメロディーさえまだ覚えてないのにですよ!「ちょっと待ってくださいよ〜」と(笑)。​
――ストレートプレイを得意とされる森さんですが、『パレード』の初演は初めてのミュージカルの演出でしたからね。
僕の方が年上だったから、役者さんのペースに預けてあげた方がいいんじゃないかな?というときは茶化して時間稼ぎしたりしていました(笑)。ストレートプレイ専門の人たちは一瞬一瞬が勝負で個人個人が火花を散らすことが正解だと思っているようですし、それは間違いではないのでしょうが、ミュージカルの場合は全員の足並みを揃えてハーモニーを生み出したほうが、結果大きな花が咲く場合もあるのかなと思ってるので。とにかくもう、初めてのケースで正直、面食らいましたね。
でも結果、最終的にキャスト・スタッフ全員で森さんのヴィジョンに食らいついて出来上がった作品は、観客の皆さんに大いに受け入れられ、日に日に立見席まで埋まって行きましたから、森さんが起こした化学反応は凄かったんだなと思いました。
武田真治
――改めて武田さんが思うミュージカル『パレード』の魅力を教えてください。
凄く凄くわかりやすく言うと……映画の『ジョーカー』(2019)が好きな人は、この作品も好きなんじゃないでしょうか。ジョーカーの場合は最後ジョーカーになるんだけど、なりきれなかったら、こんなにもこの世の負を背負うものなのかと。​
――楽曲についてはどうですか。好きな曲や難しかった曲などあれば教えてください。
僕は1曲、すごく難しい曲を歌って踊るんです。事件が起きて、みんなが真相を知りたがることで新聞が売れることを喜んで「捏造もやむなし」と歌う場面なんですね。でもせっかく僕がメインで歌っているのだけけれど、途中から周りでみんながそれぞれ違う歌詞を歌うんですよ。おかげで、観に来た人からも「何言ってるか分からなかった」って言われるほど…(笑)。でも、それも含めて、森さんの狙いのようでした。何を言っているか分からなくなるほど、みんなが好き勝手言っているそのさまが、止められない世論のようだと。
そうそう、演出で思い出したけど、紙吹雪は今回も前回と同様に降らせるのでしょう? それがですねぇ、もう足首まで積もるぐらい、尋常じゃない量の紙吹雪を降らせるですよね。本当にすごい量。バミリ(※舞台上の立ち位置などを分かりやすいようにマーキングした印のこと)がオープニングの一曲目が終わる頃にはすでに何にも見えない(笑)。バミリに頼らず、立ち位置や距離感は体で覚えてくれって言うんですけど、そもそも舞台全体がずっと回転しているし、どうすりゃいんだ!って(笑)。法廷のシーンとかで気にならないのかな。人が歩けば、わさわさと音がするほど、紙吹雪って降らせるものなのか?って(笑)。
――観ている側としては、紙吹雪の演出はとても感動したんですけど、演じられる側は苦労があったんですね(笑)
観たかたは気にならなかったとおっしゃるかたがほとんどで安心はしましたが、やってるほうとしては、わさわさわさわさ(笑)。​
――私はそんなに...。
そういうものなんでしょうね、舞台って。悔しいけど、森さん、すげーなって思わされました。何にフォーカスさせているかが明確なら、どこかの不都合が気にならないってことを熟知していたんでしょうね。
あなたのなかの「歪み」を見つけて

武田真治

――初演とほとんどメンバーも変わらない再演です。
はい、みんなで掴み取った再演ですから嬉しいです。ただ初演の時に、「こういうお芝居って二度とできないだろうし、きっとこれが最後だね」と話していて。グループLINEも地方公演が終わったら解散しようとなって。僕が一番最初にグループを抜けたんです。名残惜しいから余計に……でも全員が抜けたか、僕が抜けた後どんなやりとりが続いたのか知らないんです(笑)。僕だけ抜けてたりして(笑)。そのあたりの答え合わせをするのも再会の楽しみの一つです。
――クレイグ以外にも何役かされたんですよね?何役ぐらい演じられたのですか?
群衆などを何役かやりました。でも、僕は少ない方だったかな。舞台ではよくあることなんです。役名のないエキストラとしても舞台に立つことは…。
――その辺りの大変さはありましたか? 裏で休めない、出ずっぱりだったなど。
実は、本役ではない役があてがわれそうな時に、いっぱいいっぱいの顔をして逃れました(笑)。背負えないものは背負えませんから。歌の稽古とかで忙しそうに振る舞ったりして。「本役の重圧が…」という雰囲気を醸し出していたと思います(笑)。
――それは、本役に集中されたかったわけですか?
冗談です(笑)。結構やりましたよ。楽しいから、みんなでやるのも。
――お稽古はまだ始まっていないんですけど、どんな方に観て欲しいか、一言お願いします!
新型コロナウイルスの影響もあるし、無事に上演できるのか不安もあります。なにせ稽古場こそ密になりがちですから、どのように対応していくのか、まだ全然手探りだと思います。再演ということでリモート稽古にならないかななんて思っているのですが(笑)。​
この作品を観たら、きっとあなたの中にある歪みを見つけられると思いますよ。「うそつけ!俺の中に歪みなんてない」と思っている方、どうぞいらしてみてください。これが人間ですよ。今の時代でも起きてますよ。あなたはいつも正しい目で世の中を見られますか。そんなことを伝えたいですね。
武田真治
取材・文:五月女菜穂 撮影:池上夢貢

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